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日常と両親


 この世界で意識を取り戻して約二年ほど。

 俺は無事に三歳になりました。


 今日まで情報収集やお勉強を優先してきたのもあって、知識もだいぶ増えてきた。

 驚くような面白い発見もいっぱいあるし、毎日が楽しくてしょうがない。



「ふふ、はぁいシャルちゃ〜ん? 今日はどの御本を読みたいですか〜?」


 まず、この『シャル』というのが今生での俺の名前……というか愛称、かな?

 フルネームは『シャルラハート』という。

 この名前を初めて聞いた時は、


『いやいや母様、なんだかそれ女の子っぽい名前じゃないですか?』


 ──とか思ったけれど、納得するしかない。

 親の名付けに子は逆らえない定めなのです。

 シャルラハートのシャル。うん、なんとなく女の子っぽいけど無難無難。全然ありだと思います。



 そして、いま俺の前には様々な絵本を手にもって、満面の笑みで話しかけてくるひとりの女性。

 このお方が、俺ことシャルラハートのお母様である。


 見た目の年齢が前世でいう中高生ほど、十代半ばくらいとあり得ないほどの若作り。


 薄桜色の綺麗な髪はお尻の辺りまで伸ばしており、後ろで軽く纏めておさげにしている。

 肌は透き通るような白磁。顔立ちは可愛らしく、背は低めだけどスタイルも抜群。桃色の瞳も、身にまとうその雰囲気によくマッチしている。


 なにより目を惹くのは……


 翼! 尻尾! お耳ですっ!


 腰からは蝙蝠のような美しい一対の黒翼。

 尾骶骨のあたりからは、小悪魔を連想させるような逆ハート型の尻尾がヒョッコリと生えている。

 お耳は創作でよく見るエルフほど長くはないものの、スッと尖っている。


 どうですかっ、どうですかっ!

 もうすっごいカッコいいよねっ!


 こちら自慢の母様は、フルネームで『プリムハート』といい、略して『プリム』の愛称で呼ばれているお方。そして、俺が求めていたファンタジーというものを体現したお方でもあるのだ!


 もう素晴らしすぎて頭が上がらないよね。

 このお家へ生まれてこられて本当に良かったもの。毎日感謝しきりだよ。



「かぁしゃま、こりぇ……」

「はぁい、これですねぇ? ふふ、シャルちゃんは本当に御本が好きよね〜♪」

「……ん」


 母様は微笑みを浮かべてそう言うと、俺を抱きあげて膝に乗せ、本の読み聞かせを嬉々として始めてくれる。


 この二年ちょっとで言葉もしっかりと覚えたので、本の内容はバッチリ理解できる。

 文字の読み書きだって、現在進行で母様が教えてくれているので、習熟度はかなりのもの。

 毎日、文字を指差しつつ反応を返すように振舞っていた甲斐がありました。


 ただ、喋る時に舌っ足らずになってしまうのは仕方がない。幼児を舐めてはいけない。

 自分自身でもあざとく感じるけど、舌が上手く回らないし、呂律の直しようがないんだもん。

 早口言葉なんて夢のまた夢な状態ですぜ……。




 ちなみに、この素敵なファンタジー世界における我が自宅は、なんとも味わい深い煉瓦造りの平屋だ。

 大きな暖炉付きのリビングや、ダイニングキッチン、両親の部屋に子供部屋などもある広めのおウチ。

 そんな貧乏か裕福かわからない不思議なおウチに、母様と父様、俺の三人で愉快に生活している。


 まぁ、家の内装や調度品などは高価っぽいし、安くはない筈の書籍類を、惜しげもなく買い漁っては読んでくれているので、実際の金銭事情はよく分かってないんだけどね……。



 そんな事を頭の片隅で考えていると。

 奥の部屋の扉、玄関口が開く音が聞こえたかと思えば、物すごい速さで足音が近づいてきた。



「うぉおぉぉおおぉぉぉ! いま帰ったぞぉぉぉ! シャルぅぅうぅ! プリムぅうぅぅぅぅっ!」

「んゅ」

「──きゃっ!?」


 子供部屋の扉が勢いよく開き、一人の青年が俺と母様をまとめて抱きしめてきた。

 勢いよく抱えられたせいで変な声が出てしまった。


「あぁ〜、俺はここに帰るため日々を生きているといっても過言ではない! はぁぁぁ、シャルとプリムは今日も超絶可愛い、可愛いすぎるぞぉおぉおぉぉ……──ぶべぇらぶぉ!?」


