Chapter 7 - 2
Chapter 7
2
一体この森はどうなっているのだろうか。さっきからずっと同じところを繰り返し歩いているようだ。森の外から見た様子では、そこまで広い森には見えなったのだが。
「まただ!」
クリスが木の根元にある、人一人がやっと抱えられそうなほどの大きさの石を指差して叫んだ。アクアとレオンがクリスの指差す方を見ると、たしかにさっき見かけた石と同じもののようだった。三人同時にため息をつく。
「もうこれで、この石を見るのは五回目ですね……」
最初、三人ともこのように似たような石がいろんな所に転がっているのだと思っていた。だが二回目に見た時、念のため石のすぐ横の木の幹に印をつけておいたのだ。しかしそれからも進んでみたが、またこの場所にたどり着いてしまっていた。間違いなく三人は、同じ場所をループしていたのだ。
「本当にここは迷いの森なんだな……この地図のとおりに進んでると思ったんだけどな……」レオンが首を傾げながら後ろ頭をかく。
「これでは洞窟へ行くことは困難ですね。ルーンもこの森にいるはずなのに、まるで出会う様子がないし……」
「ルーン!?」
突然レオンが上ずった声で叫び、飛び上がった。それにつられてアクアも飛び上がる。
「おい、もしかして、そいつはルーン・トラストって名前じゃないか!?」
「そ、そうですけど、それが何か?」
レオンはその言葉に衝撃を受けたのか、大袈裟に倒れ込んでしまった。
「……そいつは……俺の元カノなんだ」
「ええぇええええぇぇええぇ!?元カノぉお!?」
「ルーンとお付き合いを!?」
「ああ……」
約一年前、レオンはとある酒場でルーンと出会った。一人でお酒を飲んでいるところにルーンが声をかけてきたらしい。彼女を見たとたん、レオンは心を奪われてしまった。いわゆる一目惚れというものだ。
彼はルーンに断られるのを覚悟でパーティを組まないかと提案をしてみた。もちろん、それは彼女に近づくための口実だった。彼女は少し考えていたが、意外とすんなり了承したそうだ。
「最初はそりゃ、嬉しくて天にも昇る気分だったさ。ダメ元で持ちかけてみた話が、いとも簡単にオーケーしてくれたんだからな。それから俺はすぐに告白した。それもすぐにオーケーしてくれた。だが、それがすべての始まりだったんだ……」
その後のレオンの不幸は、目を覆いたくなるような話ばかりだった。ことあるごとにルーンにこき使われ、おいしいところは毎回と言っていいほど取られ、挙句の果てには持っていたお金と、手に入れた宝をすべて持っていかれてしまった。ルーンがレオンと付き合っていたのは、言うことを聞いてくれる下僕と金目のものだけが目的だった。もちろん恋愛感情などというものははなから何もなかったのだ。
「あんなやつにまた会うのはごめんだ!俺は帰るぞ!」
「おいおい、帰るっていっても、ここからどうやって出るんだよ」
「俺は自分で道を見つける!とにかくあいつに会いたくないんだ!」
クリスが必死に止めるのもむなしく、レオンは走って逃げ出してしまった。
「……行ってしまいましたね」
「まあ、どこに行っても、どうせまたここに戻ってくるさ」
案の定、レオンは戻ってきてしまった。森から出られないことと、ルーンに会わなければいけない苦痛が重なり、顔がひどく青ざめていた。
「もう嫌だ……俺はここで死ぬ……」
「何を大袈裟に嘆いているんですか。まだ死ぬと決まったわけじゃ……」
「そうそう、あんたたちは死ぬわけじゃないわ」
突然どこから声がしたのかと三人は辺りを見回すと、近くの木の低い枝に立っているルーンの姿があった。三人が驚きで硬直しているのを見てくすっと笑うと、ルーンは軽やかに身を翻して地面に降りた。
「ル、ルーン!無事だったのか!?てっきり僕たちと同じように迷っているのかと……」
「失礼ね!あんたたちとこのあたしを一緒にしないでちょうだい。もう少し先で洞窟を見つけたんだけど、人の気配がしたから、誰かと思って戻ってきてみれば、あんたたちだったのね」
どうやってルーンは洞窟までたどり着いたのかというと、なんと勘で突き進んだだけだそうだ。一応目印はつけて進んでいたが、こうも同じところを回ってしまうとらちがあかない。慎重に進むのはやめ、何も考えずに歩いていたら、人工的に手を加えたように見える大きな岩があって、そのすぐ側に洞窟を見つけてしまった。どうやらルーンは、とんでもない強運に恵まれているようだ。
「例の洞窟を見つけたんですね?」
「ええ、見つけましたとも。でも、変な門番みたいなのがいて、『二つの珠が揃いし時、扉は開かれよう』とかわけの分からないこと言われて追い返されちゃったのよ」
「二つの珠……?もしかして、これのことかしら……」
アクアは国に伝わる宝玉の入ったポーチに手をあてた。もうひとつの珠は、おそらくルーンが持っている宝玉のことだろう。
「たぶんね。それにしても久しぶりね、レオン。あれからまた一段とかっこよくなっちゃって」
「そ、そんなにおだてられても、俺はもう騙されねえぞ!よくもあの時は騙してくれたな!お前のせいで、あれから俺はどれだけ苦労したことか!」
レオンは吼えるように噛み付いたが、ルーンは手を口にやり大袈裟に高笑いした。
「あーら、何のことだかさっぱり。それより、あたしがみなさんを洞窟へ案内して差し上げてもよろしくてよ?」
「本当か!?そんなこと言って、また人を騙すつもりじゃないだろうな!?」レオンが警戒するように後ずさりする。
「そんなことしないわよ。なんならあんただけ置いていってもいいのよ。自力でこの森から出られるのならね」
「うう、それだけは勘弁……」
「じゃあ、みんなでその洞窟へ行こうか」
「いいわよ。でも、そのかわり……」
ルーンはもったいぶるように言う。何を要求されるのかと冷や冷やしながら、三人がごくりと唾を飲んだ。
「洞窟のお宝は、全部あたしのものよ!分かった!?」
この一言に全員が呆れ返ったのは、言うまでもない。
to be continued...




