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NextStage→プロローグ

 新人冒険者アルリエル、階梯昇級(ランクアップ)

 その報せは候都内に瞬く間に伝わった。

 人々の話題をさらうのは必然だった。


 冒険者に登録してから、およそ一月程での超高速ランクアップに始まり。

『F』から『C』という異例の飛び級。

 7歳という年齢と並外れた実力、幼いながらに整った容姿など、話題性には事欠かない。

 候都に襲いかかろうとしていた魔物の大群を一人で蹴散らしたという功績も大きい。

 ランクも新人故に『C』止まりだが、実際Cランクの魔物を一人で討伐できているので、実質『B』ランク級の腕前だ。


 そんな、話のネタにしやすい彼女である。



 結果。



 候都ファナールでは、冒険者アルリエルの名が広く轟くことになった。

 過去の英雄の再来だという声も多く上がっている程に。

 そして、この報せは勢いを落とさず、遠からず近隣諸国にも伝わっていくであろう。

 素敵な脚色が多分に追加されて……。



 しかしながら、候都内が彼女の話題で大盛り上がりしている中、当の本人はといえば……相も変わらずであった。



「シャ〜ルく〜ん、おっはよ〜うっ!」

「んぅぅ、苦しぃ。アルル、取り敢えず……僕の上から、退いてぇ……」

「シャルくん、シャルくーん♡ 寒いの〜、ギュってして? 暖めて?」

「わかった、わかったからおりて……」

「えへへ〜♪ わかった〜」



 街の人々の噂話には微塵も興味を示さず、わざわざ彼女を一目見ようと、蓮華亭の店前にまで集まった野次馬にも、見向きしない。


 彼女は普段通りに、同居人であり家族でもある大好きな少年に抱きついて、楽しそうに幸せそうに戯れていた。



 季節は清々しい秋日和。

 新米の子供冒険者は今日も平常運転。





 ◾︎◾︎◾︎





 シャルの前世。

 地球にはこの様な言葉がある。


『人が旅をする目的は到着ではない。旅をすることそのものが旅なのだ』


 旅において目的地に着くことより、旅路を決めたその瞬間から、到着に至るまでの過程にこそ価値がある──という、昔々の劇作家の言葉だ。


 この言葉の他にも『旅』というものに関する格言やら名言は、地球という世界では数えだしたらそれはもうキリがない。

 しかし、総じて旅をすると得られるものが沢山ありますよ、といった推奨的な内容のものが多いのも確かである。


 そんな先人の言葉が溢れる世界で生きてきたシャル。彼が旅に浪漫を感じる様になったとしても、それは仕方がない事なのかもしれない。

 加えて、ファンタジー中毒が極まっているシャルである。



 ──リアルファンタジー世界を旅をするのは、漢の定めにして夢っ。浪漫なのです!



