表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/104

会者定離のソサエティ


 あの気色悪い魔物を氷漬けにしてから、俺はアルルの元へと無事帰還。笑顔で出迎えてくれたアルルとの再会を分かち合った。


 そして、現在はコルさんを安地に寝かせたまま、アルルと二人で凍りついた花畑に戻ってきている。

 この氷結地帯は、いまさっき俺が魔法をぶっ放して作りだしたばかりの場所です。


 で、何しにこんな場所に立っているのか。

 それはもちろん、例の魔物の観察をする為です。

 一種のファンタジー探求であります。



「わぁ、すごぉい。やっぱりみたことない魔物さんだ〜」


 氷の彫像と化した魔物の前で、両の手を合わせつつアルルが呟きを漏らす。独り言だったのだろうが、俺の耳にもその声はきちんと届いた。


 いまこの場所は、俺の魔法の影響で無風空間となっているので声が凄く通る。ついでに、吐息が白くなるくらいには低温空間でもある。



「やっぱりアルルも見たことないよねー、この気色悪い魔物。いや、今更だけどこれってそもそも魔物なのかな? なーんか違和感みたいなものを感じるんだよねぇ……」

「うーん、どうなんだろ〜。でもこの魔物さんは、家の図鑑に載ってるどれにも当てはまらないよね〜」


 興味津津というのが丸分かりなほど、目に強い光を宿してアルルが言う。

 かくいう俺も同じようなものだけど。


 このグロテスクというか、恐怖を(あお)る様なビジュアルの魔物に、一切物怖じしない──むしろ好奇心が湧くとは。恐るべき六歳児です。


 ただ、アルルの言う通りなんだよね。

 うちには何故か知らないが、魔物の特徴が記されている蔵書が幾つかあったりする。

 その本には、色々な魔物の情報が載っているんだけど、目の前の特徴をもつ魔物はなかったと思う。


 最初は見た目から勝手に食屍鬼(グール)とかの類似生物かな〜って思ったけど、食屍鬼の特徴には『二足歩行』って単語があったし違うのでしょう。

 そもそも生息域がおかしいものね。


 まぁ、自分で言うのもなんだけど、俺はこの世界の魔物事情にまだまだ疎い。単に勉強不足だというのは認めるけど、それはさておくとします。

 不思議なのは、何故この生き物がこの場に居るのかという疑問。実は、このウィーティス周辺地域には、基本的に三種類の魔物しかいない。


 一つ目が今日狩った『ワイルドボア』。

 二つ目に一匹あたりが人間サイズの大兎『ラックラパン』。

 三つ目は他二匹より更に大きく凶暴な『パンツァベア』と呼ばれるクマっぽい魔物。


 これが此処ら一帯にいる魔物の種類。

 それ以外の種類はいない。

 母様がそう言っていたし確実な情報だ。


 三種類しかいない筈のこの地域に、謎の魔物が現れたっていうのは気になるところだよね。

 まぁ、俺も殆どの魔物を知識だけでしか知らないし、一目でどんな魔物かを判断するなんて出来ない。

 この魔物だって本に載ってないだけで、実は有名な魔物だったという可能性もあると思うし、生態系が乱れた結果、この魔物が現れたってことも普通にありそう。


 そうなると、いま気にした所でどうしようもないんだし、深く考えなくてもいいのかなー……。

 んぅ〜、ここは割り切っておくべきかも?

 あんまり考え過ぎても意味はないし。


「……んっ」


 俺もさっきから楽しそうに観察してるアルルを見習って、純粋に知的好奇心を満たすとしよう。

 さっきから凄く気になって仕方なかったのです!



「アルル、何か面白いことわかったー?」


 熱心な生物学者のごとく魔物を観察していたアルルに近寄って、静かに声をかけた。




 ◼︎◼︎◼︎




 さて、どうしたものか。


 例の魔物観察も時間的にサクッと切り上げ、今はとりあえず街道まで戻ってきていた。

 放置してたコルさんも連れてきている。

 連れてくる際は、アルルがコルさんの両手、俺が両足を持つという方法で運んできたよ。


 体格差って残酷だよね。アルルが腕を引っ張って助け出した理由も、なんとなくわかっちゃったよ。

 自分より大きな人間って凄く運びづらいです。

 まったく、意識を取り戻してもらえれば楽だったものを……。


 あと魔物の彫像と氷の花畑はそのまま放置してあります。後始末は、母様に聞いてから決めようと思うので、そのままです。


 俺が使った凍結の魔法も、一度発動すればあの場の魔力がなくならない限り半永久にそのままだから、こういう時にも役立つ。

 それに溶けた所で、身体の隅々までズタズタで既に死んでるから、安全面も問題ない。



「んぅ……どうしようかなぁ」


 それで、いま俺たちが何に悩んでるかというと。

 コルさんの後始末についてだ。

 あ、後始末といっても殺す方じゃないよ?

