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カンシャ+イライ+



「──良かった! 嬢ちゃんら無事だったんだな!!」



 冒険者ギルドから歩いて、目と鼻の先にある一つの宿屋。

 俺たちがお世話になっている蓮華亭(れんげてい)にも、負けずとも劣らずな高級宿の一室に案内されて入ると。

 椅子に浅く座っていたジョルジさんが弾けるように立ち上がった。



「はい、なんとか無事でした」

「ジョルジさん、お久しぶりなの〜」


 未だ驚き冷めやらぬジョルジさんに、おずおず声をかける俺と、ほんわか挨拶のアルル。

 ──そして。


「…………なんで私まで」


 俺たちのすぐ後ろから、なんやかんや(主にアルルの仲良し攻勢を断りきれずに)連れてこられたニーナが(こぼ)す。

 居心地が悪そうにしているのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だけど、それでも本気で嫌がってはいないように思う。たぶん。恐らく。


 でも、この後ニーナには提案したい事があったから、ついて来てくれて感謝です。

 アルルさんもナイスだ。




 ジョルジさんは隊商一同と護衛を請負(うけお)っていた冒険者(今は協力してもらっている冒険者)を集めるというので待つことになった。


 その待ち時間に、例の商人さんにいろいろと世話話ついでに聞いたのだが。

 なんでもジョルジさんは、俺たちを残して候都まで隊商を進めたと同時、反転して少数で引き返したらしい。


 でも、いくら探しても俺たちの姿は見つからなかったと。

 同時進行で、来る可能性の高い冒険者ギルドも見張っていたものの、こちらにも来る気配がない。

 数日が経っても全然見つからず、想像したくない事実が頭を(かす)めはじめてきた、そんな時。

 遂に俺たちを発見した、と。



 んぅ。なんともお手を煩わしまくっていて、申し訳ない限りだった。


 でもなんというか。

 ジョルジさんは商人なのに損得勘定より義侠心(ぎきょうしん)で動く、正に『漢の中の漢』って感じの人だと再認識しました。

 義理堅いし責任感も強く、心優しい──これは同じ男として見習いたいです。


 同じ漢として。


 大事なことだから二度言いました。




「──シャルラ嬢、アルル嬢」


 どうやらこれで全員集まったようだ。

 場所もあの一室では狭いため、宿の一階フロアに移動している。

 俺とアルルの前には代表としてジョルジさんを筆頭に数十人の商人と冒険者が立っている。

 ニーナは少し離れた所の椅子に座ってチラチラと様子見している。


 

「嬢ちゃん改めて言わせてくれ。あの時はホントに助かった。俺たち……いや、私たち隊商一同はお二人に感謝の意を表します」

「おっと! オレらも忘れてもらっちゃあ困るぜ? ──俺ら冒険者一同も感謝してるんだ! おかげで命を落とさずに済んだ、ありがとよ!」

「ご丁寧にどうもです。僕としても同じ旅をしてきた皆さんが無事でよかったです」

「えへへ」


 目の前に広がるは、大の大人が子供二人に丁重なお礼をする図。

 それも、商人と冒険者という職種が全く違う人達が同様のポーズを取っているためか、なおさら異様な光景に映る。


 それにこんな畏まられると困るです。

 なんか落ち着かないし、柄じゃないからムズムズする。

 結果として助けたのは事実だし、死者もギリギリ出なかったとはいってもです。


 だってねぇ。魔物と戦ったのだって、消去法で仕方なくでしたし、人助けをしたくてした訳でもないのだ。

 だから、こんな風に感謝されるのはなんだか違う気がして……。

 逆にこっちがお礼するまでありますよ?

 途中までとはいえ、相乗りさせてくれたんだし。


 ……んぅ、この堅っ苦しいお真面目な空気どうしたものでしょう。

 また一発芸でも披露しましょうか?

