第五話 ~真実の刀~
レイの体が光に包まれ、輝きを増していく・・・見える物全てが、「白」だった。
放出される力は最高潮に達し、紫は耐えていたがさとりはその勢いに飛ばされる。
そして、視界が晴れた時、レイは右手にひと振りの長刀を持っていた。
「この剣は・・・?」
レイは手に持っている剣を見る。これがレイの中の「存在」なのだろうか。
それは、本当に無駄の無い作りをしていた。
僅かな曲線を描く刀身。波打つように描かれた刃紋。
柄には紫の布が巻きつけられている。これなら振っていて取り落とす事はなさそうだ。
刀身は、レイの身長とほぼ同じ。なのに、片手で持てるほどその刀は軽かった。
「・・・出たわね」
いつの間にか近くにいた紫が口を開く。
「それは、あなたの魂の一部が実体化した物。それが、あなたの正体よ」
「これが・・・?」
いまいち実感はなかった。自分の正体が分かりかけているというのに、レイは予想以上に冷静だった。
「ちょっと貸して」
そう言って紫はレイの刀をひったくる。そして、何かを感じ取ろうと集中し始めた。
が、しばらくして諦めた。
「やっぱり私じゃ無理ね・・・。あなたなら魂は読めるんじゃないかしら?」
「わかったわ。やってみます」
そう言うと、さとりは刀を両手で握り集中し始める。
「・・・ごめんなさい。私にもわからないわ」
さとりはそう言ってレイに刀を返す。
「そうか・・・」
レイはそれ以上は何も言わず、ただ立ち尽くしていた。
しばらくして、何も言わずに紫がスキマの中へ消える。
さとりもまた、何も言わず部屋から出る。
ひとり残されたレイは、静かに涙を流した。
◆◇◆◇◆◇
地霊殿の玄関前、空間から突如スキマが現れ、そこから紫が現れる。
「・・・」
紫は動かない。彼女はある人物を待っていた。
その人物は、玄関の門を開けて彼女に話しかける。
「それで、話って何ですか?」
さとりは紫を厳しい目つきで睨んでいた。
「さっきの刀。あなた、何か感じていたんじゃないのかしら?」
「・・・」
さとりは、さっきの件でこの異変の真相を知っていた。知っているからこそ、判っていてそんな質問をする紫が許せなかった。
「・・・レイは、人間であり、妖怪であり、神である。だけでなく、道具、植物、それ以外もありとあらゆる物を網羅した存在。」
「まさかそこまで知られていたとは、驚きだわ」
「あなたも、悪趣味なことをするのですね」
「・・・全ては幻想郷のため、ですわ」
「彼はどうするつもりなのですか?」
「彼はまだ弱い。勘づかれるまでが重要です。あなたはこの後、彼を神社に向かわせてください」
「分かりました。それにしても、まさか彼等が犯人だったとは・・・」
「忘れられるというのは辛いことなのです」
そう言うと紫は歩き始める。
眼つきは変えぬまま、紫にさとりが声をかける。
「自分を忘れることは、即ち自分を見失うこと」
紫が立ち止まる。さとりは続ける。
「・・・忘れられるよりも、辛く、残酷なことなのです」
「・・・分かってるわ」
そして紫は消えた。
◆◇◆◇◆◇
レイは自分の部屋に戻っていた。気持ちの整理がつかなかったのだ。
―――――――俺は、何者なんだ?―――――――
その一言だけが心中に響き渡る。
床に置いた刀を見る。そういえばこの刀には鞘がない。
結局、この刀を使っても正体は分からず終いだった。
ひと眠りしようかと考えたが、またあの夢を見るのは嫌だ。
どうしようもない虚無感にとらわれていると、部屋の戸が開く。
「失礼します」
さとりが部屋に入ってくる。
入った後に言ってどうする、と思ったが声には出さなかった。心を読まれれば別だが。
「・・・大丈夫ですか?」
「あまり大丈夫じゃないが、そんな事を気にしてても仕方ないだろ?」
「はい・・・それはそうですが・・・」
「それで、何の用だ?」
「いえ、あの、その・・・」
さとりは若干顔を赤くしながら言い淀む。
「何だ?よく聞こえない」
「あの、えっと・・・」
