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東方零異変~Forgotten entity~  作者: ksr123
第一章 数々の出会いと零の自分
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第七話 ~零に帰す刀~

「ここが守矢神社か」


妖怪の山の中腹に建っている神社、守矢神社。話によれば、ここで3人の神が祀られているという。


3人も神が祀られている、とは思えないほど、静かで、正直言ってしまうと、地味である。もう少し大きなものかと思ったが、やっぱり普通の神社にしか見えない。


「本当に3人もいるのか?」


「いるよ」


よく見ると、境内に1人の少女がぽつんと座っていた。レイとしては小声で呟いたつもりだったのだが、聞こえたのだろうか。


まるで子供のような姿だった。身長は低く、紫と白の衣をまとい変わった形の帽子には大きな丸い目玉が2つ。格好からして、とても巫女のようには見えなかった。


「珍しいね、こんな所に人間が来るなんて」


境内から飛び降り駆け寄りながらそう言った。確かに言われてみればそうである。ここは天狗達の住処、妖怪の山。ある程度の野生動物は生息しているが、人間がこんな所まで登ってくる事自体、異例である。


「あら、参拝客の方ですか?」


奥から出てきたのは、翠色の髪を髪飾りでまとめた巫女服の少女。この神社の巫女であろう。


「君は、人間・・・ではない様だね。私は守矢諏訪子。君は?」


「俺は、レイ・・・なあ、なんで俺が人間じゃないと分かったんだ?」


「そりゃあ、発してる気が全然違うからね」


確かに、レイは人間ではない。しかし、彼が人間以外の何者(・・・・・・・)なのか、それはまだ理解できていない様である。


「で、君はなんの用でここに来たのかな?」


「え?ああ、実は最近幻想郷に来たばかりで、一通りこの世界を見てまわろうと思って、この山に来たんだけど、その途中でこの山に神社があるって聞いて、どんな場所かと思って来てみたんだ」


「じゃあ、参拝客ではないんだね?」


「悪いけどな」


実を言うと、レイは敬語が苦手である。話している相手は神様であっても、どうしてもため口でないと言葉遣いに違和感を感じてしまう。幸い、相手の神様の方はあまり気にしていないようである。


「ほら、早苗。自己紹介忘れてるよ」


「あ、はい。東風谷早苗です、よろしくお願いします」


「ああ。宜しくな」


レイが右手を差し出すと、早苗はそれを優しく握り返してくれた。


「もうこんな時間だし、上がって行きなよ。今晩はうちに泊めてあげるからさ」


「いいのか?じゃあ、お言葉に甘えて」


そう言うと、レイは2人の後について上がっていった。


障子を開け、中に入ると奥にはもう1人の人物が待っていた。


「おや、参拝客か?」


こちらを振り向いいて言い放つ。状況から察するに神社の神様だろうが、諏訪子とは違いすぎる見た目にレイは少し驚いていた。


まず、決定的に違うのが体格。諏訪子はまるで子供のようだが、こちらは長身で、割とがっしりとした体格である。服は真紅。髪は紫で、胸元には鏡を下げている。


「私は八坂神奈子。この神社で信仰を受けている軍神だ。で、そっちの小さいのはもう1人の神、守矢諏訪子。土着神の頂点だ。こんなナリだけど凄い神様なんだぞ?」


「むー、小さいのって何よ・・・」


神奈子の説明に諏訪子はむくれている。確かに体は小さいが、本人も気にしているのだろう。なんだか可笑しく思えてくる。


「そういえば・・・」


3人を見渡してレイが言う。


「神様は3人いるって聞いてたけど・・・」


すると、神奈子が説明する。


「ああ、それは、こっちの・・・」


「私ですよ!私、現人神です!」


「え、お前が!?」


心底驚いた、という風に返すレイに、早苗は得意そうに言う。


「こう見えても私、神様なんですよ?奇跡だって起こせちゃうんですからね!」


「ふ、ふーん・・・」


猛然と自己アピールをする早苗に、レイは反応に困った様で取り敢えず相づちを打っている。そんな二人を見て、神奈子と諏訪子は可笑しそうに笑っている。


「ほら、早苗、早く晩ご飯にしようよ。レイもお腹が減ったってさ」


「あ、そうでした。ちょっと待っててくださいね」


早苗が奥に消え、しばらくすると食卓には豪華な夕食が立ち並んだ。


「さあ、頂きましょう!今日は腕によりをかけて作りましたからね!美味しいですよ~!」


料理は本当に美味しかった。最近は質素な食事ばかりだったので、余計に美味しく感じられた。レイは3人に幻想郷に来てから起こった出来事を語り、神奈子は外の世界から来た時の事を話す。時間はあっという間に過ぎていった。


