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衣装と誤解



 アルルとの出会いから数日が経った。


 あの日、合流した母様に友達としてアルルを紹介した。母様はアルルを大層気に入ったらしく、嬉しそうに黄色い声をあげて抱擁していた。


 当然ながら、母様にもアルルの威圧効果なんかは効かなかった訳で、終始和やかに二人でお話をしていたよ。端から見てると二人が姉妹みたいでなんだか可笑しかったけどね。


 ただ、一瞬だけどアルルを紹介した時に、母様の様子がおかしかった気がするんだけど。気のせいだったのかな。アルルを見ながら何か別の事に意識を向けていたような……?


 まぁ、母様の表情からそれほどのものは感じなかったし大丈夫だと思うけど。



 そしてそして、本日はお友達となったアルルの所へ再び遊びに行くことになっている。

 母様は珍しくも朝早くから出かけていて居ない。

 だから今日の付き添いは父様。

 んー、少し心配かなー。

 久々の付き添いで、父様のテンションが若干ハイになっているし……。

 普段からハイテンションなのに、更に上乗せされてるので凄くうるさいです。でも、これこそ父様の持ち味なんだし、気にしたら負けですね。



 孤児院に行くための準備を終えた父様は、既に玄関前で意気揚々と出発を待ちわびている。


 ……の、ですが。

  大問題が発生なのですよ。



「よしよしっ、シャルも準備が出来たな! じゃあ出発するぞぉ!!」

「まって下さい、父様」

「ん? なんだシャル。忘れ物か?」

「なんだ? じゃ、ありません。何なんですかこの格好っ」

「いやぁ超絶可愛いぞシャルよ! 女神さまの様な神々しさと、プリムの様な愛らしさを兼ね揃えた、究極の美だな!! 目に入れても痛くない子というのは、正にお前のことを言うのだな! はっはっはっはっ!!!」


 母様がいないのをいい事に、今日父様は俺の服を勝手に選んで着せてきたんだけど。

 それがまた、もうとんでもない格好だった。

 精神値が加速度的に減っていくのを感じるよ。


 ──膝上ほどしかない丈の純白のふりふりワンピースをメインにし、肩からは清楚な瑠璃色のラインがアクセントになった瀟洒であり上品なケープを羽織り。両手には二の腕まであるシルクっぽい生地の長手袋。

 尻尾には眼の色と同色の大きなリボン。

 靴も履き替えさせられて、服に合う色合いのミュール(のようなモノ)を履かされた。


 トドメの一撃で、頭部に上品な輝きを放つ虹色石(オパール)のようなモノが装飾された、ティアラ型の髪飾りがチョンと乗せられている。


 ツッコミどころが多すぎでしょ、これ。

 まず何を言えばいいか迷うけど、これは一番に言わせてもらう。


 いったいどこのお姫様ですか!

 普通に似合っちゃってるのがまた神経を逆撫でますっ。純白の日傘でもさせば、もう更に上目指せますよねーってな感じ。


 鏡で見たときなんか呆然とした。

 この鏡に映ってる子が、もし他人だったら惚れてたかもってくらい。……いや、それはないか。


 まったくこんな服、一体何処で調達してきたんだか。服全体の作りもそうだけど、髪飾りとかミュールとか絶対高いだろう。


「とーうさーまー。こんな服何処で買って来たんですかっ。それに母様はこれ知ってるんですか? 怒られちゃいますよっ?」


 ウィーティスの町には、こんな高級品質な衣服類を扱った店は無い。

 もしも父様が家のお金を、こんな下らない事のために使ってるなんて母様に知れたら、父様は終わりだと思う。

 物理的にも、物理的にも、物理的にも。


 なんて考えていたものだから、父様の答えを聞いた時は一瞬思考が止まった。



「ん? 大丈夫だ問題ない! これ全部プリムの手製だからなっ! はっはっはっ!!」

「……ぇ、ぇえ?」


 おいおい。

 どういう事なのですか!?


 は、え? 手製?  これが?

 いやいや、母様どんだけ器用なんですかっ。

 淑女の嗜みなんてレベルじゃないですよ、これ。

 母様の謎がまた深まった気がするんですが……。


 それに手製って事はさ。


 ……母様も共犯ってこと?


