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東方零異変~Forgotten entity~  作者: ksr123
第二章 守るべき約束
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第九話 ~失踪~

翌朝、レイの目覚めはやや乱暴に訪れた。


目を開ける。外はもう明るく、起きなければと思ったが襲って来る睡魔には勝てずに再び布団をかぶる。

満月はまだ起きておらず、時折寝言を言いながら布団の中で忙しく寝返りを打っていた。


もう少し、あと5分したら満月を起こそうと思ったその時、


「うげぇ!?」


突然腹部に激痛が走った。何かに押し潰されるような痛みに何事かと思い上半身を起こすと、目の前に布団にくるまった満月がいた。満月はゆっくりと起き上がり、気の抜けた声で大きな欠伸をした。


「ふわぁ~~、もう朝か」


「満月、お、重い・・・」


「ふえ?・・・あ、ごめん」


半寝のまま、まともに立つこともできず半ば転がるようにレイの上からおりる。それもたっぷりとレイの下腹部に体重をかけながら。肺が圧迫されて呼吸が出来ないことを伝えようと手足をジタバタと暴れさせるが、満月は気づかずにそのままゆっくりと降りてからレイの隣で横になる。


「おはよう、レイ」


「・・・うん、おはよう」


「どうしたの?なんか元気ないよ」


「そりゃあな・・・」


全く悪びれた様子もなく、満月は笑っている。そんな無邪気な満月を怒る気になれず、諦めたようにレイも笑っていた。


「なあ、満月」


「何?」


「・・・昨日は、ありがとな」


「うん、どういたしまして」


満月は少し照れくさそうに頭を下げる。


「・・・ずっと一人だと思ってたから、嬉しかった」


「レイは一人なんかじゃないよ。私だけじゃない、エルミーや、お姉ちゃんだっている。だから、もう」


「ああ、大丈夫。もう迷わない」


レイがそう言うと満月は嬉しそうに微笑む。見る者を不思議と安心させる、温かい笑顔だった。


「それじゃ、もう起きよ」


「ああ」


こうして、また新たな一日が始まる。ただ、この一日はそう簡単には終わってくれなかった。


◆◇◆◇◆◇


朝食を済ませ、朝早くから2人は魔法の森の小道を歩いていた。昨晩から帰ってこない大月を心配した満月の提案である。


昨日、エルミーの所に行くと書置きを残しそれきり帰ってこなかった。大方阿求のところで泊まっているのだろうが、最近は人里が襲われたリエルミーが怪我をしたりと何かと物騒なので、念のため様子を見に行くことにした。


ちなみになぜ歩きなのかというと、実は満月はまだ飛べないのである。というよりは、一応飛ぶこと自体は出来るのだが、飛び方が危険極まりないらしい。らしい、というのはレイ自身まだ満月の飛ぶ姿を見たことがないのである。大槻には矢鱈に能力を使うなと言われているらしく、本人は何かと欲求不満らしい。


そのような話をしながら歩いてゆくと、人里が見えてきた。見えてきたのはいいものの・・・


「おいおい、何だありゃ?」


里の周りを囲むように妖怪が群れを成して押し寄せていた。前回は簡単に入り込まれたが、里人たちも馬鹿ではない。前回の教訓を元に、里の周りには高い囲いが作られており、妖怪たちはただ屯しているだけで、登る術を見つけられないようだった。


「好都合だな。行くぞ、満月!」


「うん!」


そう言い合って二人は駆け出した。人里まで目測で5分はかかりそうだ。それまで持ちこたえてくれ、と祈るようにレイは走る足に力を込める。


しかし、その目の前で妖怪たちは囲いをよじ登り始める。かなりの高さではあるが、あれでは数秒もあれば簡単に登りきってしまう。とレイは焦る。それは満月も同じのようで、いざとなれば能力を解放することも覚悟の上で走っていた。


すると、突然遥か上空から閃光が空を切り裂き、今まさに囲いを越えようとしていた妖怪の姿が一瞬にして飲み込まれ、消えた。妖怪たちは騒然とし、頭上の敵を見上げ一斉に威嚇をする。それを見下ろす大月はうんざりした様子で言った。


「やれやれ、人を襲うのも大概にして欲しいんやけどなぁ」


「仕方ないじゃない。それが幻想郷でしょ?」


「こんなのは想定外や。ひと月の間に3度も襲われたら、ウチらが過労で参ってまうで」


「はいはい、無駄口叩いてる暇あったら降りて殲滅するの手伝って!」


エルミーは颯爽と地面に降り立ち、腰に差した探検を引き抜くと側にいた妖怪を一撃で切り捨てる。そのまま目にも止まらぬ剣技で次々と妖怪たちは倒されていく。大月は囲いを登る妖怪たちを次々と撃ち落としていく。遅れてレイと満月も合流し、それぞれ一体一体確実に仕留めていく。


「あれ?レイに満月。どうしたの?」


「大月が心配でな。来てみればこの有様だよ!」


苛立ちをぶつける様にレイは豪快に刀を振り抜く。それはまるで草を刈り取るように、周囲に妖怪たちをなぎ払う。しかし、妖怪の数は余りにも多く、4人掛りでも一向に数は減らない。強大な相手ではないが、本能と連携を駆使して機敏にレイ達を取り囲むその狡猾さは厄介だった。