「あ~、食った食った」


「お風呂あがりましたよ~」


「あ。はいはい、次俺入る!」


レイは風呂に入り、体を流し、充分温まったところで風呂をあがり、暫く神奈子達と雑談した。それから、レイは中庭で竹刀を使い、剣の練習に励んでいた。


「ていっ!とりゃぁ!」


技を磨きながら、同時に体力も作る。元々剣術もある程度は精通してはいたが、やはり実力不足は否めなかった。毎日の特訓が確実に自分を強くしていると、レイは感じていた。


「ちょっと休憩するか・・・」


特訓を始めて約1時間。レイが縁側に腰を下ろすと、横から声が聞こえてきた。


「頑張っているようだな」


振り向くと、そこには神奈子がいた。


「あ、どうも」


「君は、最近ここに来たばかりと言っていたな?」


「はい。ここに来たのは1週間ほど前です」


「そうか・・・」


神奈子は1人で考え込んでしまう。気を使って話しかけないでいると、神奈子が口を開く。


「君は、何者なんだ?」


突然の質問。レイにとっては痛々しい内容であった。


「・・・分かりません。俺は、1度死んでこの世界に来ました。死ぬ前の記憶もないし、身寄りもいない」


「・・・」


神奈子は何も言わない。


「でも、これでいいんです。その結果この世界でも色んな人たちに出会えたし。・・・死ぬよりはましですよ」


これは本音だった。レイは、この世界で生を受けた事を後悔はしていなかった。あのまま死ぬという道もあったのかもしれない。けれど、レイはただ生きたかった。死にたくなかった。


初めは、全てを失った自分が嫌になる事があった。今でも、嫌になる時はある。しかし、レイは今という、この幻想郷での時間を確実に楽しんで生きることができた。色々な人に支えられ、ようやく1人前になれたのだ。


神奈子はまだ何も言わないまま、しばらくの間沈黙が続いた。レイは、その空気を少し重いと感じていた。そして、神奈子が口を開く。


「君は、今の幻想郷にとって特異な存在だと思う。周りから遠ざけられることもあるだろう。だけど、どんな存在だろうと受け入れる。それが幻想郷だ。気にすることはない。いつか、記憶だってもどるだろう。今はただその時を待てばいい」


何だか予言のような言葉だが、神奈子なりの励ましなのだろう。少々回りくどいが、レイはその言葉だけで十分だった。


「君は、幻想郷をどう思っているんだ?」


「俺ですか?」


唐突な質問に、少し戸惑う。しばらく考えてから、レイは言った。


「すごく、いい場所だと思います。ちょっと物騒なところもあるけど、皆いい人ばかりだし、ここにいると、毎日が楽しくて飽きることがないんです。幻想郷での生活が、俺にとって1番なんです」