 彼がこんな思考を形成してしまったのは、なにも異世界に生まれ変わったからという理由だけではなかったのだ……。



 それを鑑みて、この世界。

 冒険者という職業がある。

 その名称とは打って変わって、実情は冒険をしない冒険者が大多数なのだが。


 文字通りに冒険の旅行をする変わり者もいるのである。

 彼らは多くの同業者に、なぜ危険に溢れる世界をわざわざ巡りたがるのか? と奇異の目を向けられる。

 対して彼らは澄まし顔だ。

 旅を通して得られる恩恵を理解できなければ、言っても無駄だという態度でサラリと流す。


 この世界においての旅とは、死地を命からがら潜り抜けて、目的地に到達するという危険と隣り合わせの行為だ。

 魔物や賊は当然、気候や地形、偶発的な事故と数え出せばキリがないほど危険に溢れている。

 誰が好き好んで旅などするものか、というのが総意だろう。


 そもそもこの冒険者とは、危険に立ち向かう勇気ある者を指しているのであって、危険な事をしたい者を指す訳ではない。

 危険を望むなど理解不能と言われて当然だ。

 旅という危険を進んでしたければ隊商(キャラバン)にでも混ざれば良いのだ。

 まぁ、隊商の人達からすれば迷惑でしかないだろうが……。


 しかし、そんなクレイジーな冒険者であり変態な彼らこそが、真の冒険者だろうとシャルは思っている。



 その気持ちは今も変わらない。



 ただ、シャルは自身が旅をするにあたってその己の考えを少しだけ改める事にした。


 というのも……


「それじゃあ。第一回! 僕たちが目指すべき目的地についての会議を始めるよー」

「は〜い!」

「…え、ええ」


 口火を切ったシャルに対し、ノリノリなアルルと平坦なニーナの声音が追従した。

 若干ニーナがツッコミたくてウズウズしているが、なんとか耐えているようだ。




 目的地なんてどうでもいい。

 なんて言ったものの、旅人の全てが同じとは限らない。当たり前である。


 旅とは所用のために居所を離れる事でもあるのだ。目的地で目的を果たしてそれでお終いというのが常道と答える人も多いだろう。


 もしかしたら、旅を旅する旅人の方が粋狂者なのかもしれない。


 こう思い至ったのはアルルの旅の目的を聞いてからだ。

 彼女は自らの生みの親を探すために旅を(まだ本格的にではないが)している。


 候都ファナールに来てからも、時間があれば情報の収集をしていたアルルを思い出す。

 そこから目的意識の高さも窺えた。


 そんなアルルの目的ある旅に、同行を申し込んだ手前、好き勝手に行動方針を決めるのはとても宜しくない。

 アルルの目的を達成するためには、明確な指針と目指すべき到着地点を決めるが吉だろう。

 シャルはいつしかそういう結論に達したようで、本日、このお話会を開催する運びとなったのである。



 場所は若女将コレットが経営する蓮華亭。

 二階にあるシャルとアルルの愛……いや、相部屋だ。関係ないが、何故かベッドが一つの一人部屋でもある。

 シャルとアルルは、そんな唯一のベット縁に、ちょこんと並んで座っている。

 二人の対面には、一つの椅子に礼儀正しく座るニーナがいる。


 三人とも普段の戦闘着とは打って変わり、ラフな部屋着姿であった。

 ニーナなんかは、普段から隠しているその耳すらも普通に晒している。

 どうやら、この二人の前では素の姿も見せられるようになっているらしい。



「……えぇと、まず前提を言わせてもらっていいかしら?」

「ん、いいよー」

「ニーナちゃんどうぞ〜」

「あ、うん、ぇえと、アルルの目的って一種の人探しよね? それだと一箇所の目的地を決めるのって難しいと思うわ。となると、やっぱり大きな街を一つずつ巡っていって聞き込みっていうのが良いかも、時間は当然かかるけど」