 母様ぁあぁ。まさかの共犯ですか。

 信じてたのにぃ。母様だけは…、母様だけは俺に女物の服を着せないと信じてたのにぃ……。



「ぐぬぬぬぬぬ……」


 歯をくいしばり悔しげに床を睨む。


 クオリティが高いのもあるけど、母様の愛情が詰まった手作りという事実が、俺から脱いでぶん投げるという選択を消滅させる。


 に、逃げ場が……ないっ。

 いや、まだ、まだだ。

 まだ何か抜け道がぁ……。


「さぁシャルよ! 孤児院へ出発だぁ!!」

「え、ちょっと、ま」


 探せ! どこかに抜け道が……


「い、いやぁ〜〜〜〜」

「はっはっはっはっはっ!!」


 俺は父様の肩に担がれながら家を出立するのだった。




 ◼︎◼︎◼︎




 父様に担がれたまま孤児院に着いてしまった。俺からは諦念が滲んでいる。


 目の前には出迎えに出てきたミーレスさん。ふつーに困惑の表情を浮かべて佇んでいる。


 ふふふ、ですよね〜。

 それが当たり前の反応ですよぉ。


 ミーレスさんの視線に頭を抱えたい衝動がふつふつと湧き出す。



「えと、シャルく…ちゃん? その格好は」

「…………むぅ」



 その疑問は当然だ。

 前に来た際、母様は俺のことを男の子として紹介したのに、今目の前にいるのはふりふりワンピースを着こなした可愛い女の子。

 こんなの誰でも混乱するわ。


「はっはっはっ!! どうです、超絶可愛いでしょう? ウチの娘は!!」


 ミーレスさんに父様が溌剌と煩く答える。

 娘ちゃうわい! 勘違いしちゃうでしょ。



「……は、はい! とっても可愛らしいです。シャルちゃん似合ってますっ♪」

「ありがとうございます」



 困惑の表情が父様のアホ発言で吹っ飛んだらしい。

 普通に褒めて俺の頭を軽く撫でてきた。

 当の俺は、もうどうにでもなれといった感じだ。

 いまの俺なら目のハイライトが消えていてもおかしくない。


 俺が少しやさぐれた気持ちになっているとーー。



『―――ぅ―ぅぅん』


 頭上から澄んだ声音が届く。

 そう、アルルの声が聞こえてきたような気がする。


 ……って、え? 頭上?


 俺は顔を上に向けてみると、衝撃的な光景が写し出される。


 孤児院の赤い屋根の上にアルルが居る。

 今にも落ちそうなほど端の方で、笑顔を浮かべて此方に手を振っている。



「へ、アルルちゃん? て危な────あっ」


 アルルに注意を促していると。

 瞬間。アルルが孤児院の屋根から落ちた──否、飛び降りた。



「──っほ! ふぅ、えへへ」

「す……すごい」


 アルルは空中で華麗に回転しながら体勢を整えて、俺の前に音も無く着地した。

 君は猫かっ! と驚き半分、感心半分の気持ちで思ったが、父様もミーレスさんもあまり驚いていないようだ。


 え、なに?

 これってこの世界で当たり前の技能とかなの?

 この世界の人たちって皆さん超人の一族か何かなんですかね?

 うぅん、じゃあ俺も密かに練習しておこうかな?


 アルルは不思議な輝きをする白銀の長髪をキラキラと靡かせながら駆け寄ってくる──が。


「こんにちは、シャルちゃ……くん! あれ? ……シャルちゃん?」



 俺の呼び名を訂正し、また訂正した。


 先日無事アルルの勘違いを正して、俺は男子として認識してもらう事が出来のにぃ。

 その際、アルルは俺の呼び名を『シャルくん』と改めてくれたのにぃ。


 ……なのに。この服装の所為で、また振り出しに戻りそうな気配である。


 これじゃ正した意味がないじゃないですかぁぁぁ。母様父様いったいどうしてくれるんですかぁ。


 俺は、内心の軽い憤りや焦りを強引に蹴散らして、アルルに言い訳をする。


「ちあうのちあうの! こりぇあ父様が無理あり……あ、うぅぅ」


 否定しようと口を開いたはいいけど、気持ちが先行し過ぎて物凄く噛んでしまった。

 これは凄く恥ずかしい。


「……か、かわいい」

「うぅっ」

「はっはっはっ! カミカミのシャルもまた可愛いぞっ!!」

「 そうですね、それに今日のシャルちゃんは何だか何処かのお姫さまみたいです」

「ぐぬぬ」


 俺はすかさず根源である父様に、抗議のジト目を向けるが全く居に介した様子がない。むしろ視線が合うとデレデレになって逆効果っぽい。


 父様はスタスタと俺達の方に近寄ってくる。


 父様が止まらない。

 俺では止められない。

 母様〜〜っ、助けて下さーい!


 はっ、母様もあっち側か!



「ほぉ、この子がシャルが自慢していたお友達か!! 聞いていた通りに可愛らしい子だな! はっはっはっ!!」

「うぅぅぅぅ」


 俺の威嚇視線をポジティブスルー(というか気づいても効果がない)した父様は、アルルを見るとそう褒める。


「はっ、はじめ、まして。アルリエルって言います、アルルって呼んでください」


 アルルは物怖じしない父様のド直球な褒め発言に、少し戸惑いながらも挨拶をキチンとこなす。


「おう、アルルちゃんな!! 俺はシャルの父親でエドラルドだ! エドって呼んでくれな! はっはっ!」

「は、はい、エドさん、ですね。よろしくお願いします」

「おう! よろしく!!」



 お互いに自己紹介をしていく父様とアルル。

 父様が何かやらかさないか心底心配だったけど、今のところ大丈夫そうかな。


 父様は俺や母様が絡まなければ、暑苦しいだけの常識人だとは思うし。

 まぁ、断言はできないけど……。




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