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番外篇(1)-聖誕祭とホームパーティ

こちらの番外編は、2014年12月25日に投稿したものを、時系列に沿って移動させたものになります。内容に変更などはございません。


 『プリエール聖誕祭』


 十月三十日。遥か昔に存在した統一国家の初代聖王『プリエール』が降誕されたと云われる日。

 その聖人の降誕を祝う祭事がプリエール聖誕祭だ。

 聖誕祭は三十日の前夜日没から始まり、丸一日かけて行われる。

 この祭事はシャルが生まれた大陸に限らず、世界中で知らない者がいないほど有名な行事である……。



 とはいえ。


 『ぶっちゃけクリスマスですよね?』


 シャルが思った正直な感想だった。

 聖人様の降誕を祝う祭事然り。

 年の瀬という日にち然り。

 常緑樹に飾り付けを施すのも然りだ。


 それに近年ではその聖誕祭も形骸化しており、王都などでは祈りを捧げる者より、お祭り騒ぎする者が大多数だというのだから。

 そう、まさに『クリスマス』なのだ。




 ◽︎★◽︎★◽︎★◽︎




 プリエール聖誕祭前日──十月二九日。

 クリスマスイヴと同義の日。

 シャルラハートの家族御一行は、お祭り騒ぎの真っ只中であった。



「きゃ〜〜ッ♪ シャルちゃんもアルルちゃんも最っ高に可愛いわぁ〜〜っ♡」

「はいっ! お二人共凄くお似合いです!」



 場所は言わずと知れたシャルの自宅。  

 部屋の中は鮮やかに装飾され、中央にある大きなテーブルの上には所狭しと食べ物や飲み物が広げられている。


 少し離れた場所には並んで佇む二人の幼児の姿。

 二人を見て黄色い声を上げるのは言わずもがな、シャルの母親ことプリムハートと、アルルの育ての親ことミーレスである。


「うぅ、なんで僕までこれ着なきゃいけないんですかー。母様〜〜」


 自分の太ももをスリスリと内股で擦り寄せて情けない声を上げているのは、雅な髪留めで髪を可愛らしくセットされているシャルだ。


「えへへ〜っ。シャルくん似合ってるよ? すっごく可愛いもん♪」


 そんなシャルに純粋で輝くような笑顔でもって話しかけるのは、美しい銀のロングヘアを赤いリボンでツインテールにまとめているアルル。


「いやアルルちゃん。僕、いちおうは男なんだけど……」

「うんっ、知ってるよ。シャルくんは可愛い可愛い男の子だよね!」

「そうそう、って──可愛いは余計なんだってばーっ!」

「でも、あたしはシャルくんとお揃いの服がきられて嬉しいよ? えへへ〜♪」

「あ、うん。それは良かったけど」


 シャルはほろ苦い表情とともに嘆息し、諦めて肩を落とした。その姿には今更なにを言っても変わらないという諦念が透けて見える。


 シャルが愚痴を溢しているのは。

 隣にいるアルルの服装。

 赤い基調で白いアクセントがついているモコモコで暖かそうな、太もも丈のミニワンピース。

 それと同じものを、いまシャルは半強制的に着せられているからだ。


 ただ当然、違和感はない。

 ワンピースから覗く未成熟な四肢も。

 新雪を思わせる真白の肌も。

 羞恥から生じる頬の赤みも。

 ウルウルと潤んだ綺麗な眼も。

 蕾のような愛らしい唇から発せられる澄んだソプラノボイスも──。

 その全てが一般的な男性と称される者とは真逆の輝き、可愛らしさを内包している。


 シャルも鏡に映る自分の姿を見て自画自賛したくらいだ。まぁ、その後に数倍の自己嫌悪が襲ったのであるが。

 つまるところ。

 現状のシャルを幼女スキーな変態が見ることになれば、三百パーセントの確率で誘拐されること必至。

 そんな状態なのだ。



(まったくまったく。こんなの絶対慣れないから、慣れてたまるもんかっ。股も凄くスースーするし恥ずかしいし――どれもこれも、父様がキッカケを作らなければっ。まったくもう)



