表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/104

シンサ+ツヨサ=


 木造で赤い屋根が目を惹く大型建造物。

『冒険者ギルド』は予想とは違って様々なタイプの人間で溢れていた。


 老若男女は問わず、体型も当たり前だが人それぞれ違うし、服装も重装から軽装、ローブ姿の者も普通にいる。


 これまた勝手なイメージだったのだが。


『冒険者』=『無骨なオジサンが多い』


 そんな図式が俺の中では出来上がっていたので少し意外だった。失礼だとは思うんだけど、お約束的にはそうなのです。

 門の前にいたのは正に予想通りの益荒男たちだったし。父様も見た目は優男だけど性格は暑苦しかったから、誤解に拍車がかかるのも仕方ない。


 ただ、老若男女問わずといえども流石に俺たちくらいの子供は皆無だった。俺たちを除けば成人したばかりに見える歳の子がチラホラいたくらい。


 なので、両開きの大扉を開けてギルド内に踏み込んだ時は、かなりの注目を集めてしまったものである。一般人が利用する依頼発注所は別館で、冒険者と面と向かって関わる事はないから余計に。



 特に気にかけない人も居たにはいたが、大抵の視線は俺たちに向けられていたと言っても過言じゃない。しかも、その中には下卑た視線を向ける輩も混じっていたので、よりタチが悪い。

 焔魔纏があれば誅殺してる所です。


 まぁアルルは、視線なんて気にしてないみたいで、ガン無視してギルドホールを突っ切ってるんだけど。こういう度胸は見習わないと。


 俺もアルルに遅れずについて行く。

 そして受付につくと、待ちに待った冒険者登録の申請をおこなう。



「──え!? と、登録ですか!?」



 受付に並んでいた時から、ニコニコ笑顔を絶やさなかった受付のお姉さんだったが。

 俺たちが冒険者の登録申請をしたいと言うと、綺麗な翠の瞳に戸惑いの色を浮かべた。

 ん、そんなに驚くことなのかな?


「はい、ここで登録できると聞いたので」

「……そ、そうですか。ではこの用紙にご記入をお願いします。代筆は必要ですか?」


 流石はプロフェッショナルと言うべきか。

 お姉さんは淑やかに若草色の御髪を耳にかけると、すぐさま意識を切り替えた様で、手早く登録の手続きに入ってくれた。

 気を使うのも忘れない所、有能な人のようだ。


「代筆は結構です。ん、アルルの用紙だよ」


 ニコリと微笑を浮かべてお姉さんから用紙を受け取る。

 一枚を左隣で楽しそうにしているアルルに渡すと、待ちきれないとばかりに猛スピードで書き込んでいく。

 俺も記入事項をさっさと埋めていく。


 アルルは孤児院で英才教育を受けた子供。

 更にいえば、その子供達の中でも抜きん出て優秀なのがアルルだ。

 今更文字を書くなんて造作もないだろう。

 俺の方は言わずもがなだし。


「出来ました。お願いします」

「あたしも出来ました〜」


 一分もしないうちに記入欄を最後まで埋め終わり、受付のお姉さんに用紙を提出する。

 アルルも同じタイミングで書きあがった。


 たぶん不備は無いと思うけど。

 最近、俺は自分で思っている以上に常識が足りてないと自覚しているから、気づかぬうちに、なんて事があるかもしれない。


「………………」


 予想が当たったのか二枚の用紙に目を通していたお姉さんは、言いようのない複雑な表情をしている。んー、どこ間違えたんだろ。



「どこか間違ってたりしましたか?」


 もしかして、名前記入欄の家族名(ファミリーネーム)を空欄にしたのがダメだったとか?

 いやでも家族名なんて知らないですし、そもそもウチって家族名がないよ。他にも家族名がない人なんて結構いるんじゃないの?


 その他にあるとしたら。

 戦闘スタイルや経歴欄?

 この辺も当たり障りのないモノで埋めたから間違いはないはずだけど。


「あ、いえ不備はございませんよ。少々驚いてしまっただけでして。その年齢で文字を完璧に習得しているとは思ってなかったものですから……」

「あー、そういう」

「ん? 文字書けない人もいるんですか?」

「……はい、大きな声では言えませんが、書けない方は結構いらっしゃるんですよ」


 お姉さんは引き()った笑みで答える。さっきから百面相しているみたいにコロコロと表情が変わるねこの人。面白いです。

 アルルの質問もずれてるから仕様がないんだけどさ。

 極端に言えば『テストで100点とれない人もいるの〜?』って聞いてるようなものだし。──それは言い過ぎかな?