 新たな旅の同行者となったニーナは、シャルとアルルの軽〜い前振りを受けながら、たどたどしくも真面目に答える。


 やはり話すのは苦手なようで少々あわあわしているが、その声音は初めてシャル達が出会った時より大分柔らかくなっている。



「んぅ、普通に考えたらやっぱりそうするしかないよねぇ。……アルル、この街での収穫はあった?」

「ううん、まったくなの!」


 キッパリはっきりアッサリと言うアルル。

 何故かキリッとドヤ顔だった。

 シャルはその勢いに苦笑い。


「やっぱり、そう簡単にはいかないよね。これは地道に行くしかないかな」



 アルルの目的を知った彼らが悩むのもわからなくもない。

 広大な世界からある特定の人を探し出すのは、砂漠から一粒の砂金を探し出すようなものだ。その達成は非常に困難を極める。



「あぁ、そういえば前から気になっていたんだけど、アルルはどうやって情報を集めてるの? というより、なにを聞いて情報を集めてるの?」


 シャルがふとした疑問を、左隣でニッコニッコと笑みを浮かべるアルルに投げかける。

 容姿や特徴の情報を知っておけば、聞き込みの際にシャルたち二人も協力出来るだろうとの判断からだ。



「ん〜? 普通にママの格好を聞いて回ってるだけだよ〜」

「……へ? 格好っていうけど、アルルって生まれて直ぐの頃からミーレスさんの所で育ったんじゃなかったっけ?」

「そうだよ〜、ミーレス先生がいうには、生まれてから半年も経ってなかったって言ってたかな?」

「……へ、へぇ」


 シャルとニーナの視線が自然とぶつかる。

 互いに言いようのない表情だ。

 それもその筈。生まれて直ぐに別れたとするなら、一体どうして生みの親の姿が分かるというのだろう。



「ねぇ、ニーナ。ニーナって生まれてすぐの頃の記憶ってある?」

「なにを言ってるの、ある訳ないわ。両親どころか自分の素性すら覚えてないのよ私」

「んぁぁっ、え、えっと、ごめんなさいッ」

「ふふ、別に気にしなくても良いわよ。私自身あまり気にしてないもの。むしろ気を使われるとこっちが困るわ?」


 失礼な質問をしてしまったと気づいたシャルは慌てて謝るが、そんなシャルにニーナは小さく悪戯っぽく微笑んであっさり許した。


「う、うん、ありがと……」




 実は先月、三人で近隣の森から仲良く手をつないで帰った際に、シャルたちはニーナから種族を含めて過去の話も色々と聞いていたのだ。


 ニーナには過去の記憶がない。

 所謂、記憶喪失というものだ。


 各地を巡って旅をしていた年月はシャルたちの年齢と同じ程度なので、見た目とは裏腹にコレットとは同世代の十四歳前後。これも推定である。

 ニーナの種族である森賢種(エルフ)は、人族(ひとぞく)とは成長の仕方が少し異なるらしく、年月で身体の変化が余り起きない。


 本人曰く、

森賢種(エルフ)は精神に感応して成長するの。そして一度成長したら寿命を迎えるまで老いることはないし、能力を一番発揮できる姿のままなのよ』──との事だ。


 他にも、ニーナの師匠である人物が、実はシャルたちの探していたプルトーネだと知ったり、そのプルトーネの姉が、シャルの師匠であるユミルネだったりと、重大な事実を次々と知り、シャルは暫く(ほう)けていたりした。


 特に、プルトーネの事が気になったシャルがユミルネに色々聞いたことが原因で、ユミルネの機嫌が悪くなってしまい、代償として、シャルが一日中抱き枕にされてしまう珍事が起こったりもした。




 とはいえ。

 複雑な身の上のニーナだ、生まれて直ぐの記憶を持っていないのは当たり前であった。


 かくいうシャルだって、生まれ変わる前の記憶を手繰っても、生まれて半年の記憶などない。

 シャルラハートとしてなら、生まれてからほぼ全ての記憶はあるが、それは変則的に過ぎる。

 普通なら良くてエピソード記憶の一つぐらいを微かに覚えている程度であろう。



(でも、アルルだからね。そのまんまの意味なんだろうけど……)

 などと、呑気に考えながら当の本人に確認をとる。


「アルルは生まれたばかりの頃の記憶も、しっかり覚えてたりする?」

「うん! 覚えてるよ〜。だからママのお顔もばっちり分かるよ!」


 アルルはシャルの左肩に寄り添いながら自信満々の表情。シャルも予想通りなので別段驚かない。付き合いの浅いニーナでさえ──


「あのアルルだものね。もう驚かないわ」


 ──と、苦笑いで許容できているのだから。


「でも良いことを聞いたよ。どんな姿でどんな顔の人なのか分かるなら、聞き込みの効果も見込めるし、僕たちも手伝いやすくなるからね」

「ええそうね。運良くアルルが覚えてくれたことに感謝しないといけないわね」

「ふふ、これは偶然というより必然に近いんじゃないかな……なんて」


「……え? それって、どういう……」


 シャルの妙な言い回しに疑問を浮かべて小首を傾げるニーナ。

 そんなニーナをシャルは一瞥し、アルルに視線を投げると待ち構えるように目が合った。そしてアルルはコクリと笑顔で頷いた。



「ん、簡単に言えば、アルルは一度見たものを完璧に記憶出来るんだよ。流石に僕も生まれたばかりの記憶まであるとは思わなくて少し驚いたけどね」

「おかげでママも覚えていられたの、えへへ〜」


 陽気に話す二人を他所に、ニーナの苦笑いは引きつった。その姿からは……


「どうりで。あんなに沢山依頼を受けてた割に、アルルってば依頼書の確認なんてしないし、でも内容の混在が全く起こらなかったから変だと思ってたのよ。はぁ、そういうことだったのね……」


