18話:ボス討伐
最深部への扉は、山のように巨大だった。
表面には不吉なレリーフが刻まれ、近づくだけで肌がピリピリとするほどの魔力が漏れ出している。
「主。……この向こうに、います」
リズが低く唸る。
彼女の獣の勘が、扉の奥に潜む「死」を嗅ぎ取っているのだ。
Sランクダンジョン『忘却の地下遺跡』。
その最奥に君臨するボス。それは、国一つを滅ぼせるほどの災厄だとされている。
「開けるぞ」
僕は躊躇なく扉に手をかけ、押し開いた。
重厚な石の擦れる音が響き、暗闇の中から二つの「紅い光」が浮かび上がる。
ゴオオオオオオオオッ……!!
咆哮。
それだけで大気が震え、僕たちの髪が逆立つ。
広いドーム状の空間の中央に、その怪物はいた。
ライオンの頭部、山羊の胴体、蛇の尾。
そして背中からは、禍々しい竜の翼が生えている。
古代の錬金術が生み出した最高傑作にして、最悪の合成獣。
『ボス遭遇:エンシェント・キメラ(変異種)』
『推定ランク:S+』
『状態:激昂』
「……デカいな」
見上げるほどの巨体。
全長は20メートルを超えているだろう。
通常なら、騎士団の精鋭部隊が百人がかりで挑み、半数が死ぬ覚悟をする相手だ。
「グルルルッ……!!」
キメラが僕たちを睨む。
その威圧感に、普通なら足がすくむ。
だが、僕の隣に立つリズは、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべていた。
「主よ。……試し斬り(テスト)、してもよろしいですか?」
「許可する。新しい装備の性能を見せてみろ」
「御意ッ!」
リズが弾丸のように飛び出した。
速い。
以前とは比べ物にならない加速。S級素材で作られた『黒狼の戦装束』が、彼女の身体能力を極限までブーストしている。
「ガァッ!!」
キメラが反応し、丸太のような前足で薙ぎ払う。
直撃すればミンチになる一撃。
だが、リズは空中で軌道をねじ曲げ、その剛腕を駆け上がった。
「遅いッ!」
ザンッ!!
黒い閃光。
リズの爪がキメラの右目を切り裂いた。
「ギャオオオオオオッ!?」
鮮血が舞う。
Sランクモンスターの皮膚を、まるで紙のように。
「……いい切れ味だ」
僕は腕を組んで観察する。
リズのポテンシャルと、僕の資金力(装備)が噛み合った結果だ。
今の彼女なら、円卓の騎士とも渡り合えるかもしれない。
だが、敵もさるものだ。
キメラは痛みで暴れ回るどころか、残った左目でリズを捕捉し、山羊の口から「石化のブレス」を吐き出した。
バシュウウウウッ!!
広範囲を覆う灰色の霧。
回避不能の飽和攻撃。
「チッ……!」
リズがバックステップで距離を取るが、霧の速度の方が速い。
彼女の足元に霧が迫る。
「……遊びはそこまでだ」
僕は指を鳴らした。
『スキル発動:因果律操作』
『対象:石化の霧 → 無効化』
霧がリズに触れる寸前で、嘘のように消滅した。
魔法的現象の因果を断ち切る。僕にとっては呼吸するより簡単な作業だ。
「た、助かりました……!」
「気にするな。前だけ見てろ」
僕は一歩、前へ出る。
キメラが僕に標的を変えた。
本能が告げているのだろう。
チョロチョロ飛び回る銀色の狼よりも、後ろに立っている「人間」の方が、遥かに危険で底知れない存在だと。
「グルルル……!!」
キメラの筋肉が膨張する。
魔力が収束していく。
ただの爪撃やブレスではない。
この遺跡ごと僕たちを消し飛ばすつもりだ。
「来るぞ、リズ。下がってろ」
「はッ!」
僕は『王家の短剣』を抜かず、素手のまま構えた。
相手はSランクの化け物。
今の僕の力を試すには、最高のサンドバッグだ。
「さあ、踊ろうか。復讐のリハーサルだ」
『戦闘モード移行』
『勝率予測:100%(オーバーキル)』




