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傾城傾国のトランセンド



 二人して林を縫うように疾駆。

 声が聞こえた方向へと、更に強化した嗅覚でもって辿っていく。


 程なくして悲鳴の発生場所にたどり着いた。

 そこは綺麗な花々が咲き誇る天然の花畑。俺とアルルがときどきお花を摘みに来たりする場所でもある。

 だが、今やその花畑もある存在によって無残に荒らされていた。



「……なんか気持ち悪い」

「うんうん、あんな魔物見たことないかも〜」

「戦った事ない魔物かー。ん、どうしようかな。見た感じ強くはなさそうだし、このまま助けに入っても大丈夫かな?」

「じゃああたしが先行してもいーい?」

「あはは……アルルはやる気満々だね。でも無茶はしないでね? 僕の方でも援護するけど」

「はぁい!」


 戦い大好きアルルさんが、未知の魔物を前に興奮してらっしゃる。瞳がキラッキラッしてるよ。

 先ほどとはえらい違いですね……。



 と、緊急事態とも言えるこの状況で、マイペースを崩さない我々は置いておくとして。

 俺たちの視線の先には、人の型をした黒い生命体が──ひぃ、ふう、みい……うん、いっぱい居た。


 見た目は、気色悪いヒト型の魔物。

 四つん這いになってカサカサと俊敏に動いている。

 顔に当たる部分には醜悪な口があるだけで、のっぺりとしていて。目は無いし鼻もない。

 他にあげられそうな特徴として、身体全体から黒い霧というかオーラみたいなのが仄かに漂っている。


 そんなとにかく気色悪い謎生命体が、(くだん)のコルさんを大挙して追いかけている。


 コルさんは既に満身創痍で服もボロボロ、身体も少なからず負傷しているし、表情には鬼気が迫っている。このままだといつ追いつかれてもおかしくない状態。まったく見事な自業自得っぷりです。

 死亡フラグを立てた割に、無事なのは運がいいのか悪いのか。まぁ生きてるに越したことはないかな。



「……ふむ」


 じゃあ漂ってきた血の匂いはいったい誰の……あぁ、そうか。

 恐らくコルさんの愛馬。足が速くて魔物ヨユーダゼな名馬さんのものだと予想。

 それなら魔物に付いてる返り血の量にも頷ける。

 かなり前に町を出立したコルさんが、未だこんな場所にいるのにも説明がつく。

 最初に馬が襲われて、その後は身一つでここまで必死に逃げて来たって感じ?



「うわぁぁああぁああぁぁぁ!」



 俺が真相を模索していると、コルさんが魔物に囲まれ追い詰められていた。


「アルル、こっちはいつでも大丈夫だよ。お好きにどうぞ。タイミングはいつも通りでねっ」

「うん! まかせて〜!」


 早口の会話とアイコンタクトで意思疎通を図る。

 アルルは黄金の闘気をさらに強く纏って、足に力を入れる。対して俺は詠唱短縮(・・・・)を駆使して魔法を紡ぐ。


 百メートルほど先では、今まさに魔物が強靭な腕を振り下ろし、コルさんの首を跳ね飛ばそうとしていた──その瞬間。


 割り込むようにして一条の閃光が走り抜ける。

 一拍、コルさんに襲いかかっていた魔物たちが、原型を失うほどバラバラになった。



「流石はアルル」


 あと僅かでも駆けつけるのが遅かったら、コルさんはこの世からおさらばしていただろう。


「シャルく〜ん。コルさん無事だったよ〜!」

「アルルもお疲れさま。あの距離で間に合うなんて、流石アルル。やっぱり凄いね」


 仕事を終えたアルルが、その手にコルさんを伴って優雅に舞い戻ってきた。


 このコンマ数秒に何があったのかだが。

 単純明快。力押しでコルさんを助けただけである。魔物たちが一番無防備になるタイミングで、俺がコルさんの周りの魔物を掃除し、そこに血路を開いたアルルが飛び込んで救出する。

