Chapter 5 - 2
Chapter 5
2
「ふん、怖気づいたのカ?そうダ。我らハ誇り高き魔族。その辺をうろついている頭の悪い下等な魔物などではナイ」
「そんな……だってあんたたちは……この世界にいるはずないのに……」
「ルーン、どういうことなのですか?」
「やつらは大昔に、魔界という恐ろしい世界に隔離されたのよ。ある出来事がきっかけでね。それから今まで、一度だって出現報告は出てなかったはずなのに……」
ロバートは、その通りダ、と不気味な笑みを浮かべて言葉を続けた。
「かつて我ラ誇り高き魔族ハ、選ばれし種としテ、永い年月この地上を支配してイタ。お前タチ人間の先祖モ、我らハ奴隷や食料としてキタ……」
しかし、一部の生き延びた人間たちは、知恵と力を付けてきていた。対抗してくる者たちも現れ、その度に人間狩りをして制圧しようとしたが、人間はそんなことで諦める弱い生き物ではなかった。
「何百年か経った頃ダ。我々ハ人間との全面戦争に敗レ、次元の監獄と呼ばレル"魔界"へ封じ込められてしまっタ」
この世と魔界を繋ぐ、獄門も永遠に閉ざされ、世界は平和に包まれた――はずだった。
「ある日一匹の人間ガ、ありがたいことに獄門を開いてくれたのダ。そして再び我らハこの世界へ舞い戻って来ることガできタ」
「それは一体誰なの!?」ルーンが手に雷を構えながら問いかけた。
「それハお前たちガ気にすることではナイ。なぜナラ、お前たちハここで死ぬのだカラ!」
ロバートは大きく息を吸い込んだかと思うと、口から青緑のブレスを吐き出した。
「毒のブレスだ!吸わないようにみんな避けろ!」とっさに毒ブレスを見分けたクリスが叫び、アクアの体を抱いて脇に避けた。ルーンも素早く当たらない方向へ避ける。
ブレスの当たった植物を見ると、みるみる黒く変色して溶解し、たちまち腐臭を放ち始めた。たしかに当たれば確実に死ぬだろう。
「な、何なのよあれ!あんなの反則じゃない!」
「一体どうすればいいのでしょうか……」
相手は毒ブレスを吐き出すため、迂闊には近寄れない。となると、アクアとルーンの魔法が頼りになってくるのだが、敵の数は多い。呪文を唱えるにも集中力がいる。
ルーンは今まで場数を踏んできているのだろう、さっきもほんの隙をかいくぐって呪文を唱えていた。クリスも敵の動きを瞬時に読み取りながら、素早く動いてダメージを与えている。
それに比べて、自分はなんて無力なんだろう。隙なんて見つけようと思えばいくらでも見つけられたのに、恐怖が思考を占拠して、考えることなんてできなかった。
――結局、私は足手まといでしかない……そもそも、私が二人に関わらなければ、こんな目に遭わずに済んだはず。
――私サエ、居ナケレバ……――
「……マリンてば!しっかりして!」
気がつくと、ルーンが肩を揺さぶっていた。アクアは我に返り、「ごめんなさい……」と謝った。
「ぼさっとしないで。さっきも言ったでしょ!」再びルーンは呪文を素早く唱え始め、敵にファイアボールをかましていく。いつのまにか、敵の数は半分ほどに減っていた。
「それに、今は謝っている暇なんてないわよ。いくらクリスが頼りになるからって、いつも守ってくれるとは限らないんだから」
「いつも守って……」ルーンの言葉が、アクアの胸に突き刺さる。
城にいた頃、どこを歩いていても兵士たちの目があった。自分が危険に晒されないよう、常に警備されていた。時にそんな生活が嫌になり、町の中を友達と楽しそうに駆け回る国の子どもたちを見ては、その自由さに憧れたことさえあった。
それが今、結局は同じように誰かに守られている。命がけで宝玉を守り抜いた父のように、自分もまた、命がけで守らなければならないというのに。
「マリン!危ない!」クリスが叫び声をあげた。
魔物が一匹、アクアに向かって襲い掛かる。しかし、あと数センチ近づくとやられる、というところで、火の玉が爆発を起こして魔物を飲み込んでいった。
爆発が収まると、爆風の中からアクアが出てきた。その顔はさっきまでとは違い、何か決意に満ちた表情をしている。
――このままでは、きっと私は守り抜くことはできない……もっと強くならなくては。
アクアは自分の心にそう堅く決意した。そして拳を握り締め、敵の群れへと足を踏みしめて行った。
to be continued...




