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感奮興起のデパーチャー


「え、うん?」

「んぅ?」


 母様があっさり放った言葉で、ポカーンとなる俺とアルル。反応も期せずして似たようなモノになった。


 明日からしばらくファナールに行く?

 母様はそう言ったんでしょうか。


 いや、侯都ファナールは知っている。

 ウィーティスがあるゴトフリート男爵領のお隣。

 内陸側に広がるマールス侯爵領のことだろう。

 候都はこの辺ではギルド登録が行える唯一の場所として覚えていたし、いつか行くつもりでもあったから、別段驚かない。


 だからそこはいいのです。……いや、良くないけど今は置いておきます。

 問題は『明日から』の部分だ。

 それってつまり、文字通りな訳だよね。



 はい?



「ふふ、シャルちゃんはもう理解したみたいねぇ〜」

「んー、いや。本当に?」

「ふふ、ホントにホントよ。実はママも今日知ってね? すっごく驚いたんだから〜」


 んん、どういう事です?

 もちろんアルルも、頭からハテナマークをぽんぽん量産して目をクルクルさせている。



 という訳で、各人に事情聴取を決行して話をまとめてみた。その結果、どういうことか理解しました。


 母様は少し前から、そろそろ俺たちに冒険者登録をさせても良いと思ってくれていたみたいなんだけど、冒険者の登録は大きな都市にあるギルド本部でしか行えないのがこの世界の常識。

 各地にギルドの支部(ウィーティスには支部すらないけど)は多くあるが、依頼の斡旋のみで登録はできない。その為、俺たちが冒険者になる為には、一番近場の本部がある『候都ファナール』へと赴かざるをえないのだが……。


 この世界は今更だけど『地球』とは異なる世界──『異世界』なのです。

 危険度なんかも日本にいた時とは比べるのが馬鹿らしいレベルで、常に危険と隣り合わせでスリル溢れる日常を過ごしている。

 今日一日を振り返ってみても、その危険さが(うかが)えますからね。


 つまり、どういう事かというと。

 母様は男爵領から出たことがない俺たちが、出来るだけ安全にファナールへ行ける方法を色々探してくれていたみたいなのです。


 それで。


「私の知り合いに小さな隊商(たいしょう)を率いている友人がいるんですけど、その友人が近々ウィーティスの近くを通りかかるので、それをプリムさんにお伝えしたんですよ」


 と、ミーレスさん。


 うん。そういう事らしい。

 今日珍しくミーレスさんがウチに来ていたのは、おそらくその隊商の動向やらを伝えるためで。

 その結果、日程的に明日には出発しないと隊商の人達と合流するのが難しくなるみたい。

 母様が驚いたというのもわからなくもないね。

 流石にこれは急すぎるでしょうっ!



「んぅ、じゃあ、このパーティーって……」


 そこまで考えが及んで、やっと今日のパーティの意味がわかった。凄い遠回りした気がするけど。


「そうよ〜。今日のパーティーはアルルちゃんだけじゃくて、シャルちゃんの誕生パーティーでもあるのよ〜、それと出発の前祝いね! ふふふっ♪」

「ホントはちゃんと当日に祝ってやりてぇんだが、仕方ないもんなぁ! はっはっは!」

「すいません。私がもう少し早く連絡を取れていればよかったんですけど……」


 母様に父様、ミーレスさんが次々にそう語る。

 確かに今日くらいしか時間取れないか。

 誕生日の当日は候都に向かう途中になっちゃうだろうし。


「そっか。だから急いでパーティーを──ん? どうしたのアルル?」


 アルルが脇からくいくいと袖を引いてきたの振り向く。置き去りにしちゃったかな。

 俺は少々申し訳ない気持ちになる。


「シャルくん。これってシャルくんとあたしの誕生パーティーなんだよね? それで明日から候都まで冒険者の登録をしに行くってこと?」


 確認するかの様に俺に問いかけるアルル。

 その表情は俯いていてあまり読み取れないが、しっかりと現状の把握はできてるみたい。流石である。


「うん。明日ミーレスさんの友達の商人さん達と、隣の宿場町で合流するんだよ。それから候都に行って冒険者登録だね」


 さっきおこなった聴取で聞いた明日の予定を、丁度良かったからアルルにも教える。

 それに対してアルルはというと。


「…………たね」

「ん、たね?」


 未だに俯き加減のまま何かをつぶやいた。

 それを俺は繰り返したんだけども。


 あ、なんだろう。

 この久々の既視感(デジャヴ)。なんかこの後に起こる事がありありと想像できるよ?


