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入浴と和解と疑惑性?


「……ねねさま。ごめん……なさい……。……おこって、る?」

「ん。怒ってる」

「うぅぅ……ごめん、なさい……。はくあ、きらい……なった……?」


 わしゃわしゃと手を動かしていると、ハクアちゃんの沈鬱気な声が届く。

 その声にちゃんと反省の意が含まれているのを感じ取り、俺は口を開いた。


「ううん、ハクアちゃんを嫌いになんてなってないよ。でも、僕はすっごーく恥ずかしかったんだよ? だから、もうやらないって約束できるかな?」

「うん。もう、やらない……はくあ、約束する……」

「ふふ、それなら許します──と、流すから目つぶっててね」

「わぅ……」


 水を専用の魔法具から桶に注ぎ入れて、頭にかけ流していく。ハクアちゃんはギュッと目をつぶって、それが終わるのを待っている。

 頭についた泡を流し終えると、自前の白い髪が見事な煌めきを放って姿を現した。

 汚れていた時とは印象が変わって、神聖で透明感のある美しい髪だった。



「はい、綺麗になったよ」

「うん。ねねさま……ありがと……♪ 気持ち、よかったっ」

「そっかそっか。それはなによりかな」





 と、ご覧の通り。

 結局のところ泣く子? には勝てず、みんなでお風呂タイムとなってます。


 無論、みんなといってる訳だから──。


「シャルく〜ん、ハクアちゃ〜ん♪ 早くこっちおいで〜!」

「……そ、そうね。身体冷やすのは、よくないわ……」


 アルルとニーナも当然の様にいたりする。

 一応アルルは声を大にして『入りたい!』と主張してたから分からなくもない。

 でも、ニーナがおずおずとはいえ追従するなんて驚いた。


 まぁ、恥ずかしがり屋なのに、さみしがり屋だと難儀だよねーって思います。

 声とか上擦ってるから赤面してるのは確かだろうし。湯船に浸かりすぎて前みたいに、のぼせない事を祈るばかりです。



「二人ともごめんねー。ちょっとやる事があるから、あと少しかかるかもー」

「そ、そう……もう少し……」

「あたしも手伝う〜?」

「大丈夫ー。すぐ終わらせるからゆっくりしてていいよー」

「……むぅぅうぅぅ……わかったの〜」


 ニーナはソワソワと口を閉ざし。

 アルルはわずかながら煩悶した様子だったが、何とか納得したみたいだ。


 俺は離れた位置で立ち上がっていたアルルの影が、トプンと肩まで湯に浸かったのを見てから、再びハクアちゃんの方へと向き直った。



「よし、ハクアちゃん。ちょうどいいから髪の毛も整えたいんだけど、いいかな?」

「……かみ……切る?」 

「そうそう。もしかしなくてもハクアちゃんてば適当に自分で切ってたでしょ?」

「……うん。目に入って……邪魔、だったから……ナイフで、切った……」

「もう、女の子なんだから髪はもっと大事にしないと。ハクアちゃん可愛いんだから勿体ないよ」

「……ぅ? ハクア、かわい?」

「ん、かわいいよ」

「わぅ♪」


 嬉しそうに声をあげるハクアちゃん。

 その姿は年相応で見ていて微笑ましい。

