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夢と決意


 母様の音速アクロバット飛行を終えて。

 俺たちは無事(?)に家へと帰りついた。


 ただ、アルルなのだが……。

 生身での音速飛行は想定していなかったのか、軽く憔悴してしまった。うん、あたりまえだよね。


 流石に絶叫系が得意そうなアルルでも、尋常じゃないGがかかるあの飛行には、色々と持っていかれた様子だった。風の影響は魔法でカット出来てもGはどうしようもないからね。


 そんなこんなで、母様はアルルの様子を見るなり、午後の勉強会を中止にした。

 アルルは大丈夫と言っていたのだが、結局は折れて部屋で休んでいる。


 ちなみにあの嵐島。

 俺たちが帰り着いてから半刻ほど後に、追いついてきて豪雨を降らせていた。

 母様は嵐島をかなり引き離していたみたい。

 前に母様と飛んだ時は、音速に達しない割とゆっくりな速度で安全飛行していたけど、今日は本気を出したのかな?


 もしかして、俺とアルルの両手に花の状態で変なスイッチが入っちゃったとか……?

 母様自身も『今日は少し張り切りすぎちゃったわねぇ……』と反省してたし。

 まぁ、気にしないことにしておきましょう。




 既に時刻は夕食に近い時間帯になっている。

 嵐島は既に通り過ぎたので豪雨も止んだ。

 窓から外を見てみると大きな水溜りが幾つも出来ている。かなりの降水量だったみたい。


 そんな中、俺は窓から視線を外してアルルのいる部屋に向かう。今日は嵐島騒ぎのバタバタで三人とも昼食を食べ損なってしまった。

 今頃アルルもお腹が空いてしまっているだろう。


 部屋の前に着くとノックをする。

 現在、アルルと俺は相部屋なのだ。

 だからマナーは徹底しているよ。



「……シャルくん?」


 返事が返ってきてから部屋に入る。

 ベットに腰をかけたアルルと目が合う。

 アルルは本を読んでいたみたいで、本が軽く積まれていた。


 体調の方は問題なさそうかな。

 そもそも慣れない体験をして少し体がビックリした様なもんだし、半日も休めば当然完調ですよね。

 あのアルルですものっ。


 アルルに近づいて積まれていた本を手に取る。

 読んでいたのは魔法関連の本だった。

 詠唱書などではなく魔法の基礎や基本などが書かれた教科書の様なモノ。

 幾つか原理や理論について書かれている難解な内容の本も見受けられた。すごい。


「アルルちゃん、魔法の勉強してるの?」

「うん、じっとしてたらぎゃくに疲れちゃって、えへへ……」


 ふふ、なんともアルルらしい理由だ。

 でもアルルの魔法、か。

 アルルの適性って、かなり変わってるからねぇ。



「それでどう? 何かわかった?」

「ううん。わからなかったの。ホントに全然のってないんだね」


 アルルは読んでいた本をそっと閉じると、後頭部に手を当てて小さく笑みを浮かべた。


 実はアルル。

 貴重さでは群を抜く『無』の適性持ちなのだ。

 これはアルルが参加した最初の勉強会で調べて発覚した。それだけならともかく、もう一つ変わってる所がある。それは、アルルは潜在的な魔力量があり得ないほど少なかった。


