Chapter 2 - 3
Chapter 2
3
町は壊滅状態だった。二人が泊まっていた宿屋も破壊され、かつての面影もなくなっていた。
宿屋のおかみは無事に逃げることができたのだろうかと、しばらく二人で捜して町中を回ったが、残念ながら見つけることはできなかった。もしかすると、瓦礫の下敷きになってしまったのかもしれない。
「おかみさん、死んでしまったかもしれないな……」
「そうですね……もしそうなら……」
もしそうなら、せめてあの世で愛する人と再会できていますようにと、アクアはクリスに聞こえないようにつぶやいた。
「もし、そこの若いの」
突然横から声をかけられ、アクアは思わず飛び上がりそうになった。声のするほうを見ると、瓦礫の上に老人が座ってくつろいでいる。身なりからして占い師のようだ。
「おぬしら怪我はなかったかのう?いやはや、大変な騒ぎだったわい」
町は大惨事だったというのに、その占い師はまるで他人事のようにのんびりとしている。とりあえずクリスが愛想だけで「はぁ、まぁ……」と一言。
すると占い師は、急に顔が険しくなった。実際はフードで顔が半分ほど隠れてよく見えないが、声を押し殺して何やら言い始めた。「そこの青年…何か特別な力を内に秘めておるな?そっちのおなごは、本当の自分に気づいておらんようじゃの」
「本当の自分?」
「さよう。もう一人の自分に出逢う時、本当の自分が映し出されるであろう。それを解く鍵は、光り輝く珠にある」
「光り輝く珠、ですか……」
「まずは船に乗り、東の地へ渡ってザリという町へ行きなされ。そこで重要な人物に出逢うであろう」
「でも、夜の海には氷がはっていて船は出せないんじゃ……」
「それなら心配ない。先ほどのレッドドラゴンが吐き出した炎で溶けておるわ。やつの炎は凄まじいからのぅ。とにかく、船に乗ることじゃ。わしは失礼する。こんな町にもう用はないからの」占い師はどこからか杖を取り出すと、瓦礫の山を登り、夜の闇に溶け込むように消えてしまった。
残された二人は占い師に言われるまま、支度をして港に向かった。占い師の言うとおり、海の氷は溶けていて、船員たちが荷物を次々と船に持ち込んで出港の準備をしていた。
二人はお金を払い船に乗り込んだ。アクアは船室に荷物をおろして甲板へ出てみる。微かに残っている煙の臭いが風に運ばれ、アクアの鼻腔を突いてきた。
ザリには何が待っているのだろう。お父様が私に託したこの宝玉と何か関係があるのだろうか。
アクアは遠ざかっていく国を見つめながら、宝玉を握りしめてつぶやいた。
「この宝玉は必ず守り通してみせます。だから、どうか天国から私を見守っていて下さい……」
「マリン」クリスが船室から出てきて、アクアに肩掛けをかけた。
「あんまり外にいすぎると冷えるよ」
「ありがとうございます」
「なんだかいろんなことがあったね」と、クリスはアクアと同じように東の彼方を見つめる。
アクアはクリスにずっと思っていたことを言おうとしたが、予想通りの返答が返ってくることを思うと、なかなか言い出すことができない。しばらく沈黙が続く。
「どうかした?」
クリスがアクアの様子に気付き、顔を覗き込む。アクアは意を決して、クリスに問いかけた。「クリス、本当に私と旅を共にしても良いのですか?私、怖いんです。これから先、どんな試練が待ち構えているのか、まったく想像できなくて……それに、クリスのことをあんな危険な目に遭わせてしまいました。またあのようなことが起こるかもしれない。今回は助かったけど、次もまた助かるとは限らないし……だから港に着いたら、別れたほうがいいかと思うんです」
「大丈夫さ」クリスは優しくて澄んだ青い瞳をアクアに向けて言った。「さっきの大惨事を切り抜けたんだ。きっとどんなことでも乗り越えていける。旅に危険は付きものだろ?それに、不安なのは僕も同じだよ。僕だって自分のことが怖い。いつまたよく分からない力を使うかもしれないのに、そばにマリンがいなかったら、誰が僕を正気に戻してくれるんだい?だから僕の旅には、君が必要だってことだよ」
「クリス……ありがとうございます」
「おいおい、そんなに礼儀正しくしてくれなくてもいいんだよ。僕たちはもう、仲間なんだから」
「そうですね……あっ」アクアはおかしくて自然と笑いが込み上げてきた。いつも常に王女という立場がついてまわり、本当に友達や仲間と呼べる人はいなかった。だが、クリスは自分を仲間だと言ってくれる。たとえそれは、本当は王女だということを知らないからだとしても。
二人はしばらく言葉を交わしたあと、また静かに東の彼方を見つめた。暗がりだった海に少しずつ光が差し込んでいく。長かった夜が、ようやく明ける。
to be continued...