 舞い上がり気味で暴走していた青年を、母様はその素敵な尻尾で──ぶん殴った。

 青年は壁際まで錐揉みしながら吹き飛んでいって、本棚の角に頭をぶつけてグシャリと地に落ちる。


 あらら、痛そう……。



「ねぇ、エド〜? いつも言ってるわよね〜? 帰ってくるなり抱きつかないでって。それに今はシャルちゃんと御本を呼んでいるんですから、貴方は邪魔をしないで下さいね〜♪」

「……は、はぃ」


 ものすごい素敵な笑顔でニッコリと告げる母様に、青年はくぐもった声ながら返事をした。


 こういうやり取りはウチではよく見る風景。

 俺も既に慣れたものだ。



「……ふぅ、痛たた……」


 床に這いつくばっていた青年は、ゆったりと立ち上がるとこちらに歩いてくる。



 ん、お察しの通りこの方が今世での父様である。

 フルネームは『エドラルド』。

 略して『エド』と母様に呼ばれている。


 短めの銀髪に透き通った碧眼。

 童顔な顔立ちながら、スッと引き締まった肉体。

 あとは基本的に毎日、軽装防具に大振りの直剣を携えている。


 この中性的で、こちらも十代半ばにしか見えない好青年のイケメン王子さんが、我が父である。

 夫婦揃って美形とはなんともお似合いですね。


 母様もそうだが、うちの両親は若すぎるって。

 前世だと晩婚に少子化、超高齢化が進んでいたから、違和感が凄いのだけど。

 もしかしたら、前世の俺より若いんじゃない?

 この世界の成人が何歳か知らないけど、おそらく低いだろうし……。


 まぁ、気にし過ぎなくてもいいのかな。その辺りもいずれは慣れると思うからね。







 結局、読み聞かせは父様の乱入で途絶えてしまった。……だが、良くも悪くも一区切りがついた。


 ということで。

 このまま恒例の日課、家族みんなで夕飯の買い出しへ行くことになった。


 外出するとなれば、俺は外行き用の服に着替えさせられる。それが定められた俺のルーティン。


 さっそくとばかりに、装飾の施された綺麗な姿鏡の前に立たされる俺。

 そこには、ここ二年近く成長を見続けてきた自身の姿が映っていた。



「……んむぅ」



 肩口で切り揃えられた艶やかな黒色の髪。

 愛嬌たっぷりな深緋色の赤い瞳。

 鼻筋はすっと通り、唇は小さく可憐。

 新雪のような肌の白さは、髪の黒と絶妙なコントラストを醸し出している。

 表情変化はかなり控えめだけど、それは前世もそうだったし気にしない。

 これでも前世に比べればマシになっているのだ。


 あとは、母様からの遺伝でお尻近くからひょこっとキュートな尻尾が生えていて、耳も母様には及ばないが少しだけ尖っている。

 翼に関しては、誠に残念ながら生えていなかった……クソゥ。


 あ、でも、尻尾があるのは母様のおかげですね!

 ホントにありがとうございます大好きです母様っ!

 でも悲しいかな。父様からの遺伝は特になかったのです……。無理にあげるとすれば、左首筋に父様と同じ菱型の痣が偶然あるくらいかな?


 というか、遺伝云々が地球と同じかも怪しいからね。黒髪赤目って両親どっちとも一致してないし。

 そう考えれば悲しさも薄れるというものだ。


 体型は比較対象がいないから分からないけど、おそらく一般平均よりはかなり小柄だろうと思う。



 そんな感じのシャルラハート、三歳。


 フリフリのドレスでも着せて、ティアラでも被せれば、一声で国を動かせるんじゃないかってくらいの美幼女お姫ちゃんが出来上がることでしょうね?



 わぉ!




「…………」



 ……フフフ。なんなんでしょうね、コレは。

 当初この姿を見た時に、シャルラハートという名前も相まって、


『んん〜? もしかして性別かわった? なにこの愛らしい幼女さまっ!』


 と、割と本気で焦って、すぐさま事実確認をおこなったくらいですし。

 結果をいえば、ちゃんと男の子だったから安心したけれど。パッと見ではまず男に見えない。

 下手しなくても女の子でございます。


 この姿に色々思うところはあるけど、今はまだ幼児だからね。きちんと成長すれば、ちゃんと男っぽくもなるだろうし大丈夫だろう。



「シャルちゃーん。はぁい、お着替えしますよ〜?」


 そんな事を考えていると、母様が服の厳選を終えたようで、軽い足取りで戻ってきた。


 選ばれた服は、黒色が主体で所々に赤色の刺繍があしらわれているユニセックスなものでした。

 この世界にもユニセックスの概念ってあるのかなぁ? と思わなくもないが、無理やり飲み込み、手伝って貰いながら服を着ていった。


 着替え終わった姿は、やっぱり女の子でございました……。

 もっと男らしい服着せてくれてもいいんだよ?