 諦念に似た雰囲気が醸し出されていた。



「さて、話が逸れちゃったけど、アルルが母親を覚えていたのは紛れもなく幸運だった。そこでなんだけど、アルル。話せる所だけで良いから僕たちにも、手がかりになりそうな事を教えてもらえないかな?」



 繊細な問題である為、恐る恐るシャルは尋ねたが、アルルは勿論と大きく頷いた。


「うん良いよ! えぇとね、まずはママの格好は……」



 服装は、普段から厚着で仕立ての良いものが多かった。装飾品はハートに似た形のペンダントを常に付けていた。


 容姿は、アルルと同じで綺麗な白銀色。

 光の加減で青っぽく光るのも親子共通。

 髪型は、やはり今のアルルと同じで膝裏辺りまである超ロングヘア。

 これは様々な理由でアルルが敢えて似せているらしい。


 種族は人族人種で、目はやや垂れ目気味で優しい雰囲気。肌は真白で、身長は平均より小柄で、シャルの母であるプリムよりやや高い程度。


 特徴的な所だと、左手の甲に偶にだが花とハートの合わさった様な紋章が浮かび上がる。そして腰には十字の紋章が彫られた銀装飾の施してある直剣を下げている。


 声は流石に思い出せないが、唄が上手かったような気がする。母親がなんと呼ばれていたのかは思い出せない。


 風景で情報になりそうなものは、抱き上げられた際に窓から見えた景色だけ。

 一面に広がる銀世界──視界いっぱいに雪の降り積もった光景。


 そして最後の記憶は。

 いつも通りに母親が子守唄を唄い、アルルを寝かしつけて頭を撫でていた情景。


 次に目が覚めた時にはずっと真っ暗で、やっと視界が開けたと思えば見知らぬ女性がアルルを抱きかかえており、また直ぐに暗くなる。

 そして、気づけば孤児院に来ていた。

 そこで、アルルの言葉は尽きた。



「ありがとう、アルル」

「ううん、だいじょぶなの…………んふぅ」


 シャルは話し終えたアルルの頭をそっと右手で撫でる。シャルと出会ってから、滅多な事では泣かなくなったアルル。

 今も普段通りに平静だ。しかし家族大好きなシャルが寂しがっている妹を放置する筈もない。


 自然な手付きで自分の胸元にアルルを抱き込むと、悲しみの分を埋めるように盛大に甘やかし始めた。

 アルルの方も、抱きしめられると箍が外れたように甘えだした。もうシャルの胸元が抉れるんじゃないかってくらいの勢いでスリスリしている。


 そんなアルルにニーナは何も言わず、シャルは変わらず和かに笑って抱きしめ、あやし続けた。

 気づけばニーナもアルルの脇に移動しており、頭部を優しい手つきで撫で始めている、その左手を不器用な手付きながらもしっかりと握って。


 そうして突如始まったのは、ふわふわでポカポカなアルル甘やかしタイムだった。




(……ふむ、アルルの話には母親以外の人が全く出てこなかった。近所の住人はともかく、父親が出て来ないとなると、ねぇ……)


