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東方零異変~Forgotten entity~  作者: ksr123
第一章 数々の出会いと零の自分
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第四話 ~新たな名前(いのち)

目が覚める。いつもと違う部屋。そういえばここは妖怪の屋敷だったな・・・。

傷を確認する。もう痛みは残っていない。ほぼ全快したと言っていいだろう。

取り敢えず起き上がって布団を畳む。角に重ねて置いて障子戸を開ける。

部屋は和風だったが外はそうでもない。よくわからん・・・と心の中で呟く。


「あら、もう目が覚めましたか?」


と声をかけられそちらを見る。そこには、昨日の少女がいた。


「ん?ああ、割と早起きなんだ。昨日は寝るのも早かったしな」


「そうでしたか。ところで、あなたは昨日、自分を人間だと言っていましたよね?」


「ああ、そうだが?」


「あなたから感じる気配・・・明らかに人間ではありません。本当は何なのですか?」


「気配?そんなこと言われたって気配がなんだろうと俺は人間だ。そうじゃなかったら何だって言うんだ?」


「いえ、ただ・・・あなたからは様々な気配が溢れています。霊気、妖気、神気・・・こんなのは初めてです」


「・・・すまん。俺にもよく分からない。記憶が戻れば判るのかもしれないが・・・」


「そうですか・・・」


気まずい沈黙が流れる・・・朝っぱらから会話の内容が暗すぎる。


「あ、すいません。朝からこんな話なんてしたくないですよね。もうすぐ朝食ができますからね」


「ああ。ありがとう」


心を読まれるのももう慣れた。気分はよくないが意外と便利でもあるな。


「・・・ありがとうございます」


彼女は若干顔を赤らめてそう言った。

◆◇◆◇◆◇


「いただきます」


「おう、いただきます」


二人は一緒に朝食を食べていた。なんでも彼女から話があるそうだ。


「・・・」


「・・・」


どちらも喋らない。料理は美味いが何か寂しい。

唐突に彼女が口を開く。


「あなた、名前はなくていいんですか?」


「え?」


「いや、名前が分からないんだからせめて自分で考えるとかした方がいいんじゃないですか?」


名前か・・・と考え込む。

なにか思い出せないか、と必死で記憶を手繰る。だがそんな事をして記憶が戻るわけがない。

本当に何もない・・・記憶が無いだけで自分の全てが無くなった様な気分だ。


何もない・・・正しく0(レイ)の状態だ・・・


「レイ・・・」


と試しに口の中で繰り返してみる。


「俺は、レイ。レイ()リゲイン(取り戻す)だ・・・」


「・・・いい名前」


彼女(そう言えば名前を聞いていなかった)はそう言って微笑む。


「あ、自己紹介がまだでしたね。私は古明地さとりと言います。ここ、地霊殿は私の館です」


ちれいでん?大層な名前だがそんなに大きいのか?これからは迷子にならないよう気を付けなきゃな・・・


◆◇◆◇◆◇


「御馳走さん」


「御馳走様でした」


食事が終わり、さとりに別の部屋へ連れて行かれる。


「ここです」


そこは、だだっ広い道場の様な場所だった。

何をする気だ?と思って彼女に聞いてみる。


「ここで何をするんだ?」


「あなたを鍛えます」


は?なんで俺が?確かに妖怪に殺されかけたけど・・・


「精神を鍛え、自分の力を知ることが出来れば、あなたが何者なのか判るかも知れない。だから、まずあなたには、自分の力を使いこなせるようになってもらうわ」


「なるほどな・・・。わかった。やってみる」


「それで、まずは弾幕の出し方からね」


弾幕?また聞き慣れない単語が出てくる。


「弾幕というのはこれの事」


そう言ってさとりは掌から光る玉の様な物を放つ。


「おお」


それはまっすぐ直進し、部屋の壁にぶつかって消える。


「ここは頑丈に作ってあるからいいけど、本来だったら生き物がまともに喰らえば命を落としかねないから、気をつけてね」


「・・・物騒だな」


そんなものを掌から無数も放つさとり。なんだか見かけによらず怖い。


「さあ、あなたもやってみて。出し方としては、体の中のエネルギーを、目の前の空間にぶつける感じで」


「お、おう」


さとりの言った通りに、体の底から湧き上がる力を目の前の空間に向かって放ってみる。


「おお、できた」


白い光を放つ弾がレイの掌から飛び出る。


「ふうん・・・結構スジはいいみたいね。それじゃあ、軽く弾幕が撃てるようになるまで頑張ってみましょうか」


「わかった」


そう言って、今度はできる限り多くの弾を同時に発射してみる。

最初は余り多くの弾は撃てなかったが、さとりのアドバイスを貰ったりして、徐々に上達していった。


「はあっ!」


叫び声と共に、無数の光弾がレイの掌から放たれる。


「ふうむ・・・まあ、そろそろいいでしょう。では、次は私と勝負します」


「え?いきなり?」


「はい」


