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艱難辛苦のリフレイン


「あたし、わかるよ!」

 アルルは自信満々にそう言った。



 あれから半刻ほど。

 食事(と言っても木の実や野草が主だったが)と、ついでに泥だらけだったから水浴みも済ませ、ただいま会議中。


「わかるって、候都の方向を?」

「うん! えっとねぇ、いまの時間は陽の大光があそこだから……あっち!」


 アルルはひとり天を仰ぎ、何やらポツポツと呟き思考したあと、揚揚と手を上げてある方向を指差した。

 その先は恐らく候都があるであろう方角。


 もしかしてアルルは、時刻と太陽の位置から方角を割り出したのかな? 凄い。

 候都の方角を覚えてるのにも驚きだ。


「目指す方向が分かれば、迷う心配は余りなさそうだね。ありがとうアルル」

「わ〜い。褒められた〜、えへへ♪」


 アルルは頬を仄かに赤く染めると、両手を頬に添えて照れ笑いを浮かべた。なにこの可愛い生き物。





 ──で。なんの話をしているかというと。


 俺とアルルは、この先どうするかについて、選択肢を二つに絞ったのだ。



 その選択肢が……


①川を逆行してジョルジさん達との合流を図る。

②このまま自足で候都に向かう。


 この二つである。



 それで。結果──②を選んだ。


 理由は色々あるけど、大きな理由は。

 先ほど川の様子を見てもらった所。三日経ってもなお、川は増水して濁っており。周辺も泥濘が多くみられた。

 その為、安全を優先してこの判断をした。


 それにこう言っては難だが、ジョルジさん達と合流できるとも限らないという現実的な考えもあったからだ。


 そこまで決めたら。

 見計らったようにアルルが先ほどの言葉を放ってくれたのである。



「それじゃ準備をして出発を、って言っても準備するほど物がないね」


 辺りを一瞥。

 俺たちの所持品はほぼ皆無。


 水筒や保存食に携帯調理器具、生活用品、地図などが入ったリュック。それに路銀までもが、あの濁流と共に流れてしまっている。


 正確にはアルルの持ち物は流されてない。

 邪魔になるという理由から荷物を馬車に置いてきたそうで。

 追いかけっこの際も武器以外は持ってきていなかったそうな。


「手元にあるのはアラギ剣と身につけていた装備類、それとペンダントだけかぁ」


 なにこのプレゼント装備。

 失わなかったのは不幸中の幸いだけどさ。

 家族からの贈り物をなくしたなんてわかったら確実に泣く。人目を憚らず泣くね。

 うん。冗談ではなく。


 考えが逸れた。

 でも道具類全滅は痛いなぁ。地図でもあれば安心できるんだけど。

 無い物ねだりしても失った物が帰ってこないし、大人しくこの身一つでサバイバルするか。シャル探検隊始動である。


 俺とアルルの身体能力なら全力で飛ばせば、あっという間に着くだろうし大丈夫かな。

 ジョルジさんと離れる前、既に候都の近くだったし距離はそんなにないと思う。


 一つ心配な事といえば俺の身体かな?

 なんか、さっきから不調というか謎の違和感がある気がする。

 怪我とかは全然問題ないのに、何故か全身に重りを付けられてるみたいに重い。

 

「…………んん?」



 ふと気が付いた

 自分の身体の異変に。

 一瞬にして血の気が引いていくのを感じる。


「──え、……えぇ?」

「ど、どうしたのシャルくん!? 何処か痛むの?」


 突然の困惑に、剣の点検をしていたアルルがすぐさま反応するが。


「……ちょっとごめんっ」 


 そんなアルルの心配すら耳に残らず、横をすり抜け、洞窟から少し離れた開けた場所に毛躓きながらも飛び出す。



「我、水の恩恵を得し者、魔の法を紐解き、今此処に力の一端を顕在化させよ、“水の弾丸”をもって生み出さん!」


水弾(ウォーター・ボール)