 静かにアルルが両親ではなく母親を探していた理由を察すると、シャルは思考を断ち切って更に強く彼女を抱きしめる。



 話し合いは一度中断とし、甘やかしタイムをしばらく続行、ついでに昼食を跨いでからお真面目(?)会議は再会する事となった。





 ◾︎◾︎◾︎





 世界は大きく分けて七つの大陸に分かれている。


 人族が住み統治する『アリスィア大陸』

 闘人族が住む『ソノールス大陸』

 魔人族が蔓延る『クラビリス大陸』

 妖人族が居る『エリモス大陸』


 冒険者ギルド総本部がある世界の中心、

『ボナ・ケントルム』


 竜が住まう完全未開地『エオニオ』

 北方、孤立した極寒地『パナキア大陸』


 後は小国の集まりや半島・諸島群などが数多存在する。


 アリスィア大陸には、世界最長の未開領域である大山脈が大陸の中央に『人』字に跨って存在していて、人族も三つの地域にそれぞれ住み分かれている


 下にあたる、南の『プロトス地方』

 左にあたる、西の『ゼフテロス地方』

 右にあたる、東の『トゥリトス地方』


 そして地理的に言うと、プロトス地方の南東にはソノールス大陸、南西にはエリモス大陸がそれぞれ陸で繋がっていて、アリスィア大陸の更に北には、海を跨いで極寒地パナキア大陸がある。

 トゥリトス地方の最端から東には海を跨いでボナ・ケントルムがあり。

 その先には、また海を跨いでクラビリス大陸、その上にエオニオがあるという位置付けだ。


 シャルたちがいる候都ファナールは、プロトス地方であり、人族大陸最大にして大陸の覇権を握る『ウィリディスクラブ王国』が治める地である。その支配領域はなんとプロトス地方全域というのだから驚きである。

 その中でもファナールは比較的南の方なので、最も近い大陸はソノールス大陸となる。






「……ぇと、この候都ファナールはかなり南の方だから、一番近い大陸はソノールス大陸になるわね、大体ファナールはこの辺よ」



 ニーナがさささ〜っと手書きで書き上げた簡易版世界地図を元に説明を終える。


「ここの辺りが、ファナール……っと、よし! 出来たっ!」


 その説明を聞きつつシャルはペンを黒墨に浸し、すかさず地名を書き込んでいき、最後に候都ファナールの大体の位置を、小さく丸で囲って完成となった。




 昼食を済ましてから、さぁ会議会議〜っとコレットからの戯れを巧みにいなして部屋に戻り、いざ最初の目的地を決めようとしたところ……。

 実はシャルとアルルの二人が、王国以外の地理をあまり把握していない事が分かった。

 その為、『僕たち旅するんだ〜』とか言いつつ駄目駄目な二人にジト目を全開にして、ニーナがため息ながらの講義をまず開く事となった訳だ。


 そして、完成した地図を覗き込むため、それぞれが机の周りに集まると、やっと本題である目的地決めの会議が始まった。




「アルルの話を聞くと、故郷には雪が降ってたみたいだし、安直だけど北のパナキア大陸を目指してみるのはどう?」

「パナキア大陸の他にも寒季なら雪が降る場所は沢山あると思うわよ? ゼフテロス地方やトゥリトス地方も選択としてはありじゃないかしら」

「えっと〜、いっぱい人が集まる王都とか、ギルドの総本部があるボナ・ケントルムはどうかなぁ。情報集まるかも?」


 各自、思考を働かせて提案をして、せっせとその案をシャルが魔術師の仕事柄所持している羊皮紙に似た紙に書き込んでいく。

 これだけ見れば、何気にお真面目会議っぽく見えるのだから不思議である。



「んー、他にはアルルのお母さんは人族って事だから、闘人族や魔人族、妖人族が多くいるっていう、この三つの大陸は後回しでも良いかもね」

「ええ、確かにそうね、私が旅をしてきたのはソノールス大陸だったけれど、人族は殆ど見かけなかったわ。それに、そういう視点で考えると、完全未開地のエオニオは後回しでも大丈夫かしら」

「じゃあ〜残ったのは、アリスィア大陸と、パナキア大陸と〜、ボナ・ケントルムだねぇ。えへへ、結局この三つが残ったねっ♪」


「うん、この三つだと大山脈の都合上、プロトス地方、トゥリトス地方、ボナ・ケントルムまで行って、パナキア大陸、ゼフテロス地方……って順にして巡っていった方が良いかな?」

「そうね。それとあまり期待は出来ないけれど、冒険者ギルドがある街で、捜索の依頼を出していけば協力者も出来るかも知れないわ、特にボナ・ケントルムには各地から色々な種族が集まるから、他の大陸の話も聞けると思うし」