 でも、これでアルルが算術も完璧に出来て礼儀作法や戦術戦略も嗜んでるって知ったらどんな顔するんだろうね? ……ま、言わないですけどね。


 俺たちにとって……いや、ウィーティスの住民にとって、俺とアルルがこれくらい出来るのは当たり前と認識されてたから気づかないんだろう。

 この年齢で読み書きを完全習得してたら驚くということに。


 ついでに言えば。

 この大陸の文字にも前世の文字のように、『ひらがな』や『カタカナ』『漢字』、記号としての『英数字』みたいな区分があって複雑なのだ。

 しかし、文字の構成が『日本語』のそれに少し近かったお陰で、その辺りもスムーズに習得出来ている。


 もちろん記入にも普通に使っちゃったから、それも驚く要因の一つなんだろう。

 お姉さんは、俺たちが文字を書けても、『ひらがな』だけの稚拙な文字だと思ってたみたいだし。


 でもこのお姉さんも段々慣れていくんじゃないかな? 父様とミーレスさん、町長や町の皆もそうだったし。

 人間なんて馴れる生き物だから、いつかアルルが片手で山一つ消し飛ばす日が来ても、誰ひとり顔色を変えなくなるよね!


 受付のお姉さんは一頻り(ひとしきり)驚いた後、書類の確認に戻り、恙無(つつがな)く手続きを進めていく。


 次に適正審査がある事を話されたが、さっきコレットちゃんから学んだばかりなので『はい、知ってます』と頷いて見せる。


 コレットちゃんの説明では、適正審査の内容は全ての冒険者ギルドで同一とされているらしい。


 と、タイミングよくお姉さんがその辺りの説明をしてくれる。


「審査内容ですが、当ギルドは各地の都市本部と同じく、ギルドが選んだ現役の冒険者と模擬戦をして頂く形をとっています……」


 そういうことである。

 “模擬戦”──これが審査内容。

 当たり前っちゃ当たり前です。

 それが一番手っ取り早いだろうし。


 コレットちゃんと話した通り。

 冒険者はつまる所、一から十まで『強さ』が絡んでくる仕事。

 捜索や採集などの多少は頭使うんじゃない? ──という依頼だって、情報はギルドがある程度調べてくれるらしいから、それほど関係なく。

 そういった仕事は新米がこなす事が多い仕事で、ベテランになってくると討伐や拿捕、護衛が主になると母様も言っていた。


 だから強さを確かめる審査で当然だ。


 審査があると言われて、初めに浮かんだのも実技審査だったし。

 もしも筆記試験とかだったら、肩透かしになってたと思う。そっちの方が楽だけど。


 さて、確認事項も読み終わったらしく。

 そろそろ移動するのかなと思ったとき。

 受付のお姉さんは『最後にひとつ良いですか……?』と切り出した。


「差し出がましい事を言うようですが……。この審査にはすごーく危険が伴いますよ? それでもお受けになりますか? 怪我もするかもしれませんよ? いいんですか?」


 私情ぽいし言おうか迷っていたんだろう。

 今更ながらにそんな事を聞いてきた。だいぶ食い気味で。


 俺の予想では、用紙記入をする前に諭してくるかな〜って思ってたから、このタイミングは少し意外だった。まあ七歳児だし心配されるよね。冒険者規定でも推奨年齢は十四歳くらいだし。この位の年齢で冒険者やってたのって、例の英雄さんたちぐらいらしいし?