 わざわざ助けたのに殺すとか、どんな鬼畜な所業だって話だからね。助け出した手前、ある程度は面倒みないとなってことです。正直言えば帰りたいけど。


 まぁ、このままウィーティスに運ぶのが安全で良いんだけど。それだと帰る頃には完全に暗くなってしまうだろう。

 俺はこうやってアルルと単独(?)行動を許されてはいるけれど、普段から明るいうちに帰る事を心がけている。あの母様達に少しでも心配掛けたりしたら……うん、恐ろしいことになりますので。


 でも、このまま放置は危険だしなぁ。

 明日来てみれば死んでいましたとか嫌すぎる。



 ──と、なると。


『アルルを先に帰して事情説明をしてもらう』ってのがベストかな。俺だけでもコルさんを運べないことはないし、ズルズル引きずっていきましょうか。


 そうと決まれば。


「ねぇ、アル……」

「お〜? シャルちゃんとアルルちゃんじゃないかぃ?」


 俺がアルルに声をかけようとした時、丁度タイミングよく? 悪く? 逆に声をかけられた。

 声の主はアルルでもないし、コルさんでもない。

 そう、その人とは……えっと、う〜んと。

 あれ……うー、うんっ! 名前は思い出せないけど、町長の所でたまに話すオジサンです。


 この人は町長の下で働いており、よく顔を見せる俺たちに良くしてくれるワイルド系のオジサンだ。

 名前思い出せなくてごめんねオジサン。人の名前を覚えるのって苦手なのです……許して下さい。


「おいおい、こんな時間にどうした? もうすぐ暗くなっちまうぞー?」

「あはは、帰る途中にちょっとありまして……オジサンこそどうしてここに?」


 俺はオジサンを一瞥した後、その後ろにある荷馬車を見て言った。


「あぁ俺か。俺はシャルちゃんたちが今日狩った魔物を解体して、素材を回収してきた所だ。いやぁ流石だな。あんなに倒してるとは思ってなかったから、ぶったまげたもんだぜー」


 そういえば町長が回収の者を出すって言ってたっけ。オジサンがそうだった訳ね。

 これはなんて素晴らしいタイミング。


「あの〜、オジサン。ちょっとお願いがあるんですけどー……」


 俺はこれ幸いにと、コルさんが魔物に襲われていた事を簡単に話し、コルさんを一緒に乗せて行ってもらえないかとオジサンにお願いした。


 すると、オジサンは快く請け負ってくれた。

 コルさんも任せてくれと心強いお言葉をくれたので、俺たちは無事に解放、帰路へつけるのでした!


「はぁ、やっと帰れる」

「今日はホントいろいろあったもんね〜。ミーレス先生はもう帰っちゃったかなぁ」


 俺の小さな嘆息を拾い、同意するアルル。

 そういえばミーレスさんってうちに行ってたんだっけか。コルさんフラグ騒動で忘れてた。


「んー、どうだろう。時間も時間だし帰ってる可能性の方が高いのかな……」


 ミーレスさんがなんの用事でうちに来てるのかによるけど、そんなに時間はかからないと思うし。


「そっかぁ、ざんねんなの。ねえ、シャルくん。またミーレス先生のところに行くとき、一緒に付いてきてくれる?」

「うん、いいよ。元々そのつもりだったからね」

「えへへ、ありがとうシャルくん!」


 アルルは少し暗かった表情を朗らかな笑みに変えて、コルさん騒動が起こる前までしていた様に、左腕にピタッと張り付いてきた。


 ……よし。

 今度は情けない態度にならなかったよ。

 これくらいなら慣れの範囲内だからね。




 ◼︎◼︎◼︎




「あらっ、二人共やっと帰って来たわね〜? さぁさぁ、早く席に着いてちょうだ〜い。今日はパーティーなんだから〜〜! ふふふっ♪」


 帰宅後。扉を開けた所で見計らった様に立っていた母様が、そんな事を言ってきた。


「パーティー? 今日って誰かの誕生日でしたっけ?  あ、もしかしてアルルの?」


 でもアルルの誕生日ってもう少し先な気が。俺が家族の誕生日を間違えて記憶する可能性はないし〜〜。


「ううん〜、近いけど少し違うわねぇ。二人ともまだちょっと先だもの〜。ふふふ〜」



 ん? じゃあこのパーティーは一体。


 前送りにする理由もないハズだし、他にパーティーをする理由が思いつかない。左にいるアルルも俺と同じ様に、頭に疑問符を浮かべちゃってるし。


 あ、ミーレスさんのかな?