何が言いたいのか分からない。会話が進まないのでレイが口を開く。
「・・・なあ、俺って、何なんだろうな・・・」
「え?」
急に声を掛けられ、さとりが我に帰った様にレイを見る。
「いや、だからさ、俺って何者なんだろうな」
「・・・どういう、事ですか?」
「だって、ここに来た時点で記憶は無いし、この刀を使っても正体は分からなかったし・・・正直、俺は自分という存在すらよく分からないんだ」
「存在、ですか?」
「ああ。記憶がなければ、生きる目的もない。家族もいない。友達もいない。家どころか居場所すらもない。今の俺は、持っているものはこの体一つ。それ以外なんて何一つ無いんだよ。そんな状況で、俺に生きる意味なんてあるのか?」
レイは先程から全てが嫌になったように、自分を貶し、虐め、虐げる様に喋っている。こんなに自虐的なレイを見ているのが辛い程だ。本当に、生きる事さえ嫌になったのだろうか。けど、そんな事・・・
「そんな事、許せません・・・!」
さとりは腹の底から搾り出す様に声を出す。
「諦めないで下さい!生きる事を、授かった命を無駄になんてしないで下さい!レイさんに記憶が無くったって、これから皆と思い出を作ればいいじゃないですか!そんな、過去にばかり囚われてないで、もっと前を向いて下さい!」
珍しく語気を強めてさとりがレイを説得する。
「・・・すまない。さとりが俺の事を思ってくれているのは嬉しい。でも、過去のない俺には、未来を見るなんて無理だ」
「どうして!?」
なおも食い下がるさとりに、レイもまた怒りを露わにした。
「当たり前だろ!?じゃあ聞くぞ?俺は誰だ!?名前は!?家族は!?友人は!?自分の事さえ何一つ分からないのに、俺にこれからどうしろと!?過去のことなんか忘れて、何も知らないまま恐怖しか見えない未来を見ろと!?」
「そんな事を言ってるんじゃない!私は・・・!」
「どうせ俺なんか、このまま死んだ方がよっぽどマシなんだよ!」
「バカ!」
さとりの平手打ちが飛ぶ。思わず頬を押さえる。流石に言い過ぎたか、とレイは心の中で反省し黙る。
「死んだ方がマシだなんて、深く事を考えもせずに言わないで下さい。あなたが死んで、どれだけの人が悲しむと思ってるんですか?」
「・・・俺が死んで悲しむ奴なんて、この世界にいるもんか」
「います!絶対にいます!この屋敷の人達がどれだけあなたを心配しているか分かって言ってるんですか!?」
「え・・・?」
「屋敷の皆にあなたの事を話すと、皆決まって『可哀想に』と言います。中には泣き出す人だっています!そんな彼らが、あなたが自分が嫌になって死んだなんて言ったら、どれだけ悲しむ事か・・・!」
さとりはついに感極まって泣き出してしまった。一度堰を切った涙は、絶える事無く彼女の頬を流れ落ちる。
「それに、私だって嫌です、レイさんがいなくなるなんて・・・!」
「・・・悪い。俺、どうかしてたよ。もう生きる事を諦めたりしない」
もう完全に目が覚めた。だが、レイはそれ以上にさとりに対して申し訳ない気持ちで一杯だった。
さとりは、こんなにも自分の事を思ってくれている。それなのに、自分はそんな事を考えもせずに死んだ方がいいなどと言ってしまった。その言葉が、どれだけさとりの心を傷つけたか理解した今、どうしても謝らずにはいられなかった。
「・・・いいんですよ、もう。分かってくれれば」
そう言うとさとりは泣きながらむりやり微笑む。レイを励まそうとしているのだ。これだけ心が傷つきながら、レイを心配してくれる彼女の心遣いを嬉しく思った。
「・・・どういたしまして」
顔を赤くし、照れ隠しに頭を下げる。見た目が幼いのもあってなんだか可愛らしい。
「もう、煽てても何も出ませんよ!」
「ははっ、悪い悪い。けど、本音なんだ」
そう言うとレイは、さとりの頭を撫で始めた。
「え!?いや、ちょっと・・・」
「騒ぐな。髪が乱れる」
ぶっきらぼうにそう言ってから、紫がかった髪を優しく撫でてやる。
さとりは緊張のためか顔を真っ赤にして動かない。