 でも答えは決まってる。


 お姉さんの心配は嬉しいけど、わざわざ田舎の町から遥々ここまで来たのは、冒険者になる為なのだ。逃げるわけない。


「もちろん受けますよ」

「うんっ!」

「はぁ、そうですよねー……分かりました。では付いてきて頂けますか?」


 初めから諦めるとは思ってなかったのか、すぐに引き下がり審査場へ案内してくれると言うお姉さん。

 俺とアルルはお姉さんの後ろに付いてギルドの地下へと移動していく。


 会話が聞こえていたのか知らないけど移動する時に、文字通りホールにいるほぼ全員から、吃驚仰天の視線を一身に浴びたけど。

 スルースキル全開で無視を決め込んだ。




 ◾︎◾︎◾︎




 審査は地下にある武闘場でおこなわれる。広さも申し分なく上階と違ってガッシリとした石造りの場所。


 武闘場に入ると既に大勢の人が審査をしている姿が見受けられた。

 武闘場を何区画かに分けて、複数人の現役冒険者だろう人達が志願者の相手をしている。


 お姉さんは武闘場までの案内を終えると、踵を返して上階に戻っていった。

 去り際に小声で『絶対無茶はしないで下さいね』と一言残していったのが印象的だった。



「ほぉ、今度の志願者はやけに小せぇんだな──怪我しても知んねぇぞ?」


 審査担当のギルド役員が、審査官である冒険者の前に俺たちを連れて行くと、出会い頭の一言目にそんな事を言われる。


 俺とアルルが模擬戦をする審査官だが。

 さっき勝手にイメージしていた様な『無骨なオジサン』であった。ミラクル発生です?

 そんな偶然に少し可笑しくなり『あはは』と苦笑いを浮かべつつ相槌を打っていると、ふと気付いた。


「あれ? オジサンて昨日の」

「あ〜、プルトーネさんのお家に居た〜」

「ん? ──おぉ、よく見りゃオメェさんら、昨日の夜に尋ねてきたガキどもじゃねぇかよ」


 左頰に傷がある禿頭のナイスガイ。

 昨日の夜に話をした人物がそこにいた。

 オジサンも嬉しいことに、覚えていてくれたみたいである。


「こんな所にいるって事はオメェさんら」

「はい、冒険者になるために来ました。やっぱり子供が受けるのはおかしいですか?」

「んぁ? ──いや、別におかしかねぇよ。強い奴ぁ歓迎されるってのが冒険者ってモンだからな。年齢は関係ねぇと思うぜ? ただ、強ければ(・・・・)の話だがな」


 そう言ってオジサンは強面の顔を破顔させる。見かけによらず実にフランクな人だ。


「じゃあ、それをこれから証明しますね」

「はっ! その心意気や良しだ! じゃあ審査を受ける順番を決めな」


 アルルとは既に順番を話し合っていたので、特に言葉は交わさず俺が一歩前に出る。

 後に模擬戦をするアルルは、ギルド役員と共に区画から出て観戦待機。


「合格基準は単純で明快だ。オレに一度でも有効打を入れりゃそれで良い。武器は自前の武器があるなら自由に使ってかまわん。もちろん俺は模造剣を使ってやる。魔法も使えるなら使っていいぜ」


