2話:騎士団保護
死ぬはずだった。
いや、死にたかったのかもしれない。
目の前には、村人を食い散らかした下級魔族が三体。
血に濡れた爪を舐めながら、最後の一人である僕を取り囲んでいた。
「ケケッ、旨そうなガキだ」
「恐怖で動けねえのか? 楽にしてやるよ」
魔族の爪が振り上げられる。
僕はエマの亡骸を抱きしめたまま、動けなかったのではない。
ただ、睨んでいた。
殺される恐怖よりも、殺し返せない無力さへの憤怒が、僕の体を縛り付けていた。
(力が欲しい……あいつらを殺せる、理不尽なまでの力が……!)
爪が僕の喉元に迫った、その瞬間。
ドォォォォンッ!!
白い閃光が走り、魔族の上半身が消し飛んだ。
血の雨が降る中、砂塵を割って現れたのは、銀色の鎧を纏った集団。
「遅れてすまない! 生存者はいるか!?」
王国の守護神、聖竜騎士団。
その先頭に立つ男が、剣を一振りして残りの魔族を肉片に変えた。
圧倒的だ。
僕がどれだけ願っても届かなかった「力」が、そこにあった。
「……少年、無事か?」
騎士の一人が僕に駆け寄る。
だが、僕は頷かなかった。ただ、燃え尽きた村と、エマの冷たい手を握りしめていた。
「生存者は……この少年一人だけのようです」
「酷いな……直ちに保護し、王都へ搬送する!」
僕は担架に乗せられた。
抵抗する気力はなかったが、意識だけは異常に冴えていた。
騎士団長らしき男が、僕を見て眉をひそめているのが分かった。
「おい、衛生兵。この少年の魔力測定器を見ろ」
「はっ……えっ!? こ、これは……故障でしょうか?」
衛生兵の声が裏返る。
僕の腕に巻かれた簡易測定器の針が、限界値を振り切って振動していたからだ。
「測定不能……? ただの村人の子供が、これほどの『殺気』と『魔力』を垂れ流しているというのか?」
騎士団長が僕の瞳を覗き込む。
普通なら恐怖で震えるはずの子供の目は、昏い炎を宿して彼を見返した。
「少年、名は?」
「……アレン」
「アレンか。辛いだろうが、今は休め。お前は我々が保護する」
「……保護なんていらない」
乾いた唇から出た言葉に、騎士たちが驚いて足を止めた。
僕はエマの遺体に最後の別れを告げ、騎士団長を睨みつけた。
「僕に、剣をくれ」
「なんだと?」
「あいつらを殺す方法を教えてくれ。力が欲しい。奴らを一匹残らず駆除できる、絶対的な力が」
『システム警告:感情変数が〈渇望〉へ固定されました』
『スキル《復讐者》の影響により、成長速度補正:極大が付与されます』
団長は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
「いい目だ。絶望に食われるのではなく、絶望を食らおうとしている」
彼は僕の頭に巨大な手を置いた。
「王都に来い、アレン。その殺意、使いようによっては世界を変える剣になる」
運命の歯車が回る音がした。
保護された哀れな孤児?
違う。
僕は今日、復讐鬼として生まれ変わるための「切符」を手に入れたのだ。
(待っていろ、魔族ども。僕が必ず、地獄へ引きずり下ろしてやる)
揺れる馬車の中で、僕は握りしめた拳から血が滲むのも忘れて、ただ復讐の未来だけを幻視していた。