 でもアルルなら知ってそうな気もするしなぁ。

 反応していないってことは違うんだよねー……。


「ふふっ、とりあえず二人とも席についてくれるかしらぁ? 色々と話すこともあるからねぇ」

「ん?」

「話すこと〜?」


 俺たちは完璧に同じタイミングで小首を傾げるが、言われた通り素直にダイニングへ向かう事にした。

 母様の後ろに付いてダイニングに入ると、確かに『パーティー』だと分かる様相を呈していた。


 部屋全体が飾り付けされて華やかになっていたし、テーブルの上にも普段より豪勢な料理が並べられている。朝方、俺たちが家を出た時にはこんな飾り付けされてなかった訳だから、今日の昼にかけて飾り付けをしたってことなのかな。

 なにかすごい気合入ってるけど、ホントに一体なんのお祝いだろう?



「お! 帰ったか二人とも! 待ちくたびれたぞっ。はっはっはっ!」


 そんな思考に耽っていたら、俺たちが帰るのを待っていたのであろう父様から声がかかる。相変わらずのハイテンションである。


 そして。


「お帰りなさいシャル君、アルルちゃん。遅かったから心配しちゃいましたよ」


 父様の斜向かいの席には、普段はいない筈の人物であるミーレスさんがいた。

 うちに来てるって聞いてたけども。

 この時間にいるとは思わなかったから驚いた。

 隣ではアルルもポカンとしてるし。


「え、なんで?」


 完全に無意識だろうが囁くような声。


「プリムさんからこのパーティーにお声がけ頂いたので、お邪魔させてもらってるんですよ」


 言葉が聞こえた訳ではないと思うけど、席を立ってアルルの前まで近づいてくる。

 そのまま頭を撫でて「アルルちゃん、見ない間に少し背が伸びましたね」と笑顔を向ける。

 アルルはハッと意識を戻し、ミーレスさんと話だした。その声は弾んでいて嬉々としている。



「ミーレスさんも凄く嬉しそうです」

「そうねぇ、お互いに会いたかった〜って事なのかしらねぇ。ふふっ」


 アルルと藹藹(あいあい)に話すミーレスさんを見てそんな事を母様に聞いてみたんだけど。

 確かに随分会ってなかったからねぇ、あの二人。

 アルルの養子引取り云々以来ちょくちょく会ってはいたけど、最近は会えてなかった。




「積もる話もまだあるでしょうけど〜、先に食事を頂く事にしましょうか。 シャルちゃんもアルルちゃんもお腹減ってるでしょ?」

「うんっ!」「うん」


 俺と母様はアルル達の心温まるシーンをしばらく見つめた後、少し遅めの食事タイムに移行した。


 母様には色々聞きたい事(主にこのパーティーについて)があるのだが、この食欲には抗えなかった。

 今日の昼食がパンだけだったから余計に。

 俺たちはテーブルに広がる料理。

 近海で取れた新鮮魚介料理や、野菜たっぷりのスープ、様々な種類のパイなどを美味しく召し上がったのだった。やっぱり母様手作りの料理は美味しいね。



「それで母様。このパーティーって一体なんのパーティーだったんですか? さっきから凄く気になってたんですけど」

「あ、うんうん!」


 楽しげな夕食を終えて、やっと気になっていた事を質問する。

 アルルもコクコクと首肯しながら乗っかってきた。


「あ〜、そうねぇ。まずどこから話しましょうね〜」


 片方の頬に手を添えて目を瞑り何やら考えている母様だったが。数秒で考えがまとまったのか、その目を俺たちに合わせる。


「そうね、じゃあこのことから言うわね〜」


 と。コホンと一拍入れた母様は……。



「シャルちゃんとアルルちゃんには〜、明日から暫く(・・・・・・)、隣の領土の大都市。『候都ファナール』に行ってもらう事になったわ〜」



 そんな言葉をなんでもないことの様に、凄〜く軽いノリで言い放った。





2018/04/03-誤字脱字、誤用修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