6話:騎士章
王都の騎士団本部にある大広間。
そこは、選ばれたエリートだけが入室を許される聖域だ。
だが今、その空気は凍りついていた。
「……報告は聞いている。初陣にして上位種レッドオーガを単独討伐。しかも無傷だと?」
玉座に座る騎士団長の声が響く。
周囲には副団長や各部隊長たち――いわゆる「円卓」に近い幹部たちが並び、僕を値踏みするような目で見下ろしていた。
「まぐれだ! 平民風情が!」
「そうだ! 軍規違反で処罰すべきです!」
騒いでいるのは、先日僕にボコボコにされた貴族の親たちだろうか。
彼らは僕の存在が許せないらしい。
平民が、英雄のような戦果を上げたことが、彼らのプライドを逆なでしているのだ。
(くだらない)
僕はあくびを噛み殺す。
処罰? 追放?
好きにすればいい。ここを追い出されたら、勝手に魔王城へ向かうだけだ。
「静粛に」
団長の一言で、貴族たちが押し黙る。
彼は玉座から立ち上がり、僕の目の前まで歩いてきた。
威圧感。だが、僕の心拍数は一つも上がらない。
「アレン。本来なら、命令無視は重罪だ。……だが」
団長は懐から一つの箱を取り出した。
黒いビロードの箱が開かれる。
そこには、銀色に輝く竜の紋章がかたどられたバッジが収められていた。
「我々は結果こそを正義とする。貴様の力は、規律を凌駕した」
ざわめきが広がる。
「なっ……『銀竜の騎士章』だと!?」
「馬鹿な! 入団して三日の新兵に、小隊長クラスの証を与えるというのか!?」
「特例にも程がある!」
通常、この『銀竜章』を手にするには、最低でも十年の軍歴と、数多の武勲が必要とされる。
それを、僕はたった三日で手に入れた。
数十年かけて積み上げた彼らの努力を、僕の才能が瞬時に追い越した瞬間だった。
「受け取れ。これがあれば、騎士団の資材庫へのアクセス、および単独行動の許可が得られる」
「……単独行動?」
僕が初めて反応すると、団長は凶悪な笑みを浮かべた。
「お前のような猛獣を、鎖で繋いでおくのは損失だからな。……魔族を殺したいのだろう? 好きにやれ。責任は私が持つ」
理解が早い。
この男は、僕を「騎士」としてではなく、「生きた兵器」として運用するつもりだ。
好都合だ。
「謹んで、拝命します」
僕は銀竜章を受け取り、胸に付けた。
その瞬間、視界にシステムログが流れる。
『アイテム獲得:《銀竜の騎士章》』
『権限レベル上昇:Lv.1 → Lv.5(小隊長級)』
『周囲の評価:王都内での発言力が『無視できない存在』に変化しました』
「ありえない……」
「あんなガキが、俺たちと同格だと……?」
古参の騎士たちが歯噛みする音が聞こえる。
嫉妬。焦燥。恐怖。
彼らが僕に向ける負の感情が心地よい。
それは、僕が彼らの「理解の範疇」を超えた証明だからだ。
「……行くぞ」
僕は踵を返す。
挨拶も、感謝の言葉もない。
「待て! 団長の話は終わっていないぞ!」
誰かが叫んだが、僕は無視して扉を開けた。
銀のバッジが胸元で冷たく光る。
これは名誉ではない。
魔族を殺すための「ライセンス」だ。
(待っていろ、魔王軍。これで、僕を縛るものはなくなった)
『ステータス更新:地位のショートカット完了』
『時間短縮:10年分の出世レースをスキップしました』
扉の向こうには、青空が広がっていた。
だが、僕の目には赤黒い血の海しか映っていない。
復讐の準備は整った。次は、実践だ。




