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勇者の復讐  作者: 東井 タカヒロ
第二章 冒険者の旅立ち
19/20

19話:猛獣

「グオオオオオオオオオッ!!」

エンシェント・キメラが咆哮する。

それは単なる威嚇ではない。大気中のマナを強制的に励起させる、破壊の歌だ。

ライオンの口から紅蓮の炎、山羊の口から紫電の雷、そして蛇の尾からは猛毒の霧。

三つの災厄が同時に放たれる、Sランクモンスターの必殺技――『トリニティ・ディザスター』。

マスターッ!?」

リズが悲鳴を上げる。

回避不能。防御不能。

この遺跡を崩落させるほどのエネルギーの奔流が、僕という一点を目掛けて収束する。

視界が光で埋め尽くされる。

熱波が肌を焼こうとし、雷鳴が鼓膜を破ろうとする。

だが。

(……ぬるい)

僕の目には、その全てのエネルギーの流れが「線」として見えていた。

あの日の絶望。

村を焼いた魔族の黒い炎に比べれば、こんなものは蝋燭の火遊びにすぎない。

「消えろ」

僕は一歩踏み込み、迫りくる三色の奔流に向かって、無造作に左手を振った。

パァァァァァァンッ!!

ガラスが割れるような音が響き渡る。

炎が、雷が、毒霧が。

僕の手に触れた瞬間、嘘のように弾け飛び、霧散した。

「……ア?」

キメラの三つの頭が、同時に凍りついた。

理解できない。

自らの最強の攻撃が、魔法防御障壁ですらなく、ただの「手払い」で消されたことが。

「僕を殺すなら、星の一つでも落としてこい」

僕は煙を突き破り、キメラの目の前に躍り出る。

巨大なライオンの頭部。

その瞳に、僕という小さな人間が映る。

だが、キメラは動けなかった。

本能が警鐘を鳴らしているのだ。

目の前にいるのは「人間エサ」ではない。

自分よりも遥かに上位に位置する、捕食者モンスターだと。

「ガ、ア……ッ!?」

キメラが後ずさる。

Sランクの怪物が、恐怖で震えている。

「逃がすかよ」

僕は笑った。

その瞬間、僕の背後から噴き出した漆黒の殺気が、遺跡のドーム全体を塗り潰した。

それはリズのような獣のオーラではない。

もっとドロドロとした、怨念と執着の塊。

『スキル発動:王の威圧(復讐者Ver.)』

『効果:対象の全ステータスを50%ダウン / 恐怖状態(麻痺)付与』

「ギ、ギャアアアアッ!?」

キメラが悲鳴を上げ、地面に這いつくばる。

重力が増したわけではない。

僕の放つプレッシャーに魂が押し潰され、立つことすら許されないのだ。

「いい声だ」

僕はキメラの鼻先に着地し、そのたてがみを掴んだ。

「さっきまでの威勢はどうした? 猛獣なんだろ? もっと楽しませてくれよ」

僕は腕に力を込める。

ステータス補正など必要ない。今の僕の怒りと魔力が、筋肉の限界を超えて作用する。

メキメキメキッ……!

「ガッ、ググゥッ……!?」

20メートルの巨体が、片手一本で持ち上がる。

ライオンの顔が苦痛に歪み、山羊が泡を吹き、蛇が暴れる。

「リズ、よく見ておけ」

僕は暴れるSランクモンスターを、まるでゴミ袋のように振り回した。

「これが『狩り』だ」

ズドォォォォォォォンッ!!

キメラを地面に叩きつける。

遺跡の基盤が悲鳴を上げ、巨大なクレーターが生まれた。

「ガハッ……!」

キメラが血を吐く。

全身の骨が砕け、もはや虫の息だ。

だが、僕はまだ手を離さない。

「終わりじゃないぞ。僕の復讐リハビリに付き合ってもらう」

土煙の中、僕は無慈悲に笑う。

どちらが猛獣か。

その答えは、リズの震える瞳が語っていた。

『戦闘ログ:一方的な蹂躙』

『対象の戦意:完全喪失』

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