「うぅんと、ならボナ・ケントルムに着いたらしばらくは留まるって事でいい〜?」

「ん、そうだね。僕はそれで良いと思うよ。ニーナが言ってた冒険者ギルドに捜索依頼を出すのも賛成かな。じゃあ、第一目的地はボナ・ケントルムで決まりっと」

「ふふっ、わかったわっ」

「は〜〜い!」



 そんな感じで、三人が異様な話し合いをしばらく続けていった結果、大まかな方針と目的地が決まったのだった。


 しかし、続いての議題第2弾『いつ頃に出発するかぃ?』という話になると、途端にシャルの声音が平坦、というか棒読みになり、から笑いすら浮かべる状態になった。アルルもこれに釣られる形で苦笑い。



「えーっとですね、ニーナさん。実はその辺りは僕たちだけだと決めかねると言いますかぁ、キチンと話を通す必要があると言いますかぁ……」

「はぁ……つまり、どういうこと?」

「それはね、ニーナちゃん!」


 シャルに変わってアルルが端的にかつ分かりやすく説明をする。


 シャル。両親、子煩悩。

 長旅。説得必要。


 単語だけで言うとこんな感じである。

 それを聞いたニーナは……


「そういう事は最初に言いなさいよ!」

「あぁぅ。ごめんなさいです」

「はぁ、家族を心配させるなんて駄目じゃない、ちゃんと話し合わないと」

「ん、そうだよね。わかった、実はもうそろそろウィーティスに戻ろうってアルルと話してたんだ、よければニーナを母様たちに紹介したいから付いて来てくれると嬉しいんだけど」

「あたしも、ニーナちゃん紹介したいなぁ〜、えへへへ!」

「へ? しょ、紹介!? ぁ、ぇ、えぇ、まぁ良いわ、わざわざこの街で待ってる意味もないものね、……同行させてもらうわ」



 何故だかシャルの紹介のくだりで、ニーナの声が裏返ったりもしたが、無事、ニーナがウィーティスまで付いていく事になった。



「じゃあ、ウィーティス出発は十日後。それまでに各自で荷物の準備と挨拶回り、諸用とかを片付ける様にしようか」

「わかったわ、寒季になってからだと移動も大変だものね、用意しておくわ」

「えへへ、任せて!」


 ニーナもアルルも了承し、これにて一応話し合いはお開きとなった。

 最後にシャルは、これからの予定を紙に書き込んで、筆を置いた。



①ウィーティスに戻って成果報告、並びに、紹介と説得。

②説得が出来たら、時期を決めてからプロトス地方を北上、トゥリトス地方からボナ・ケントルムまで情報を集めつつ向かう。ついでに道中の冒険者ギルドで依頼を出す。

③ボナ・ケントルム到着後は、しばらく情報収集を行う。

④パナキア大陸に向かい、そこも空振りなら、南下しゼフテロス地方へ向かう。


 ──以上。




(とはいえ、まずは母様に許可を頂かないとだよね。…うーん、大丈夫かなぁ。左腕の件もあるから厳しいかなぁ。なんて言えば良いんだろ、本気泣きとかされたら……あぁ〜ぁぅ)


 シャルは肘から先が失われた左腕を一瞥し、密かにそして盛大に焦りだす。


(それに何か大切な事を忘れているような。そう、放置してしまえば命に関わるような重要な事があった気が…………あ)



 気づく。そういえば母親の前にもう一人説得しなければいけない人がいるのだ。


 それは、事と次第によっては自宅に生きて帰れないかもしれない程のもの。



(こ、これは覚悟を決めないと……っ)


 シャルが意思を固める。

 その姿は、死地に赴く歴戦の強者の顔……に見えなくもない。多分、恐らく。


 アルルとニーナは、急にキリッとした面持ちになったシャルを不思議がり、小首を傾げていた。




2015/10/09-誤字修正

2017/05/25-地の文言い回し修正


※簡易地図をギャラリーに載せておりますので、地形がよくわからない場合はご覧下さいませ。

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