 言葉にすればそれだけの話ですね。


「えへへぇ、褒められちゃったぁ♡ ──あ、でもこれくらいなら、シャルくんでも出来るよね?」

「ん〜、いや、それは難しいかも?」


 俺はアルルの救出してきたコルさんを見やる。

 恐怖から気絶してるのは仕方がないとして。

 異様にグッタリしてるのは気のせいではないはず。白目剥いて泡吹いてるし。


 一部始終見てたから知ってるけど。

 アルルがコルさんを救出する際、背負うでも担ぐでもなく、ただ手を引っ張ってくるという荒技で連れてきたのを目撃しました。そりゃあ豪快でした。


「ん、アルルってばホント凄い」

「そうかな〜? わぁい♪」


 言葉を純粋に受け取ったアルルは、朗らかな照れ笑いを浮かべた。うん、これはこれで癒される。

 まぁ、コルさんはこうして無事だったんだし、慢心した報いとして、このくらいの扱いは謹んで受け取って下さい。


 とりあえず、回収したコルさんは安全な場所にゆっくりと寝かしておく。




「さて、お次は──」



 どどどどどど。


 こんな擬音がつく勢いで向かってきているのは、さっきの討ち漏らしだ。

 攻撃範囲の外にいた残りの化物たちが、当たり前だがこちらに気づき、一直線で向かってきている。


「ねぇ、アルルー。貰い物の中に『クラルの実』ってあったかな?」


 意識は敵に向けたままアルルに問いを投げる。


「クラルの実? うん、あったよ〜……あっ! それならあたしに任せて〜!」


 唇に指を当てて思考していたアルルだが、すぐに俺の言いたいことを理解したみたい。

 察しが良くてホント助かります。


「ん、じゃあお願いするね」

「えへへ〜っ、ちゃんとお義母さんに教わったから大丈夫〜! 任されました〜!」


 俺が背負っていた貰い物を詰めた袋を手渡すと、アルルはコルさんが横たわる場所に小走りで向かって行った。


 アルルに言った『クラルの実』というのは、一見すると普通の果物。ただ、果汁に消毒成分と微量だけど癒しの魔素が含まれている。


 俺がいま何を言いたかったかというと。

『コルさんを応急処置したいんだけど、クラルの実ってある?』と問いかけていたわけです。

 それをいち早く察して、ましてや応急処置まで請け負ってくれたのだから、ホント素晴らしい機転をもつ六歳児です。



「さて、応急処置はアルルに任せるとして、こっちはどう動こうかなー……」


 アルルとやり取りをしているうちに、グロテスクな化物たちがすぐ側まで迫ってきている。

 んー、あんまり手間はかけたくないけど、初見の生物だから仕方ないかー。


 俺はペチペチと軽く頬を叩くと、魔物に向かって歩みを進めていく。

 奴らは俺に近づくや否や我先にと飛びかかってきた。その潔い突進っぷりに思わず苦笑いしながらも、攻撃はしっかりと躱していく。


 そしてしばしの間、細々とした検証を含めて魔物たちを相手に大立ち回りを繰り返し、そろそろ十分かなーっと見切りをつけると、簡易的な情報収集と分析を終える。




「シャルくん大丈夫〜っ?」


 少し時間をかけ過ぎたのか、アルルのやや心配そうな声が遠くから聞こえてきた。


「うん、大丈夫だよー。すぐ終わらせるねー」


 いけない。アルルを不安にさせてしまった。

 さっさと片付けよう。


 簡単な分析結果だが、この魔物は予想通り弱い部類といえるでしょう。

 攻撃は近接のみで連携なし。単調な本能による行動ばかりで知能も低い。知覚能力はやや発達しているものの、特に脅威とは呼べないレベル。おどろおどろしい見かけに反して、特殊な力も見受けられない。

 攻撃による病毒の有無に関しては分からないが、毒液などの噴出などもしてこないため、近接攻撃に注意していれば問題はなさそう。


 ──結論、戦力的にただの獣と大差なし。




「でも各個撃破だと時間がかかって面倒だし、一度離れてもらいましょうか」


 纏っている深紫のオーラを確認し、間髪入れずに詠唱を開始。この三年近くで修めた新技術『詠唱短縮』と併せて魔法を構築していく。



「我、風の祝福を得し者、“豪風の波”、“防渦(ぼうか)御域”(おんいき)をもって生み出さん」



風波の防渦域ヴェントゥス・ウェーブ



 群がる魔物の攻撃を躱しつつ、詠唱を終える。

 放つ魔法は中級の風魔法。攻めにも守りにも使えるなかなか便利な魔法の一つだ。


 魔法を発動。

 発動から間髪を入れず、自分を中心として暴風が巻き起こる。魔物たちは風に抗おうとするものの、抵抗むなしく彼方へと吹き飛ばされていく。



「ふぅ、これで余裕をもって詠唱できるねー」


 魔物達との距離が数十メートルほど開いた。

 落ち方が悪かった魔物は地面に伏せって痙攣しているけど、まだまだ五体満足の奴も結構いるようだ。


 ここで容赦はしません。畳み掛けます。


 次は水魔法と風魔法を合わせた『上級複式魔法』を使う。

 この魔法は詠唱が長いというデメリットに目をつぶれば、広範囲に最高の力を発揮してくれる。



「我、水と風の寵愛を得し者。重なり合うは二つの理、現るるは然なる烈象。魔の法、真の理を紐解き、今此処に力の一端を顕在化させよ。“純の水”、“零下(れいか)静域”(せいいき)、“絶為る葬果”(そうか)。並びに、“聖の凪”、“停減(ていげん)の空域”、“調和の楔”(くさび)をもって生み出さん……」



 一息で詠唱を詠い終える。相変わらずの長い詠唱に、軽く辟易しつつも呼吸を整える。

 そして、範囲指定を前方全域に定めて。


 構築した『氷雪魔法』を解き放つ。




停葬氷域アブソリュートネーヴェ




 効果は徐々に、しかし劇的に起こった。


 すぅっと視界が白く霞がかかっていったかと思えば、次第に白の密度は上がり、大きく荒れ狂っていく。それはまるで、極寒の地に吹く氷雪の如く。

 生きるモノを拒絶し、死へと誘う冷たき悪魔。


 そんな魔法に、魔物たちは抵抗虚しく飲み込まれる。氷雪の嵐がおさまったのはそれから数十秒後。

 視界が晴れると、目の前は白銀世界へと変じており、気色悪い魔物たちの全てが芯まで凍りついていた。




「ん、終わり」



 俺は魔法が正しく行使されたのを確認すると、魔物には目もくれず、急いでアルルのいる場所に戻るのであった。



 

2015/10/06-魔法名の表記変更。

2018/04/03-誤字脱字、誤用修正。

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