16話:秘宝の宝
『忘却の地下遺跡』。
その名の通り、歴史から消された古代王国の成れの果てだ。
入り口に立つだけで、肌を刺すような瘴気と、重苦しい魔力の奔流を感じる。
普通の冒険者なら、この時点で足がすくみ、引き返すだろう。
だが、今の僕たちは違った。
「……匂うな」
「はい、主。濃密な……血と死の匂いです」
「違う。金の匂いだ」
僕は鼻を鳴らした。
視界に映る遺跡の壁面。苔むしているが、その下にあるのはただの石材じゃない。
古代魔術で強化された『魔抗石』だ。市場価格、拳大で金貨一枚。
「リズ、壁を剥がせ」
「……はい?」
「この遺跡は宝の山だ。壁も床も、落ちてる瓦礫も全部金になる。袋詰めだ」
「ぎ、御意……」
リズが呆れながらも、鋭い爪で壁を切り裂く。
僕たちはSランクダンジョンに挑む冒険者ではない。
ただの悪質な「解体業者」として侵入を開始した。
◇
「グオオオオオオッ!!」
地下二層。
行く手を阻んだのは、全身が宝石で構成された巨大な人型――『クリスタル・ゴーレム』の群れだった。
通常種ではない。長い年月を経て魔力を吸い、硬度と凶暴性が増した変異種だ。
「硬いぞ、リズ。斬れるか?」
「愚問です」
リズが地を蹴る。
銀閃一閃。
ゴーレムの剛腕が振り下ろされるより速く、彼女の爪がその核を貫いていた。
パリーンッ!!
美しい音を立てて、巨体が砕け散る。
散らばったのは、ただの破片ではない。
ルビー、サファイア、エメラルド。
王都の宝石店ならショーケースの最上段に並ぶクラスの原石が、ゴミのように転がっている。
「……素晴らしい」
僕は震える手で『極上のルビー』を拾い上げた。
これ一つで、リズの装備代がチャラになる。
「主よ、次が来ます!」
「歓迎するよ。全部『換金』してやる」
ポーションがない?
関係ない。攻撃を受けなければいいだけだ。
僕たちは踊るようにゴーレムの群れを蹂躙し、宝石の雨を降らせた。
戦闘というより、収穫祭だ。
恐怖の対象であるダンジョンモンスターが、今の僕には「足の生えた財布」にしか見えない。
『アイテム獲得:深紅の魔核(S級素材)×12』
『アイテム獲得:古代結晶(高純度)×35』
『推定売却額:金貨500枚相当』
「はは……笑いが止まらないな」
麻袋がパンパンに膨れ上がる。
だが、僕のスキル《復讐者》の『因果律操作』が、さらなる獲物を感知していた。
この奥だ。
このフロアの突き当たりに、通常のルートでは辿り着けない「隠し部屋」がある。
「リズ、そこを壊せ」
「壁ですが……?」
「いいから全力でやれ」
リズが咆哮と共に、何もない壁に必殺の爪撃を叩き込む。
轟音と共に壁が崩落し――その奥から、黄金の光が漏れ出した。
「な……っ!?」
リズが息を呑む。
そこにあったのは、部屋ではない。
山だ。
金貨、宝飾品、魔導具、古代の武具。
それらがうず高く積み上げられ、小山を作っていた。
『忘却の地下遺跡』の噂は本当だった。
ここは古代王国の隠し金庫。
数百年分の国家予算が、手付かずのまま眠っていたのだ。
「……秘宝の宝、か」
僕は金貨の山に手を突っ込んだ。
冷たくて重い、富の感触。
たった数時間前まで「銅貨3枚」だった貧乏人が、今この瞬間、国一番の大富豪へと成り上がった。
【財宝獲得ログ】
・古代金貨:測定不能(推定100万枚以上)
・国宝級魔導具:多数
・スキルスクロール:『全属性耐性』他
「主よ……これ、どうやって持ち帰りますか? 袋に入り切りませんが」
「アイテムボックスがある。……っと、容量がいっぱいか」
Aランクカードの特典である収納空間も、この量は想定外らしい。
僕は贅沢な悩みに頭を抱え、そしてニヤリと笑った。
「全部は無理だ。……だから、一番『高い』やつだけ持っていく」
僕の視線は、金貨の山の頂上。
そこに鎮座する、異様なオーラを放つ「一つの箱」に釘付けになっていた。
金貨の山など、この箱の「台座」に過ぎないと思わせるほどの、圧倒的な存在感。
(あれだ。あれが、この遺跡の真の『秘宝』だ)
僕が箱に手を伸ばした、その時。
ズズズズズズッ……!!
部屋全体が激しく揺れ、金貨の山が崩れた。
地面から、禍々しい漆黒の霧が噴き出す。
「貴様ラ……我ガ眠リヲ妨ゲ、宝ヲ奪オウトスル盗人カ……」
脳に直接響く、重低音の念話。
箱の背後から、巨大な影がせり上がってくる。
この財宝を守る番人。
Sランク冒険者パーティを何組も葬ってきた、絶望の化身。
だが、僕はその影を見上げ、不敵に笑った。
「盗人? 違うな」
僕は短剣を抜いた。
「『徴収』だ。この世界の全ては、僕が魔王を殺すための糧になる義務がある」
『ボス出現:古代王の守護霊』
『推奨討伐レベル:Lv.80』
格上だ。
だが、今の僕には「金」という最強のバフ(モチベーション)がかかっている。
誰にも止められない。
「どけよ亡霊。その宝は、僕の軍資金だ」




