3話:騎士団入団
王都は、不快なほど平和だった。
笑い合う人々。華やかな市場。僕の故郷が地獄の業火に焼かれていた時も、ここの連中はワインを飲んで笑っていたのだ。
「吐き気がするな」
僕の呟きに、隣を歩く騎士が苦笑する。
僕たちは、王国の守護要塞『聖竜騎士団』本部へと連行されていた。
「今日が入団試験の日だ。特例でお前も混ぜてやるが……期待するなよ? 騎士になるには、血の滲むような鍛錬と才能が必要だ」
演習場には、きらびやかな鎧を着た貴族の子供たちが百人ほど集まっていた。
ボロボロの服を着た僕が現れると、クスクスという嘲笑がさざ波のように広がる。
「おい見ろよ、貧民街のガキが迷い込んでるぜ」
「臭いな。魔獣の糞でも踏んだんじゃないか?」
彼らの視線が、僕をゴミを見るように突き刺す。
だが、僕には好都合だ。
この怒りこそが、僕を動かす燃料になる。
「静粛に! これより魔力測定を行う!」
試験官の声が響く。
内容は単純。中央にある『竜の水晶』に触れ、魔力を注ぐだけ。
数値が高ければ合格。低ければ即退場。
「次、ドルバン伯爵家長男!」
「ふん、見ていろ!」
金髪の少年が水晶に触れる。水晶は青く輝き、頭上に数字が浮かぶ。
『数値:350』
「おおっ! 一般兵の平均が100だぞ! さすがは名門!」
会場がどよめく。少年は勝ち誇った顔で僕を見下した。
「見たか貧民。これが才能の差だ。お前のようなゴミは触れるのもおこがましい」
「次、アレン。前へ」
名前を呼ばれ、僕は無言で水晶の前に立つ。
罵倒雑言が飛んでくる。
「さっさと帰れ」「水晶が汚れる」
僕は、ただ復讐のことだけを考えた。
エマの死に顔。家族の悲鳴。燃える村。
体の中で渦巻く黒い情動を、そのまま水晶に叩きつける。
(全部……壊れろ)
バチバチバチッ!!
「なっ……!?」
水晶が輝く暇もなかった。
触れた瞬間、どす黒い漆黒の雷光が迸り、水晶に無数の亀裂が入る。
ピキッ、パリーンッ!!
高価な魔導具である水晶が、内側から爆発して粉々に砕け散った。
静寂。
さっきまで僕を笑っていた貴族たちの口が、ぽかんと開いている。
試験官が腰を抜かし、計測器の破片を見つめて叫んだ。
「ば、馬鹿な!? 測定限界(9999)を超えただと……!?」
『システム通知:魔力値が測定不能です』
『判定:規格外』
「……おい、これで合格か?」
僕が冷たく問うと、試験官は震えながら何度も頷いた。
周囲の視線が変わる。侮蔑から、理解不能な怪物を見る恐怖へ。
「ま、待て! 機械の故障だ! 貧民ごときにそんな力があるわけない!」
さっきの金髪貴族が顔を真っ赤にして剣を抜いた。
プライドをへし折られたのが許せないらしい。
「貴様、俺と勝負しろ! この剣技で化けの皮を剥がしてやる!」
彼は殺気立って斬りかかってきた。
遅い。
止まって見える。
村で父さんが薪を割る動作の方が、まだ速かったかもしれない。
僕は剣を抜くことすらしなかった。
踏み込み、無防備な懐に潜り込み、その土手っ腹に拳を叩き込む。
ドォンッ!!
「がはっ……!?」
貴族の少年はボールのように吹き飛び、演習場の壁に激突して気絶した。
1つ
魔法すら使っていない、ただの拳。
「……弱い。こんなのが騎士なのか?」
シーンと静まり返る演習場に、拍手の音が響いた。
壇上から降りてきたのは
「合格だ、アレン。いや……今日からお前は『特別特待生』だ」
「団長!? しかし彼は平民で……!」
「黙れ。この少年は、我々が数百年待ち望んだ『刃』になるかもしれん」
団長は僕の前に立ち、ニヤリと笑った。
「ようこそ、地獄(騎士団)へ。お前のその飢えを満たすエサは、ここに山ほどあるぞ」
『クエスト完了:騎士団入団』
『報酬獲得:ステータス『騎士見習い』→『修羅の騎士(仮)』へ進化』
僕は自分の拳を見つめる。
力が溢れてくる。
復讐への第一歩。この国最強の集団への切符を、僕は最短距離で掴み取った。