 初心者レベルの魔法を短縮せず詠唱する。

 内心の焦燥を露わにしつつも、魔法の発動手順は淀みなく済まし、事象の改変を待つ。


 いつもの自分なら、失敗の『し』文字も無いほどに簡単な魔法。



 しかし現実は──……


 発動手順を終えているのに関わらず、何も起こらなかった。

 無理に起こった事をあげるとすれば、手のひらに1ミリほど少量の水が発生したぐらい。もうこれ手汗と言えるほどだし。


 完全な失敗。


 適性魔核があれば、ほぼ確実に成功するであろう初級魔法の失敗。




「……ウソ、でしょ?」


 ここにきて、異変の正体を確信した。 



 身体の異変。

 それは長年ともにあり続けたモノの消失。

 あの赤いオーラである『焔魔纏(えんまてん)』が、綺麗さっぱり無くなってしまっているのだ。なんで〜〜。



 制御の失敗で目視できてないだけ?

 ううん。それは違うよね。


 俺やアルルが行っている制御というのは、制御とは名ばかりのもの。一般的な制御とは違った特殊なものだ。

 それは溢れ出るオーラを全て身体に押し込め続ける……というものではなく。


 正確には、とめどなく溢れ続けるオーラの密度と量を、威圧が発動しないギリギリ以下まで減らしているだけだ。


 俺たちのオーラは、密度と量を減らせば色も薄れていく。でも消えるわけではない。

 普段は意識から追い出して目に見えないようにしているだけで。

 だから勘違いは起こりようがない。


 …………。


 ゼロに近い可能性にかけて制御を放棄しても、目を凝らしてもオーラは見えなかった。


 底なしの沼に突き落とされたような焦燥感がフツフツと湧き上がる。


 これでさっきから感じている身体の違和感にも説明がついた。

 なんで気付かなかったんだろう。

 いま思えば、起きてすぐ気づいてもおかしくない大事だ。

 まさかの事態に自問自答を続ける。



「シャ、シャルく〜ん! どうしたの急に飛び出して〜!」


 あっけに取られていたアルルが、ワンテンポ遅れて駆けてきた。



「あぁ、えと。あのね」



 正直に話すか少し逡巡したが、家族であるアルルに隠し事をするのは抵抗がある。

 焔魔纏が消えたことを隠さず全て話した。


「えぇ!? じゃあいまシャルくん魔法が使えないってこと? でもなんで?」

「それがわからないんだよ、あはは」


 自分でもよく分からないテンション。

 動揺から空っぽの笑いがこぼれる。

 冷や汗が一筋の流れて、顔は引き攣っている。


 意識を失う前は確実にあった。

 アルルに魔法使ったし。

 つまり消えたのは、意識を失っていた三日のうちであると。


 ……全く検討がつかない。

 一度意識を失ったくらいで焔魔纏が消える可能性はないだろうし。そもそも原因が分かってるならこんなに慌てない。


 というか焔魔纏自体が正体不明の謎の塊だし、こうなるとどうしようもないんだよね。

 勝手に発現したと思ったら、また勝手に消えるとか。なんて手前勝手なオーラだ〜〜。



「…………むぅ」

「──だ、大丈夫だよ! あたしがシャルくんを候都まで守るから! 心配しなくて平気だよ、シャルくん!」


 思考に耽っているとアルルが唐突にそう宣言してきた。両手を胸の前で握りしめて殺る気(?)満々のご様子。


 俺が落ち込んでると勘違いしたのかな?