戸惑ったような返事はしたものの、レイはさとりにだったら勝てるかも知れないと思っていた。


自分だって体力には自信があるし、去年まで空手をやっていたから、体術にも自信があった。


「では、いきますよ!」


さとりが叫ぶと、レイは間髪入れず跳躍でさとりとの距離を潰し、右手の拳を放つ。


さとりは軽々と避け、レイの後ろへ回る。それを予め予想していたレイは、そのまま惰性を生かし、一回転して回し蹴りをくり出す。


さとりは今度はそれをしゃがんで避ける。だけでなくレイの軸足に向かって光弾を放つ。


「うぐっ!」


足に激痛が走る。が、外傷はない。

バランスを崩して倒れるレイに対し、さとりは跳び上がり上空から容赦なく光弾を連発する。


レイはそれらを相殺しつつも、体勢を立て直しその場から退避する。

直後、レイの居た場所をさとりの光弾が直撃する。


やはり弾数では勝てない。接近戦に持ち込むか、頭を使うしかない。


そう判断したレイは、両手を束ね弾幕を放つ。放たれた弾は、うねるような軌道を描きながらさとりに向かって進む。


これならどうだ、とレイはさとりを見る。軌道が読みづらく、避けるのは難しいだろうと考えていた。


だが、さとりはそれを一瞬の淀みもなく躱しきる。どころか避けながら弾幕の隙間を縫って光弾を放ってくる。


「なっ!?」


予想外の結果にレイの判断が一瞬遅れた。が、さとりはそれを見逃さなかった。


光弾を放ちながらもレイに接近し、懐に蹴りを放つ。


「うぐっ!」


ガードが一瞬遅れ、レイはそれをもろに喰らう。それだけでなく、先ほど放たれた光弾が、吹っ飛ばされるレイを追撃する。


ようやく理解した。

さとりはレイの心を読んでいたのだ。だから、蹴りも、弾幕も全て躱される。

さとりに勝つには、分かっていても避けられない様な、もっと強力な攻撃が必要なのだ。


仰向けに倒れて動かないレイのもとへ、さとりが駆け寄る。


「ごめんなさい。ちょっとやり過ぎちゃいました」


「・・・慰めはやめてくれ。余計惨めになる」


「ご、ごめんなさい」


そう言ってさとりは手を差し出す。レイはそれを掴んで起き上がる。


「惨敗だったな」


「そんなことありませんよ。私だって結構焦ってたんですから」


「本当か?」


「はい。特に最後のアレなんか」


やっぱり、あれは分かっていても避けづらいようだ。


「ところで・・・」


「ん?どうした?」


「さっきあなたに手を掴まれた時、なにか妙な感覚があったの。もう一度確かめたいんだけど、いい?」


「ああ、別にいいけど・・・」


レイの返事が終わらないうちに、さとりはレイの手を掴んでいた。


目を閉じて集中する。手だけでは分かりづらかったのか、レイの胸に手を押し当てる。

傍から見るとまずい状況である。早く終わらせて欲しいとレイは思った。


そして数分が過ぎた後、


「・・・ごめんなさい。よく分からないわ」


と言いながら、さとりがレイの胸から離れる。


「そうか・・・ってそもそも妙な感覚ってどんな感じがしたんだ?」


「魂の中に、何かを感じたの。どんな物かは分からなかったわ」


『そう。あなたがそれを持っていたのね』


「「!!」」


2人は揃って声のした方を振り向く。


そこには、あの時の妖怪がいた。


「ごきげんよう。またあったわね、レイ」


「!!・・・なぜ俺の名前を知っている」


「さっき聞こえたの」


そう言うと彼女はレイに近づきこう言う。


「あなたの中に、ある存在が眠っている。それを呼び起こせば、あなたの正体に近づけるかも知れない」


「何!?」


突然の言葉にレイは驚愕する。一体自分の中に何が眠っているのだろうか?


「どうやって呼び起こすの?紫」


さとりが口を開く。どうやら知り合いらしい。目の前の彼女は紫というらしい。


「彼の中の力を、放出し続ける。力と一緒にその存在(・・)が飛び出るまで、全身の力を放出し続ける。ただし、決して休んではいけない」


「で、でもそんな事したらレイが死んじゃう―――――」


「わかった。やってみる」


「レイ!?」


レイは、自分でも驚くほど冷静にその判断を下した。

何故かは判らない。正体が分かると言われたからかもしれない。でも、レイには何故かは判らなかった。


「・・・いいの?下手したらあなたは死ぬわよ?」


「構わない。正体が分かるなら命だって賭けてやる。危ないから2人は離れてろ」


そう言ってレイは自身の力をかき集める。


「はあああああぁぁぁぁぁ・・・」


少しずつ、力を集めていく。そして、それを一気に放出する!


「ハァァッ!」


道場が、いや、屋敷全体が震えているのではないかという程の力が、辺りに撒き散らされる。それは、紫でもその場に立っているのが難しいほどだった。


「はああああああああああああ!」


疲れてきた。でもやめない。軽く意識が遠のく。でもやめない。彼は、自分のために、最後の力を振り絞った。


「ああああああああああああああああああっ!」


そして、彼の体が光に包まれた・・・

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