 なんて考えを肯定するかの様にアルルがバッと顔を上げて──



「やったね! やったねやったね!! シャルくん!! 冒険者だよ〜! 冒険者になれるんだよ〜!!」



 ──俺の方に詰め寄ってくるアルル。

 いや突っ込んでくるって方が正しい。


 気づいた時には手遅れで、俺はアルルに抱きつかれ、お互い縺れるようにして床に倒れこむ。

 んっ、ごめんなさいアルルさん。

 あたくしチビっ子だから、アルルの歓喜の抱擁を受け止めきれなかったです。あはは……。



 俺はしばらくされるがままに抱きつかれ、アルルがクールダウンするのを待った。

 無論、待っている間は恥ずかしさを押さえ込んでおりました。慣れるとか言っても一日じゃ無理に決まってます。当たり前でしょ?



「あ、シャルくんごめんね! 大丈夫〜?」

 

 我に返ったアルルが俺の手を引いて立たせてくれる。うん、なんて紳士。

 しかし嬉しいのは変わらないのか、いつもよりも笑顔が三割り増しくらいで弾けている。



「うん、大丈夫。僕もアルルの気持ちはわかるから」


 四歳の時から約二年と九ヶ月。

 やっと冒険者になる事を認めてもらえたんだから。

 表面上は自制してるが、内心今にもはしゃぎ出しそうなくらい嬉しいんだよ?


「うんっ! す〜っごく嬉しいっ!! えへへ〜♪」

「そっか、そうだよね。んっ、頑張ろうね」

「えへへ、頑張る〜っ!」


 俺はアルルの頭を自然に撫でて、お互い笑い合っていた──んですが。


 

「ふふふ、相変わらず姉妹仲が良くて素晴らしいわね〜♪」

「はい、これならアルルちゃんと仲良し姉妹と噂されちゃうのも頷けますー」


 母様達からの『微笑まオーラ』を向けられて、恥ずかしい事をしてる訳でもないのに、何故か羞恥心が湧き出てくる。というか聞き間違いかな?


 いま母様まで姉妹とか言ってた気が……。

 ううん、気のせい、だよね……?!



「ぁ、アるル、喉乾いてないかな?! 僕がついであげるよ、ほら、ね? 母様もミーレスさんも!」

「んぇ? んー、お願いします?」

「あらあら〜、じゃあお願いしようかしら? ふふふ」

「ありがとうございますね、シャルちゃ……君!」

「いえいえー」


 こういう時は勢いでごまかすに限ります!

 ふふふ、これこそ戦略的撤退で間違いないはず。話題のすり替えは大人の特権なのよー。




 ◾︎◾︎◾︎




 途中、母様たちの微笑まオーラを受けて恥ずかしくなったりもしたけど、パーティーはその後も楽しく進んでいった。


 今は陽も完全に落ちて、外は夜の帳に包まれているのだが、ミーレスさんは今日うちに泊まっていってくれるという事なので時間を気にする必要もない。

 それでいいのかな院長代理。まぁアルルが嬉しそうだから個人的にはいいんだけどね。


 で。


 食事も終わり、ブレイクタイムも終わった俺たちがいま何をしているのかといえば。


「あら、シャルちゃんもアルルちゃんも凄く似合ってるわよ〜」

「よかったです。サイズが合わなかったらどうしようかと思いましたが、大きめに作っておいて正解でしたね!」


 追加でサプライズを受けている所です。


「これホントに貰っちゃって良いんですか、ミーレスさん」

「はい、是非受け取ってください。その為に用意したんですから」


 ミーレスさんにそう言われ、俺は自身の姿を改めて見やる。


 丈夫でありながら華奢な形状のロングブーツ。手触りの良い丈夫な生地で作られたショートパンツ。黒と紅が主色のバトルウェア。それに加え、外套や腕当て、ベルトポーチ等々の装飾品を含めた完全装備に身を包んでいる。


 向かい側には、パンツがスカートになっている点と色合い以外まったく同じ格好をしているアルルがいる。アルルは青系統が主色みたいだね。

 うん。似合ってる。可愛い!