 まさに俺と真逆で魔核に適性はあるけど魔力が無い。

 俺は機能的にはオーラで補えるし不便はないが、アルルは魔力だ。

 例えるなら、機械を動かすための電力が足りない様なもの。これは魔法の扱うことに関しては俺より大変だと思った──んだけども。


 母様が言うには少し違うらしい。


 無属性の魔核。

 別名『特質魔法』とも『性質魔法』とも呼ばれている魔法。

 これは他六種の枠組みから外れていて、魔力にあまり依存しない。つまり魔力量が少なくても発動できる、珍しい魔法なのである。


 無属性魔法の問題点は一つ。

 自分自身でもその魔法がどんな魔法なのか分からないこと。

 自分自身で模索して理解するしかない。

 特質や性質の名の通り、其々が千種万様の魔法だというから仕様がないんだけどね……。


「でもさっ。『無』の適性みたいな珍しい適性があるなんて格好良いね。その適性を持ってる人ってかなり少ないんだよ?」

「うぅん、あたしはふつうの方が良かったよ〜。そっちの方がいろいろ便利だもん。戦いとかでもユーズウが効くし」


 アルルはそれほど嬉しくはないみたいで、小さく苦笑いしていた。

 ふむ。アルルの思考ってやけに戦闘関連、特に実戦というか、そっちの方面に偏ってるなぁ。

 ミーレスさんには自分から戦闘術の指南を頼んだらしいし。闘力制御の勉強会も怖がられたくないからって理由はあるんだろうけど、『戦う時に何かと便利よ〜』って母様の言葉でやる気増してたし。


 いまも実用的な魔法の探究してたくらいだし。なにか理由がありそうなんだよなぁ。


 そう思考しつつ、横目でアルルを見やる。

 アルルは本のお片付けをしていたので、俺も自然に片付けてを手伝う。


 ん、でも。あんまり突っ込んだ事は聞かないでおこうかな。シリアスな空気とかになったら嫌だし。

 どうにもあの重い空気感は苦手。

 避けられるなら避けたい。






 ──とか、考えていたものの。


 アルルとおしゃべりしながらダイニングに向かっている途中。当のアルルの方から、その答えを含んだ話を振られたのだった。



「……ねぇ、シャルくん。シャルくんには将来の夢ってある?」

「ん、将来の夢? 夢、夢ねぇ、夢かぁ。うーん、う〜ん? ……あれぇ?」


 そういえば、結局その辺りちゃんと考えたことってないかも。というか、やらないといけない物事が多くて、手をつけられていなかったという感じなんだけど。


 将来の夢、ねぇ。……どうだろ。

 地球にいた頃には夢なんてなかったし。

 前世で妄想していたやりたいことリストなら結構数あるんだけど。


 異世界中を旅して、エルフさんの里いったりとか、獣人ちゃんと仲良くなって遊んだりとか、ドワーフくんと物作りしたりとか、竜の背に乗ってみたりとか?

 あ、妖精さんにも会ってみたいかも。

 あと、嵐島なんてファンタジックで気になるし乗り込んでみたいな。

 それに、母様の故郷とかも見てみたいでしょ? あと冒険者とかも面白そうだし、魔法も極めてみたいよね。それから闘力とかすごく気になるから使ってみたいし〜〜。


 それからそれから……──って、これが夢ってことになるのでしょうか?


