プロローグ
──エルフさんが住まう神秘的な森を満喫。
自然に包まれながら緩やかな日常を過ごす。
──もふもふな獣人さんと運動会
一面に広がる草原や野山を自由に駆け回る。
──雄々しい山岳に作られた職人街で髭もじゃドワーフさんと物づくり。
罵り合いながらも至高の一品を共に追求する。
──湖畔に建てられた清雅なお城を訪問。
月夜の下で吸血鬼さんと杯酌をあげる。
──巨大なドラゴンさんの背に乗って遊覧飛行。
限りなく広がる大空を自由に飛びまわる。
──小さな妖精さんと一緒に魔法の研究、ときどき悪戯合戦。
暇つぶしに野生の果物を集めて、じゃれ合いながらもお菓子作りに興じる。
──剣と魔法の世界で生活。
未だ見ぬロマンを求めて世界を旅する。
心踊る体験を繰り返し、毎日面白おかしく生きる。
……彼の脳内はそんな妄想で溢れかえっていた。
彼には癖がある。
それは、いわゆる『妄想癖』。
正確にいえば、だいぶ偏ったジャンルに傾倒して想いを巡らせるタイプの、である。
そして、そのジャンルとは一体なんなのかといえば。
魔法は言うに及ばず、エルフや獣人、ドワーフと呼称されるような伝承存在。
はては吸血鬼、竜に龍、天使や悪魔、幻獣と神獣、妖怪変化、妖精精霊……etc.etc.
地球のゲームやマンガ、それにVRのテーマ等で頻繁に用いられ、『ファンタジー』と呼ばれているジャンルこそを、彼はこよなく愛して傾倒している。
……まぁ、そういった妄想が常となってしまった彼ではあるのだが、妄想をすることで彼が楽しみを懐けて幸せに浸れているのだから、それも悪くはないことなのかもしれない。
現代。
地球の世界人口は、頭打ちになるかもと予測されていた、総数八〇億をアッサリ超えての三桁突入。
自然や資源がますます減って、環境は更に汚染されている。
温暖化も進み続けて表土は減る一方。
太陽と地球の恵みにも限界が来ているにも関わらず、人間は代替となる物を作り出して、何ら変わらずしぶとく生き続けていた。
正に科学の進みすぎた息の詰まる世界。
仮初めの自然と、淀んだ空気に塗れてしまった『死んだ世界』だ。
彼が頭で思い描いているファンタジー世界の、ちょうど真逆ともいえる。
こんな世界で生まれ育ってきたのである。
彼がつい素敵なファンタジー世界に魅了され、時間も忘れて熱中してしまったとしても、それは仕方がないことなのだろう。
しかし、だ。
彼もこの世界を熱心に探し続けたからこそ、認めたくはなくとも心中ではとっくに理解していた。
この地球には、自分が求めているファンタジーなんてモノはなかったのだと……。
『ファンタジー』とは『幻想』
創作の一ジャンルであって、フィクションだ。
たとえ地球上のどこを探した所で、実際に彼が求める幻想は存在しえない。
それに、現代ではオカルトの類はその殆どが解明され尽くしている。
つまり、あり得ないからこその『幻想』であり『ファンタジー』な訳だ。
明け透けに言ってしまえば。
『それは創作物でお楽しみ下さい』
この一文に集約できてしまえる代物。
いくら、彼が毎日飽きることなく、ファンタジー世界に想いを馳せて妄想した所で、実際にそんなファンタジー世界に、地球が生まれ変わったりはしないのだから……。
あぁ、なんて無慈悲で残酷なんだろう。
やっぱり彼……いや、君がこの世界で生きていくのは、酷く厳しいものがあるよ。
そう、だからこそ……。
だからこそ、『ぼく』が『きみ』を──
始めての小説執筆になります。
執筆のルールも勉強中の身ではありますが、自分も楽しみ読者様にも楽しんでいただけるような、そんな物語にしていきたいと思っております。宜しくお願い致します。
2017/07/10-改稿