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孤児院と魅了


 母様との勉強会にもだいぶ慣れて、そろそろ中級魔法の習得に取り掛かろうかな、という段階になったある日のこと。

 母様に面白そうなお話を持ち掛けられた。



「母様のおともだちが建てた孤児院?」

「ふふ、そうよ〜。シャルちゃんも行ってみる? あそこにはシャルちゃんと近い年の子もいると思うし、お友達作れるわよ〜?」


 なんでも、母様の友人が昔に設立した孤児院のひとつがこの町の外れにはあって、そこに今から諸用があるので行くというのだ。


 ふむふむ、言われてみれば……。

 こっちに転生してから、家と買い物先の往復だけで、偶にお散歩で遠出する事はあっても、同い年くらいの子と接する機会ってなかったかも?

 あるとすれば、買い物先の店主の子息(もちろん俺よりだいぶ年上)と少し話をするくらいだし。


 うん。うん。

 そう考えるとこれはいい機会かもしれないね。



「はい、いってみたいです!」



 と、いうことで孤児院へ行くことになった。






 俺は外行き用の服に着替えて、母様と二人仲良く、孤児院へ手を繋ぎながらトコトコ歩いていく。


 今日も今日とて、服装はユニセックス風味が強い。

 男なのに女の子が着るようなショートパンツである。美幼女のような幼児の生足とか……。

 はは、これは一体誰得なのでしょうね? 

 でも、母様がすごい楽しそうだったので良しです。



 それで、母様の友人(アスラディアという女性らしい)が建てた孤児院だけど。

 いま現在その友人さんは不在みたい。

 常に世界中を飛び回って仕事をしている人だそうで、一箇所に長く滞在しない性格でもあるらしい。

 だから、今日母様が会う予定の人は、そのアスラディアさんの部下さん。

 お互いにほぼ初対面とのこと。


「母様ぁ、そのアスラディアさんって、どんな人なんですか?」

「ん〜? ふふ、アスラはね〜、とっても陽気で優しいわよ〜? それに一緒にいると楽しくなって元気をもらえる〜って感じの人かしら〜!」

「陽気ですかぁ。それって父様みたいな感じってことです?」

「ふふっ。エドは陽気というよりおバカなだけね。けど、あながち間違ってもいないわね〜、ふふふっ」


 母様は俺の例えがどこかツボだったのか、淑やかに笑みをこぼしていた。

 母様の説明はかなりアバウトだったが、つまりアスラディアさんは父様みたいに元気な人! って認識しておけばいいのだろうか。


 そんな話をしていると、だんだんと孤児院の外観が見えてきた。赤い屋根が特徴的な大き過ぎず、小さ過ぎず、中規模の孤児院。

 この孤児院はうちの家がある場所から町を挟んで逆側にあるので、買い物の時より歩かなければいけなかった。


 母様が正門を通過して孤児院の扉前まで着くとドアノッカーを叩いて要件を告げる。叩いてから数十秒と待たずに一人の女性が姿を現した。

 栗色の長髪を一本にまとめて右肩から前方へと流している、小動物を彷彿とさせる可愛らしい少女だ。



「ど、どうも。本日はわざわざご足労おかけ致しまして申し訳ございません。私はこの『アスラディア孤児院』の院長代理をしているミーレスと申します!」


 院長代理ことミーレスさんは凄く丁重に挨拶をしてくれる、というか、大分かしこまっている?

 ますます小動物ぽさに拍車がかかりますね。

 ……それに院長代理って。意外かも?


「ふふっ、わざわざご丁寧にどうも〜」

「こんにちは」


 母様はいつも通り変わらず、微笑みを浮かべて余裕綽々といった感じだ。

 俺も無難な感じに挨拶を返しておく。


「え、えっと、貴女様があのプリム──きゅ!?」


 ミーレスさんが俺たちの名前を確認しようとした瞬間、母様はスッと流麗な立ち居振る舞いで彼女の唇に人差し指を当てて口を塞いだ。

 そして、その格好のまま母様は自己紹介。


「フフフ。私はプリムハート、と申します〜。気軽にプリムと呼んでくださいね〜」


 そう言って母様は指を離してニッコリ笑う。

 少しゾクッとくる笑顔だった。


「は、はい! プリムさま……さんですね! か、かしこまりましたっ!!」

「──ふふふっ」

「うーん?」


 母様は途中、またもや笑みを強めたりしたが、後は穏やか(?)に進んで行った。

 次いで俺の紹介も終わり、母様一行は孤児院の中に入っていく。


 母様とミーレスさんって一体どんな間柄なんだろう? 友人の部下で初対面って言ってたけど、なんかミーレスさんの態度も変だったし、ちょっと違う気がする。さっきのやりとりもなんか意味深だったし。