 ほ、ほら、フンドシとかさ……。




 ◾︎◾︎◾︎




 右手を母様に、左手を父様に握られながら、みょーんみょーんと上に引っ張られブランコしつつ、町の商路を目指して林道を歩く。

 いま向かっている町は、『ゴトフリート男爵領』の『ウィーティス』といって、総人口が千人くらいの小さな港町だ。


 緑豊かで過ごしやすい気候が特徴の地域。

 海も近いから偶に母様と観に行くこともある。

 異世界の海も地球と同じで空色だった。

 逆に緑だったりしたら怖いけどさ。



 家族の住む家は、そのウィーティスの町から外れた位置に何故か一軒ポツンとある。

 町から見て内陸側の小高い丘のような、小山のような所に建てられているのだ。

 だからいちいち買い物するにも、町まで歩かなければいけない。


 ま、それも楽しいからいいんだけどね。



「シャルちゃん、何か食べたいものはあるかしら〜?」

「んー、かあしゃまのつくりゅものは、なんでもおいしぃですから、なんでもたべたいです」

「あら〜そう? ふふふっ嬉しいわぁ〜、ならママ頑張って色々いっぱい作るわね〜!」


 母様はそう言いながら俺を抱き上げて、そのまま歩き出す。母様はその小柄な身体に見合わず力があるのだ。

 必然、左手を繋いでいた父様とは手が離れた。


「はっはっはっ、俺はそんな可愛いシャルとプリムを食べちゃいたいくらいだぞ〜──ぶぉけぇっ!?」

「ふふふ、あなたは少しだまっていましょうね〜?」

「う、うーす」


 余計な事を言う荷物持ちさん……ではなく、父様は母様の鉄拳もとい鉄尾制裁をうけてもんどうり打つ。

 もう完全に尻に敷かれてるよね、父様が幸せそうだから良いけども。


 あ、そうそう。

 食べ物といえば、当然ながら随分と前に俺は乳離れを完了している。

 まぁ、もう立派な三歳児ですからね。


 というのは建前でもあり、本音は羞恥プレイを早く終わらせたかったというのが主だ。

 幾ら俺の体が乳児だったとしても、中身は大人です。


 すごーく居た堪れない気持ちになった。

 それに母様の見た目が女子中高生くらいに見えるのも手伝って、加速度的に恥ずかしさが増したというのも理由。

 でも、ま。貴重な体験だったとは言っておこう。

 生命の神秘だよね。母は偉大だと言わざるを得ません。



 母様は上機嫌に鼻歌交じりで歩を進める。

 俺も抱っこされつつ鼻歌に加わる。

 あ、シャルラハートは音痴じゃないみたい。






 その後。

 俺たち一行は色々な店をまわって食材を買っていき、陽が落ちきる前には自宅へと帰り着いた。


 ちなみに、父様は終始荷物もちでした。

 行く店行く店でなぜかオマケをもらうので、予定より多くの品物が父様にのしかかっていった。

 毎度毎度こんな感じなのでちょっと面白い。

 商人さんまで優しいとは良い街です。




「じゃあシャルちゃん。少しだけ待っていてちょうだいね〜? すぐ支度しちゃうから〜!」

「はいっ」


 母様はそう言って、料理を作っていく。

 俺は椅子にお行儀良く座り、足をブラブラさせながら返事をかえす。そして、料理を待ちつつ今後のタスクを頭に巡らせる。



 この世界に生まれ変わってからこれまで。

 身の回りの情報収集と、言葉や文字を覚えることに全力で取り組んできた。

 おかげで、最近は拙いながらも会話が出来るし、文字もかなり理解できている。知らない情報だって歳を経るごとに少しずつ吸収している。



「……ん」


 区切りとしてもいい頃合いです。

 そろそろ次の段階に進んでみようかな。

 無論、一度始めたことを放り出したくはないから、今までの課題も続けていくつもり。


 だから課題を一つプラスするだけで良いだろう。

 なにを増やすのかもすでに決まっている。先を見越して、今日に至るまでコツコツと準備を整えていたのだから。


 その課題とは──この世界に生きていく上で、絶対に必要となるであろうモノのひとつ。あって困るモノではなく、なかったら大変なモノ。



 

 それは『自衛技術の習得』です。




修正や編集が多くて申し訳ありません。まだまだ文節や言い回しが不安定なので早く慣れて行きたいと思います。


2015/06/29-誤字修正

2018/02/14-統合性調整

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