 シャルは顔を真っ赤に染めて部屋の一点を恨みがましく見る。そこには華やかな部屋の景観ぶち壊しな異形があった。

 部屋の真隅。暗がりに打ち捨てられているのは無論、シャルの父ことエドラルド。


 それは朽ち果てたゴミのよう。

 普段の優男な雰囲気はなく、ただただ痛々しい。しかし当のエドラルドの表情は恍惚としており幸せそうである……。

 何故、エドラルドがこうなったのか──それは彼が大罪を侵したからに他ならない。



『シャルラハートを着替えさせる』



 またしても、この絶対不可侵の領域を彼は侵そうとしたのだ。

 その大罪に対する制裁を、領域の支配者プリムハートから普段の数割増で受けるのは自明であった。



「はぁ……」


 しかし、エドが着替えの話を振らなくても結果的に収束する所は同じような気がしてシャルは憤りを収めた。

 もともと本気で怒ってはいないシャルである。

 それに、だ。シャルが顔を赤らめているのは、何も自分の服装だけが理由ではないのだから……。


 シャルの目の前。

 自分とアルルの二人を見て、悶えながら悩ましく黄色い声をあげている二人の女性陣にも理由がある。


「はぁぁん♡ やっぱり作っておいて正解だったわぁ〜!」


 普段は着せる専門である、母プリムは今日に関しては違った。

 頭に白い毛玉のついた三角のモコモコ帽子を被り、尻尾にはリボンを綺麗に括りつけ、赤基調のベアトップを身にまとっている。


 露出度は正直、シャルとアルルより高い。

 見た目が多く見積もっても高校生くらいと若く、小柄なのにプロポーションが良いプリムが、こんな衣装を着るとかなり目のやり場に困る。

 正直母親で良かったと思うシャルである。

 妖艶さと可愛らしいさを、足して二で割ったようなその姿は、まさしく美の極致の一つであった。



「ですねですね♪ 頑張った甲斐がありましたぁ!」


 加えて。普段より若干……いや、かなりハイテンションなミーレスの方も。


 同じ赤いモコモコのノースリーブとショートパンツにニーソックスのようなものを履いた出立ち。そして長い茶髪を羽毛のような装飾がついた髪飾りでお団子にまとめており、生来の愛らしい童顔をグッと引き立たせている。

 普段からまったく露出がない服を着ているミーレスでは考えられない服装のギャップにシャルは否応無しに赤面し──



「えへへへへ〜♪ シャ〜ル〜く〜ん♡」

「──っ、なにアルルちゃん?」

「シャルくんにギュッ〜〜っ♪ えへへ」



 突然、仄かに顔を朱に染めたアルルが正面からギュゥーッと抱擁してくる。

 と、同時に頬ずりをもしてくる。

 ふかふかですべすべな頬の感触に、シャルの脳内が一時止まった。


 しかし、シャルが意識を立て直す間も無く矢継ぎ早に、


「あ、じゃあママもシャルくんとアルルちゃんにギュ〜〜っよっ♪ ふふふ〜〜」

「えっと、で、では私も……っギュッです」

「……ぅうぅ」

「えへへへ〜♪ あったかいの〜」

「はぁ〜ん、幸せだわ〜♡」

「偶にはこういうのも悪くないです♪」


 予備動作なしでプリムとミーレスまでもが、その輪に加わってきた。


(なにこれなにこれなにこれ〜〜!? なんでこんな事に……って、んぅ? あ、これアルル酔ってる?)


 アルルのトロ〜ンとした恍惚の表情をみて、シャルはすぐさま察した。

 テーブルの上には、果汁水と共に果汁酒も置いてあるため間違えてしまったのだろう。

 それより四歳児にアルコールは不味くないだろうか。シャルはアルルの身体の方が心配になった。


 アルルと違ってプリムとミーレスはお酒に酔ってるというよりは、ただ空気に酔っているといった感じであるのだが。あのミーレスが羽目を外しているところを見ると、このプリエール聖祭がもつ魔力は凄まじいのだとシャルは理解した。


 なんて。思考を働かせている間も揉みくちゃにされている訳で……。


(誰かたすけて〜〜〜〜)






 ◾︎☆◾︎☆◾︎☆◾︎






「あ、そうだ! シャルちゃん、アルルちゃん。二人は何かお願いとかあったりするのかしら〜?」

「お願いですか?」

「んぅ?」


 一息ついて、みんな(エドラルド除く)で『コ』の字型のソファに腰を落ち着かせていると、突然の切り出しでプリムが子供達に尋ねた。

 ちなみに今のアルルは素面に回復済み。

 あの後、少し休んだだけですぐに酔いが冷めた。流石は生粋の闘力持ちである。


「そうよ〜。プリエール聖祭の前夜から当日の間は、良い子のお願いを叶えてくれる神さまが降りてくるのよ〜」

「かみさま?」


 コテンと首をかしげるアルルに対し。


「え、それ」


 シャルは僅かな驚きを発する。


(もしかして、……サンタ、かな?)


