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勇者の復讐  作者: 東井 タカヒロ
第二章 冒険者の旅立ち
15/20

15話:金がない

「行くぞ、リズ。遺跡の主を狩り尽くしてやる」

屋敷の玄関で、僕はマントを翻して高らかに宣言した。

決戦の朝だ。

空は鉛色に淀み、遠くから不気味な地響きが聞こえている。

最高のシチュエーションだ。これから伝説になる戦いが始まる。

「……マスター

背後で準備を整えていたリズが、申し訳なさそうに手を挙げた。

「一つ、報告が」

「なんだ? 敵の増援か?」

「いえ。……回復ポーション、食料、携帯用魔導ランプ、その他消耗品ですが……在庫がゼロです」

「……あ?」

僕は振り返った。

リズの手には、空っぽの麻袋が握られている。

「買っておけと言ったはずだが」

「はい。ですが、道具屋で支払いをしようとしたところ……『資金不足』で断られました」

「は?」

僕は耳を疑った。

資金不足? この僕が?

昨日、グリフォン討伐で金貨50枚を稼ぎ、さらに円卓や騎士王から支援も受けているはずだ。

金がないわけがない。

僕は慌てて懐の革袋を確認する。

軽い。

嫌な予感がして中を覗くと、そこには寂しげに銅貨が三枚、転がっていた。

【現在の所持金】

残高:銅貨3枚(パン一個分)

「……嘘だろ?」

冷や汗が流れる。

僕は脳内で昨日の出費を計算した。

クランハウス購入費:

一等地の大豪邸。破格とはいえ、修繕費と家具代で金貨30枚が飛んだ。

リズの装備一式:

『黒狼の戦装束』。特注のS級素材使用。金貨15枚。

ギルドへの上納金と登録料:

特務ランク維持のための諸経費。金貨4枚。

「……計算が合う」

完璧に合ってしまった。

グリフォン討伐の報酬も、騎士王からの手切れ金も、全てが「最強の環境」を整えるために消えていたのだ。

「主よ。……我々は、素手で遺跡に行くのですか?」

リズが純粋な瞳で問いかけてくる。

Sランク級の『忘却の地下遺跡』だ。

毒、罠、呪い、そして未知の魔物。

ポーションなし、解毒剤なし、明かりなしでの攻略は、自殺行為に近い。

(……マズい)

戦闘力は足りている。だが、物資が致命的だ。

このままでは、魔王軍と戦う前に「空腹」と「状態異常」で野垂れ死ぬ可能性がある。

僕は慌ててギルドへ走った。

     ◇

「前借り? で、できませんよそんなこと!」

ギルドマスターが目を丸くして叫んだ。

外は災害級の予兆でパニック状態だというのに、この国の英雄候補はカウンターで金の無心をしていた。

「Sランク任務だぞ!? 必要経費くらい出せ!」

「だ、ダメです! ギルドの規定で、報酬は『完全成功報酬』のみと決まっております! たとえアレン様でも、失敗する可能性がゼロではない以上……」

役人根性丸出しの回答に、僕は舌打ちした。

円卓の連中め、面倒な仕事を押し付けた上に、経費すら出さないとは。

「くそっ……! おい、この短剣を質に入れたらいくらになる?」

「ひぃッ!? こ、国宝の『王家の短剣』を質に!? 反逆罪で処刑されますよ!?」

八方塞がりだ。

最強の力、最高の装備、最高のクランハウス。

それらを持っているのに、今の僕は「ポーション一本買えない」貧困層だった。

「……アレン様」

絶望する僕に、ギルドマスターがこっそりと耳打ちをした。

「実は……あの遺跡には、噂があるのです」

「噂?」

「はい。『忘却の地下遺跡』の最奥には、かつての古代王国が隠した『秘宝』が眠っていると……」

ピクリ、と僕の耳が動く。

「その価値は計り知れません。もしそれを持ち帰れば、金貨どころか、国家予算レベルの富が得られるでしょう」

「……ほう」

僕の目に光が戻った。

隣でリズも「肉が買える」と思ったのか、尻尾をブンブン振っている。

「なるほど。つまり、現地調達しろってことだな」

「えっ? い、いえ、そういうわけでは……装備もなしに行くのは危険すぎます!」

「うるさい。行くぞ、リズ!」

僕はカウンターを蹴って飛び出した。

恐怖も不安もない。あるのは「金欠」という切実な問題と、それを解決する「秘宝」への強欲だけだ。

「魔物だろうが罠だろうが、金になるものは全部奪う!」

「御意! 根こそぎ頂きましょう!」

当初の目的は「調査」と「討伐」だった。

だが今、作戦目標は変更された。

『クエスト更新:遺跡の強盗……もとい、探索』

『優先目標:換金可能なアイテムの全回収』

『現在の所持金:0(崖っぷち)』

僕たちは飢えた狼のように、死の香りが漂う遺跡へと駆け出した。

ポーションがないなら、食らっても回復する前に敵を殺せばいいだけの話だ。

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