 これはなんとミーレスさんからのプレゼント。

 嬉しいことに、この日の為にわざわざ特注で用意してくれていたらしい。


 冒険者経験のあるミーレスさんが用意した事もあって、どれも機能性に優れた物だらけ。

 相変わらずというか俺の服はメンズというよりはレディースっぽいのだが、今更なので気にしません。



「ありがとうございます、ミーレスさん。それじゃあお言葉に甘えて頂戴しますね。明日からさっそく使わせてもらいます」

「えへへ。ありがとうミーレス先生!!」


 ミーレスさんに心からのお礼を言う。


「ほれシャルにアルルよ。これも持て持て」

「あ、はい」

「はぁい♪」


 間髪入れずに父様から『不思議な短剣』をグイッと手渡される。

 それはスティレットに似た形をした三十センチほどの黒い短剣。主な特徴は柄頭に魔石が装着されている事と、刃が付けられていないこと。あと刃も柄も全てが黒いことか。


 今さっきこの不思議短剣の説明をしてもらえたんだけど、この短剣も色々と凄い。

 いやスペック的におかしいというべき?



「うぅ〜〜!」


 俺の向かいでは、早速アルルが剣の魔石部分に少量の魔力を注いでいる。

 すると短剣が光だし、みるみるその形状を変えていき──黒い長剣に変わった。

 形が変わったその長剣には刃もちゃんと付いている。


「おぉ、もう使いこなせるのかぁ。はっはっはっ! こりゃあ驚いた流石じゃないか!」

「えへへ〜♪」

「じゃあ僕も……」


 俺も同じように魔石に魔力を注いで、その完成形を想像していき……──その形状を黒い『打刀(うちがたな)』に近い片刃の剣に変えた。


「シャルも出来たみたいだな。うむ、これはまた珍しい武器を……シャルはそんな武器も知っているのか。本好きなだけはあるなっ。はっはっはっ!」

「珍しい、へぇ〜」


 自分にとって最も馴染み深い武器だったからつい形作っちゃったけど、まさか刀に似た武器がこっちにもあるとは知らなかった。

 それを知っている父様にもビックリ……。




 あ、うん。コレはそんな感じの武器なんです。

 この短刀は正式名称を『アラギ剣』。

変幻魔鉄(へんげんまてつ)』という魔力を流し具体的な造形を想像するだけで、様々な形へと変化するという謎鉄素材を使って作られているそう。


 元があんなに小さいのに、大剣とかにも変形が出来るんだから、質量保存の法則とか諸々に喧嘩売ってるとしか思えない鉱石だよねこれ。でも俺にはおあつらえ向きな武器でもあるんだよ。想像は得意分野ですし。


 そんな希少な短剣をプレゼントしてくれた父様。こんの貰って嬉しくない訳がないです!


