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仲立と説得とご臨終


「──じゃあ改めて紹介するね」


 俺は身体に張りつく彼女の背を押して、向かいに並んでいるアルルとニーナに対面させる。


「この子の名前はハクアちゃん。それで、此方の銀髪の子がアルル、その隣の子がニーナだよ。お互い仲良くしてくれると嬉しいな?」

「えへへ。よろしくねハクアちゃん♪」

「え、えと……よろしく、ね?」

「……ぅぅぅぅぅぅッ」


 二人は愛想よく(若干一名怪しいけど)話しかけるも、ハクアちゃんは尻尾の毛を逆立てて威嚇してしまう。


「ハクアちゃん? そんなに警戒しなくても大丈夫だよ? 二人ともこわくないよ?」

「わぅぅっ」

「わんわんわーん。こわくないわん♪」

「アルル、それは何か違うと思うわ」


 どことなくズレている可愛いアルルは置いておいて。


 場所を移りましてリビング。

 寝室でハクアちゃんのペロリン攻勢からギリギリで救出された俺は、首筋の治療もほどほどにリビングでお互いの面通しというか、仲立ちをしている最中である。

 しかし、ご覧の通りまったく上手くいっていない。


 ちなみに『ハクア』という名前に関しては、本人に確認を取って首肯を貰ったので間違いない筈だ。



「わぅぅ……」


 ん。気がつけばハクアちゃんが俺の後ろに張り付いて隠れてきた。

 背丈の差があるから微妙に隠れきれてないけど。


 この行動からも彼女がアルル達と上手く打ち解けられてないのが分かるよね。

 んー、やっぱり簡単には警戒を解かないか。俺の時には上手くいったから大丈夫かなと思ったんだけど……。

 ハクアちゃん、あれから俺には警戒しないどころか、ひと時も離れてくれないレベルで心を許してくれているし、一度離れてもらおうとしても本気で抵抗されて無理だったくらいには懐いてもらえている。


 でも同性でもあり愛らしくもある二人の方が、普通に考えたら懐かれやすそうなのに不思議だ。

 どういう理屈なんだろう。



「……まぁ、ゆっくりと仲良くなっていけばいいんじゃないかな。これから暫くは一緒に過ごす訳だしさ」

「ええ、ええ、そうよねっ。私もそっちの方が気が楽でいいわ……」

「はぁい、わかったわんっ♪ わんわん♪」

「アルルはその口調で固定なのかな? まぁ可愛いし別にいいんだけど……うん」

「えへへ、シャルくんが可愛いって……うわぁぁい♪ えへへへ♡」

「はぁ、アルルは相変わらずよね……その明るさが素直に羨ましいわ……」


「わぅぅ……」



 と、そんな感じで、今日のところはこの辺りで切り上げることにした。

 アルル達なら遠くないうちに打ち解けられるだろうからね、焦らないでいきましょう。



 お互いの仲立ちも程々に、俺たちはダイニングへと移り少し遅めの朝食を取った。


 ご飯は全員で協力して作ったから時間もかからなかった。まぁ、ハクアちゃんはその時もずっと俺にくっついてたから、若干動きずらかったけど……。



 そして、朝食後に俺はハクアちゃんを連れて寝室に戻ってくる。

 なんのことはない。ただの経過観察。

 術後の診察だ。


「じゃあハクアちゃん、包帯とるよ?」

「……うん……」


 ベッドに腰をかけるハクアちゃんから包帯を丁寧に取って、腕や足、お腹に背中と順々に傷の状態を見ていく。


「──ん、問題ないかな。でも失った血は戻ってないから、ちゃんと安静にしててね。あと激しい運動も禁止ね?」


 ちょうどいい高さにハクアちゃんの頭があったので、ポンポンと撫でながら言い聞かす。


「……わぅ♪」


 綺麗な赤い瞳が細められてトロンとした表情になった。

 なかなか感情表現は豊かなご様子だ。



 あとハクアちゃんの傷は、ファンタジーのお薬のなせる技か一晩でほぼ癒えていた。

 深めの傷も跡は残っていないみたいで、白くて綺麗な肌をしている……って、あれ? 治療前に古傷がちらほらあった気がしたんだけど……消えてる?


 俺の気のせいだったかな。確認しとけばよかった。そんな余裕はなかったと思うし、今更なんだけど……。


「あ、ハクアちゃん、もう上着着ていいよ。ごめんね」

「……わぅ、ねねさま、ありが、と」

「う、うん……どういたしまして」


 ハクアちゃんに俺のお古の上着(母様お手製)を手渡しながらも、俺は内心で苦笑いを浮かべる。




 ……ねねさま、かぁ。



 さっきから気のせいだと思い込んで過ごしてきたけど、こう真っ向から言われてしまうと目を背けられない……。


 ねねさまって──つまりお姉ちゃん、だよね?

 いつの間にお母さんからバージョンアップしたんだろう。というか、どちらにしても女性に使う名称なんですけどっ!