 オジサンは数メートル空けて向かい合う俺に、模擬戦のルールを説明。


「わかりました」


 ならばと渡されていた模造剣を端に放って、腰から手に馴染んでいるアラギ剣を引き抜く。

 剣を正眼に構える時にはアラギ剣の変形を完了させて、一本の直剣を創造した。


「ほぉ、なかなか珍しい武器を使ってんじゃねぇか──よし! じゃあ始めんぞ」


 驚きより面白さが勝ったのか、ニヤッと獰猛に笑って模造剣を構えるオジサン。


 そして、ギルドの役員が『はじめっ!』と鋭く言い放ち模擬戦が開始した。






 開始と同時。

 先手必勝とばかりに全力で地面を蹴り、鋭い踏み込みで上段から剣を思い切り振り下ろす。

 オジサンは剣を横にして簡単にそれを防ぐ。



「はっ! 動きは様になってるみてぇだが、やっぱり重さが足りねぇ、なぁっ!」



 攻撃を防ぎ、一転。

 オジサンは横薙ぎに剣を振って反撃する。

 それをバックステップで余裕を持って躱し、俺は開始時の距離まで出戻った。


 やっぱり膂力の差が大きい。

 アルルと比べれば失礼だけど強いとは感じない。

 勝ち目はある……んー、負けはしないという感じか。いまの俺には正面からぶつかって有効打を入れられるだけの力が不足しているから。


 焔魔纏なし、加えてこのヒドイ虚弱状態だと、力押しでの打開はそうとう手間がかかるよね。

 前世で身につけた術も活用すれば少しは楽もできそうではあるけど。あれって人を制するのとは別のものだし、使いどころが難しいです……。


 と、なると、なにか一工夫が必要。

 ……うぅん。どうしましょう。




「おうどうした、もうバテちまったのか? 今度はこっちから行くぜ?!」


 打開策を練っていると、体から少し濁り気味の黄色いオーラを発露させてオジサンが接近してくる。

 アルルと比べるとかなり弱々しくはあるけど闘力だろう。



「うらぁぁあぁっ!!」



 オジサンは模造剣を勢いそのまま豪快に振り下ろす。

 闘力も加わった事で、先程の一撃より速度が上がっているその攻撃を、動きの起点となっている部分を見抜いて外側にそっと押し流し、逸らしてやる。

 いなされた剣尖は、勢いそのままに地盤を砕き捲りあげた。石飛礫が宙を舞う。


 子供相手でも手加減なしのオジサンに苦笑いを浮かべながらも、一挙一動を注視する。



「ッりゃあぁぁぁああぁ!!」



 次々と迫る攻撃を躱して往なして無力化し、お互い入れ替わり立ち代りのやりとりを続ける。


 するとオジサンは剣だけでなく、ローキックやアッパーカットなどの体術も織り交ぜ始める。

 でもその際は闘力に前兆が見られるし、簡単に見切ることが出来た。対人の場合は初動を潰してあげれば、基本的には抑え込めちゃうからね。



「ははっ! ここ最近で挑んできた志願者どもに比べりゃかなり良い線いってるが、防ぐばかりじゃ合格できねぇぜ?」

「僕的には、オジサンの体力が尽きるのを待ちわびてるんですけどねー。そろそろ疲れてきましたか?」

「悪ぃがすぐ尽きるほど柔じゃねぇな!」

「ですよね。あはは」


 剣戟と打撃の応酬(俺が一方的に打ち込まれているだけなんだけど)を繰り返しながらも、お互い無駄口を叩きあって。


 今一度、俺はオジサンから距離を置く。



「ふぅ……」


 弱体化してるからか体力の消費も地味にでかい。

 案外オジサンの体力が尽きる前に、こっちがバテちゃうかも。


 んー、仕方ない。このままだとジリ貧です。

 正攻法はやめて搦手でアプローチといきますか。

 結構な賭けになるだろうけど、もうここは自分の運の良さを祈るとしよう。


 額から滴り落ちる汗を雑に拭い取り、左手を前に突き出す。すると──。

 オジサンは何をしてくれるのか楽しみだ……と言わんばかりに待っていてくれる。


 ん、流石理解あふるる人間さん。

 お約束は守ってくれるのですね。素敵っ。

 ではありがたくお見せいたしましょう。



「我、土の恩恵を得し者、魔の法を紐解き、今此処に力の一端を顕在化させよ、“土の粉塵”をもって生み出さん」


 焔魔纏の恩恵なしでは魔法が十全に発動しないのは承知で詠唱を終える。

 十全じゃなくても良い。

 発動さえしてくれれば。




「おねがい。発動して」


土塵(アースフームス)】!



