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アルルとミーレス


 再会の挨拶もそこそこに、俺たちは孤児院の応接室へと向かうことになった。


 その途中、タイミング悪く孤児院の子供たちとすれ違ってしまったのだが、アルルは相変わらず怖がられているようだった。


 アルルはこれにより表情を暗くしてしまったものの、反射的に彼女の手を握ったのが功を奏したらしく、すぐに調子を取り戻してくれた。


 そうして到着した応接室。

 応接室はパッと見た感じあまり特徴がない。

 調度品も貧相に見えない程度に少しあるくらいだ。

 しかし部屋は掃除が行き届いているのか清潔感があり、不思議と落ち着く空間となっている。


「どうぞお掛けになって下さい」

「あ、はい」


 俺はソファの中央に腰を下ろすと、アルルは左側、父様が右側そしてミーレスさんが机を挟んで正面に腰を下ろした。

 バランス考えて父様には向こうの席に着いて欲しいんだけどなぁ。


 隣のアルルとは未だに手を離していない。応接室の前に着いたときに俺の方から離そうとしたが、アルルが離してくれなかったからそのままキープ。


 まぁ、この程度でアルルを安心させられるのなら安いものですし、問題はない。



「そういえば、ミーレスさんはアルルちゃんと居ても大丈夫なんですね」


 俺はふと孤児院の職員さんがアルルに怯えていたのを思い出してミーレスさんに聞いてみた。父様に関しては今更だし気にしない。母様共々うちの家族は何か規格から外れている気がするし……。


 アルルへ視線を向けると、アルルの紅玉を思わせる紅緋色の瞳と視線が交わった。

 するとアルルはミーレスさんが話すより先に、ミーレスさんの事を話してくれる。


「え、とねシャルくん。ミーレス先生はあたしの事をこわがらないで遊んでくれたり、いろいろ教えてくれたり、いっしょにいてくれたんだー。とっても優しいんだよー。えへへ」


 嬉しそうにアルルは微笑んだ。

 その言葉をミーレスさんは嬉しさ半分、申し訳なさ半分の表情で聞き。


「子供達はもとより、恥ずかしながら職員達もアルルちゃんを、その、怖がってしまうみたいだったので、私は出来る限り側にいたいなぁと思っただけでして……」


 ミーレスさんは目を伏せてそう呟いた。



 俺やアルルが常に発しているこの(オーラ)

 普段、一般人は発していない。

 闘力使いや魔法使いなどの人達が、自分の意思のもと生成を行い発生させるもの。

 だから、戦いに関わりがない人や子供たちからすれば、『力』の威圧を放つ者は強大な化物にも見えるのだろう。


 ともすれば、職員のお姉さんも戦いとは無縁そうだったし、怖がっても仕方ないのかな。



「私は冒険者活動をしていた事もあって、力を向けられるのには慣れていますし、むしろアルルちゃんの潜在能力は素晴らしいものだと思ってるんですけど」

「ミーレスさんって冒険者だったんですか」

「はい。ここにくる前は冒険者をしていました」

「おぉ、すごいです」



 冒険者かぁ。母様からその存在は聞かされていたけど、まさかミーレスさんが冒険者だったとは。

 失礼な話だが、見た目小動物っぽくて、争い事とか向いてなさそうなのに。




 『冒険者』


 文字通り、冒険を生業にする者たちの事だ──と思ったが少し違う。


 母様から聞いた『冒険者』とは。

 世界各地にあるギルドというお仕事斡旋所から、依頼クエスト──魔物退治に始まり、素材の採取、依頼人の護衛、悪人の拿捕または討伐などなど、多岐に渡った仕事をこなす人達の総称。