 恥ずかしいけど今なら我慢できるかも。



「えへ、ジョルジさん。あたしたち今日冒険者になれたんだよ〜。だからいつでもご依頼待ってるね〜♪」

「……ッ! ん、そうだね。アルルの言う通りです。これから手伝えそうな依頼があれば力になりますよ、ジョルジさん」


 

 アルルの自然な話題変えに、俺は乗るなら今だと便乗する。助かったです。

 流石アルルっ、超感謝だよ〜〜。


「もう冒険者になったのか。まぁ、あの無茶苦茶加減だ。別段おかしくはないか!」


 俺たちの言葉に頭を上げたジョルジさんは、あまり驚くことなく冒険者になった事を許容している。


「むぅ、納得が早すぎじゃないですか?」

「えへへ、楽勝だったの〜!」


 確かにワンコを一瞬で倒すシーンを目撃しちゃってるジョルジさんからすれば、そう考えるのはわかるんだけども。



「そんじゃ、いつか機会があればよろしく頼むぜ、シャルラ嬢、アルル嬢!」

「「 はい(なの〜) 」」


 急遽(きゅうきょ)増えた目的のひとつ。『ジョルジさんたちと合流する』という目的は運良く、偶然の出会いによってサクッと達せられた。


 この件に関して、俺たちはまだアクションをとってなかったから、やっぱり運が良かっただけなんだけど。

 肩の荷が一つ下ろせた気分。


 なんにしても、これで冒険者としての仕事に集中できると考えれば悪くないのかな?


 まぁただ、ひとつだけ別の問題というか。

 困る変化が隊商や冒険者に起きているんだけどね。


 そう。合流してからというもの、多くの人達が、俺たちに妙に(へりくだ)った態度で接してきたり、はたまた熱い視線を送ってきたり、祈り始めてきたり、終いにはガチの縁談・求婚を持ちかけてくるようになったのだ。

 冒険者サイドなんかでは、いつの間にやら、ファンクラブみたいなのを勝手に立ち上げて、俺とアルルのどっち派かで盛り上がっている始末。

 うん、アルルは分かるけどなんで俺も?



 もうさっきのお真面目空気とのギャップに呆然とした。

 個人的にこっちの空気の方が断然好きだけどさ。まぁそれとこれとは別にして、縁談やらファンクラブは、深く関わると危険だと本能が告げているので、スルースキルで上手く避けておいた。


 幼女に求婚てロリーなコンプさんだよ?

 変態さんは問答無用でシャットアウトだ。



「そういや、荷台にアルル嬢の持物が置いてあったから預かってるぞ? ──アルル嬢、ちょっと確認してもらってもいいか?」


 気づけばジョルジさんが俺たちへ近寄り、そうアルルへ問いかけてきた。


「あ、は〜い! じゃあシャルくん、ちょっと行ってくるね」


 ニーナの所にこっそり避難していた俺とアルルだったが、ジョルジさんのお呼びで荷物確認をするためトテテっと歩いて行った。

 