 ん〜、いや、これはなんか違うんだよねぇ。

 確かにやりたい事ではあるんだけど、それが夢なのか〜? って言われるとそうじゃない感じがする。


 なかなかに興味深い話を振られて、真剣に考えていると、アルルはもじもじとしながら俯き加減に口を開いた。


「……あ、あのね。あたし夢があるの」

「アルルちゃんの夢?」

「……うん。おんなの子っぽくない夢なんだけど、ね。……シャルくん、きいてくれる?」


 少し頼りなさげなアルルの姿に、俺は保護欲を掻き立てられながらも素直に頷く。


「もちろん。是非聞かせてよ」

「え、えへへ、ありがとシャルくん」


 俺の答えを聞いたら安心したのか、ふんわりした笑みを見せてくれる。


「えっとね。あたしの夢はねっ。冒険者になって世界中をぐる〜って回ることなのっ!」

「え、世界中を?」

「うんっ! 世界中にあるあたしのしらない楽しいを、い〜っぱい見つけるのっ♪」



 自分の将来に思いを馳せて楽しそうに語るアルル。ニコニコと笑顔が弾けている。その表情をみていると、不思議とこっちまで楽しくなって来る。



「それにね、冒険者になって世界中を探せば、ママを見つけられるかもしれないもんっ」

「……っ」

「……え、えっと。シャルくん、あたしの言ってることって変、かな?」


 俺がアルルの顔を凝視しているのを変に捉えたのか、不安そうに上目遣いで尋ねてくる。


「ううん全然! 全く変じゃないよ。その夢はアルルちゃんらしくて、とってもとーっても素敵な夢だと思う」


 俺は慌てながらもキッパリと答えを返した。

 そう、全然変じゃない。アルルは見かけによらず、自由奔放で楽しいことが好きな子だからね。

 世界が広いと知ってワクワクするのも分かるし、冒険に憧れるのも納得できる。

 アルルは女の子らしくないって気にしてるみたいだけど、他人の目なんかどうでもいいと思う。

 その夢は純粋で綺麗なんだから。


 それに、もう一つの理由だって馬鹿にできない。

 出来るわけがないよ。『ママ』とはおそらくアルルの生みの親、実の母親なのだろう。

 その母親を見つけたいという欲求は、普通で当たり前の事だと思う。そんな健気なアルルの夢を、俺が変だと言える訳がない。

 家族想いなのは凄く良いことだ。



「ふふっ、冒険者になりたい、か。だからアルルちゃんは戦い方を一生懸命覚えようとしてたんだね?」

「うんっ! ミーレス先生にいったら『世界を回るなら冒険者だと便利ですよ』って言ってたから、じゃあ強くならないとって思って。えへへっ」

「成る程、そういうこと……」


 疑問が解消されてスッキリです。

 話も重くならずに聞けたし、良かった良かった。これもアルルの柔らかい雰囲気のおかげだよ。


 んっ、丁度いいタイミングかな?

 どうせなら、俺も今この場で自分の気持ちを定めてみるのも悪くない。更に一歩踏み出す勇気を。


 俺は、もうすぐダイニングというところに来てアルルに尋ねた。



「ねぇねぇアルルちゃん」

「なぁに、シャルくん?」

「あのね……アルルちゃんの夢を聞いて思ったんだけど。世界を回る時に僕も付いて行っちゃダメかな?」

「………………え?」

「夢についてはまだ分かんない。でも、僕もこの世界を一度ゆっくり見て回りたいなぁって思ってたんだ。だから良ければ一緒にどうかなと思って……」


 まだ、夢はわからない。

 だけど、俺のやりたいと思っていた事と、アルルの夢は割と合致している。

 なら今はそれを指針に行動して見るのも良いんじゃないか。そう思うのだ。


 世界を回ってる時に、自分の夢が見つかれば尚良しとでも考えようかな。

 かなり昔の言葉に、旅は道連れ世はなんちゃらってあった気もするしね。


 まぁ、俺とアルルの目的意識の差がとんでもなく酷いけど……。

 そこは勘弁してください。



「えっと、アルルちゃんは迷惑かな? もしも迷惑なら無理にとは言わないし断っ「迷惑じゃないよっ!」ても……」


 アルルは食い気味に、俺の言葉をちょん切って否定してきた。アルルの愛らしいお顔が鼻先まで迫る。

 嬉しさが溢れかえっている綺麗な瞳に目が吸い寄せられる。大胆な行動に心臓がビクッと跳ねる。


「んっんっ……」


 俺は我に返ると、焦り気味に一歩だけ後ろに下がって咳払い。今一度アルルに伺ってみた。


「つまり付いていっても大丈夫ってこと?」

「うん大丈夫!! あたしもシャルくんと一緒にいられてす〜っごくうれしいもん! えへへっ♪」

「そっか、良かった……。ふふっ、じゃあこれから一緒に頑張ろうね」

「うん! がんばるっ!」


 今日一番の笑顔をアルルは咲かせる。

 その笑顔にまた心が乱されながらも、心意気を同じく二人して笑いあった。


 さて、じゃあ後は、母様たちから冒険者になるのに許可を貰わないとだよね。

 今夜さっそく聞いてみるとしよう。

 なんだか面白くなってきたかも?

 やっぱり人間、はっきりとした目的意識があった方が生き生きするってことかな?

 目的意識は低レベルで申し訳ないけど。



 俺は前世では感じたことのない高揚感に身を任せて、アルルと共にダイニングへ入る。



「母様、父様っ。少しお話ししたい事があるのですが」

「えへへっ♡」



 とりあえず、新しい一歩を踏み出そう。





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【第一章】幼少期『幻想転生編』:(終)


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【第二章】幼少期『候都騒乱編』:(始)


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2018/03/09-誤字脱字修正。

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