「本当に、ありがとうな・・・」
「い、いえ、どどどういたたたたしましししして」
言葉になっていない。思わず苦笑する。と、次の瞬間さとりは緊張のあまり気を失って倒れこんでしまった。
「うわっと・・・」
思わず抱き留める。参ったなと思った次の瞬間、
「さとり様、ココですかにゃ~?」
部屋の外から声が聞こえ、戸が開かれる。やばい、と思ったときにはもう手遅れだった。
黒を基調とした服を着た少女だった。一見して人間のようだが、猫のような耳と尻尾が生えている。
「・・・!!」
彼女は、主人を抱き留める男の姿を見て絶句する。やってしまった、と心の中で呟いた。
そして数秒後。
「し、失礼いたしました・・・」
そう言って戸を閉め、足早に去っていく。どうやらとんでもない誤解を受けたようだ。あとで弁解しておかないとさとりもヤバイ。
っていうかさとりも中々可愛いよな・・・こんなに近くで見たのは初めてだったが、普段以上に可愛く見える。
そんな事を考えながら数分が経過した。
「・・・うう、んぅ・・・」
すぐそばで声が聞こえた。さとりが目を覚ましたらしい。
「お、目が覚めたか?」
「えっ!?あっ!すいません!」
驚いて跳ねるようにレイの懐を離れる。まだ顔が真っ赤である。
「いやあ、心配したぞ?いきなり倒れるもんだから」
「ごめんなさい、迷惑をかけてしまって・・・」
「気にすんなよ、そんな事。それより、もう大丈夫か?」
「は、はい、おかげさまで・・・」
「ん~?俺は何もしてないぞ?」
「もう、いい加減にしてください!怒りますよ!?」
相当恥ずかしかったらしい。まだ顔を真っ赤にしたままさとりは怒り出す。余り引きずっても可哀想なので、話題を変えてやる。
「じゃ、俺はもう寝るわ」
「あれ?もうそんな時間でしたか?」
「ああ」
外は既に暗い・・・いや、地底だから分からない。時計はもう午後11時を指していた。
「そうですか。では、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
さとりが部屋の外に出ると、レイは布団を敷いて横になる。
そして、意識を捨てた。
◆◇◆◇◆◇
紫は、博麗神社へ向かっていた。巫女にある忠告をするために。
幻想郷は非常に危険な状態にある。今はまだそれほど問題ではないが、ものの1月もすれば幻想郷の秩序が崩壊し、破滅を招くだろう。
さとりはレイの事で紫を遠廻しに残酷だといった。だが、このまま幻想郷が滅びるのも我慢ならない。
多少の犠牲はつきものなのだ。と自分を正当化した。
「ここにおられたんですね」
後ろから聴き慣れた声が聞こえる。振り向くと、そこには紫の式神、八雲藍がいた。
「あら、藍。どうしたのかしら?」
「いえ実は、報告がありまして。最近、外界からの漂流物が増えています。外来人はそれほど増えてはいませんが、早めに相応の処置を施したほうが賢明かと思われます」
「そう。わかったわ。今、霊夢に忠告しに行くところなの。あなたも来る?」
「いえ、私はまだ仕事が残っていますし。では、お気をつけて」
「はいはい」
そう言って藍は去っていく。紫は、あえてスキマを使わずに、普段するはずもない巡視も兼ねて再び博麗神社に向かって飛行し始めた。
◆◇◆◇◆◇
「博麗神社?」
数日後、目が覚めたレイの耳に飛び込んできた言葉が、それであった。
「はい。そこの巫女が異変解決を主業としているので、この異変のことも含めて彼女に顔出しでもしたらどうかと」
「ふーん・・・で、場所は?」
「幻想郷の東端。境界の側にあります」
「そうか。じゃあ、早速行ってくる」
「あ、1人じゃ危ないので案内を・・・」
「大丈夫大丈夫!」
そう言ってさとりの引き止める声も聞かずに部屋を飛び出す。
「・・・まあ彼なら大丈夫ですね」
さとりは軽く呆れながらも、不安感は抱いていなかった。
◆◇◆◇◆◇
地底を飛び出したレイは、魔法の森の上空を飛んでいた。
「え~と、確か東だったよな・・・」