 落ち込んではいるんだけども、個人的には理由の方が気になるんだよね。



「ありがとうアルル」

「今度はあたしがシャルくんを助ける番だもん、頑張るね!」

「うん、頼りにしてる」


 アルルの気遣いがすごく嬉しい。

 まぁ、アルルがいれば道程での危険は心配いらないかもしれない。

 それほどアルルの力は図抜けている。


 でも先の事を考えると楽観する事は出来ない。いたいけな少女に守られてのお荷物状態なんて情けなさ過ぎる。


 焔魔纏がない俺はただの六歳……いや、三日経ったって言ってたからもう七歳になったのか。じゃあ七歳児。

 魔法もオーラ補正もない脆弱なこんな七歳児では、何処まで出来るかわからないってのも事実だ。



「僕も足手まといにならないように出来るだけ頑張るから」

「──うん!」


 そんな会話を交わし、俺たち(正確には俺だけだが)は重い足取りで、改めて候都に向けて出発をした。心中にひとつ、とんでもなく大きな不安を伴って。





 ◼︎◼︎◼︎





「くらえっ……っ。ぐぅ」


 目の前には、見慣れた生き物。

 体躯は大の人間と同等。

 身体中を灰色がかった毛で覆われていて、頭部からは長い耳が二本、口元からは似合わない鋭く尖った犬歯が見えている。


 ──その見慣れた生き物《大兎》ラックラパンが、悠々とドヤ顔をしているかのごとく俺の剣戟を躱していく。


「はぁ、やぁ、うぉぉ」


 長剣に変形させたアラギ剣を、これでもかと振り続けるが、当たる気配は無く息だけが上がっていく。


「なんであたらないの。一匹すら倒せないとかひどすぎる……うが〜〜」


 もどかしさから中天の空へ吠える。

 焔魔纏が無い状態では、運動神経や感覚神経は鋭敏ブースト出来ない?

 この身体が生来からのハイスペックボディだとしても所詮子供だし限度がある?


 いやいや。これはおかしい。

 やっぱり、おかしい。


 幾ら焔魔纏が消えたとはいえ、ここまで貧弱で虚弱になるはずがない。

 これでも母様の息子。

 焔魔纏ブーストなしでも、肉体の性能は飛び抜けていたのだ。

 毎日トレーニングだってしてきたんだし。もうこれって身体自体が弱体化してるレベルだ。さっきのも剣を振っているんじゃなく、剣に振り回されている、剣に振られてるといってもいい有様になってたし……。


 こんなの嘘だー、嘘だと言ってー。



 俺が現実逃避に陥っていたその時。

 ──ラックラパンの気配が変わった。


 それはまるで『遊びはお終いだぜ、お嬢ちゃん?』と言っている気配の変化だった。

 だれがお嬢ちゃんだコラァ?


 ラックラパンは発達した持ち前の脚部を膨張させたかと思うと、弾けたように飛びかかってくる。


「──っ」


 凶牙が目前まで迫る。

 だが反応もままならない。

 このままだと喰らわれてしまう。ウサギなんかに。くやしいけど逃げよ……



 ──ドゴォオっ!!


 そんな鈍い音と共に、銀線が閃いた。

 飛びかかってきたラックラパンは、壮絶な蹴りを受けてあらぬ方向へ飛んでいき、代わりとばかりにその場所には、白銀の戦乙女アルリエルさまが残心をしつつ立っていた。


「ふぅ、お待たせ!」

「……ありがとう、助かったよ」


 アルルは蒼がかった不思議な光の粒子を燦燦(さんさん)と振りまきながら駆け寄ってくる。


 彼女が飛び込んで来た方をチラッと見てみると、ラックラパンの群れがピクピクと痙攣して地に積み重なっているのが見えた。

 だが、それをもたらした当人は汗ひとつ流すことなく、のほほんと笑い顔。


 分散して戦ってたはずなのに、結果を見れば敵を全て倒したのはアルルだった。



「弱くなって始めて、アルルの強さが異常なんだとわかったよ……」


 俺の呟きはアルルに届くこと無く虚空に溶け込む。



 ◼︎◼︎◼︎



 洞窟地点を出発してから丸一日が経過した。

 今は山岳に広がっていた森林を抜け、平野部に広がっている森林を行歩中。

 結局どこまで行っても『森』である。

 

 つい先程までは、再び遭遇したラックラパンの群れと交戦していたのだが。

 言わずもがな、俺は“お荷物ちゃん”である。既に俺のメンタルは、不甲斐なさやら無力感で無残な状態。


「ん。また兎さんが近づいてくるよ〜。さっきより多いかも」

「また? というか全く気づけなかった……」


 こういう感知能力も現在低下しているので、ここもアルルにおんぶに抱っこだ。 


「なんかずっとラックラパンしか見かけないけど、ここって群生地なのかな」


 平野部の森に入ってからの、ラックラパンとの遭遇率を鑑みて、そんな考えを口にする。


「……ねぇ、シャルくん。そろそろ日が傾いてきた、よね(・・)?」

「──うぉぅ、ん、そうだね」


 いきなり話が切り替わったのもあるが、アルルが顔を鼻先数センチにまで近づけてきたので、少しどもってしまった。


「戦ってたら暗くなっちゃう……よね(・・)?」

「まぁ、そうだね」


 アルルの真に迫る意味深な台詞に、違和感を抱きつつもそう返す、と。

 アルルが纏う黄金の闘力総量が跳ね上がった。


 それを目の当たりにして、俺は。

 ──お。そういえばオーラは目視できるじゃない。目だけは変化ないのかな?