「父様もありがとうございます!」

「大切につかいますっ!」


 アルルと息ぴったりにお礼を言う。


「おう、喜んでくれてよかったぜ!」


 そんなことを言って俺たちの頭をポンポンと軽く叩きながら快活に笑う父様。

 決して安くはないだろうものを、容易くポンとプレゼントしてくれる父様男前。カッコいい。


「最後はママね〜。じゃあこっちに来てくれるかしら? シャルちゃん、アルルちゃん」


 俺たちは剣の形状を元に戻して、腰のベルトに短剣を収めてから母様の前に立った。

 母様が何をプレゼントしてくれるのか分からないけど、さっきから素晴らしい物を頂き過ぎて、嬉しさが振り切れそうである。


「それじゃ〜、二人とも少し目を閉じていてくれるかしら?」


 言われたとおりに目を閉ざす俺とアルル。

 それから数十秒ほど待って、前にいる母様の動きが止まったのを感じ取る。


「ふふ。もう良いわよ〜、目を開けても」


 目を開けると、にっこり笑う母様と目が合った。

 母様は自身の胸元をツンツンと突いてジェスチャーをしたので、俺はゆっくりと胸元に視線を落とした。

「「わぁ、綺麗」」


 視界に入った物をみてアルルと一言一句ズレないでハモった。

 首からはそれぞれ、じんわりと仄かに光る宝石が付いたペンジュラム型のペンダントがかけられている。


「ママからはそれ。これからの二人の安全を祈って作った、プリムハート印のお守りよ」

「これを手作り?」

「わぁ〜凄いの!」

「ふふ、気に入ってくれたみたいで何よりだわ〜♪ 頑張って作った甲斐があったってものね!」


 両手を合わせて笑顔を咲かせる母様。

 このお守りを見れば、母様からの惜しみない愛情が溢れんばかりに伝わってくる。

 それだけ心を込めて作ってくれたんだろう事がありありと想像できる。


「アルル」

「ん」


 アルルは皆まで言わなくても大丈夫という風にコクリと頷くと、白銀の髪を翻していつもの定位置、俺の左隣に来る。

 そして俺とアルルは母様たち三人に向き合う。


「母様、父様」

「ミーレス先生」


 一拍。息を合わせ。

 満面の笑みを浮かべて。


「「ありがとうございます!」」


 アルルと一糸乱れずお礼を言う。

 この内心の感謝を全て伝えるなんて到底出来ないけど、少しでも伝わってくれればいい。

 そう思っての行動だった。




「ふふ、どういたしまして。でもお祝いするのは当たり前のことなんだから、あんまり堅くならないでちょうだいね」

「そうだぞっ!! プリムの言う通り、家族を祝うのは当然なんだからそんな気にしなくていいさ、はっはっはっ!!」

「私はお礼される程の事をシャルくん達にしてあげられてないんですから。むしろ私の方こそお礼を言いたいくらいです」


 当たり前、なんだね……。

 そっか、やっぱりこういうのって良いな……。ふふっ、アルルも同じように感じてるみたい。



「んふふっ♪」

「えへへっ♪」


 お互い自然と頬が緩んでいる。

 まぁいいよね、こんな時くらい取り繕わなくても。





 ◼︎◼︎◼︎





 パーティーを最後まで楽しみ尽くして翌日。

 俺たちは先程まで、ウィーティスの知り合い達に、暫く町を離れると挨拶周りをしてきた。

 それも終わった今は、出発準備を万端に家の前で母様たちと対面している。


「うむっ、二人とも良い顔をしているな! これなら何も心配いらないかもしれんな! はっはっは!」

「シャルくんにアルルちゃん。二人なら大丈夫だと思いますが無茶はしないで下さいね。応援していますよ」


 父様が相変わらずな態度で、ミーレスさんが少し心配を覗かせた態度で、それぞれ激励してくれる。

 昨日の時点で何度も激励を貰ってるのだが、何度されてもこういうのはやる気がでますね。


 最後に母様が俺たちの前に一歩踏み出す。


「じゃあ、シャルちゃん、アルルちゃん」

「「はいっ」」


 溌剌に返事をして、母様からの素晴らしいお言葉を賜るべく直立して待つ俺ら二人。

 母様もそんな俺たちの姿をみて、鷹揚に頷きつつ口を開く。


「では、あなた達二人にこれまでの総まとめとして、試験を与えますね〜?」

「はい。……はい?」

「試験?」


 父様たちみたいに激励の言葉をもらうつもりでいたから、予想してない話題を出されて素っ頓狂な声が出た。


 やはり母様、こんな時でも気が抜けない。

 昨日から驚いてばかりな気がするんだけど。もっと何事にも動じない心を持たないとダメなのかも……。

 

「母様。今から試験ですか?」

「お義母さんと戦うの?」


 これはあれですか。

『旅立つに前に、この私を倒してから行きなさい!』という感じの、よくある熱い展開なのだろうか。

 うわぁ、勝てるわけないわ。

 無理難題とはこのことかー!



