幕間-Deipara oppugnatio
シャルとアルルの出発を見送った後のこと。
プリムたち大人組は、神妙な顔つきでとある場所へと赴いていた。
「プリム様。本当に言わなくてよろしかったんですか?」
「……ええ、あの子達は見た目以上に賢いし、それに察しも良いから。下手に話してしまえば余計な負担をかけちゃうと思うのよ」
プリムは目の前に広がる氷の世界を一瞥し、苦笑いを薄らと浮かべて言う。
──そう。
ここは昨日シャルが魔法によって作った例の場所。魔物の彫像と氷の花畑が広がる地である。
「それにね。これは知らないで済むなら知らないでいてもらいたいと思うから」
「あー、今のシャル達なら別に大丈夫な気もするけどな。こんな事を平気でやってのけるくらいだしよ」
プリムの言葉にエドが乗っかる。
そして、彼が指差している先にはシャルの魔法により凍りついた魔物が屹立している。
「こいつらに対してこの魔法。これは昔のプリムを思い出すなー。やっぱり親子は似るもんなんだな。対処が全く同じだ」
普段の暑苦しさを見事に感じさせない爽やかな表情で破顔する。
「流石に私も驚いたわよ。でもこれを普通の魔物と同じ括りで考えちゃダメよ?」
「ああ、そうだな。だからお説教ついでに潰しに行くんだろ?」
「ええ。でもまさか、この地域にまで現れるなんてね。昨日シャルちゃんから聞いてスゴく驚いたもの。あっちで何かあったのでしょうね。……まぁ、どうせ原因はオリエンスのアホでしょうけど」
そんな意味深な話を繰り返しながら、無風の氷冷地帯を歩んでいく三人。
足は凍りついた花畑の中心で止まった。
そして、プリムは両手を水平に伸ばす。
「でも──あんな奴なんかに、私の幸せを壊させはしないわ!」
瞬間。プリムから円形状に力の本流が拡散し、数秒ほど周囲一帯が真っ暗になる。そして、しばらくの後。暗黒がすぅーっと消えていく。
すると、どういう訳か今まで夢でも見ていたかの様に、景色の全てが元の姿へと戻っていた。
荒らされていた花々は、前の生き生きとしたものに。凍りつき捲れ上がっていた地面は、元の雑草に塗れたものに。
唯一の違いとして、凍結されていた魔物は元々存在なんてしていなかったかの如く、綺麗さっぱり消えてしまっていた。
この大変動を起こしたプリムは、何の感慨もなく上げていた両腕を下ろすと。
「さて〜、そろそろ私たちも行くとするわね〜。シャルちゃん達が戻って来るまでに〜、ちゃちゃっと片付けないとだもの〜。ミーレスちゃん、こっちのお掃除は任せちゃって良いかしら〜?」
「あ、はい! お任せ下さい。お二人ともご武運を! コミュニティ経由でアスラ様にも伝えておきます。連絡がつき次第、応援を要請しますね」
「ふふふ、ありがとう。じゃ〜あっ。久々に遠出するとしましょうか〜♪」
「だな。しかし鈍ってないか不安だな……」
「あら、付いてこられなかったら〜、エドは置いて行くわよ〜っ?」
「うっ、こりゃあ気合い入れねぇとっ」
シャルとアルルが冒険者になるべく候都へ旅立ったのと同日。
彼らの両親、プリムハートとエドラルドの二人も、後を追うようにしてウィーティスの町を発ったのだった。