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勉強と師事


 あの魔法暴発事件から約一年。

 俺ことシャルラハートは先日四歳となりました。

 そして、一年の間で生活はかなり変化しております。

 俺が三歳になったばかりの頃は……。

 午前、本を読む(読んでもらう)、ついでに文字の読み書きの練習。

 午後、散歩に行ったり買い物へ行ったり。


 ──と退屈とは言えないけど、あまり変わりばえのしない生活を繰り返していたのですが、魔法暴発の後はここに魔法の勉強という時間が加わった。

 頻度は二日〜三日に一度、時間を割いて魔法のお勉強をするといった感じ。


 お勉強のおかげで判明したことも随分とある。

 主に俺自身についてなんだけど。


 今になって思い返してみると、一年前の俺はよく五体満足で魔法を発動できたよねぇ……と感じるほど。それほど迄に、危険と隣合わせな挑戦だったんだと今なら理解できる。



 まず『魔法適性』について。

 母様から聞いた話だと、俺には魔法適性が無いとのこと。にも関わらず俺は魔法を使ってしまった。


 その為、改めて適性を調べてもらった。

 転生当初に母様が手をかざして何かやっていたが、あれが魔力の適性を測るモノだったらしい。



 ──その結果、相も変わらず魔法適正なし



 魔法を使う為の魔核に適性がない、なのに魔法が使えている。母様でも原因不明のお手上げ状態という反応に困る事実が明らかになったわけです。


 これは母様の受け売りだが、魔法適性とは身体にあるという『魔核』に何種類の色?があるかどうか……らしいんだけど。


 この『魔核』とは。

 生物ならほぼ必ず備わっている霊的な魔法媒体で、魔法戦闘を行う為には必要不可欠な存在なのだそう。


 魔核の適性は基本的には七種類。

 この種類がそのまま魔法の分類として使われている。

 四大属性の『火』『水』『土』『風』

 特殊属性の『光』『闇』

 特質または性質魔法と呼ばれる『無』


 計7種。


 人族の場合、適性を大体一つか二つ備えているのが一般的で、他の種族などになると、適性を二つ以上備えているのも珍しくないらしい。


 じゃあ自分は『無』の適性ってことでは? という質問をしたんだけど。

 この『無』とは、属性が無い系統外魔法の総称らしく、俺には当てはまらなかった。


 魔核はその属性の魔法を強大化させる役割も持つので、適性がないと魔法とは呼べない脆弱なものになってしまう。


 例えば、『火』の適性持ちが『火』系統の魔法を使えば、初級魔法でも十分な殺傷力を得ることが出来る。逆に『火』の適性持ちが『水』系統の魔法を使っても、本来の十分の一も魔法が発揮されないどころか、発動すらしない場合もザラにある。


