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第二話 ~八雲立つ出会い~
何故だ。
何故思い出せない。
自分の名前だ、自分が一番よく知ってる。
「あら、どうかしたのかしら?」
クスクスと笑いながら目の前の彼女が言う。
何か知っているに違いない、直感的にそう思った。
「あら、私は何も知らないわよ?」
!?・・・心でも読まれたか?
・・・そうだった。ひとつこいつに聞いておくべき事があった。
「そういえば、俺は死んだんじゃないのか?」
「あら、今更気付いたの?・・・まあいいわ。あなたは確かに死んだ。でも・・・」
「でも?」
数瞬の沈黙、そして彼女は言った。
「・・・やっぱり秘密」
「はあ!?」
思いっきり肩透かしを喰らった。
・・・全く理解できない。何なんだ一体。
「あら、もうこんな時間。早く行かなきゃ。」
などとわざとらしく言い、音もなく長いスカートを翻す。
「あ、おい!ちょっと待てよ!」
彼女は構わず歩く。
「おい!待てって!教えろよ畜生―――――!」
必死で彼女を追う。けれど、距離は近づくどころか離れていく。
目の前が暗くなっていく。その事に気づいた時には、既に彼の意識はなかった。