 プリムの話を聞いてシャルは前世でのサンタクロースに似た何かがいるのかと思い、好奇心からワクワクと耳を傾けた。

 のだが……。

 聞いていく内に色々とおかしな単語がシャルの耳に入っていく。


「その神さまは、霊翁ニコニコース様といって〜、七頭の聖竜にチャリオットを引かせて、世界各地を回り、子供たちのささやかなお願いを叶えて回ってるのよ〜」

「わぁ〜。すごーい♪」

「……へ?」


(霊翁? 七頭の聖竜にチャリオット? トナカイにソリでなく? というか、ニコニコースって誰ですかそれぇ!)


 シャルの脳内は地味にパニック。

 この異世界。実物のサンタと遭遇できる可能性もあるかも──と期待していたシャルからすれば、その話は斜め上すぎた。


「ニコニコース様は山のように大きな肉体をもつ偉丈夫で、立派な顎鬚あごひげと体毛を蓄えた素敵な老人様らしいですよ?」


 ミーレスがにこやかに補足。


(なにその妖怪。絶対神さまじゃねぇですよそれ。まぁ、あれだよね? 流石にそんな異形の使徒様が実在する筈もないし、おとぎ話として脚色されてるだけだよね? ねっ?」


 シャルはひとり遠い目で納得しかけるが。

 プリムが更に奇天烈発言を投下した。


「えぇそうね〜。ママも子供の時にニコニコース様とお話したことがあったけど、すごくご立派な老人だったわ〜。久々に会ってみたいわね〜、ふふふ♪」

「ごほっ!? か、母様会った事あるんですか……っ」

「ほぇ〜、すごいの!」


 まさかの発言で吹き出すシャル。

 普段の落ち着きもなんも投げ捨ててツッコミを入れた。アルルはいつも通り。


(実在してるの? なにそれ、なにそれ! スゴく見てみたいっ! それに面識あるってどういう事なの!?)


 シャルも上手く隠してはいるが興奮状態。

 好奇心には忠実なシャルである。


「ママがまだ小さかった頃にねぇ、『ニコニコース様と戦ってみたい』って、ささやかにお願いをしたら叶えてくれたのよ〜?」

「それでどうなったんですかッ?」

「うんうん!」


 シャルもアルルも興奮ぎみで話に齧り付く。


「ふふ、ちゃんと戦ってくれたわよ〜♪ ニコニコース様自ら手合わせしてくれたの〜」

「えー……」

「おぉ〜!」

「でも残念ながら結果は引き分け(・・・・)だったのよね〜。あの方には攻撃があまり通らなくて、手こずってる内に聖祭が終わっちゃって〜、ふふっ♪」

「……え、え〜〜」

「わぁ〜! お義母さん凄〜い!」


 シャルは唖然としアルルは感嘆する。



(ニコニコース様がわざわざご降臨して手合わせ? なにそれ神さまなんじゃないの? そんなホイホイ現れたりするものなの? 母様が子供の時に、そんなお願いをしたのもなんか驚きだし、その神さま相手に引き分けたって……うちの母様半端ないんだけど? ほんと母様って何者よ!?)


 ……そうシャルはプリムの武勇伝を聞き唖然茫然とした表情を深めていると。





「あたし、お願い決めたのっ♪」


 話を聞き終えたアルルはスクッと手を上げるとスッと立ち上がった。


「あらあら、アルルちゃんのお願いはなんなのかしら〜?」

「はい。私も気になります!」

 アルルのお願いの内容に興味を示して今度はプリムとミーレスが耳を傾けた。



 普段とはまた違った控えめなトーンでアルルは言った、


「あたしのお願いは『シャルくんとこれからもずぅ〜〜っと一緒にいられますように』なの」


「まぁ〜♪」「素敵なお願いですね!」

(……アルル)


