雛子
初投稿且つ拙いものです
タグに近親相姦と入れておりますが性的描写はありません
自傷行為に嫌悪感のある方はお引き取りください
ぐぅ、っと自分の喉が唸る音を聞いた。
常日頃から感じている「教室の端で俯向く自分に向けて遣るクラスメイトたちの憐れみを込めた視線」で息が詰まるのとは違う。
実際に「息が詰まって」いるのだった。
3つ年の離れた兄を見上げようとするが思うままにならないのは、雛子の首を両手で覆い力任せに締め付けているのが、他でもない彼だからだ。
雛子はまだ13歳で、成長途中の身体は細くて生っちろい。彼が力の加減を加速させれば、殺してしまうのもあっという間の出来事であるだろう。
お兄ちゃん、と言おうとするも失敗に終わる。
絞められあげた喉からはヒュウッという音しかしなくなってきた。見上げようという努力さえも苦しい。
眦からは生理的な涙が溢れ始めるが、悲しいだとかどうしてだとかいう思考は一切起こらない。起こりえなかった。
だってこの、「絞め殺そうとする」兄の行為は、毎夜の事なのだから。
中学に入学し2カ月が過ぎた今日も、兄は変わらず妹の部屋を訪れた。毎晩の繰り返し。彼は毎晩やって来て「妹を絞め殺そうと」しては、意識を手放す寸前で突然パッと両手を離し、うっそりと笑みを浮かべながら雛子の耳元でこう囁くのだーーー「お前は俺が殺すよ」
3年前、両親共に亡くなった…いや、もっと踏み込んで言ってしまえば、両親が子供たちを残して心中してしまった〝あの日〝以来、毎晩欠かさずに兄は部屋に訪れる。家族が壊れてしまったあの日。雛子の愛し愛してくれる人たちがいなくなってしまったと、絶望したあの日。
両親を失くして深い悲しみに囚われるあまり、雛子は手首を描き切って自決を謀った。兄は普段どおり怜悧な顔つきであったが、しかしその瞳には侮蔑とも憤怒ともとれる色を携えて雛子を見下ろしていた。
そしてそれ以来、彼は毎晩、雛子を殺しにきてくれるようになったのだ。
彼は何度も何度も毎晩耳元で繰り返す。「お前は俺が殺すから」と。
「お前は俺が殺す」というのは、ともすれば「俺の手以外では死んでくれるな」という意味だろうか。そうだとすれば、なんと甘美な囁きか。雛子は大きな手で喉元をギリギリまで圧迫されながらも、誰かに必要とされている幸せを、言葉通り肌で感じながら、兄と同じようにうっそりと微笑うのだった。
生理的「ではない」涙が、眦から溢れていた。
ありがとうございました。
いずれ兄視点を1話投稿するつもりです