 でもハクアちゃんの境遇だと、髪なんて気にする余裕もなかったのは理解できる。

 仕方ないといえば仕方がないのかな。



「それじゃあ、始めるから少しの間じっとしててね。寒くはない?」

「……うん。大丈夫」


 季節は冬に近いのであまり時間はかけられない。

 俺は早速持ち込んでいた道具類を手にとって、彼女の白い髪全体に櫛を通していく。

 一度髪用の石鹸シャンプーで洗ったお陰でスムーズにとかせるね。

 普通の人とは違って耳が生えてるから若干やりにくさはあるけど、まぁ、問題はさなそうかな。


 ちなみにこの道具類も母様が作った手製。

 母様は俺や父様の髪を切っていたから、ハサミや櫛は初めからあったんだけど。

 髪を切るには適してなかったし、色々とアイデアを言ってみたら……あら不思議。

 次に切るまでには大体が揃ってました。


 まぁ、流石に削ぎハサミ(セニング)をパーセント毎に複数作るこだわり様には、驚きを超えて笑っちゃったけどね。

 母様ホントに凄すぎます……。




「……ねねさま、手……痛い?」

「んー? ふふ、大丈夫。痛くないよ。心配してくれてありがとうね」

「……ぅん」


 俺が片手で作業していると、鏡越しからジッと見ていたハクアちゃんが、ポツリと声をかけてきたので、サラッと微笑みながら言葉を返した。

 俺の左腕を同情心とかじゃなく、純粋に心配してくれてたみたいだね。

 うんうん。やっぱり心優しい子みたいだ。



 そうこうしている内に、とかし終わったので櫛を尻尾にリリース。

 右手はハサミに持ち替えて、尻尾の櫛で毛を一房ほど、半ば程まで通して持ち上げると、チョキチョキして長さを整えていく。


 それを何度か繰り返して、サクサク切り進めていく。


 これでも俺、前世では髪に関心のなかった同居人の髪を整えてたこともあったからね。

 この程度のカットなら容易いですよ。


 ここは(自称)カリスマ・スタイリストのシャルラさんにお任せっ☆






 ◾︎◾︎◾︎






「はい、おしまい」

「……おー、ねねさま、すごい」


 恙無く(つつがなく)カットを終わらせて再度洗い流し、完成形をハクアちゃんに見せた所、満足いただけたご様子だ。


 切る前はアヴァンギャルドな髪型だったハクアちゃん。今はそれなりになったと思う。


 お尻あたりまであった後ろ髪は、毛先の方が何故か少し焦げたりして痛んでいたから、長さを調節して背中の半ばまで短くし、髪量が多く重めだったので、すいて軽くした。

 トップやサイドは元から短めだったこともあり、あまり長さを変えず整えただけだが、こちらもセニングを入れてふわっと軽くしてある。


 問題は、適当に切ったという前髪やもみあげ辺りだ。

 もみあげの方はまだ誤魔化しが効いた様で無理矢理になんとかしたけど。

 前髪は短い所は眉の上やまぶたの上、長い所は鼻の先辺りとバラバラで、乱雑に切り取られていたので、短い方に合わさせてザクザク切らせてもらった。

 まぁ、眉上の長さでアシンメトリーのバングスを入れるのは髪型としてはあるし、おかしくはないだろう。

 むしろおでこが見えて、子供らしくも可愛らしい仕上がりになったんじゃないかな?