 こういった風に、人それぞれ生まれつき得意属性があるという。つまり、適性を多く有している者ほど魔法使いとしての資質が高いということなのだ。

 後天的に適性を得ることはないから、生まれながらに差が生じる。


 なんというか、こういう所はどこの世界でも同じなんだよね。生まれの天稟がものをいうみたいな。



 んん、それはともかくとして。

 知識を母様から懇切丁寧に教えて貰って、俺はある可能性に辿り着いたのです。


 俺が魔法を使える理由についてだ。


 以前、俺が始めて魔法を詠唱したあの時。

 一度目は魔法が発動しなかった。

 これは適性がない&難度が上級だったから、発動しなかったのは当然といえる。


 しかし意識を失ってから……このヘンテコな赤いオーラが発現してからは魔法が使えたのだ。

 つまり、この赤いのが何かの代替として魔法を使う補助をしているという可能性。


 一年前。あの時は魔力純度を上げ続けたら魔力が変質すると仮定したけど、既にその線は消えている。

 これまでの間、魔力生成に終始していたから直ぐに気づいた。


 魔力を生成すると赤いオーラに別の色、あの見覚えのある紅紫色のキラキラが生まれてきたのだ。

 魔力が紅紫色の部分だとしたら、魔法発動後に消えるのにも辻褄が合う。

 その事から赤いオーラは『魔力』とは別の『何か』だとわかった。


『何か』が何なのかは未だ不明だけど。

 これが魔核の代わりとなる万能の力だというのならむしろ歓迎したい所ですし。


 このオーラは謎が多い。

 いや、謎しかないというレベルかな。

 デメリットや代償などがあるのかもしれないが、それすらも不明な為、いまは様子見といった感じ。


 まぁ、あえてデメリットをあげるなら。

 あの日以来、オーラが恒久的に消えないで常に発現し続けていること。消したくても消えない。

 でも、正直これはデメリットにならないと思っている。感覚が鋭くなったり、思考がクリアになったりと逆に調子が良くなっているからね。


 最初はオーラが目に入って邪魔になるのかなぁ〜とか思っていたけど、意識して見ようとしない限り特に不便はなかった。

 というか、これは今まで魔力やらを見てきた時と同じだからデメリットですらない。


 あ、でもオーラを制御できるまでは、買い物先の人達がすごく怯えてたかな?

 オーラが見えてる様子がないのに、何でだろうと思ったけど、母様が『魔力や闘力には、力による威圧効果があるのよ〜?』みたいなことを言ってたので、多分それのせいだね。


 母様と父様はこのオーラでビクッてしなかったから、気づくのが遅れてしまったのです。


 ただ、これも既に解決しているので問題ない。

 やっぱりデメリットは今のところないね。

 このまま使い勝手がいいオーラのままでいて下さいね。



 と、そんな感じで、ここ一年で集まった情報量は、転生してから一番といっても良いくらいです。

 実入りも大いにありましたっ。

 これからも、今まで通り情報や知識は積極的に集めていこうと思いますよ。



 

 ◼︎◼︎◼︎




 さて、現在。

 俺は家から少し離れた場所にある、人気(ひとけ)のない海岸地帯へ母様と訪れています。


 周りに広がるのは、切り立った崖に囲まれた半月状に広がる砂浜と入江。

 前世なら穴場の海水浴場として密かに人気を集めていそうな場所だ。


 最近はここで魔法を実際に使ってのお勉強をおこなっている。今日も魔法実演のためここにいる。


「さぁ〜シャルちゃん。さっそく魔法を使ってみましょうか〜?」

「はい、母様」


 母様がGOサインを出したので、俺は流れる様に魔力を生成し、初級難度の水弾魔法を詠唱し始める。


「我、水の恩恵を得し者、魔の法を紐解き、今此処に力の一端を顕在化させよ、“水の弾丸”をもって生み出さん!」


水弾(ウォーター・ボール)


 掌からサッカーボールほどの水球が形成され、座標指定した入江へ向けて発射される。

 水弾が着弾した海は、大きな水飛沫が舞い上がり荒々しく水面が波打つ。


「ふふっ♪  威力、魔法制御ともに申し分ない感じね〜、シャルちゃん良い感じよ〜」


 脇に寄り添って、魔法の行く末を見つめていた母様から、合格を言い渡される。


 その後。俺は『火』と『土』と『風』という四大属性の初級魔法を海へと打ち込んで行った。

 威力は初級魔法にしては、上出来な方だと自分でも思う。



「うんうんっ♪ シャルちゃんはホントに吸収が早いわね〜。ママも教え甲斐があって楽しいわぁ、ふふふ〜♪」


 そう言って頭を撫でてくる母様。

 最近のマイブームは、抱きしめるよりこっちになっているようだ。といっても抱き付いてくるのに変わりはないのだが。落ち着くのでどっちでもいいですね。



「じゃあ今日は新しいお勉強をしましょう〜」

「はい、わかりました」


 新しい勉強と聞いて笑みが溢れる。

 母様もそれにつられて微笑みを浮かべた。

 母様は体を海の方へ向けると、ある魔法の詠唱し始める。


 んぅ、この詠唱って……。



『我、水の寵愛を得し者、魔の法、真の理を紐解き、今此処に力の一端を顕在化させよ、“純の水”、“嵐の速回”、“絶なる衝爆”をもって生み出さん』


魔水嵐爆(マーレ・インプルス)


 透き通るような声音でスラスラと詠唱を紡ぎ、魔法を発動させた。

 魔法は約百メートルほど離れた沖合へ座標が指定され、蒼い陽炎が生じる。陽炎から巨大な水球が生まれると、乱回転を始めて圧縮され、高速で海水内に吸い込まれた。


 直後。

 間欠泉を彷彿とさせる巨大な水柱が立ち昇った。


「んっ、すごいっ」

「今回は危険だから威力をかなり抑えて使ったけど〜、ふふ、まぁまぁね」

「……ッッ」


 んぅぅ? 威力を落とす?

