17話:莫大な資金
「死ネ……強欲ナ人間ヨ……!」
スペクター・ロードが腕を振るう。
実体のない漆黒の爪が、空間ごと僕を切り裂こうと迫る。
物理攻撃無効。魔法耐性極大。
本来なら、専門の聖職者が聖歌を詠唱しながら数時間かけて浄化する相手だ。
だが。
「遅い」
僕は一歩も動かなかった。
ただ、右手に持った『王家の短剣』に、ありったけの殺気――いや、「金への執着」を込めて薙ぎ払った。
ザンッ!!
「グガッ……!? 馬鹿ナ……物理攻撃ハ効カヌはず……!?」
亡霊の腕が、呆気なく切断されて宙を舞う。
僕のスキル《復讐者》は、対象への干渉力を強制的に書き換える。
相手が霊体だろうが神だろうが、僕が「斬る」と認識すれば、それは肉の塊と同じだ。
「僕の財布をするには、金貨100枚ほど足りないな」
僕は踏み込む。
亡霊が恐怖に顔を歪める。
死者が生者に抱くはずのない感情。
「ヒッ……貴様、何者ダ……!?」
「債権者だ」
ズバァァァァンッ!!
銀閃が走る。
スペクター・ロードの巨体は、断末魔を上げる暇もなく霧散した。
後に残ったのは、キラキラと輝く最高級の『魂の結晶』だけ。
『討伐確認:古代王の守護霊』
『ドロップ:魂の結晶(S級)、古代王の指輪』
『レベルアップ:Lv.68 → Lv.72』
「……雑魚が」
僕は結晶を拾い、宝の山へと向き直った。
邪魔者は消えた。
ここにある全てが、正真正銘、僕の物だ。
◇
数時間後。
辺境都市の道具屋に、一人の客が入ってきた。
店主の男は、その顔を見て露骨に嫌な顔をした。
「あ? またお前か。昨日の『金無し』坊主だろ? うちはツケはやってねえって言ったはずだが」
店主は鼻で笑い、手を振って追い払おうとする。
無理もない。
昨日の僕は銅貨3枚しか持っていなかった。彼の目には、ただの冷やかしにしか映っていない。
「……買い物だ」
「だから、金はあるのかよ? ええ?」
僕は無言で、カウンターの上に麻袋を置いた。
重い音。
ガラスケースが軋むほどの重量感。
「はっ、どうせ石ころでも詰めてきたんじゃ――」
店主が小馬鹿にしながら袋の紐を解く。
その瞬間。
ジャラララララッ!!
袋から溢れ出した黄金の輝きが、店内を照らし出した。
古代金貨。
宝石の原石。
そして、高純度の魔石。
「ひっ、へ……!?」
店主の目が飛び出る。
呼吸が止まる。
カウンターの上に広がったのは、この店を10回買い取ってもお釣りがくるほどの財産だ。
「こ、こ、これは……本物……!?」
「在庫にあるポーション、食料、消耗品。……全部だ」
僕は冷たく告げた。
「全部? え、いや、しかし……」
「足りないか? なら、これも追加だ」
僕は懐から、さらに大きな宝石――さっきの亡霊が落とした『魂の結晶』を取り出し、ゴトリと置いた。
「ヒィッ……!?」
店主が腰を抜かしてへたり込む。
国家予算レベルの取引だ。一介の道具屋が扱える金額ではない。
「ア、アレン様……! いえ、大旦那様ァッ! ただちに! ただちに準備させていただきますぅぅッ!!」
店主は土下座をし、額を床に擦り付けた。
昨日の侮蔑はどこへやら。
今の彼は、僕の靴底を舐めることすら喜んでやるだろう。
これが「力」だ。
暴力だけではない。経済力という暴力もまた、人をひれ伏させる。
【資産状況更新】
所持金:測定不能(億単位)
経済的自由:達成
「リズ、運べ」
「御意。……主よ、少し買いすぎでは?」
「構わない。金なら腐るほどある」
店を出た僕たちの後ろ姿を、街の人々が呆然と見送っていた。
昨日までの貧乏少年はもういない。
今ここにいるのは、都市一番の大富豪であり、最強の冒険者だ。
「さて……装備も物資も整った」
僕は満面の笑みで、次の目的地を見据えた。
「次は『ボス討伐』だ。この遺跡の最深部に眠る、真の化け物を狩りに行くぞ」
金銭的不安が消滅した今、僕の心は純粋な闘争心だけで満たされていた。
今の僕なら、神ですら買収して殺せる気がする。