 しかし名前とは裏腹に、殆どは地域密着型でギルドのある街を拠点にし、その街の周辺地域で活動をしている。実際に旅をしている者は極少数らしい。


 この冒険者。実は俺が気になっている仕事の一つなのだ。冒険とか男子なら誰しもが憧れるものだし、俺的に浪漫職の一つでもあるし。

 何より世界中を回るのに向いてる仕事だからね。



 なんて考えているとミーレスさんは声のトーンを少し下げながら話を続けた。



「まぁ、冒険者をしていた所で、この仕事にはあまり活かせなかったんですけどね。それに、私がアルルちゃんにしてあげられた事だって、殆どなにも……」



 ミーレスさんは苦笑いを溢しながらそう言葉にしたのだが、これに対しアルルが。


「そんなことないのっ!」

「──え?」

「だって、ミーレス先生はあたしといっぱいお話して一緒に居てくれたよ? ミーレス先生はあたしといっぱい遊んでくれたよ? ミーレス先生はあたしにいっぱい色んな事を教えてくれたよ? あたしはそれがすごく嬉しかったもん。あたしはミーレス先生大好きだもん!」

「アルルちゃん……」

「えへへ♪」

「…………」


 天使のような無垢な笑顔を浮かべるアルル。

 そんな彼女の嘘偽りない告白に、ミーレスさんは言葉を失っていた。



 ほんと良く出来た子だねアルルってば。

 とんでもなく純粋で、年齢からは考えられないほど聡明だし、思いやりに溢れている。

 俺がアルルの立場だったら普通にグレていたと思う。

 というか、実際に前世では散々でしたし。俺なんかよりよっぽど立派でございます。



「シャル君」

「はい?」


 ミーレスさんが唐突に俺の名前を(『君』と改めて)呼んだので、何事かと思い首を傾げた。


「私が言うのは違うのかもしれませんが、言わせてください。シャル君、アルルちゃんと仲良くなってくれて、本当にありがとうございます」

「え、……えぇ?」


 感謝されてしまった。

 いやいや、なぜ?


「僕がアルルちゃんと友達になりたかっただけで、感謝をされる様なことは……」


 はたしてその言葉が聞こえているのか、いないのか。隣に座っていたアルルも俺の方を向くと。

 両手を胸の前で包み込むようにして、祈るような姿勢になって──。


「あたしからも……シャルくん、友達になってくれてありがとねっ♪」

「──っ!?」



 不意打ちで素敵な笑顔が放たれた。

 人間離れした美貌と無垢な笑顔は、想像以上の威力となって俺を襲う。

 そっちの趣味はない筈なのに、一瞬ぐらっと来てしまいそうなほど、魅力的な笑顔だった。


「う、うん。どういたしまして……って言っていいのかな、これ?」


 どもりながら、ミーレスさんとアルルからの感謝を受け取った。


「ははは、シャルよ! 男を自称するならば、こういう時ハッキリと言った方が格好いいんだぞ? まぁ、俺は超絶可愛いシャルも断然アリだと思うがなっ! はははっ!」


「むぅ」


 唐突な父様の御言葉。

 今まで目を瞑って会話を静聴していた父様が、そうアドバイス(?)してくれる。

 