そう言って方角を確かめる。数日間の訓練で、レイは飛行も出来る様になっていた。
「ん・・・?」
遥か遠く、人里で何やら騒ぎが起こっているようだ。
「行ってみるか・・・」
そう言うと、レイは人里に向けて加速した。
◆◇◆◇◆◇
人里は大惨事になっていた。
そこら中に人が倒れ、生き残った人々は遠くから震えながらそれを見ていた。
「くそっ!マスタースパーク!」
白黒の服を着た少女がそう叫ぶ。すると、赤い服に身を包んだもう1人が、動く。
「ちっ!」
残念そうに舌打ちをし、白黒の少女は構えていた八角形の何かを下ろす。
どうしたのだろうと思うが、即座に理解する。
彼女と赤い少女を結んだその延長線上。そこには、無力な里の住人がいた。
すると今度は赤い少女が動く。大量の光弾を放ち、白黒の少女に肉薄する。
「うわっ!」
かろうじて避ける。が、状況は圧倒的に劣勢だった。
別の場所では、もう1人。黄色い服に黄色い髪の少女が、青い服に身を包んだ少女と戦っていた。
こちらは主に接近戦で、もう片方と比べると、まだ互角に渡り合えていた。
状況を理解したレイは、白黒の少女の元へ向かう。
「おらっ!」
赤い服の少女に上空からまず一閃する。だが、流石に気付かれ躱される。
行くか、と臨戦態勢に入ったレイに、後ろから声が掛けられる。
「お前、何物だ!?」
「俺はレイ。詳しい話は抜きだ!俺も手伝うぜ!」
次に、黄色い髪の方に話しかける。
「おい!」
チラリとこちらを見る。
「俺がそいつの気を引く!お前は皆を避難させてくれ!名前は?」
「・・・エルミー」
「わかった。任せたぜ!エルミー!」
エルミーは小さく頷くと、一瞬で敵をすり抜け、人々の元へ向かう。
「さて、お前の相手は俺だぜ!」
レイはエルミーを追おうとする青いのに向かって肉薄する。
相手はそれを軽々と躱す。
それを見て、レイはおや?と思う。
さっきエルミーが戦っていた時は何か武器を持っていたように見えた。だが今は素手だ。一体どういう事だろうか?
「せいっ!」
一瞬浮かんだ疑問を握りつぶし、レイは再び斬りかかる。
その瞬間。
敵の右腕に、砂が集まっていく・・・いや、砂じゃない。あれは・・・
「砂鉄か!」
黒い砂鉄を右手に集め、右手に固めてまるで武装するように取り付けた。
そして金鎚状になったそれをレイ目掛けて振り下ろす。
「うおっ!」
余りの衝撃に思わず仰け反る。叩きつけられた場所は、小さなクレーターの様な物が出来ていた。咄嗟に減速したから良かったものの、あんな物を喰らえば即死しかねない。
「厄介だな」
そう呟き、あまりの重量にバランスを崩した所に斬りかかる。だが、敵も馬鹿ではない。
金鎚状に固まった砂鉄は、いきなり変形し刺の様になり、レイの喉へ凄まじいスピードで伸びる。
紙一重でそれを躱し、まともな斬り合いじゃ勝てないと悟り、一旦距離を取り自分の能力を開放する。
「ハァッ!」
すると、レイの周囲の空間が揺らめく。
次の瞬間、砂鉄の塊がバラバラに飛び散る。
何が起こったのかは判らない。ただ敵はただの鉄くずとなったそれを呆然と見つめることしか出来なかった。
その隙をつき、レイは一気に距離を詰める。だが、四散した砂鉄がまた変形し、レイの周囲を取り囲むように配置される。
何をする気だ?と思ったのも束の間、
「磁符『ローズマグネイション』」
敵の口からスペルカードが宣言される。その瞬間、レイの全身に絶対的な悪寒が走る。
弾かれた様に足元を見る。そこには、磁力による魔法陣が描かれていた。
全力で跳躍し、魔法陣から出る。次の瞬間、さっきまでレイが立っていた場所に巨大なバラが出現する。
見た目は綺麗だが、あんな物を食らってはひとたまりもない。小さく身震いすると、目の前のバラを粉々に破壊する。そして、次は俺の番だ、とスペルカードを宣言する。
「音波『ウルトラソニック』!」
敵は咄嗟に砂鉄で壁を作りガードする。
だが、その破壊力は余りにも絶大過ぎた。
