5話:初出陣
入団からわずか三日。
異例中の異例だが、僕を含む新兵たちは初陣を命じられた。
「いいか、貴様ら! 今回の任務は『魔の森』外縁部のゴブリン掃討だ!」
上官の騎士が怒鳴る。
一般的に、
「ひぃ……いきなり実戦なんて……」
「ゴブリンって、人を食べるんだろ……?」
同じ時期に
だが、僕はあくびを噛み殺していた。
(退屈だ)
ゴブリン?
そんな雑魚を殺して、何になる?
僕が殺したいのは、あの日、エマを殺した「翼ある魔族」だ。こんな下等生物の相手など、時間の浪費でしかない。
「総員、進め! 索敵を怠るな!」
森に入る。
湿った空気。腐敗臭。
ほどなくして、茂みから緑色の小鬼たちが飛び出してきた。
「ギャギャッ!」
「うわぁぁぁ! 来たぁぁ!」
新兵たちがパニックに陥り、無様に剣を振り回す。
統率も何もない。泥沼の乱戦だ。
だが、それも一瞬で終わる。
「グルルルルッ……!!」
地響きと共に現れたのは、小鬼ではない。
身長3メートルを超える、赤銅色の巨体。手には丸太のような棍棒。
「……は? 嘘だろ……」
「オーガ……しかも、上位種の『レッドオーガ』だ!?」
引率の先輩騎士が悲鳴を上げた。
情報の不一致。
ゴブリンの巣だと思っていた場所は、オーガの縄張りだったのだ。
「逃げろ! 新兵! 勝てる相手じゃ――ぐはぁっ!?」
指示を出そうとした先輩騎士が、オーガの一振りで紙切れのように吹き飛んだ。
鎧がひしゃげ、血を吐いて動かなくなる。
「あ……あ……」
絶望。
同期たちは腰を抜かし、失禁している者さえいる。
圧倒的な暴力の前に、人間としての尊厳など一瞬で消し飛ぶ。それが戦場だ。
オーガが下卑た笑みを浮かべ、震える同期の少女に手を伸ばす。
あの日の光景がフラッシュバックする。
弄ばれ、壊される命。
(……ああ、やっぱり)
僕はため息をつき、前に出た。
(どいつもこいつも、弱いな)
「ア、アレン!? 何してるの! 逃げて!」
少女の叫びを無視し、僕はオーガの足元へ歩み寄る。
見上げる巨体。
圧倒的な質量差。
オーガは僕を虫ケラだと思い、踏み潰そうと足を上げた。
「邪魔だ」
ドォォォンッ!!
僕は踏み下ろされた足を、片手で受け止めた。
「……ガ?」
オーガの動きが止まる。
全力の踏みつけが、人間ごときに止められたことが理解できないのだ。
僕はそのまま指に力を込める。
メキョ、バキバキバキッ!!
「ゴギャアアアアアッ!?」
オーガの足首を握りつぶした。
骨が砕け、肉が弾ける感触。
「うるさいな。もっと静かに死ね」
僕は悲鳴を上げる巨体を、足首一本で軽々と持ち上げた。
そのまま、地面に叩きつける。
ズドォォォォンッ!!
大地が揺れ、森の木々が衝撃波でなぎ倒される。
一撃。
ただの一撃で、レッドオーガの頭部はスイカのように破裂し、消滅していた。
静寂が戻る。
ゴブリンたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、同期たちは口をパクパクさせている。
『討伐確認:レッドオーガ(上位種)』
『レベルアップ:Lv.55 → Lv.62』
『戦況評価:味方の生存確率 0% → 100% へ修正』
返り血一つ浴びていない僕は、ボロ雑巾になったオーガの死体を跨いで、呆然とする先輩騎士に声をかけた。
「掃討完了しました。……で、次はどこに行けばいいんですか?」
先輩騎士は震える指で僕を指差し、ひきつった声で言った。
「ば、化け物……」
感謝ではない。
畏怖。
それは、人間が理解を超えた「異物」に向ける眼差しだった。
僕は鼻
化け物で構わない。
魔王を殺せるなら、悪魔にだってなってやる。
『評価変動:騎士団内での扱いが『異常戦力』に固定されました』
初陣は終わった。
僕にとっては、ただの散歩と変わらない時間だった。