 願いながらも魔法を放つと……なんとか期待は裏切られず、狙い通りの現象が発動してくれた。



「ほぉ、こいつぁ目眩ましの魔法か?」



 俺とオジサンの丁度真ん中。

 そこから土系統の煙幕がモクモクと立ち込めて互いの視界を塞ぐ。普通ならこの武闘場を満たすほどの煙幕が発生する魔法だが、魔核がないので規模は小さい。

 それでも充分だった。


 煙幕が晴れるまでの僅かな時間。


 ──タイミングを計り。


 俺は全速力で煙の中へと駆ける。


 そして全身が飲み込まれた瞬間。

 捲れ上がっている岩盤に剣をガッチリと差し込み……刃を伸ばして(・・・・・・)身体を高速で()にリフトさせる。


 急な浮遊感に苛まれながらもグングン身体は上昇していき、立ち昇る煙幕から飛び出すと。

 ──間近には天井が迫っていた。



 うわわ、勢いよく持ち上げすぎたっ。



 危うく天井に激突しかけるが、猫のようにクルリと反転──と同時に、三角飛びの要領で直降下する。

 この時、伸ばしていた剣を超重量のグレートソードへと変形させる。



「いきますよ!」


 大声を発してから斬りかかる。

 おかげでオジサンは一拍遅れながら奇襲に気づき──……



「むっ、こいつぁ驚いたぜ──かかってこい!」



 上空から襲いかかってくる俺を迎撃する姿勢を見せる。位置取りが上手く作用しているのか、オジサンの構えは先よりも更に隙が多い。


 だが、そんなことは些細なこと。

 元より迎撃をさせるつもりはない。


 俺は流れるように魔力を生成し、その全てを周りの影響も考えず全力開放する。

 今までは焔魔纏のせいで、目視できなかった綺麗に澄んだ群青色(・・・・・・・・・)の奔流がオジサンを呑み込む。


「──む"ぅ!?」


 大量の魔力に当てられ身体が強張るのと、俺が剣を振り下ろすのは同時だった。




 ◾︎◾︎◾︎




「はっはぁっ! こりゃあ一本取られたぜ……。最近の若ぇのは恐ろしい事を考えやがるぜ、まったく」


 武闘場の床に横たわりながら、左肩を抑えてオジサンが呟く。

 剣の刃は潰してあったが、重さはそれなりにあったハズだから骨は折れているかもしれない。


「すいませんオジサン。肩大丈夫ですか?」

「はっ! 気にすんな、どうって事はない。それより喜んだらどうだ? 模擬戦で審査官を負傷させられた志願者なんて、ここ数年でも僅かしかいねぇんだからよ」

「いえ、運が良かっただけですから」



 そう、本当に運が良かっただけ。

 俺が遮二無二おこなった奇策──と、呼べるほど出来の良いものじゃないが。

 所謂(いわゆる)、机上の空論に近い。


 魔核がなくても“発動はする魔法”。

 伸縮、可変、加重が自在の“アラギ剣”と前世の知識である伸縮する道具“如意金箍棒(にょいきんこぼう)”。

 アルルと初めての模擬戦で受けた、重力を味方につけた上空からの奇襲攻撃。

 “魔力生成”と“力の開放による圧力”。


 そんな全てを混ぜ合わせた末の苦肉の策で、運に頼りっぱなしのものなのです。

 少しでも歯車が狂えば、床に倒れていたのは自分になっていた可能性が大いにある。


「ははっ! もっと胸を張って誇れや嬢ちゃん。冒険者ってぇのは謙虚な奴ほど損をする仕事なんだぜ? もっとガッつけよ」

「そう、ですね。ありがとうございます」

「おう! んじゃあ、いつか仕事を共にする時があったら、よろしく頼むぜ!」

「はいっ」


 その後。

 俺はギルド役員に呆然とした顔で『合格』と判を押され、オジサンは治療室へと向かっていった。

 俺は区画外にいたアルルのもとまで行って、とりあえず癒されておく。


 そして、次戦はアルル。


 ……なのだが。

 えーと。なんというか。うん。

 俺の涙ぐましい奇策を嘲笑うかの如く。


 という感じだった。


 アルルが意気揚々と区画内に入ると、オジサンに変わって新たな審査官が現れた。

 その審査官だが、明らかにアルルを見下していたし。加えて下卑た視線でアルルを見てくる変態クズ野郎でもあった。


 しかし、そのクズ審査官。

 模擬戦が開始されると同時にワンパンで吹っ飛ばされました。

 こうして、アルルは即合格。


 吹っ飛ばされたクズ審査官なんだけど。

 顔面を打ち抜かれ、派手に錐揉みしながら壁に突き刺さり、意識を失って運ばれた。

 かなり酷い有様だったから『よく本気で殴った! 偉い、アルル偉い』と思いつつ当人に視線を投げると。


「えへへ……やりすぎだったかな〜?」


 と、不本意そうに苦笑いを向けて来た。


「んー。手加減してもあれだったのか。じゃあ仕方ないね。むしろ良くやったって僕は思うよ。アルル偉い、アルル凄い」

「え、えへへ♪ ほんとぉ?」

「うんうん」

「わぁいシャルくんありがと〜〜♡」


 本人の態度から、かなりセーブして戦ったというのは伝わってきたので、あそこまで弱いとは思っていなかったんだろう。

 つまり、アルルの強さは一線を画しているんだね。


 まー、俺的にはあの人がどうなろうと関係ないんだけどさ。アルルにあんな視線を向ける奴は万死に値するんだから。アルルがやらなければ俺がやってたよ。



 アルルの勇姿を見た反応なんだけど。

 武闘場に居た全員……審査官からギルド役員、志願者問わず皆が、大口を開けて唖然としながらアルルを凝視していたのは言うまでもない。


 そんなこんなで、俺たちの冒険者審査は、呆気なく幕を閉じた。




【6月期・新規冒険者・公募記帳】

 …………・…………〈不合格〉/三

 ………………〈合格〉/二

 ……・…………〈不合格〉/四

 シャルラハート〈合格〉/初

 アルリエル〈合格〉/初

 …………〈不合格〉/八

 ……・………………〈不合格〉/初

 ………………〈不合格〉/初

 ・

 ・

 ・

2015/10/06-魔法名の表記変更。

カタカタ表記→漢字+カタカタ表記

2015/10/08-誤字修正。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