 俯き気味でチラチラと上目遣いにシャルへの言葉を紡いだアルル。

 その姿はなんといじらしいものか。

 無防備な状態で言葉を受けたシャルは嬉しさから、一瞬脳機能が停止した。

 子供特有の無邪気な発言でありながらも、十分な破壊力をもった一撃だった。


「さぁ、次はシャルちゃんのお願いを聞かせてくれるかしら〜?」

「ドキドキです」

「シャルくん」


 突如、シャルに向けられる三人からの視線。

 その瞳に込められた感情を、流石にこの場でシャルは酌み取らざるを得ない。

 それにもとよりシャルの心は一つであった。


「えと、僕もアルルちゃんと同じです。『これからもアルルちゃんや母様たちと一緒にいられますように』。それが僕のお願い、です」


「「きゃぁぁぁぁぁああ♡」」

「えへへ〜。シャルくーん♪」

(んにぅぅぅ、これ流石に恥ずかしい……)


 プリムとミーレスはシャルとアルルの幼くも甘甘な掛け合いを聞いて、メロメロで萌え悶えている。アルルは定位位置と化している左腕にピッタリとくっ付き、シャルは自分で言った言葉を反芻し、今日一番の赤面を浮かべた。


 そして、シャルのなかで何かの箍たがが外れた。


(ぅ、うん。もうどうにでもなれだよ! なんか恥ずかしがってるのが馬鹿馬鹿しくなってきたし!)


 これは祭特有のハイテンション。

 気にしすぎるのは良くない。

 今宵は年に一度の擬似クリスマスなのである。楽しまないと損なのだから。


 そうしてシャルは自己催眠に似た思い込みで気持ちを新たにした。


「ふぉぉぉぉあぁぁぁぁおあぁおぁおあ!! 俺、復っっ活ぅぅぅぅぅっ!! はっはっはっはっーー!!」


 と。シャルが無理やりに気持ちを新たにした瞬間。

 打ち捨てられていた変態型・屍エドラルドが、ぬらりと起き上がり……。


「はっはっはっ! なんだ! まだシャル達はその服装だったのかぁ! では、俺がここでプレゼントをだ──ふごかいあぁうあッ!?」


 プリムの鉄尾一線。

 再び、地へと戻って行った。


「いまの父様の言葉って……?」

「ぷれぜんと?」


 シャルもアルルも言葉を聞き逃すことはなかったのか、プリムに擦り寄る。


「あ〜もうっ! 折角サプライズとして隠しておいたのにエドのバカぁ! あ。で〜も、明日までお預けよ〜? ふふ、楽しみにしててねシャルちゃん、アルルちゃん〜♪」

「そうですね。楽しみはとっておきましょう」

「「は〜い」」


 シャルとアルルは向かい合わせで首をかしげたが、暫し考え互いに頷くと二人とも笑顔で返事をした。


「さぁさぁ、エドなんて放っておいてぇ〜、再開しましょうか〜」

「そ、そうですね!」

「はいなの〜」

「はぁい」


 こうして、今宵シャルラハート一家の自宅では、夜更けまでハイテンションのお祭り騒ぎが行われたのであった……。



 〜完〜





 ◾︎☆◾︎◽︎★◽︎◾︎☆◾︎

  ─P.S.─



「な、なんだこりゃ〜〜」

「わぁ〜〜可愛い〜♪」

「うふふふ、喜んでくれたかしら?」

「どうでしょうか? 似合うと思うのですが」


 翌。


 例のプレゼントの封が開かれた。

 それはそれは──、


 母様による『ウェディングドレスもかくやという荘厳で豪奢なドレス』を色違いで二着。

 ミーレスさんによる『猫耳&犬耳フードがついた着ぐるみのような衣装』をアルルには犬耳、俺には猫耳で一着ずつ。


 ──以上である。



「ママ、いままでで一番力入れて作ったのよ〜」

「私もお二人にはこれが似合うと思いまして! 知り合いの商人さんに頼んで探してもらいましたっ!」

「さぁ、シャルちゃん! ママたちにその晴れ姿を見せてくれないかしら〜♪」

「はい。是非、見せてください!」


「えへへ、シャルくん着替え、いこ?」

「っえ、ちょ、まって!? まだ着替えるなんて僕は一言も言ってないよね? ねぇ、聞いてる? アルルちゃんてばーーーーっ」



『ホゥぉ〜ホゥぉ〜ホゥぉ〜〜♪』

 プリエール聖誕祭で盛り上がるなか、蒼天に響く朗らかな笑い声。


 〜YES. Happy Pseudo Christmas!〜



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