まだやってるよ
知人から聞いた平成の頃の話。
彼には一人の友人(仮にSとする)がいた。
つき合いは長く、小学生から高校生になるまで親しくしていて、まるで兄弟のように育っていたという。
休みになればサッカーをしたり、ゲームで遊んだり、本当に仲が良かった二人。
特にいたずら好きだった二人は、人を驚かせたりするドッキリを仕掛けるのを好んだ悪ガキ同士でもあった。
そんなSとは高校進学を機に別々の学校へ入学。
それでも二人は入学後しばらくは一緒に遊んでいたりしたけど、それも段々と疎遠に。
同じ地元だったが、顔を合わせる機会もなく、たまにメールで連絡するだけになってしまった。
知人は少し寂しくはあったけど、お互いに新しい交友関係もできたので仕方がない、と諦めていたんだそうだ。
そうしてメールもしなくなってしまった高校卒業間近のことだった。
知人は親から「Sが亡くなった」という話を聞いた。
つき合いは薄れていたけど、それでも幼馴染だ。
知人は驚き、悲しんだ。
急なその訃報にどこか後ろ髪を引かれていたが、大学に通うため、地元を遠く離れなければいけないこともあり、通夜や葬儀には出ることも叶わず、親を通じて香典だけ出したという。
そうして月日が流れた。
新しく始まった大学でのキャンバスライフと初めての独り暮らしに、毎日が充実していた知人。
交友関係も広がり、勉学にいそしみ、念願だった教員免許を取得するために一生懸命だった。
そうして、教育実習が始まり、知人は地元に近い高校へ実習生として赴任。
先生達や生徒達に歓迎されつつ、実習をこなしていった。
そんなある日。
帰宅後に学校に携帯電話を忘れてしまった知人は、仕方なく取りに戻ることにした。
渡されていた鍵で機械警備を切り、校舎に入った知人。
時間も遅かったので校舎は無人だ。
とても不気味だったが、携帯の所在を確かめないと不安なので、意を決して職員室を目指す。
そして電灯を点けて自席を確認するも、あると思っていた場所には携帯が無い。
慌てた知人は、昼間の行動を順番に思い返し、最終的に教員用トイレの個室に入ったことを思い出した。
その時、携帯を持ち込み、それを見つつ用を足した後、うっかり置きっぱなしにしてしまったのである。
思い出したことに安心しつつ、急いでトイレに向かった知人。
当然、トイレは電気も落ちていたので、スイッチを入れた。
すると…
ブルルルルル…
何かが振動する音がトイレ内に響く。
一瞬ギョッとなった知人だったが、その音が開け放たれた個室の中からするので「ああ、タイミングよく自分の携帯に着信があったんだな」と気付き、個室を覗いた。
すると案の定、知人の携帯が見つかった。
ただ、着信は切れたようで、もうバイブ機能は作動していない。
安心しつつも、携帯の画面を確認した知人はその場で固まった。
何と、発信先は亡くなったSからだったのだ。
あり得ない相手からの電話に、全身に鳥肌が立った知人。
そして、当然ながらどうするべきか悩んだ。
普通に推測するなら、相手はまずSの遺族だろう。
亡くなったSの携帯を形見として持っていて、たまたま何かの拍子で操作を誤り、偶然自分にかけてしまったのではないか…そう、知人は考えた。
しかし、時間が時間だ。
こんな深夜に、こんなタイミングで誤動作で遺族が亡くなった子供の携帯ををかけてくるだろうか…?
しばし迷った知人だったが、意を決して着信先…Sの電話番号へ電話をかけることにしたんだそうだ(この辺の胆力は尊敬する)。
息を飲み、発信ボタンをを押す知人。
その耳に…
プルルルル…
と、お馴染みのコール音が聞こえる。
知人はさらに緊張した。
少なくとも、亡くなったSの電話番号は生きていたのである。
プルルルル…
プルルルル…
プルルルル…
プルルルル…
鳴り続けるコール。
しかし、相手が出る様子はない。
「やっぱり、何かの偶然か」と思い、電話を切ろうとした矢先だった。
プツッ…
出し抜けにコール音が途絶えた。
切られたと思った知人は、思わず携帯画面を見る。
しかし…何と、画面には相手が電話に出たことを示す通話時間がカウントされているではないか。
知人は息を飲んだ。
相手が誰だか知らないが、この電話の先に通話相手は間違いなくいるのだ。
「…も、もしもし?」
おっかなびっくり話し掛ける知人。
しかし…
通話相手は無言だった。
「あの…もしもし…○○(知人の名前)だけど…」
無言。
「聞こえてるか?昔、遊んだ俺だよ」
無言。
「なあ…Sか?お前なのか?」
無言。
続く沈黙に、知人は耐えきれなくなって大声で言った。
「なあ!Sなんだろ?俺のこと、覚えてるか?何とか言えよ…!」
幼い頃に過ごした思い出と共に、鼻の奥がツンとなるのを覚えた知人。
気付くと、目に涙が浮かんでいたという。
「それとも誰かのいたずらなのか?もしそうなら、こういうのはやめろ!面白くないんだよ…!」
親しかったSをダシにして仕掛けられたいたずらにそうして知人が呼び掛けると…
「まだやってるよ」
不意に小さな男の声が聞こえた。
瞬間、目を見開く知人。
かすれていたし、空耳のようだったとのことだが、それは知人にまぎれもなくSの声に聞こえたという。
のちに知人は語ってくれた。
「その時は気付かなかったんだけどさ…」
昔を懐かしむように彼は続けた。
「Sと最後にメールした内容さ、後で見たんだよ。そしたら、俺が『✕✕✕(ゲームタイトル)、クリアした!そっちは?』ってあったよ」
そう言うと、知人は傍らにある自分の机に目を向けた。
「…あいつ、あの世でまだクリアできないでいるんだな」
彼の机の引き出しの中には、Sの連絡先が入った古い携帯電話が今も残っているという。
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