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勇者の復讐  作者: 東井 タカヒロ
第二章 冒険者の旅立ち
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20話:即討伐

「あ……が……」

足元で、かつて「災厄」と呼ばれた怪物が震えている。

エンシェント・キメラ。

その三つの瞳から、闘争心は完全に消え失せていた。あるのは、ただの生物としての生存本能――「助けてくれ」という懇願だけだ。

「悪いな。慈悲を持ち合わせているのは、物語の中の勇者だけだ」

僕は『王家の短剣』を逆手に持ち、その眉間に切っ先を当てた。

「僕は復讐者だ。敵は殺す。それだけだ」

ザンッ。

音は短かった。

抵抗もなく、まるで豆腐に針を通すように、短剣が頭蓋を貫通し、魔石コアを粉砕した。

キメラの巨体がビクリと痙攣し、そして――糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

『討伐確認:エンシェント・キメラ(変異種)』

『戦闘時間:3分12秒』

『評価:瞬殺インスタント・キル

静寂が戻る。

立ち込めていた瘴気が霧散し、遺跡の空気が軽くなる。

「……終わったぞ、リズ」

僕が振り返ると、リズはその場に平伏していた。

怯えているのではない。

彼女の種族としての本能が、絶対的な「王」に対する服従の姿勢を取らせているのだ。

「見事……いえ、なんと表現すればよいか……」

「感想はいらない。回収だ」

僕はキメラの死体を、拡張されたアイテムボックスに放り込んだ。

Sランクモンスターの素材。全身が宝の山だ。

そして、その跡にはソフトボール大の結晶が残されていた。

『ドロップ:キメラの心臓(S級国宝)』

『効果:あらゆる病や呪いを解く秘薬の材料、または究極の魔力増幅剤』

「……これで、文句なしだろ」

僕は結晶を空中に放り投げ、片手でキャッチした。

レベルも上がった。懐も潤った。

この遺跡にはもう用はない。

     ◇

辺境都市の冒険者ギルド。

僕たちが戻ったのは、出発してからわずか半日後だった。

「あら? アレンちゃん、忘れ物?」

受付嬢がキョトンとした顔で声をかけてくる。

ギルドマスターも、書類仕事の手を止めて眼鏡を直した。

「どうされました、アレン様。まさか、入り口の瘴気で撤退を……いや、賢明な判断です。準備不足でしたからな」

彼らは信じているのだ。

Sランクダンジョンの攻略には、準備だけで数週間、攻略には数ヶ月かかると。

半日で戻ってくるなど、入り口で逃げ帰った以外にありえないと。

「撤退?」

僕はカウンターに歩み寄り、アイテムボックスを開いた。

「『解体』を頼む。量が多いから、倉庫を空けておいてくれ」

ドサァァァァァッ!!

カウンターの上に、巨大なライオンの首が転がり出た。

さらに、山羊の角、大蛇の尾、そして竜の翼。

最後に、キラキラと輝く『キメラの心臓』をゴトリと置く。

「……は?」

ギルドマスターの眼鏡が滑り落ちた。

受付嬢が持っていたペンを取り落とす。

酒を飲んでいた冒険者が、ジョッキの中身を吹き出す。

時が止まった。

全員の視線が、目の前の「ありえない物体」に釘付けになる。

「こ、これ……エンシェント・キメラの……生首……!?」

「まだ温かいぞ……!?」

「まさか、倒したのか!? 行って帰ってくるまでの、この短時間で!?」

「移動に時間がかかったんだ。戦闘自体はすぐ終わった」

僕が淡々と告げると、ギルドマスターは酸欠になった魚のように口をパクパクさせ、そして絶叫した。

「そ、即討伐インスタント・キルだァァァァッ!!」

ギルドが揺れるほどの歓声とどよめき。

Sランク指定の化け物を、ソロで、しかも半日で。

それはもう「冒険者」という枠組みを超えていた。

「報酬の査定と、素材の売却を急げ。……ああ、それと」

僕は呆然とする彼らに、追撃の一言を放つ。

「この街の『クランハウス』の拡張工事も頼む。これから忙しくなるからな」

『クエスト完了:忘却の地下遺跡の攻略』

『報酬総額:金貨8000枚相当(素材・秘宝含む)』

『レベルアップ:Lv.72 → Lv.85』


【ステータス更新】

名前:アレン

職業:復讐者

ランク:S(実質)

所持金:国家予算規模

状態:準備完了

僕は騒がしいギルドを背に、窓の外を見上げた。

空は晴れている。

だが、僕には見える。

その空の向こうから、どす黒い「次の敵」が迫っているのが。

「……来いよ、英雄も、魔王も」

僕の手には、全てをねじ伏せる力と金がある。

復讐の序章は終わった。

ここからが本番だ。

『第二章 冒険者の旅立ち ――完――』


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