「ふふ、違うわよ。だからそんなに構えないで頂戴。試験と言っても簡単な事だから」


 あ、違うのか。

 よかった。母様を相手になんてホント冗談抜きに勝ち目がない。アルルの方は少し残念そうにしてるけど俺は見なかったことにする。


「それで、シャルちゃん達に出す最終試験はねぇ〜……」


 ごくっ。二人して固唾を呑む。



「『冒険者になって無事に帰ってくること』よ! 無事帰って来られたら、ママはシャルちゃん達を一人前として認めてあげます♪」


 母様からの激励? を受けて一拍。

 俺とアルルはお互いに目を合わせると互いに頷き合い、二人して母様に抱きつく(・・・・)


「はい、勿論です。絶対無事に帰ってきます。約束です!」

「あたしも約束! えへへ!」


 もともと冒険者登録をしたら一度戻るつもりだったし。旅に出るにしても全然経験が足りないから、慣れるまでは普通の冒険者として活動するって既にアルルとも話を済ませている。

 つまり、この試験というのは『お願い』に近いものなんだろう。きちんと帰ることを約束する。


「んもうっ、こんな事されたら引き止めたくなっちゃうじゃないのよ〜」


 母様は困った様な声をあげてはいるが、顔は満面の笑顔で俺たち二人をまとめて抱擁してくる。


 しばらく三人で抱擁を交わしてから俺たちはゆっくりと離れる。そして母様としっかりお別れの挨拶を交わした後、とうとう出発した──



「あ、そうそう!」


 ──と思ったのだが。


 母様がふと思い出しかの様に声をあげて駆け寄って、一枚の手紙? を俺に手渡してきた。


「これを渡すのを忘れてたわ〜。危ない危ない。向こうに着いたらこの手紙に書かれている人の所に行ってみなさい。向こうで力になってくれると思うわ〜」


 俺は手紙を裏返して、そこに書かれている名前を見る。えーと。


「プルトーネ?」

「えぇ、たしかプルちゃんはあの街に住んでいたし、冒険者もまだやってると思うから、色々な事をいっぱい教えてもらうといいわ」

この人も母様の(・・・・・・・)?」


 主語の抜けた問いをすると、母様は微笑んで「そ、ママのお友達よ〜♪」と、当然ですといった趣きで返した。


 うん、友達が多いことは良いことだよねぇ。いいな〜。

 俺はアルル以外いないからね。それにアルルはもう家族だから実質友人いないです。

 フフフ。

 母様の交友関係がとっても広いのは今更だし、もう驚きませんよ。


 それに、この話は俺たちにとって素直にありがたい話でもある訳だし。


「母様ありがとうございます。向こうに着いたら会ってみます」

「ふふ、そうしてちょうだい。じゃあ頑張ってねシャルちゃん、アルルちゃん」

「「はい頑張ります!」」



 今日一番の大声でしっかりと頷き、今度の今度こそ出発した。




 俺とアルルは、母様や父様、ミーレスさんの姿が見えなくなるまで手を振りつつ歩き、隊商と合流する地点の宿場町に向けて足を進める。



「シャルくん」


 姿が見えなくなった後ろ方向に顔を向けていた俺が声に反応して振り返ると、アルルが右手を差し出してきていたので、その手を自然な動作で取った。


「うん、行こ」


 母様達にここまでお膳立てしてもらったんだ。こんなイージーモードとも言える態勢でヘマなんて出来る筈もないかな。

 絶対に冒険者になってみせる。


「よーし頑張ろー」

「お〜!!」


 俺たち二人は気持ちを更に奮い立たせて、足取り軽く道を突き進んで行くのだった。


 目指すは大都市──候都ファナールだ。




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