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孤独な雨模様


  ジメジメと湿気が肌にまとわりつく六月上旬。

この季節がなんだかんだ一番人気がないと思う。

そんなくだらないことを考えながら、 一人コンビニ弁当を黙々と食べる。

食堂の人気のない端っこの狭いスペース。狭いけど、一人でお弁当を食べるには十分だ。

中心の方では、男女グループが騒ぎながら学食を食べている。

眩しくて、思わず目を逸らした。

もし私があの中にいて、誰かに好かれて、私も恋をして、友達とくだらないことで笑って、たまに喧嘩して……

なんて、ありもしない妄想を繰り広げる。

これ以上考えたらダメだと、空になったお弁当のゴミをレジ袋に入れて、席を立つ。

逃げるように食堂を後にした。


  今日の大学の講義が全て終わったので、私はさっさと帰ろうと正門に向かう。

今日も誰とも話せなかった。まるで、みんな私のことが見えてないみたい。

階段を降りたとき、迷子になっているのだろうか。廊下でキョロキョロしながら同じところを行ったり来たりしている女の子が見えた。

私は反射的に自分が行く方向とは反対側にいる女の子に近づく。

「何か困ってる?」

ちゃんと聞こえる声で言ったはずだった。

「天音ー!何してんのー!」

私が尋ねてから、一拍くらい遅れて反対側から、女の子の友達らしき人の声が聞こえた。

「あ、ごめーん!迷子になってたー!すぐ行く!」

女の子は私のことなど見向きもせずに、反対方向に走って行った。

私は一人取り残される。


無視された?


距離的にも声量的にも絶対聞こえたはずだよね?

………いや、きっとあの友達の声にかき消されて聞こえなかっただけかもしれない。

きっとそうだと自分に言い聞かせながら、誰かに今の状況を見られたかもと恥ずかしくなり、早足でまた正門に向かい始めた。



✳︎✳︎✳︎



  私は昔から、困ってる人を見るとほっとけない性格だった。

小学生の頃はよく、

美雲(みく)は優しいね」

「美雲ちゃんはとっても優しくていい子です」

と、よく褒められた。

友達にも「美雲ちゃん優しくて好き!」と言われていた。

小学生の私はそう褒められるたびに素直に嬉しかったし、得意げになっていた。

人に優しくすること、困っている人がいたらすぐに助けることはいいことだと信じて疑わなかった。

いつしか私の中でそれが絶対事項になっていた。


 中学に上がってもそれは変わらなかった。

困ってる人を見つけたらすぐに助けたし、誰にでも優しく接していた。

でもいつしかみんなの反応が鈍くなっていた。

中学生の私は気づかなかった。気づいてないふりをしていた。


 ある日、隣の席のクラスで気の強い女子が授業中、教科書も開かずにぼーっとしていたので、私は善意で教科書のページを教えた。

その子はびっくりしたように私の方を見て、それから顔を顰めて、

「……何。サボんなって言いたいの?」

「え……?」

低い声で言われて私は固まった。

「いちいちうざいんだよ」

ぼそっと吐き捨てて、前に向き直った。

そのときの私は自分は何を間違えたのわからなくて、戸惑った。

 次の日から、みんなの態度がガラリと変わった。

私が話しかけても無視。

「前から思ってたけどさ、白川(しらかわ)さんってお節介だよね」

「わかるー。優しすぎて逆にうざくない?自分の正義押し付けてる感じ?まじうざいわー」

そんな陰口も囁かれるようになった。


優しすぎて逆にうざい?

優しくて何が悪いの?


正義押し付けてる?

そんなつもりじゃない。困ってたら助けるのが普通じゃないの?


何がダメだったのか、教えてくれたらちゃんと直すのに、私が聞いてもみんな無視するだけで誰も教えてくれなかった。

親には言えなかったから、毎日楽しいふりをして誤魔化した。

高校のときは、適度に優しくするように心がけたけど、昔から染み付いていたものは簡単には落ちてくれなくて、たまにおっせかいを焼いてしまった。

それに加えて、あの時私に「うざい」といってきた女子とも高校が一緒になり、中学の時の私の噂を流されて、私は高校でも孤立した。

私はあれからずっと一人だ。



✳︎✳︎✳︎



  電車で自分の家の最寄り駅に着くと、雨が降っていた。

持っていた傘を差そうとしたそのとき、視界の端に立ち尽くす女性を捉えた。

30歳くらいだろうか。雨を見つめているその横顔はひどく悲しそうに見えた。

私は女性に近づいて、鞄から取り出した折り畳み傘を差し出した。

「あの!よかったら、これ使ってください!」

二本持ってきてよかったと満足しながら、女性に笑いかけた。

女性は驚いて私を見た。信じられないものを見たような、それでいて安心したような表情を見せた。

「あ、ありがとうございます……!ありがとうございます……」

何度もお礼を言われて、今度は私が驚いた。

まるで命を救ってもらったとでも言うような表情だった。そんなに傘を持ってなかったことがショックだったのか、はたまた雨が嫌いなのか。

でも、久しぶりに無視されずにお礼を言われて嬉しかった。

「いえいえ、全然!それあげますので使ってください!」

「え……!わ、悪いです!あの、いつかちゃんとお返ししますので……えっと……」

きっと、どう返そうか迷っているのだろう。

「本当に大丈夫です!では!」

私は女性が次に何か言う前に、女性に笑顔を向けて傘差して駅を後にした。



  帰る途中、ふと見知らぬものが目に映った。

いつも素通りしている路地裏の入り口に木の素材の素朴な看板が見えた。

こんなのあったっけ?

私は不思議に思い、立ち止まってその看板の文字を読んでみた。


『喫茶~雨宿り~ この先すぐ』


新しくできたのだろうか?

家に帰ったところでやることも特にないしと思い、寄り道気分で私は路地裏に入った。

 少し奥に進むと、さっきと同じ素材の看板が立っていた。

おしゃれな木製のドアで、知る人ぞ知る、穴場スポットって感じだ。

私は傘を畳んでその扉を開けた。

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