 とかアホなこと思ったんだけど。

 焔魔纏が現れる前から魔力とか闘力は見えてたんだよ。うん。ダメじゃん!


 だいぶ見当違いの思考をしてしまったよ。

 そのせいで……。


「──ん? なにどうしたのぉぉぉお!?」

「えへへ、じゃあ兎さんたちは無視して走りぬけるよ〜♡」


 アルルに抱きかかえられているのに気づけなかったのだから。


「あのアルルさん? これは一体何の冗談なんでしょう? 僕一人で歩けますけど……」


 まさかのお姫様抱っこに、顔を引き()らせながらも質す。

 俺とアルルの身長的に、一見すると絵になってはいるんだけど。姫と女騎士みたいな? ……姫? 誰が姫だ、こら。

 そうじゃない。そういう問題じゃない。


「えへへ、大丈夫だよ。遠慮しないでシャルくん」

「いや、遠慮してる訳じゃないんだけど」

「ちゃんとギュ〜って掴まって(・・・・・・・・・)てね♪」


 ニコッと、こんなに有様でなければ見惚れそうな良い笑顔を浮かべるアルル。


「…………あー」


 俺が頼りないせいで、アルルの暴走&過保護スイッチがオンになってる気がするのは勘違いかな? まさか現実でもおんぶに抱っこ状態になるとはね。


 くぅ……。


 もうやめてアルル!

 とっくに俺のメンタルは底をついているわ! だから降ろしてぇぇぇー!

 

「うん、やっぱり恥ずかしいから、降ろ「じゃあ行くよ〜!」──きゃぁ!?」


 全身全霊でもって抗議をしようとしたが、急激な重力が身体を襲った為、無意味となった。気がつけばアルルは走り出しており、周りの景色は超高速で次々に流されていく。


 ときおり木の幹を蹴ったり、枝から枝に飛び移ったりと立体的に移動するので、予想以上の負荷に晒された。

 こんなの母様の音速飛行に比べたら、一歩も二歩も譲る負荷のハズなのに。



『ぐぉおおおっー!』

『ぐぃいいいっー!』

『ぐぅうううっー!』


「ほっ、やっ、よっと〜」


『ぐぇえ〜』

『ぐぁあ〜』

『ぐぉお〜』


 アルルが感知したというラックラパンの群れの中に突入し、数匹が一斉に襲いかかってくるが、何食わぬ顔(満面の笑み)で()なしながら突き進んで行く。


 歯牙にも掛けられなかったラックラパン達は、哀れにも木に正面衝突したり、勢い余って地面に顔面を強打したりして呻いている。



「ふぅ〜、ここまでくればもう平気かな?」


 しばらく、アルルの立体移動に付き合わされたあと、俺は地面に降ろしてもらえた。



「…………がく」


 だが、ついに俺、力尽きる。

 精神と肉体をゴリゴリ削られ致命傷。

 情けなくともノックアウト。

 柔らかい地面に手と膝をつく。


「シャ、シャルくん大丈夫!? ──ま、まさか川での傷が痛んで……」


 ちがうですアルル。

 これは貴女からのダメージです。

 心の方のダメージです。


「はは、大丈夫だから。少し休めばすぐ良くなるから。それに川でのダメージは、もう無いから」


 アルルの勘違いを正そうと声を発するが、暴走&過保護スイッチが文字通り暴走(オーバヒート)しているアルルには届かなかった。


「無理はダメだよ! 多分そろそろ候都の近くだと思うし、あたしが抱っこするよ(・・・・・・)?」


 ──っ!!