 思考に耽っていると、一番前を歩いていたミーレスさんが足を止めた。

 そこは、応接室らしき部屋の前だった。


 母様が繋いでいた手を離して、俺に目線を合わせる為しゃがんだ。


「じゃあママ達はここで少しお話をするから、シャルちゃんも遊んできていいわよ〜。あとでママにシャルちゃんのお友達を紹介してほしいな〜」

「はい、わかりました」


 おや、珍しい。

 いつも、べったりな母様が放任してくれるとは。

 ふふふ、ではお言葉に甘えて&母様の期待に応えるべく、不肖このシャルラハートっ。


 久々の独り旅と参ります──っ!





 ……なんて意気込んだものの。


 母様たちと別れた後、ミーレスさんの部下さんに連れられて、俺は子供たちがいるという部屋へと案内されている。初めからミーレスさんの部下さんが俺について来る予定だったようで、保護者役とのこと。


 うん。まぁそうですよねぇ〜……。

 あの母様ですもの。わかっておりました。

 悲しいのやらホッとしたやら複雑な感じです。


 そんな気持ちを滲ませつつも、俺は好奇心からキョロキョロと辺りを窺う。この孤児院の内装は、なんというかファンタジーチックで雰囲気抜群の建物。

 若干造りがロマネスクの建築様式に似ている。

 まぁ、この世界は魔法が建築にまで使われてるみたいで、地球のと比べると若干違う部分があるけども、逆にそれが良い。


 孤児院の内装に目を奪われていると、あっという間に目的地へ到着した。

 今の時間、子供たちは家事などのルーチンワークがひと段落して自由時間になっており、ほとんど全員が集まってるみたい。


 ……なんか少し緊張してきた。

 もともと友好を育むような会話って得意ではないので、こういうときは緊張が伴う。でも、今は母様のご期待がかかっているし、退ける筈もないのだ。


 俺は子供たちがいる部屋の扉に手をかけて、緊張を振り払うため一度深呼吸をしたのち、突撃して行った。




 ◼︎◼︎◼︎





『『『きゃぁぁあぁぁ〜〜♡』』』



 う、ぅぅぅ、結果からいいます……。


 ただいま、このお部屋は大喧騒が支配するヤバめな空間になってしまっております。

 わたくしもそろそろ精神が限界に近づいてきている所存です。……ああ、あんな事をしなければ良かった。俺はなんと愚かだったのでしょう。


 今では後悔が先に立たない状態なのです……。





 俺が部屋に特攻をかけると、部屋に居た子供たちの注目を一身に浴びる状態になった。


 そこで挨拶代わりに、母様から密かに教わった交渉術の首を傾げた満面の笑顔(イノセントスマイル)を使って友好を育もうとしたのです。


 で、これが見事に俺より少し年上のお姉様方の琴線に触れる……というより、盛大なドロップキックをかましてしまったらしく。


 質問攻めに始まり。

 頭をぐちゃぐちゃに撫で回されたり。

 ギュウゥ〜と抱きしめられたり。

 揉みくちゃにされたり。


 収拾がつかないほどの事態に発展してしまったのです。ひどいことに俺より年上の男子勢は、そのほとんどが鼻血を吹いて倒れてしまっているし、もうめちゃくちゃだ……。

 というか人の顔見て倒れるなんて失礼でしょう。

 情けない。男の子情けない。



『きゃ〜かわいい〜♡』

『すっご〜い!お姫さまみたい!』

『もっとぎゅ〜ってさせて〜♡』

『お肌すべすべで髪もさらさら〜』

『ふぁ〜、しゅごい良いにおい♡』

『はぁ、癒されるぅぅ〜……』

『ねぇねぇ、抱っこしてもいーいっ?』


「ぅ、ぅぅぅ……」



 喧騒は今もなお継続していて、お姉様方の攻勢はとどまる所をしりません。


 女の子に揉みくちゃにされるというシチュエーションは、小説などで幾度もみたことがあったし、どんなモノなのか少し気になったりもしたけど……。

 現実でこんなのやられたら死んじゃいますぅっ。

 もう大勢の人間こわい。喋るのもこわい。視線もこわい。触られるのもコワいぃぃぃっ。


 はやく誰かぁ、助けてください〜!!






「……あのぅ」



 ──はたして。願いが届いたのか、ガチャっと突然部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。


 すると先程の喧騒が嘘のように『シン……』と静かになった。


 ちゃんす、ちゃんす。

 隙ついて包囲網からなんとか脱出を果たし、俺は子羊を救ってくれた有り難き御存在へと視線を向けた。



 すると。





 そこには天使さまがいた。





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