「…………」

「どうかした? ニーナ」


 向かい側の椅子に座るニーナに問いかけると、仏頂面ながらもニーナはポツリと呟く。


「一体何なのよ貴女たち、あの人たちからの話もそうだし、彼らの態度もそうだし。……もう、なんなのよ」


 ふむ、どうやらニーナはこの状況を飲み込みきれていないみたい。

 ニーナにはつい先程、俺とジョルジさん達の関係や魔物の足止めをしてはぐれたことは話してある。

 ついでに今日俺たちが冒険者になった事も言ってある。


 ただまぁ、誰だってこんな話をいきなり聞かされても反応に困るだけか。

『実はニーナに出会う前にルプスパーダの大群と鬼ごっこしつつ撃退してました〜』とか言われて、『へぇそうなんだ』とあっさり納得できる訳がないしね。


 それに加えてニーナの場合、俺たちが非力で無力な子供だと思って手を焼いてくれてたから、胸中複雑なのかもしれない。


「そういえばさ、やっぱりニーナも冒険者だったんだね」

「……ええ、そうよ。別に隠してたわけじゃないけれど。──やっぱりってことは気づいてたの?」

「核心はなかったよ。でも初めて会った時に、ものすごい数の魔物を倒してたから、そんなこと出来るのは冒険者とかかなっていうのが半分」

「──半分?」

「ん。もう半分はニーナが冒険者だったら良いなーっていう僕の願望」

「……なによそれ」


 呆れ混じりのジト目を向けてくるニーナ。

 だんだん遠慮がなくなってきているのは気のせいではない筈だけど、距離が近づいたと思えばそれも悪くないですね。



 と、そんなことより。


「今日、冒険者ギルドに行って分かったけど、ギルドって僕たちみたいな年齢の子が全くいないんだよね」


 もう完全にアウェーだった。


「だからもしニーナが冒険者だったら、すごく心強いなぁって思ってたんだ」

「私一人が加わったところで、大した事は出来ないわ」

「そんなことないよ。ニーナってすごく頼りになるもの」


 一つ言えるのは、精神年齢が自称オトナの俺よりも確実にしっかりしているということだ。俺とアルルってば、好奇心にフラフラ、空気に酔ってフラフラ、羽目外してフラフラ〜といろいろ問題起こすし。

 断然、俺たちよりはしっかりしてる。


「ニーナが冒険者だったって分かって僕は嬉しいよ。んふふ」

「……ふん。まぁそういう事にしておくわ」


 素っ気なくニーナは言い放ち、帽子を深く被って顔を隠すが、頬と耳が赤いのは隠しきれていない。うん。ほっこりだ。

 でもこれ言うとニーナが怒るだろうから、見て見ぬ振りしておく。



 その後、荷物を携えて戻ってきたアルルとニーナを連れて、ロリガチ勢の商人さんやファンクラブの冒険者さん達みんなに見送られつつ宿を出た。


 去り際にジョルジさんが言ったのだが。

 隊商はしばらくこの候都に滞在することを決めたらしいから、またいつでも来て欲しいとのこと。

 もちろん行かない理由もないので、是非また来るとしよう。



「それで、これからどうしよっか。ニーナは決めてる?」


 候都の街道を、右から俺、アルル、ニーナと連れ立って歩く。

 時間的にはまだ昼を回ったばかりなので、まだ宿に戻るには早いだろうし。

 ここはひとつニーナに提案してみる。


「私はこれから簡単な依頼を幾つか受けるつもりよ。大体いつもこれくらいの時間から受けてるし」

「え、依頼? シャルくんシャルくん!」


 瞬時に目をキラキラ煌かせるアルル。

 その綺麗なお目目(めめ)を俺に向けてくる。さすがに長い付き合いのアルルだ。それだけで何を言いたいのかはわかる。


「ニーナ。もし良かったら僕たちも一緒に付いて行ってもいいかな?」

「ニーナちゃん! おねが〜いっ」


 一瞬の沈黙。


「……はぁ。分かったわ、私も貴女達の力がどれ程なのか気になってたから構わないわよ」


 溜息を洩らしながらも許可をしてくれた。そして、ニーナは顔をプイッと逸らして、帽子を深く被り、スタスタと先を歩いていった──……。

 


「ありがとう……ニーナ先輩?」

「わぁ、ニーナちゃん先輩ありがとう〜!」

「それはやめてッ!」



 正式に冒険者になってから、初の依頼に向かうことなった。




 ◾︎◾︎◾︎




「精霊術・風ノ型・二番」

風精霊の狩り(スィーエーラ)】!


 ニーナの平坦でありながらも澄んだ声に呼応して、緑色に光る精霊が脈動(みゃくどう)

 そして、木々を縫うように風の刃が現出・滑空し、逃げ惑う獲物を次々と仕留めていく。


「あたしもいっくよ〜! ほぁ〜」


 アルルも負けじとアラギ剣を直剣に変形させて、踊るように森林を駆け抜け、目にも留まらぬ速度であっという間に討伐していく。


 よし俺も──。


「はぁー、やぁっ。く、くぅ……」


 空振り。

 空振り。

 空振り。


「……ぐぅ。なんで僕の攻撃だけは張り切って躱すのよ、この駄ウサギ〜〜」


 俺は相変わらず足手まといである。

 本日も、ウサギさんが憎い。



 そんな感じで、受けた依頼を遂行するため、候都郊外の森林地帯に赴いてから数十分。

 依頼は順調に進められていき、あっという間に依頼は終了した。


 みんなみんな大活躍だった。

 え、俺? 皆まで言わないで!



