第三話 ~地上の異変と地底の瞳~
目が覚めた。しかし、視界はまだ真っ暗なままだ。またあいつの仕業か?と思ったが、違うようだ。
無数の光る目。先ほどの空間の目とは違い、強い意志が込められている。
――――殺意。か――――
どうやらハラが減っているらしい。だが、こっちも素直に喰われる訳には行かない。
勘、だが、確信に近い予感があった。
「逃げるが勝ち、だぜ!」
そう言うと即座に回れ右をし、全力で駆け出す。
勝てるわけがない。逃げる以外に何がある。恥も外聞もあるものか。
それにしても、と走りながら、考えていた。
――――記憶がない。殺された瞬間のことは覚えている。でもそれ以外は――――
そこまで考えたところで、またしても背中に激痛が走る。
「っ!?」
足がもつれ俯せに倒れる。頭を打つ。
背中をやられた。思ったより相手は足が速かった。
傷口を確認したが、思ったより深い。早く手当しないと危険だ。
さあ、どうする――――?
他人事のように考える。視界が歪む。思ったより強く打ったようだ。
一体俺は何度気絶するのだろうか、だんだんこの感覚がクセになってくる。
意識が遠のき、視界が暗くなる・・・いや、最初から真っ暗だ。
真っ暗な視界の端、小さな光が見える。
最初は小さかった光が瞬く間に大きくなる。
あっという間に視界は白一色になった。
あまりの衝撃に体が浮き、次の瞬間、凄まじい勢いで吹っ飛ばされた。
止まるほどの力も残っていない。なすがままに飛ばされる。
「がはっ!」
一本の巨木に背中を打ち付けられる。その衝撃で傷口の痛みが掻き立てられる。
「うう・・・。」
いきなりあんまり過ぎる仕打ちだ。
そう思った時点で意識が途切れた。
◆◇◆◇◆◇
―――――――右手に握られたそれが持ち上がっていく。
そしてそのまま恵里の肩口を通って胸を切り裂く。
「・・・」
悲鳴も上げることなく、恵里が床に突っ伏す。
「・・・!!」
叫びたくても声が出せない。目の前で、恵里が殺された。
アスファルトの地面には血溜まりがどこまでも広がってゆく。
彼の心には、虚無感という感情だけが渦巻いていた。
自分は何もできなかった。
ただ、恋人が目の前で殺されるのを見てただけ。
そう。見てただけ。
助けにも入らない。声も上げない。涙も流さない。
ただ、何もできなかった・・・いや、何もしなかった自分が憎い。
(どうせ俺はただの傍観者さ・・・)
そう心の中でつぶやき、彼は生きることを止めた。
辞めた。
◆◇◆◇◆◇
「!!」
勢いよく起き上がる。
どうやら悪夢でも見ていたようだ。最近ずっとこんな感じだ。
「気が付きましたか?」
横から声が聞こえたので振り向いてみる。
そこには、ピンクとも桃色ともつかぬ服を着た少女がいた。
特徴的な部分はあまりないが、ひとつだけ。
右胸に巨大な目玉。
何だあれは?
「? ああ、これですか?これは私の第三の目。私、覚妖怪なんです。」
覚妖怪? 第三の目? 聞き慣れない単語に思わず首をかしげる。
っていうか俺は何も言っていないぞ?また心でも読まれたか?
「心でも読みましたが。っていうか「また」ってなんですか?私の他にも覚に会ったんですか?」
俺は何も言ってないのに・・・会話が成立しない。
「・・・ちょっと貴方について教えてくれませんか?」
そんなわけで
******少年説明中******
「そうでしたか・・・可哀想に・・・。」
「いや、記憶が無いもんだからむしろこっちの世界で生きる方が好都合だったのかもしれないし。それに、本当は死んでいたはずなのにここで生きていけるんだからかえって良かったんだよ。」
「・・・そう、ですか・・・。」
彼女はそれ以上は喋らす、ただ、「失礼しました」と言って部屋を出ていった。
ふと思い出して背中の傷を確認する。
だいぶ良くなっている。どうやら結構な日数眠りっぱなしだったらしい。これは傷が治ってからはキッチリ手伝いをしなきゃバチが当たりそうだ。
とりあえず今日は寝よう、と言って横になり、目を閉じる。
数分後、穏やかに寝息を立てる彼の姿があった。