「……おぉ……おー……」



 風呂椅子に座っているハクアちゃんは、前のめりになって整えられた髪を見ている。

 こんな仕草も髪型が変わるだけで妙に映えて見える。

 ん、やっぱり切って良かった♪


 本当ならブローもしたかったんだけどね、どうせこの後はお風呂に浸かるし妥協した。乾くとまた印象が変わるから後で調整しないとかな。



「……ねねさま、ねねさまっ」

「なぁに?」

「はくあ……かわいく、なった?」


 ハクアちゃんは嬉しそうに頬を染めて、振り向きながら上目遣いでそうたずねてきた。


「ふふっ、大丈夫。さっきよりももっと美人さんだからね」

「〜〜♪」


 俺は誤魔化す必要もないので、ありのままを伝えたよ。

 何というかハクアちゃん。天然でこのあざと可愛さは、アルルに近い素質があるね。


 当のハクアちゃんは、四本の純白の尻尾をフリフリと降ってご機嫌な様子。

 幼いとはいえ、やっぱりハクアちゃんも女の子なんだなぁ……そう思った。



 あ、そうそう。

 ハクアちゃんの尻尾については綺麗に洗っただけで、特に手は入れていない。

 こっちは汚れていただけで、毛並みは初めから良かったからね。後でブラッシングでもしてあげれば十二分だと判断したのだ。





「ふぃぃ〜、乗り越えましたぁ……」


 俺はハクアちゃんのカットも終わり、そっと一息ついた。


「……ねねさま? 疲れた?」

「んん、平気だよ。すこーし気が抜けただけだからね。──さ、ハクアちゃん、アルル達も待ってるだろうし、行こっか?」

「……うん……わかった……」


 間近だから聞かれちゃったか。

 けど、流石に正直には言えないよねぇ……俺が作業をしながらも、ハクアちゃんの尻尾とお耳の魅惑と戦ってました〜とは。


 いちおう俺にもファンタジー探求者としてプライドがあるからね。

 ながら探求はしない主義なのだ。

 作業と割り切って済ませましたよ。

 だからまたいつか、もっと仲良くなったら探求させてもらいたいです。切実にっ。



 そんな複雑な内心とは裏腹に、表情は変えずハクアちゃんを湯船まで引っ張っていった。

 俺は一番に頭と身体は洗い終わっているから、あとはこのまま羞恥を耐えて直行するだけだ。



「シャ〜ルく〜んっ! ハクアちゃ〜ん! やっときた〜〜♪」

「……ききき来たわねっ」

「ん、お待たせ。二人共のぼせてない?」

「…………ぅぅ」


 ハクアちゃんを伴って湯に浸かり、お湯をかき分けるようにしてアルル達がいる場所にそそくさと合流する。

 ハクアちゃんは少し怯え気味だが、手を繋いでるからか逃げる様子はなかった。


「えへへ、全然平気だよ〜。あたしはお風呂に負けたりしないよっ!」

「んー……確かに大丈夫そうだね。さすがはアルルなのかな?」

「えへへ〜♡」

「……私も、えっと、問題ない、わ」

「ニーナ、無理しちゃダメだからね? 特にニーナは我慢するの禁止だよっ」

「──ぁ、うぅ、わかってるわ。でも本当にまだ大丈夫だから……」

「んふふ♪ じゃあもしのぼせて倒れちゃったら、また僕が面倒みちゃうからねー?」

「──っ! ……ぁ、うぅぅぅぅ…………」



 ニーナはあの時の事を思い出したのか、顔を真っ赤にすると目の下あたりまで顔を沈めてブクブクと羞恥心に悶えていた。可愛い。


 うん。この辺りでからかうのはやめておこう。ニーナは反応が良いからついついやってしまう。程々にしないと嫌われてしまうし、気をつけようっ。



「……ねねさま……」

「おわっ、と……ハクアちゃん、そんなに抱きしめなくても僕は逃げたりしないよ?」

「……うん……」



 うんと言いつつも、後ろからギュウッと抱きついて来たハクアちゃんは離れる気配がない……。

 いや、いまお互いほぼ全裸だから結構まずい体勢だと思うんだよ、これ。

 それにハクアちゃんてば、ニーナより少し背が高いくらいの割には、女の子としての差異がしっかりあるからさ。


 ……何というか物凄く恥ずかしいのっ。


 確かに、俺がこの子達に劣情や興奮を催す事は全くないし、問題はないのかもしれないけど。

 元より裸での触れ合いは苦手なのだ。

 もう恥ずかしくて死にそう……。


 なのに。

 それを知ってか知らずか──。


「あ、いいな〜。あたしもする〜〜♪」


 と、アルルも左横側からホールドアタックをして、スリスリしてくる始末。


 そして、最後の一撃とでもいうように。

 ニーナが、ススーと俺の右側に移動すると、顔を背けながらも湯の中で手をさり気なく伸ばして繋いできた。


 ……ん、ニーナはやっぱりニーナだった。

 今も茹で上がったように真っ赤だもん。ニーナは仲間だ、仲間。