 威力落として今の規模なの?

 あんな大きな水の柱立ち上げておいて?

 それよりも、あの魔法ってこんなに危険だったんです? 普通にあの部屋でぶっ放しちゃったんですけども……あ、あの時バリアーがあって良かったぁ。


 というか、今更だけど母様は一体何者なんだろうね。上級魔法をこんなにもあっさりと使うなんて普通じゃないと思います。



「といった感じで〜、シャルちゃんが前に使ったこの魔法なんだけど〜、初級魔法の詠唱と比べて気になる事がないかしら〜?」


  俺はハッと意識を戻し、母様の問いかけの答えを考え口にした。


「んぅ、詠唱が初級のほうが短いです。あと詠唱の作りが、ちょっとちがう?」


 気づいたというか二つを比べて分かった事を言った。断言出来ないのは前世からの(さが)だ。


「ふふっ、正解です〜。シャルちゃん流石ね〜!」

「ありがとう、ございます」

「その通り、詠唱は難度が上がれば上がるほど長くなっていくのよ〜!」


 たいした事をした訳でもないのに褒められると、なんだか擽ったい。


「長くなるのは詠唱の後半部分。さっきのだと『水の弾丸』や『純の水』とかね〜? 通称『後法式(ごほうしき)』と呼ばれている部分の特殊な文字が増えるからなの。初級は文字が一つ、上級では三つ、と難度に比例して後法式の文字が増えるって訳ね。……えっとぉ、シャルちゃん言ってる意味わかるかな?」


「はい。むずかしい魔法になっていくほど後法式? が、どんどん増えて長くなっていくんですね」



 母様はお勉強の時、途中途中で理解できているかの確認をしてくれる。

 だから俺も勘違いの知識を身につけなくて済むので、安心して学ぶことが出来ている。


「そうそう〜! それで合ってるわぁ。あとは『後法式』はその魔法現象を表した文字の集合体でもあるのね。例えば──」



 母様の説明はこうです。

 あの【魔水嵐爆(マーレ・インプルス)】という魔法の後法式は、『純の水』で魔法水を作り、『嵐の速回』でその魔水を乱回転させつつ凝縮収束させて、『絶なる衝爆』で衝撃波を伴う破裂現象を引き起こさせている──ということらしい。


 簡単にまとめると……。

〈①純の水+②嵐の速回+③絶なる衝爆=〉

 これが魔水嵐爆の後法式。

 加法の部分は魔法発動に必要な総魔力を算出するときの目安で、文字の相性によって変わるとか。酷い場合とかは全てが乗法で魔力が算出されたりするみたい。



「……あとは組み合わせ次第で、必要になる魔力の量が大きく変わるのも特徴ね〜。だから難しい現象ほど必要な文字が増えていくし〜、文字にも種類があるから、相性の良いもの同士で組み合わせないと発動が難しくなるの、この相性を分類したのを──……」



 それから母様は、確認を何度か入れて勉強を進行していった。

 途中で、『後法式』とは対の『前法式』という言葉も出てきたが、今はまだ深く知らなくても問題ない所らしく、後法式と前法式の組み合わせで『詠唱魔法』が構成されていると認識していれば良いと言われました。



「……といった感じかしら〜。シャルちゃん大丈夫かな? わからなかった所とか気になった事とかがあったら言って頂戴ね〜」

「ん、大丈夫ですっ。魔法の作りについて、ちゃんとわかりました」

「ふふ、良かった〜! シャルちゃんは本当に賢いわねぇ〜。エドでも繰り返し繰り返し教えないと分からなかった所なのに〜、エドとは大違いだわぁ。偉いわねぇ、シャルちゃん♪」