レイの目の前の物は、全て破壊される。地面だろうと、砂鉄の壁だろうと、全てをだ。敵はそれをもろに喰らい、吹っ飛ばされる。だが、外傷はない。口から多量の血を吐くと、動かなくなった。
チラリと白黒の方を見る。ちょうど彼女がスペルカードを宣言した所だった。
「恋符『マスタースパーク』!」
右手に持った八角形の物体から、真っ白な光の塊が放たれる。敵は、為す術もなくそれに飲み込まれた。
いつか見たあの光だった。あれはあいつの仕業だったのか・・・いや、結果的に助かったからいいのだが。
とにかく、飲み込まれた奴はもう跡形もない。
だからこそレイは完全に油断していた。敵の攻撃はまだ終わっていないのに。敵はこの時を待っていたのだった。
さっき撒き散らされた土が、いきなりレイに引き寄せられる。
「っ!?」
いや、違う。よく見ると、背中にも同じものが付いている。お互いに引き付け合っているようだ。
まさか、とレイが思った時には、もう手遅れだった。
体についた石や砂鉄を必死で切り払う。だが完全には落としきれず、その中の一つがレイの横腹を貫く。
「ぐっ・・・」
途端に傷口から血が吹き出る。遅れて激痛が走る。やばい。
「ガハッ・・・」
さらに吐血する。内臓をやられたようだ。早く治療しなければ。って医者が居なきゃどうしようもないじゃないか。どうすればいい?
「ったく。世話の焼ける男ね・・・」
と混乱しているレイのもとへいきなりエルミーが現れた。驚く間も無く、エルミーはレイの傷口に手を当てる。
「動かないでよ」
それだけ言って目を閉じる。すると、レイの傷口の出血が止まる。
「? あれ、出血が・・・」
「はい、終わり」
エルミーはそう言って手を離す。
「傷が治ったわけじゃないから、まだ動いちゃダメよ、それに・・・」
エルミーは空を見上げて語を継ぐ。
「まだ終わってない」
言い終わった瞬間、空から何かが降ってくる。目を凝らしてみると、それは、
「霊夢!」
紅白の巫女服を着た少女。それを見るなり、エルミーはそう叫んだ。
霊夢と呼ばれた少女は、そのまま地面へと叩きつけられる。
「あぐっ!」
咄嗟に受身はとったようだが、衝撃を殺しきれず短く悲鳴を上げる。一見して負傷が激しい。全身傷だらけで、服もぼろぼろだ。
「霊夢!平気か!?」
白黒の少女が心配そうに駆け寄る。霊夢は多少辛そうにしながらも起き上がる。
「大丈夫。それより・・・」
霊夢は空を見上げる。皆も上を見る。
「あれはやばいわね・・・」
遥か上空から地上に降り立った少女は、奇妙な姿をしていた。
右手に赤い巨大な目。左手には青い目。背中には、鈍い輝きを放つ二枚の翼。どうやらまた鉄のようだ。
さっきの2人とは、発しているオーラがまるで違った。あまりの威圧感に、危うく飲み込まれそうになる。
コイツは強い。ほぼ直感的にそう感じていた。他の3人もそのようで、思わず1歩引く。
まるで、その1歩が合図になったかのようだった。敵はいきなり加速し、その強靭な拳を叩きつける。全員飛び退いて避ける。が、消耗の激しい霊夢と白黒は着地の失敗にバランスを崩す。レイは傷を庇っていたためか距離が足りずに衝撃波で吹っ飛ばされる。まともに躱せたのはエルミーだけだ。
それを見てエルミーは言った。
「ここは私に任せて。あんた達じゃ足手纏よ!」
いきなり飛び出して短剣を突き出す。敵はそれを軽々と避ける。
様に見えた。
確かにエルミーの刃は敵を捉えなかった。なのに、一瞬で敵の体には数多の刀傷が刻まれる。
「悪いけど、速攻で終わらせて貰うわ」
そう言って懐から取り出したのは、
「靭符『サブライトスピード』!」
と宣言する。が、彼女が宣言し終わった時点で決着は付いていた。敵の体はバラバラに切り裂かれ、跡形もなく地面に散らばる。
絶対的だった。彼女の力は。
圧倒的だった。彼女の勝利は。
その事実に凄いと思いながらも、ある1つの疑問を抱く自分がいた。
――――――エルミー。お前は、一体?――――――
その疑問を余所に、呆気無く終わった戦いにまた油断している自分がいることに、レイは気付いていなかった。