焦れたエルミーはサブライトスピードを宣言する。大月もまた、人数が増え取り逃しが無くなると地上に降りエルミーに加勢する。レイは手加減が出来る質ではないので、下手に能力を使うと仲間を巻き込みかねない。そのためただひたすら刀を振るうことに専念した。


しかし、満月は焦りに負け、判断を誤っていた。


光弾による弾幕攻撃を諦め、一枚のカードを高らかに宣言する。


「核符『舞い降りた超新星』!」


「何やて!?」


その声に大月が真っ先に反応し、遅れてエルミーの表情に焦りの色が出る。一方の満月は、胸元に差し出した掌の上に小さな球を浮かべている。それは時間と共に大きさを増していき、やがて人の頭ほどの大きさになると今度は強烈な光を放ち始めた。


「満月!止めるんや!」


大月が満月に向かって光線を連射する。しかし、それらは満月に届く前に薄れて消えていく。


「レイ、大月!一旦離れるわよ!」


そう叫ぶなりエルミーは自慢の亜光速を活かして一瞬で距離を取る。二人もそれに倣い満月から離れるように飛んだ。


「一体何なんだ、大月?」


「見てればわかる。満月の恐ろしさが」


満月から目を離さないまま、大月が言った。


妖怪たちは、離れたレイ達には目もくれず宙に浮いた満月を攻撃しようと躍起になって飛び跳ねている。満月は、目を閉じたまま微動だにしない。


直後、起こった出来事にレイは目を見張った。


視界を閃光が埋め尽くし、遅れて凄まじいまでの爆音がレイの耳をつんざく。視界が晴れると、レイの目の前には妖怪の姿も、地面すらも無く、あったのは一人空中に佇む満月と地表を根こそぎ削られ内部の層がむき出しになった「土」だけだった。幸いにも里には頑丈な囲いのおかげで被害は殆どなかった。ただ、苦労して作り上げた囲いは塵と化していたが。


まるで、小規模な超新星爆発(ビッグ・バン)のように、一瞬にして全てを消し飛ばしたそれは圧巻の一言でも足りないほど、レイにとっては衝撃的だった。


悠然と、満月が地面に降り立つ。殆ど同時に大月が満月に駆け寄ると、血相を変えて怒鳴りつけた。


「このバカ!あれほどその能力は使うなって言うとったのに!」


「だってぇ、面倒だったんだもん!」


「そういう問題やないで!お前の能力は危険なんやから、不用意に使ったらレイやエルミーが危ないんやからな!」


「はーい・・・」


しょんぼりと頭を下げる満月。レイの目には、とても先程の大爆発を引き起こした人間には見えなかった。


◆◇◆◇◆◇


ところ変わって稗田亭。そこの一室にて、レイたち4人は話をしていた。


「阿求が消えたって?」


エルミーの話によると、レイが阿求と人里で会ったあの日、阿求の行方が分からなくなったらしい。


「そう、大福を買いに行ったっきり戻ってこなくて・・・」


普段は地に足がついていないエルミーも、今回ばかりは不安を隠し通せないでいる様だ。それも無理はない。親友が行方不明になって、平気でいられる方が不自然だ。


「目撃情報とかは?」


「ない」


大月が断言するように言った。勿論、人里中を聞いて回ったわけではないだろうが、少なくともこの付近にはないという意味合いでレイは受け取っていた。


「しょうがないな。ちょっくら探してみるか」


「いいの?」


「ああ。お前らだけに任せておくと心配だからな」


「ごめん。ちょっとイラっときた」


「それに・・・約束したもんな」


「何て?」


「・・・絶対に、守ってみせるって」


恥ずかしそうにレイが言うのを、満月と大月は呆然と見つめエルミーは必死の様子で笑い転げそうになるのを堪えていた。


「何それ?あんた阿求に気でもあるの?」


「うっさいな。そんなんじゃねぇよ」


エルミーが茶化すと、レイはますます照れくさそうに俯きながら首を掻く。エルミーはさも可笑しそうに笑いながら言った。


「まあいいわ。行くんなら早く行きましょ」


「分かった。けど全員で動くのか?分けて動いた方がいいと思うけど」


「そうねぇ・・・」


「ウチとしてはエルミーと満月、レイとウチで動いたらええと思うやけど」


「いや、それはダメだろ」


「何でや?バッチリやんか」


「あいつらを二人にしておいたら何仕出かすか分からないぜ」


「あー・・・そういやそうやったな・・・」


大月は何やら複雑そうな顔で頷いている。あの二人では余りにも不安すぎる。もっと理性的な人間がいないとダメだ。


「じゃあ、私とレイ、逆八姉妹ってのはどう?」


「・・・私、お姉ちゃんと一緒はやだ」


「奇遇やな、ウチもや」


今度はエルミーの提案を即座に拒否して二人はお互いにそっぽを向き合う。姉妹仲が悪いのかな、とレイは疑問に思ったが、今は深く考えるのをやめた。


「・・・じゃあ、レイと満月、私と大月でいいかな?」


「それでいいと思う」


「私も」


「ウチも」


「というわけで満場一致っと。じゃ、大月行くわよー」


「はいはい」


「レイも行こ?」


「おう、分かった」


こうして、二手に分かれての阿求捜索が始まった。

(今回から次回予告が付きます)

突如失踪した阿求。その行方は如何に!?レイたちの前に次々と現れる妖怪たちの群れ。

流石におかしいと、レイの心の片隅にかすかな不安がよぎる―――


次回、東方零異変第十話「いざ命蓮寺へ」

乞うご期待!

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