ラスボスの娘
必死に魔方陣を書いた。
中央には精霊からもらった石が置いてある。
魔王を封印した石。
抑えきれない魔力を秘めていた。
私にファイアーストームでボコボコにされた精霊が隅にうずくまっている。
「目覚めよ、……魔王!」
「どうして我を目覚めさせた」
魔王が私に聞いた。
一年前に封印されたばかりの魔王の疑問はもっともだ。
私はニタリと笑った。
「どうしてって。勇者を召喚するのよ」
「何っ」
「魔王が蘇れば異世界から勇者が召喚されてステージをクリアし始める」
「ならん。ならんぞ!」
魔王が見苦しくわめいた。
「ファイアーストーム」
私の手から炎が飛び出し、鬼のような風貌をした魔王を燃やす。
「がぁっ、やめろやめろ!」
魔法の火はさぞかし熱かろう。
「やめて、やめてくださいっ」
うずくまっていた精霊が泣きながら立ちはだかった。
「このままではあなたこそが魔王になってしまいますっ」
「うるさいわね。私が魔王になったからなんだっていうの?お前はなにもできなかったでしょう?」
精霊を蹴飛ばしてやった。
役立たずだ。どいつもこいつも。
「望みはなんだ。女よ」
魔王が私に問う。少し焦げているのがおかしかった。
今、私は満面の笑顔に違いない。
「お前はラビリンスに立って世界を恐怖に陥し入れればいいのよ。馬鹿が」
私の魔力は魔王を上回っていた。
冷静になった魔王はそれがわかるらしい。
「それで女はどうする?高みの見物か?」
魔王の戸惑った質問に気分は最高潮だった。
「私はお前より更にラビリンス深くで待つわ。ね?役立たずの精霊さん」
精霊は震えながらうなづいた。
「もう、この状況ではあなたこそが真の勇者の敵魔王です。ラビリンスはあなたを深部に配置するでしょう」
精霊の言葉に私は深くうなづいた。
「そして待つわ」
「何をだ」
「私の娘、異世界から帰れない勇者を」
強大な魔力と力を持った私の娘。
魔王が暴れる世界に召喚されて帰れなくなってしまった。
魔王が蘇れば、こちらの世界に召喚される。
悪を倒す為に。
「帰ってらっしゃい。私の娘。ラビリンスの奥でカレーを作って待ってるわ」
私の独り言に魔王と精霊が凍った。
「……勇者とラスボスは戦うことになる定めですよ」
「ラスボスは倒れなければ、勇者は何度でも蘇れるのよ、知らなかった?」
笑いが止まらないとはこの事ね。
私の娘。
帰ってらっしゃい。