「ん、んぅ……」


 母様はダダ甘極まる発言をしつつ、俺の頭をゆったりと撫でてくる。

 中身が大人なので、理解力が高いのは当たり前なんだけど、そうは言えるはずもなく。

 母様の褒め言葉に全身むず痒くなる。いつになっても天才児扱いには慣れません。


 まぁ、子供らしくないと訝しげられたり、気味が悪いと思われたりしないだけマシなんだけどね。



 それからしばらく誉め殺しが続いて、だんだん耐えられなくなってきたので、俺はある話題を母様に振る事にした。

 魔法式についてはわかったが、他の部分で一つ気になっている事があったのだ。



「母様、少し気になってる所があるのです。いっぱい詠唱を覚えているのに全然ごちゃごちゃにならないのです。覚えるときは大変だったから変だなぁって思っていて……」

「──あっ! その事を話すの忘れてたわ! えっとねぇ、魔法を使うとその詠唱を忘れなくなるのよ〜」

「忘れなく、ですか?」


 ……んん、確かに俺は一年前に一度しか使っていない上級魔法の詠唱でさえ、未だに一言一句覚えている。上級魔法だけでなく、最近覚えた初級魔法も同じく完璧に覚えている。

  前世の俺が記憶力ずば抜けていたという訳でもなかったので不思議だったのだ。


「ふふ、そうなのよ〜、詠唱で魔法文字を使うと、身体……いえ魂に詠唱が刻み込まれるの。だから一度、詠唱魔法を使えば、使いたい時に想うだけで詠唱が思い出せるのよ〜」

「そうだったんですかぁ。なんかすごいですねっ!」


 そっかぁ。魂、魂に刻まれるのかぁ。

 なんか説明がファンタジーだー。

 地球だと概念としての魂があっただけだったしなぁ。いいねぇ〜、いいっ♪



 そんな事を考えていたら自然と笑みがこぼれる。

 この世界は些細なところで好奇心を刺激してくれる。


「ふふ、だからぁ間が抜けてて、頭が空っぽで、おバカなエドでも問題なく魔法を使えるのよ〜」

「おぉ〜」


 母様? それはジョーク? それとも本音です?

 最近父様の扱いがなかなか酷いですね〜。

 ま、実際仲は物凄く良いから心配はしていないんですけどね。家族仲も良好で俺も父様大好きですし。




 ────ザザッ。



「「 ! 」」


 互いにニコニコと話していたところ、俺と母様は同時に“何か”を感知し、海へと視線を向けた。


 入江の水面に影が浮かんできた。

 なんだろう? 水棲の魔物とかかな?

 この海辺は稀に小型の水生魔物が襲ってくる。

 おそらく、今回も魔物が上がってこようとしてるんだろう。よーし、魔物だったら、悪いけど貴重な実戦経験をさせていただきますか。


 俺は水影に意識を向けていつでも迎撃できる構えをとる。母様は見守る形で俺の斜め後ろに立っている。

 迫る水影がどんどん大きくなり、遂に魔物が姿を現した。



「──っぱぁあぁ! ……おぉ!? シャル? プリム? あっれ〜偶然だなぁ〜! 俺も今日はこの辺で仕事でなぁ〜、それになんか呼ばれている気がしてなぁ! はっはっはっはっはっ〜!!!」


「………ふふふ」

「わぉ」


 母様、ニッコリ満面の笑顔。

 おれ、母様横目に仏顔。

 母様は突如出現した恥部を葉っぱで隠しただけの半裸魔物(?)に笑顔を向けたまま。


魔水嵐爆(マーレ・インプルス)♡】


 詠唱をしないで上級魔法を魔物(笑)に打ち込んだ。魔物は正面から直撃を受け、錐揉みしながら沖の方へぶっ飛んで、静かに海底に沈んでいった。


「母様?」

「ふふ、さて〜シャルちゃん。続けましょうか〜♪」

「はぁい」


 何事もなかったかのように、魔法の実演へと戻っていく母様。


 うん、まぁ、いいかな。

 魔物(父)も楽しそうだったし?


 俺も、母様の方へと戻っていく。

 今日も我らが家族は平常運転。

 やっぱり母様と父様は仲が良いなぁ。






2015/10/06-魔法名の表記変更。

カタカタ表記→漢字+カタカタ表記

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