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美雲の雨

 珠雨が「帰るぞ」と言ったので、私も頷いて珠雨について行った。

珠雨が何を考えてるのか、どんな気持ちで先ほどの光景を見ていたのかわからなかった。

聞こうとも思わなかった。

静子さんの時も、奏くんの時も、私は複雑な気持ちになった。

確かに二人とも未練から解放されて、死に切れた。

それを安心だと思っていいのだろうか。

「……なんか、死神になったみたい」

思わず口に出していた。

珠雨はびっくりして、こちらを見る。

「……死神、か」

公園に差し掛かったところで、珠雨が立ち止まる。私もつられて立ち止まった。

「珠雨?」

なぜ立ち止まったのか、不思議に思って名前を呼ぶ。

珠雨は振り向いて、私をまっすぐ見る。

「……美雲さ、俺のこと覚えてる?」

急に何を言い出すのだろう。理解が追いつかなくて、「え?」と聞き返してしまう。

「だから、その……小学生の時……」

私は小学生の時の記憶を思い返してみた。でも珠雨との記憶が見当たらない。

「ご、ごめん……わかんない……」

珠雨は一瞬悲しそうな顔をして、すぐに表情を戻し、「あっそ」と言って公園の中に入っていく。

私は驚いて、「珠雨!」と名前を呼ぶ。

「どこいくの!」

珠雨は振り返りもせずに歩いていく。

私は、少し迷って、珠雨を追いかけることにした。

珠雨がブランコの前で立ち止まったので、私も足を止める。

「珠雨、ねえどうしたの?」

珠雨はようやく私に向き直ったかと思うと、首元をゴソゴソし始めた。

珠雨の首元から、ネックレスが出てきた。

私はそれを見て、目を見開く。

「……珠雨、それ…」

珠雨は、それを私に見せながら、

「覚えてるか?美雲が俺にくれたもの」

……思い出した、私は珠雨のこと、ずっと前に知っている。

そして、珠雨が持っている、ハートの片方のかけらが先端についているネックレスは、私が珠雨にあげたものだ。

————これ、あげる!忘れないでね、私のこと!

————なんだよこれ、変なの。

————変じゃないよ!これね、《《にこいち》》って言うんだよ!

そう言って、小学生の頃の私は、なんの恥ずかしげもなく、自分が持っていたもう片方の欠片を珠雨のものと合わせた。

珠雨の顔が真っ赤になったのを思い出す。

「あんたが忘れないでとか言って、合わせてくるから、俺、ずっとあんたのこと覚えてたんだよ。

なのに、あんたは忘れやがって……」

今、目の前にいる大人になった珠雨は、少し照れくさそうに頬をかく。

「ご、ごめん……」

なんで、忘れてたんだろう。私は、そっと、家の鍵をポケットから出す。

ハートの欠片が揺れて、きらりと光った。

珠雨は目を見開く。

「あんたそれ……持ってたのか?」

「うん…何かなって思いながらなんとなく、捨てられなくて」

珠雨は「バカだな」と笑う。

私も「うん、バカだね」と笑った。

珠雨は私の目をまっすぐ見て、真剣な声色で、

「美雲。俺、ずっと前から、美雲が好きだ。俺と付き合ってください」

珠雨は、少し顔を赤らめながら、でも、目を逸らさずに告白した。

私は、口元が緩むのと同時に、なんだか泣きそうになった。

「はい!よろしくお願いします!」

頬が、少し濡れていたのは、雨のせいだろう。

珠雨の表情が緩む。

その瞬間、珠雨と私から、無数の星屑のようなものが溢れ出てきた。

私も珠雨も同時に目を見開く。

「……報われたな、俺たち」

私は、いろんなものが込み上げてきた。

嬉しさでいっぱいいっぱいで、でも少し寂しくて……。

何より、目の前にいる珠雨が愛おしくて。

「うん……!」

そっか……私は、誰かにちゃんと見て欲しかったんだ。

優しさだけじゃなくて、私の全部を、心から愛してくれる人が欲しかったんだ。

私は、ハートの欠片を傘の中から、珠雨に差し出す。

「私のこと、忘れないでね!」

珠雨の顔が真っ赤になる。

「……あ、当たり前だろ!」

二つの欠片が合わさった瞬間、目の前がキラキラして、心がスーッと解けていった。

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