「あっはっはー。なにその心配は無用だよアルルさんー。僕はこんなにも元気なのだからー」


 跳ねるように起き上がり、腰に手を当てて、父様テンションを真似して全力拒否する。

 このテンションは恥ずかしいが仕方ない。


「そうやって無理すると悪化しちゃうんだよ?」


 あ、ダメだ。このアルルの目は俺に女物の服を着せようと迫る母様のそれだ。

 これいくら言葉で説得しようとしても無駄じゃないの?


 ふぅ、(しか)らば!


「勘弁してくださーい」


 俺はアルルに背を向けて逃走を開始した。



「あ。待って、シャルくん」


 がしぃ!


「──はぅっ」


 残念ながら一歩(・・)で距離を詰められた。

 アルルに俺のステキ尻尾を鷲掴みにされた。まさかの攻撃に俺の身体は弛緩し、アッサリ過ぎるほど簡単に捕縛される。

 尻尾は他人に触られると違和感が酷いんだって、なんというか腰が抜ける。



「いーやーーお離しになってーー。ほらー、もう大丈夫でしょ? こんなに元気だもん。ね? 大丈夫だからー」


 のべつまくなしに口を動かして説得するが。


「えへ、大丈夫だよ〜痛くしないから〜」

「なにがー? 痛くってどんな運び方する気なのさっ」

「あうぅ、もっとシャルくんをギュっとさせて〜」

「いやいや、どういうことぉ?!」


 そんなアホみたいな問答を繰り返し、それが次第に、子猫同士のじゃれあいみたく組んず解れつな様相を呈して来た。

 兄妹ケンカになるよりはマシだけど、いまの俺にはじゃれあいも体力的にツラいよー。




 ──と、その時。


 ドォオォォォォオォォ……っと。

 突如として森に轟音が響き渡った。

 そのおかげなのかアルルさんも冷静さを取り戻したようで、俺はやっと解放されるに至った。



「なにかな〜? いまの」

「魔法の法撃音に似てたし、誰かが近くで戦ってるのかも。見に行ってみる?」


 普段のアルルに戻った事に安堵した俺は、そんな質問を返す。


「うん、気になるかも」


 俺とアルルは手を取り合って立ち上がると、音のした方に駆けて行った。


 人がいるってことは、正確な道を聞くチャンスでもあるからね。早速向かうとしよう。


 ……はぁ、無駄に疲れた。




 ◼︎◼︎◼︎




「なにこれ」

「ほわぁ〜〜!」


 アルルと共に走る(俺に合わせてくれた)こと数分。

 音の発生地点の付近にやって来てみれば。

 目先に広がるは、異様な光景だった。


 円形に開けている空間には、うず高く積まれた魔物の残骸が点在していて。

 その残骸の横に、ぽつねんと佇む一人の小さな女の子を夕暮れの明かりが照らしている。



「あの子が一人でやったのかな〜? 凄ぉい」


 感嘆の息をアルルは漏らす。


 少女は俺たちに背を向けて立っているので、容貌までは分からないが、背丈はアルルとそう変わらないと思う。


 頭には大きめのキャスケット帽を深く被り、はみ出して見えるショートの髪は、優しい亜麻色。

 服装は動きやすさ重視なのか凄く軽装で、腰には短剣が括ってある。


 その中でも一際目を引いているのは、少女が右手に持つ装飾された木製の長杖と、辺りを浮遊している七つの幻想的な光の塊だった。


 光の塊は意思があるのか、少女と戯れながら陽気に浮かんでいる。

 まるで、御伽噺(おとぎばなし)の妖精さんみたいだ。


 しかし、杖の少女だけに焦点を当てれば、その神秘的な姿に目を奪われるだけなのだが。隣に放置されてる大量の魔物のせいで、なんだか色々と台無しになっている。

 題名つけるなら『聖女と地獄』かな。



 俺とアルルが熱い視線を送っていたら、それに気づいてか、佇立していた少女が静かに振り返った。


「……!」

「………」

「わぁ〜〜」


 そして少女、俺、アルル。

 三者の瞳がバッチリと絡んだ。



 

2015/10/06-魔法名の表記変更。

カタカタ表記→漢字+カタカタ表記

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