 貴女も俺を女の子扱いするのですかヤダー。


「ねぇハクアちゃん。そのねねさまってどういう意味なの?」

「……わぅ? ねね、さまは……ねねさま、だよ?」

「あーうん。そうだよねー……そのままの意味だよねー。んー知ってたよーわはは……」

「……うん。ねね、さま。ハクアの理想の……ねねさま。……優しい、きれい、あった、かい♪」

「そっかそっかー……よかったねー……」

「〜〜♪」


 やけ気味に頭を撫でると、ゆらゆらとハクアちゃんの4本の尻尾が揺れる。そんな尻尾の様に俺の内心もゆらゆらです。


 ハクアちゃんが俺のどこに母性……ではなく姉性? を見出したのかは理解できないけど、どうせ指摘しても無意味なのは学んでいる。

 もしかしたら身内に姉がいて、俺に重ねているのかもしれないけど。詳しくは聞かないよ。

 ハクアちゃんとはこの問題が解決した後に別れる予定だし、内情に深く立ち入るのは控えている。


 俺が真に気にするべきは、彼女の枷を完全に外してあげる事。

 故郷へと安全確実に帰してあげる事だ。


 勝手な同情で手を差し伸ばした手前、最低限の責任は取らないと。

 そうっ。その為なら不名誉な呼び名くらいは甘んじて受け入れてやるですよ。

 ぐすん……。




「──あら。もう終わってるみたいね。ちょうど良かったわ」

「……ん、ニーナ?」


 ハクアちゃんをなでなでして黄昏(たそがれ)てたら、いつの間にかニーナが部屋にきていた。

 俺たちはニーナの方に視線を向ける。ハクアちゃんはまだ警戒気味だね。


「ちょうど?」

「ええ、怪我の確認は済んだのでしょう? お風呂の用意しといたから、いつでも入れるわよ」

「え、ほんとっ? やった! ニーナ、ありがとっ♪」

「ふぇ!?」


 嬉しい報告に思わずニーナを抱きしめてしまった。テンション下がり気味だったから嬉しさもひとしおなのだ。


「ちょ、ちょっとっ!? そこまで喜ぶ様なことなのっ!?」

「うんっ、喜ぶ様なことなの! わざわざありがとねニーナっ♪」

「いや、えっと、ほ、他にやることもなかったしアルルも一緒だったしっ、それにシャルは昨日入れなかったから入りたいんじゃないかなって思っただけよっ。別に感謝されるほどのことじゃないわっ……」 

「んっ、そんな優しくて思いやりのあるニーナも大好きっ♪」

「だ、だだだい!?」


 満面の笑みを作り感謝を告げると、恥ずかしさからか真っ赤に染まるニーナ。相変わらず可愛らしい反応です。

 うちの家族での最上級の愛情表現はまだ早かったかな?

 ニーナなら大丈夫だよね。



「……わうぅぅっ、ねね、さまぁ……」

「うわっと、と。……ハクアちゃん?」

「……ぅぅ」


 突然後ろ側から衝撃がきたかと思えば、ハクアちゃんに縋りつかれてしまった。

 いや彼女、俺が少しでも離れようとすると、こうしてすっ飛んでくるからね……。

 今朝から何度も見た光景だ。

 それだけ不安定って事なんだけど。



「そうだ。先にハクアちゃんお風呂入らない?」

「……お風、呂?」

「ん、昨日アルルが少し拭いたとはいえ、やっぱり気になるでしょ? 幸い傷は塞がってるから、普通に入るぶんには問題ないよ」


 というか、俺よりもハクアちゃんの方がお風呂入りたいんじゃない?

 どういう訳かハクアちゃんって匂いが全くしないから忘れそうになるけど、よく見ると、髪とかが血や土埃で汚れちゃってるからね。お風呂に入ってスッキリしたいだろう。


 ついでにアルルとニーナにでも付き添ってもらって、仲良くなるきっかけ作りをするのも良いね。

 いわゆる一つの『裸の付き合い』だ。



 そう思ってハクアちゃんに提案するが。


「……やっ。ねねさまと、一緒っ……」

「えー、即答ー?」


 アルルたちと入ってきたら? って言ったら反射的に答えましたよ、この幼女。


「ほら、そんなこと言わないでさ? それにハクアちゃんは勘違いしてるけど、僕は男だから元より一緒には入れないんだよ?」

「……やっ! ねねさまは、おんな……だから、平気っ」

「いやいや、どこも平気じゃないからねっ。勝手に女の子にしないでよぉ」


「なんというか、懐かしい会話ね……」


 うん、ニーナの時もやったもんね。

 でもハクアちゃんはニーナの時と違って、納得してくれない様子です。


「ううん。ねねさま……匂いもおんな……身体も、おんな。……だから、大丈夫っ」

「ちょーっ! どこも大丈夫じゃな〜〜いっ。僕がいつハクアちゃんに身体を(さら)したというのさっ。そんな変態さんじゃないよ僕っ」

「えぇと、もう諦めて一緒に入ってきたら? お姉ちゃんとして面倒見てあげたら良いじゃない」

「むぅぅ……でもぉ……」


 ニーナが苦笑いで妥協を促してくるが、俺は素直に頷けなかった。

 不名誉なあだ名は許せるが、性別を自ら女と許容する事はできないのですっ!


 もう自分自身の性別証明って難しい。

 普通なら一目でわかるだろう問題だから余計に。

 もういっそ脱いで証明してやろうかねぇ、まったくぅ。




 ──なんてやりもしない事を考えてしまった罰があたったのか。

 次の瞬間、ハクアちゃんがとんでない行動に出た。


 トテトテと俺の前に回り込んでしゃがみ。


 両手を伸ばすと──












 ──スッポーン。








「……ほら……ねねさま、おんなのこ」



 そう満足げな顔のハクアちゃんを前に、



「〜〜〜キュゥゥゥゥゥゥッッッ!!!?」



 自分でもよくわからない悲鳴が飛び出し、



「──ぇ? ぇ!?、……ぇえっ!!?」



 目の前では赤面のニーナが目を点にした後ボフンっと思考停止をし、



 そして……



「シャルく〜ん、あたしも一緒にお風呂はいりたいなぁ〜♪  ……あれ?」


 ガチャっと天使がご降臨し、

 僕は羞恥でパタっとご臨終した。




 ──ズボン下ろし。


 まさに悪魔の所業だ。



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