②
いつもと変わらぬ教室に、いつもと同じチャイムが鳴り響く。
授業の始まりを告げる予鈴は、今日に限り意味をなさない。
日曜日の休日、授業のない寂しい教室は空虚にその音を響かせるのみだ。
グラウンドには部活動の練習だろう、少しの賑わいが存在していたが校舎内は割と静かである。
そこにかすかに聞こえてくるのは誰かとの口論。
廊下に響き渡るほど大きな声に、対するはそれを咎める小さな声。
何があったかは当事者でしか知りえないわけだが、どうも只ならぬ状況であることは間違いなかった。
「だからっ落ち着いてよ?徹くん、こんなところで騒いでも仕方ないよ?誰も聞いてやしないんだよ?」
「うるせーうるせー!お前のことはもう信じねーぞ!このゲイ野郎がッ!!」
ふぅと悩ましげにため息をつく女の子のような顔をした男子高生。
彼の名前は小形薫、平凡を地で行く普通ボーイで料理が得意な以外には特に特徴もない子であった。
しかし時折見せるその笑顔は天使のようで、クラスメートの癒し担当だと密かに男女ともに好感を得ていたが今の彼は普段とは違う顔を見せていた。
いつもは穏やかな顔を浮かべる彼は現在獲物を前にした肉食獣と同じ。
今か今かと狙いを定めている鋭い眼光、対して同じクラスの大河徹は震えながら精一杯の強がりを口にする。
狙われた彼は教室から飛び出し逃げ帰ろうとするも、両手両足は拘束されており容易には逃げ出せない。
「…逃げられないと絶体に諦めない、その心意気は素直に褒めちゃいますよ徹くん。強がっちゃって本当に可愛い、です。」
「ッ!さっさわるな変態!寄るなっ寄るんじゃない!!!」
そっと頬を触る薫に凄まじい嫌悪感を抱き後ろへと下がる徹に無情にも厚い壁が立ちふさがる。
辺りは机とロッカー、障害物の多すぎる教室と言う場所は両手両足と拘束された徹に重くその事実がのしかかる。
目と鼻の先には瞳を潤ませた薫の姿。
一見すると女の子のような顔をした薫に、思わずごくりと喉を鳴らす徹。
チッ違う違う、俺は至ってノーマルだったはずだ。
ノンケさ、ノンケ!何を恐れる必要がある?同性同士なんていっそ気持ち悪いぐらいだぜ。
しかし彼のある一部分は薫に反応して素直に大きくなった。
顔を真っ赤にする徹に、薫が気が付かないわけもなく・・・
「ほらほら、体は正直なんですから。委ねちゃって大丈夫ですよ徹くん?それとも…僕を攻めたいんですか?とおるくんっ」
「…なっなわけねーよ。ホント気持ち悪い男だなお前ッ!」
自らを戒め禁欲へと走るホモの檻。
薫は引いた、攻めてしまえば終わってしまったかも知れぬそれを簡単に手放して見せた。
長時間に渡る徹の拘束も解かれ、彼は久方ぶりの自由を得る。
ようやく手に入れた自由に、しかし彼はどこか物足りない気持ちを抱いてしまう。
徹は何故こんな気持ちになるのか自分が自分で分からなくなって、胸を押さえて息遣いも荒くなっていく。
まるで薬でも盛られたかのようで、火照る体はどこかに放出せんと今にも決壊しそうだった。
「なっ何をした?この変態野郎ぉ」
「…え?何も、何もしてませんよ徹君?あなたが勝手に暴走しているだけです、どうです?苦しいですか切ないですかっ」
「てってめぇぇえええええええ!」
長時間拘束されていたためか思い通り体の動かせない徹の右ストレートは簡単に避けられ、薫に抱き合う形となってしまう。
暖かな人肌のぬくもり、彼の限界はそれまでのようで後は暴走してしまうだけの簡単なお仕事。
彼のリビドーの行く末はある一点に絞られていた。
本能の赴くままに行動しようとする徹に薫は優しい音色で耳元に囁きかけた。
「…いいよ。徹くんになら、ぶつけられても嫌じゃ、ないから。」
「fdさjklれwくいおp」
最早言葉にもならない彼の叫びは教室内にとどまらず、外へと漏れてしまう。
が二人とも気にすることもなく行為にいそしむ。
受け止めるべき受け皿と化す薫は、薄く笑いそして今日でクラスメート全員のあれを散らせてあげたことを誇りに思う。
クレイジーサイコなホモォは今日が休みにもかかわらず狙ったターゲットを追い詰め、無事今日もめでたく結ばれましたとさ。
※おしまいではありません(悲報)