 確かに父様の言いには賛同できる。

 父様みたいな美男子がいうと、なんとも説得力がある。

 ただ、一言いうなれば。

 俺はもともと正真正銘の男であり、それに後半は完全に私情じゃん。助言自体はあながち間違っていないと思うから、余計にタチが悪い。


 でも……今は感謝します。



「──どういたしまして。これからもよろしくね、アルルちゃん!」

「うんっ! よろしくなのシャルくん♪」


 そんな光景をミーレスさんは嬉しそうに、父様はうむうむと頷きながら眺めていた。






 さて、アルルと友情を深めてほんわかムードになったものの、その後、特に何かある訳でもなく、俺たちは軽い雑談をして時間を過ごしていた。

 そんな最中、俺はある出来事を思い出したので、アルルに聞いてみることにした。



「そうだアルルちゃん。きょう僕が来た時に孤児院の屋根にいたけど、どうしてあんな場所にいたの?」

「えっとね、あの場所ならシャルくんをすぐに見つけられるかなーって。はやく会いたかったんだー♪」

「……そ、そうだったんだ。なんだか照れるね。でも危ないよ? あんな高いところに登ったら……」

「えへへ、大丈夫なの! あたしいつもミーレス先生とお稽古してるから!」


 そう得意げな顔のアルルが言った。


「稽、古? それってもちろん武術とかのだよね? ……え、アルルちゃんが?」

「うんっ♪」

「アルルちゃんから頼まれまして。時々ですけど戦い方を教えているんです。アルルちゃんはセンスも抜群で、飲み込みもすごく早いので、私も驚かされてばかりなんですよ」


 俺の驚きの問いにアルルが首肯し、話を聞いていたミーレスさんも肯定した。


 これは驚いた。なんと言うかアルルと武術って結びつかなかったし。

 むしろドレスとか着て舞踏とかの方が似合うと思う。こう高貴な雰囲気が漂ってるもの。



「ミーレスさんのお墨付きですか。凄いんですねアルルちゃん……」


 確かに闘力が生まれつき備わってるくらいだし、センスという点で見れば、かなり良いのかもしれないなぁ。


 そんな事を考えていたら──



「はっはっはっ! ならばシャルとアルルで手合せしてみるっていうのはどうだ? 競い合える相手がいるとその分、成長も早いんだぞ?」

「……は?」


 などと毎度の如く父様が突飛な発言をしてきた。

 というか、いつの間にやら父様はアルルの事を呼び捨てで呼んでるんだけど!

 アルル自身が否を言わないし別に良いんだけどさ。

 俺自身も内心では呼び捨てだし。うぅぅ、でもちょっとズルイ。羨ましい。

 言わないけどね、恥ずかしいし。


 それより、過保護な父様がそんな危なそうなことを提案してくるとか意外すぎる。



「え? シャルくんも何か習ってるの〜? わぁ! すごいね、おんなじだねっ」


 当のアルルはまったく別のところに意識が向いてるね。お揃いが嬉しいのかな?

 いまのアルルは普段の控えめモードとは違って、綺麗な瞳をキラキラさせて、溌剌とした雰囲気だ。


「うん、母様に少し教えてもらってるんだよ。僕の場合は武術よりも、魔法が主なんだけど」

「魔法? すごい、シャルくんすごいね!」


 アルルの後ろには擬音の書き文字で『ワクワク』とか『キラキラ』とか浮かんでいそうなほどテンションが高くなってしまった。


 初めて会った時にも思ったけど、アルルは天真爛漫で活発なのが素なんだろうなぁ。

  処世術として、謙虚に接し空気を読み取り相手を慮る術を身につけたんだろう。

 その年でそんな発想が出来ることに、改めてアルルの凄まじさを実感するよ。



「ねぇ、シャルくん! お手合せしてみない? とっても面白そうだよ?」

「うーん」


 期待する目で詰め寄ってくるアルル。

 俺自身も、確かにアルルと手合わせはしてみたい、してみたいんだけど……。


「ふふふ、父様〜? 僕のこの格好が分かって言ってるんですか〜? これ動き回れるような服装じゃあないですよね〜?」


 母様を真似て割と抑揚なく高圧的に言う。

 俺自身も普通の服だったなら、喜んでお手合わせを受け入れていたと思うし。

 そう、この服でさえなければ……。

 つまり父様がこの服を着せたのが悪いのだ。


 何て考えていたら、父様がまたまたトンデモ発言をかました。


「はっはっはっ! 大丈夫だぞシャルよっ!! その超絶可愛いシャル専用服は、バトルドレスでもあるのだ! 当然動き回っても問題はない!!」

「バトルドレスぅ?」



 バトルドレス仕様って、一体母様はどんだけ張り切ったんですか? というか何そのシャル専用服とか。

 かなり不穏すぎる単語なんだけど。

 この先、トレーニングにはこのバトルドレスを着ること、とか言われるのだけは勘弁ですよ?

 絶対きませんよ? フリではなく。


 まぁ、取り敢えず。

 いまは手合わせについてか。



「……うぅん、父様、危険はないんですよね?」

「おう、任せてくれ! 俺が目を光らせてちゃんと監督するから怪我の心配もないぞ! 存分に動き回ると良い!!」

「……わかりました。そういう事なら、やります」

「やったっ!!」



 俺はこの格好ひらひらワンピースで動き回ることに激しく逡巡したが、アルルの期待の眼差しと、手合わせの欲求が勝り了承をした。


 さて、どうなることやら……。





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