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勇者の復讐  作者: 東井 タカヒロ
第一章 復讐の道のり
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4話:訓練

聖竜騎士団の朝は早い。

いや、「早い」という言葉では生温い。

太陽が昇るより前に叩き起こされ、泥水を啜り、限界まで肉体を酷使する。それが新兵に課せられた「常識」だった。

「貴様らのようなゴミ虫は、人間になるまで泥を這いつくばっていればいい! 死にたくなければ足を動かせ!」

怒号を上げているのは、鬼教官ゲイル。

歴戦の古強者であり、新人いびりを趣味とするサディストだ。

彼の訓練メニューは「地獄」と呼ばれ、初日で半数が脱落し、一週間で八割が逃げ出すと言われている。

「ぐ、げぇっ……もう、無理……」

「ママ……助けて……」

周囲では、昨日僕を馬鹿にしていた貴族の息子たちが、次々と泡を吹いて倒れていく。

重さ30キロの鎧を着て、山道を全力疾走で10往復。

常人なら死ぬ。

だが。

(……遅い)

僕は先頭を走りながら、苛立ちを噛み殺していた。

こんなものか?

これが大陸最強の騎士団の訓練なのか?

僕の背中には、エマを失った喪失感が常に張り付いている。

心臓が焼けつくようなあの日の絶望に比べれば、筋肉が悲鳴を上げる程度の苦痛など、痒みにも感じない。

「おい、そこの貧民! 誰がペースを上げていいと言った!」

ゲイル教官が鞭を鳴らして僕の前に立ちはだかった。

僕が他の訓練生を周回遅れにし、涼しい顔で走っているのが気に食わないらしい。

「調子に乗るなよ、小僧。基礎体力が多少あるくらいで――」

「インストラクター」

僕は彼の言葉を遮った。

「次のメニューはなんですか?」

「あ?」

「ぬるいんです、これじゃ。準備運動にもならない」

演習場が凍りついた。

泡を吹いて倒れていた同期たちが、信じられないものを見る目で僕を見上げる。

ゲイルの額に青筋が浮かんだ。

「……ほう。言うようになったな、ゴミ虫が。なら、特別メニューだ」

彼は腰に提げていた木剣を投げ渡してきた。

自身も木剣を構え、殺気立った眼光を向ける。

「俺から一本でも取れたら、基礎訓練はすべて免除してやる。ただし、手足の一本や二本は置いていけよ?」

実戦形式の「しごき」。

本来なら、新人が手も足も出ずにボコボコにされ、心を折られるイベントだ。

「……そうですか。なら、手加減は不要ですね」

『固有スキル《復讐者》発動』

『対象の戦闘技能を解析中……完了』

ゲイルが踏み込んだ。

速い。

風切り音と共に繰り出された突きは、的確に僕の喉元を狙っていた。熟練の騎士だけが放てる必殺の一撃。

だが、僕の目には「止まって」見えた。

(軌道が見える。筋肉の動きが見える。……なんだ、魔族の動きに比べれば、止まっているようなものじゃないか)

僕は半歩だけ体をずらし、突きの軌道を避ける。

同時に、ゲイルの踏み込んだ足に自分の足を引っかけ、勢いを殺さずに手首をひねり上げた。

「なっ、ぐおっ!?」

ドスンッ!!

視界が回転し、気づけば鬼教官ゲイルは地面に転がっていた。

その首元には、僕の木剣が寸止めされている。

決着まで、わずか0.5秒。

「……え?」

誰かの間の抜けた声が響く。

ゲイル教官自身、何が起きたのか理解できていないようだった。

「基礎訓練、免除でいいんですよね?」

僕は冷淡に見下ろした。

勝利の

だって、こんな程度の相手を倒したところで、あの日の魔族には届かないのだから。

『クエスト達成:教官への勝利』

『報酬:訓練スキップ権限の獲得』

『獲得経験値:通常訓練3年分に相当』

「ば、馬鹿な……俺は、元Aランク冒険者だぞ……? それを、剣を持ったばかりの子供が……」

ゲイルは震える手で自分の首を触った。

僕を見る目から「侮り」が消え、「畏怖」に変わる。

「お前、何者だ……?」

復讐者アレンです」

僕は木剣を捨て、立ち尽くす同期たちを置いて宿舎へと戻った。

時間の無駄だ。

もっと強い奴と戦わないと、僕の渇きは癒やされない。

(足りない……もっと、圧倒的な暴力が……)

『レベルアップ:Lv.50 → Lv.55』

『現在のステータス:騎士団長の数値を一部凌駕しました』

背中で聞こえる同期たちのざわめきが、今の僕には心地よいBGMでしかなかった。

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