 共感して癒されておこう。






「ねぇねぇハクアちゃん。あたしのことまだ怖い?」

「…………ぅ」

「そっか〜、怖がらせちゃってごめんね? でもいつかハクアちゃんがあたしを怖くなくなったらでいいの、あたしともお話ししてくれたら嬉しいな。だめ、かなぁ?」

「……」


 俺がニーナに共感して一時逃避していたら、アルルがハクアちゃんと打ち解けようと優しく話しかけていた。


 二人共、俺に抱きついてて距離はないくらいに近づいてるからね。ある意味キッカケとしては良かったのかもしれない。


 ハクアちゃんの抱きしめる力がさっきよりも少しだけ緩くなって来てるのが良い証拠だ。顔もしっかりとアルルに向いている。



「…………だぃ、……、」

「うん」


 アルルはハクアちゃんの言葉にならない小さすぎる声音も欠かさず拾おうと、優しい天使のような微笑みで急かさず静かに待っている。


「……だぃ、じょう、ぶ、……、」

「うん」

「……もう、こわく……ないから……、」

「うんっ」

「……ごめん、なさい」

「ううん、全然だよ。気にしないで♪ そっかぁ、こわくないんだ。良かった〜っ、えへへっ♪」

「……うん」


 アルルがハクアちゃんの言葉を聞くと、安心したようにふんわりと笑った。

 ハクアちゃんもつられるように少しだけ表情と雰囲気が和らいだ。


 そんな光景を見て、俺はやっぱりアルルは流石だと思わずにはいられなかった。

 まさか一日待たずしてここまで打ち解けられるとは。


「……流石アルルね。……私も少しは見習わないといけないわね」


 ニーナはアルル達を見て、なにやら決然としているみたいなので、俺は握った手をクイクイっと引いてニーナをこちらに向かせる。


「ニーナ。頑張るのは良いけど、気負いすぎないでね」

「ふふ、そうね。ありがとシャル。でも無理してる訳じゃないから大丈夫よ」

「ん、なら良かった。いらぬお節介だったみたい……」

「いえ、その気持ちだけでも……その、嬉しい、から……」

「そう?」

「え、ええ……」


 そう言い頷くとニーナは恥ずかしがりながらも微笑んでくれた。その顔を見て本当に大丈夫なんだと分かり、俺も安心して微笑み返すことが出来たのだった。



 うーん。なんかいつの間にか変な空気感になっちゃってるけど、恥ずかしさは薄れた様な気がするから良いよねっ。

 それに、みんなでお風呂に入ったおかげで、アルルとハクアちゃんが少しだけ打ち解けられたんだから、悪くはないよっ。


 そう思わないとやってられませんぜ。






 ◾︎◾︎◾︎






 真っ昼間のお風呂タイムを終えた俺たちは、着替え終わるとそのまま皆で家まで戻って、今は子供部屋で寛いでいた。


 アルルはベッドの上でハクアちゃんの尻尾を手ずからブラッシングしており。

 ハクアちゃんも俺に引っ付いたままなのは相変わらずだが、アルルのブラシを拒んだりしていない。そして、二人を微笑みながらも遠巻きに眺めるお姉さん風のニーナ。


 これは朝の緊迫した雰囲気から比べれば、驚く様な変化だと思う。

 目の回る様な関係の変化は、小さい子供ならではなのかもしれないね。



 そんな他愛ない事を思いながら、俺の思考の大半は別の事を考えていた。


 それは──ハクアちゃんの悪魔の所業から発覚したもの。

 アレによって、いま俺にとっては気軽に流せない問題が浮上しているのだ。




 ん、なんといえばいいのかなぁ。

 どうも……俺の性別って他人から見るとあやふやみたいなのです。

 今までの様に、初見で女性にしか見られてないとかそんなレベルじゃない。

 スポーンされた状態でも、だ。



『……ねねさま……女の子』

『シャルくんは男の子だよ?」

『え……え、えぇと……わ、わからないっ』


 ハクアちゃんは女の子だと言い。

 アルルは男の子だと言う。

 そして、ニーナは混乱しながら、どっちにも見えた(・・・・・・・・)と言った。


 恥ずかしくもニーナに詳しい話を聞いてみたら、赤面してアワアワしつつ彼女は答えてくれた。

 スポーンの俺は、まるで幻覚偽装をかけた時と似た感じがしたらしい。



 推察だけど、これって俺の種族が関わってたりするのかな……?

 幻魔とかいう種族が原因?


 うぅん。

 これからはもっと自分自身に関しても、探求を進めないといけないのかもしれない……。


 だって、下手をしたら……だよ?


 俺が自分で見ているこの性別も、惑わされている可能性があるって事で……。




 こっ……怖すぎるよぉっ!




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