《異常発生しているラックラパンの駆除》


 これが今回ニーナと共に受けた依頼内容。

 詳細は単純で、俺たちとニーナが初めて会った、あの森林地帯にいるラックラパンを出来るだけ討伐する──というもの。

 討伐の指定は最低5頭。上限はない。

 しかし多ければ多いほど報酬額は上がる。


 この駄ウサ……ラックラパンは『ランクF』の魔物で、依頼自体の難易度はそこまで高くないと、受注する時に説明してくれた。


 その通り、難易度は低かったと思う。


 既に最低指定数の5倍ほどは狩れてしまったから、今日は切り上げることにした訳だし。

 時間的にはまだまだ余裕があるが、もうかなり狩ったので十分だ。

 それにキリがよかったからね。


 少し開けた場所に三人集まる。

 当然だがアルルは俺と違ってケロっとしている。ニーナも多少の疲れが見えるがまだ余裕がありそうな感じだ。


 予想はしていたがニーナは強かった。

 うちの身内と比べるのは流石に可哀想だから除外するとして、今まで会ってきた人の中では頭抜けている。

 魔法とも闘術とも違う戦闘体系の『精霊』さんを駆使して、駄ウサギを圧倒していた。


 あの審査員のオジサンよりも強いのは間違いなさそうだ。ニーナのランクってどれくらいなんだろう? 今度聞いてみよう。



「ニーナを見てて思ったけど、精霊って魔法なんかよりもよっぽど汎用性が高いんだね、護衛から追跡、戦闘までこなせるんだもん。精霊ってすごいね」

「……そうね。この子達は確かにすごく優秀よ。でも体力の消費は馬鹿にならないし、行使配分を誤れば危険だし一長一短なのよ?」


 周りに漂う7つの精霊に視線を巡らせながらそういうニーナ。

 しかし、精霊を褒められたのが嬉しいのか、僅かに顔が綻んでいる。


「それより私は貴女の妹さんが飛び抜けて優秀で驚いたわ、姉の貴女はそうでもないのはかなり意外だったけれど」

「ぐぅ、ほんと面目次第もないです」


 これはニーナに同意しかできない。

 ジョルジさんとのエピソードで、俺達がワンコを引きつけた──って言っちゃってるから、ニーナも期待してたっぽいけど。

 結局あの有様だったから実力を疑問視してるのかも。


 焔魔纏があった時は、戦闘に関して気楽に考えてたけど、この先いろいろと冒険することを考えると、不味いよね。


 いまの虚弱なシャルラハートちゃんは、ラックラパンにさえ翻弄される弱々しさだからなー。討伐依頼だって危険かもしれない。




「ニーナちゃん。それは違うよっ」


 と。アルルがニーナに物申す。


「あのねあのね。本当のシャルくんは、あたしなんかよりもずぅ〜〜っと! 強いんだけど、今は力を失っちゃってて、だから……」

「力を、失う?」


 若干、戸惑いの色をニーナは浮かべる。


「……んー。確かにほとんどアルルの言う通りではあるんだけど。結局は足手まといになってるからね。それは言い訳にしかならないかな」


 昔の俺を知らないニーナからすれば、信じ難いと思うのは当然だ。人は自分の目で見たものをまず信じる生き物だからねぇ。

 人伝で聞かされてもピンとこないのも無理はない。


 というかアルル。いつ俺がアルルよりずーっと強かったっていうのだろう。

 魔法なしの接近戦ならアルルの方がたぶん強いと思うよ。


「あ、それとね、あたしとシャルくんは姉妹じゃないよ?」

「──え? そうなの?」

「うん!」


 確かにそこはちゃんと正して欲しい。

 最近ますます女の子にしか見られなくなってて、俺は困ってる。

 なにせ今まで生きてきて、初見で俺を男だと見抜いた人間、今だにゼロだ。

 こうなると日に日に自分が男だという自信がなくなるのも仕方がない。

 チビだからいけないの?


 うん。だからこそ、ここで男だと認識を改めてもらいたいところだ。


「えっとね、シャルくんはね…………」


 うん、うん。














 「────あたしの許婚なの」




 ……………………。



 ………………。



 …………。



 は?




2015/10/06-魔法名の表記変更。

カタカタ表記→漢字+カタカタ表記

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