「そうか・・・」


「もう夜も遅い。今日はもう寝るとするか」


「そうですね。俺もそうします」


そう言うとレイは中へ戻り自分の布団に潜り込む。縁側に座ったままの神奈子はぽつりと呟いた。


「お前なら、大丈夫だよ。・・・死ぬなよ。レイ」


◆◇◆◇◆◇


八坂神社の上空。1人の少女がレイと神奈子が会話している姿を覗いていた。


「ふーん、あれがレイっちゅう奴やな」


幻想郷では余り聞かない言葉遣いで、独り言を呟く。


「まあ、紫が要注意っちゅうんやから、相当な実力なんやろな」


何やら1人で納得した後、


「次はエルミーはんやな。元気しとっかなぁ」


と言って人里へ飛んでいった。


◆◇◆◇◆◇


翌日の早朝。守矢神社の神々たちに見送られ、レイは妖怪の山を後にする。目指すは香霖堂。例の刀が完成したとういうのだ。


「どんな出来だろうな」


そしてあっという間に魔法の森に到着し、香霖堂へ向かう。その道中、


「レイ?」


後ろから声をかけられる。聴き慣れた声だ。誰かはわかっている。


「魔理沙か。どうしたんだ?」


「私は香霖にミニ八卦炉を貰いに来たんだが・・・お前もか?」


「ああ。刀が完成したって手紙に書いてあったからな」


「ふーん・・・っていうかお前どこにいたんだ?」


「ちょっと守矢神社に1日泊まってきた」


「守矢神社か・・・よくわかったな、香霖」


「完全に行動パターンを読まれてるな」


二人共小さく苦笑し、香霖堂へ向かう。


「おい、香霖!ミニ八卦炉と刀を取りに来たぜ!」


「魔理沙か!?レイもいるのか!」


玄関を開けると、物凄い剣幕で霖之助が飛び出してきた。


「お、おい。どうしたんだ香霖。落ち着けって」


「それどころじゃない!エルミーが大変なんだ!」


「エルミーが?霖之助、それってどういう事だ?」


「昨日、また妖怪に襲われたらしい。怪我をしていていま稗田亭で手当てを受けているんだ」


「何だって!?」


魔理沙が驚いたように声を上げる。すると、霖之助が、刀とミニ八卦炉を差出して言う。


「ミニ八卦炉の調整は終わったから、早くエルミーの所に行ってやりなさい」


「言われるまでもないぜ!」


そう叫ぶや否や、魔理沙は香霖堂を飛び出すと箒に跨り全速力で人里へ向かった。レイも急いで後を追う。しかし魔理沙程のスピードは出せず、人里についたのは数分後の事だった。


大急ぎで阿求の家に向かう。玄関をくぐり女中の案内を受けて部屋の戸を開けると、そこには既に魔理沙が座っており、その視線の先には包帯だらけのエルミーがいた。まだ傷は治っていないらしい。側には、見知らぬ少女が1人、立っていた。


身長は魔理沙より少し低い位と小柄。白銀の短い髪と、後頭部には大きな蒼いリボン。瞳の色は深い(みどり)。じっと見ていると吸い込まれそうな綺麗な瞳だった。


「あら、レイじゃない。どうしたの?」


レイを見つけたエルミーが意外そうに言うのを見て、レイは思わず語気を強める。


「どうしたって、お前が怪我したって言うから心配してきたんだぞ!?」


エルミーは驚いたようにレイを見つめる。そして素っ気無く言い放つ。


「別に来てくれなくてもよかったのに」


エルミーのあんまりな言い方に少しだけ腹が立った。が、ここで喧嘩をしていても仕方ない。


「そういう訳にもいかないだろ?本当に心配してたんだぞ?」


そこに魔理沙が茶化す様に口を挟む。


「へえ、お前エルミーのことがそんなに心配だったのか?」


「当たり前だろ?友達なんだから」


少しムッとした様子でレイが言い返す。すると、後ろに立っていた少女がレイに言った。


「あんさんが、レイはん?」


「え?ああ、そうだけど。俺に何か用か?」


あまり聞かない言葉遣いに少し違和感を覚えながらも、レイが彼女に返答する。すると、彼女は明るく微笑みながら言った。


「ウチは、逆八 大月。レイはんの事はエルミーはんから聞いてるで。これからよろしくな」


「ああ、よろしくな。ところで、エルミー」


「何?」


「お前、誰にやられたんだ?」


レイはそれが気になって仕方なかった。エルミー程の実力者にこれほどの怪我を負わせるとは、只者ではない。一体誰なのか、レイはそれを知りたかった。


「ええっと・・・誰だっけ・・・?」


「どうしたんだ、エルミー?」


すると思い出したように大月が言う。


「ああ、エルミーはんは戦ってた時の記憶がないんや。怪我も酷かったし・・・」


「そうか・・・ううん、ならいいんだ」


「あ、でも、ウチも姿なら見たんやけど・・・」


「けど・・・どうしたんだ?」


「何か、全身が鉄みたいに光っとって、あんまり生き物らしくない見た目だったというか・・・一応、止めは刺しておいたんやけど」


「鉄・・・?」


鉄、という言葉。それは、レイにとってはつい最近起きた出来事を連想させる。人里で、鉄を操る的に出会った。その時点で、レイの思考の片隅には、1つの嫌な予感がこびり着いていた。


レイの脳裏にあの時の里での出来事が鮮明に蘇る。レイがトドメを刺した、あの瞬間。あの時は気付かなかったが、思い返してみると、1つ。奇妙な点があった。


―――――――確か、あの時俺が仕留めた青い奴は――――――


「・・・死体が消えたんだ」


「え?」


唐突なレイの言葉に、3人とも疑問の声をあげる。レイは続けた。


「人里で俺が仕留めた青い奴。あの時は気付かなかったが、死体が消えていた。生きていたんだ。あいつ」


レイの言葉に、魔理沙が驚いたように言う。


「何だって!?まさか、あの時のあいつが・・・?」


「そうよ!思い出した。確かにあの時の2人(・・)だった!」


エルミーの言葉を聞いて、レイは唸る。


「やっぱりか・・・。あの時、魔理沙が仕留めた奴も生きていたんだ。奴らは、エルミーが1人になるのを狙っていた・・・狡猾な奴らだ」


「狡猾というよりは卑怯だぜ。2人がかりで来やがって・・・!」


「そんな事を言っても仕方ない。もう済んだことだ。気にする必要は・・・」


レイがそこまで言いかけた時、部屋の戸が開き、1人の少女が顔を覗かせた。

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