13話:クラン
金はある。地位もある。
次に必要なのは「駒」だ。
それも、そこら辺の有象無象ではない。僕の復讐についてこられる、狂気と才能を秘めた「特級の駒」が必要だ。
僕は表通りのギルドを素通りし、貧民街のさらに奥、地図にも載っていない裏路地へと足を踏み入れた。
「ヒヒッ……旦那、いい肉が入ってますぜ」
辿り着いたのは非合法の奴隷商館。
鉄格子の中に、虚ろな目をした亜人や犯罪者たちが詰め込まれている。
強靭なオーク、魔術の心得があるエルフ。
どれも高値がついているが、僕の目(ステータス視認)には「凡庸」としか映らない。
(……ゴミばかりだ)
成長限界が見えている。
これでは円卓の騎士どころか、その辺の騎士団員にも勝てない。
帰ろうとした、その時だ。
店の最奥。
光も届かない独房の隅に、「それ」はいた。
「……おい。あれはなんだ」
僕が指差すと、商人は嫌そうな顔で唾を吐いた。
「ああ、あれですか。失敗作ですよ。狼人族の変異種なんですがね、魔力を暴走させて商品価値がゼロだ。近々、処分する予定でして」
ボロボロの布を纏った少女。
銀色の髪は泥にまみれ、首には魔力を封じる『封魔の首輪』が何重にも巻かれている。
痩せこけて、死にかけのように見える。
だが、僕には見えていた。
『解析結果:ポテンシャル SS』
『保有スキル:魔狼の王権(未覚醒)』
(……見つけた)
宝の山の中に捨てられた、泥だらけのダイヤモンド。
この商人は目が節穴だ。彼女が放つ、世界を噛み千切るような殺意の波動が見えていない。
「買うよ」
「へ? いやいや、旦那。やめた方がいい。いつ暴れ出すか――」
チャリン。
僕は金貨袋を商人の顔面に投げつけた。
「釣りはいらない。鍵をよこせ」
「き、金貨10枚!? ガラクタにこんだけの金を!?」
商人は腰を抜かし、慌てて鍵束を差し出した。
◇
鉄格子を開け、少女の前に立つ。
彼女は獣のような瞳で僕を睨みつけた。
「……殺す気か? 人間」
「まさか。拾いに来たんだ」
僕は彼女の首に手をかけた。
何重にも巻かれた分厚い鉄の首輪。
それを、指先の力だけで――
バキィッ!!
「っ!?」
粉砕した。
鉄屑が床に散らばる。
その瞬間。
少女の体から、封じ込められていた魔力が爆発的に噴き出した。
ドォォォォンッ!!
商館が揺れる。
銀色の髪が輝きを取り戻し、痩せた体躯に力が漲る。
狼の耳と尻尾が逆立ち、その背後に巨大な狼の幻影が揺らめいた。
「……なぜだ? なぜ私を解き放つ?」
「僕には見えるからだ。お前のその牙が」
僕は彼女を見下ろし、手を差し伸べた。
「復讐したい奴がいるんだろう? 世界を恨んでいるんだろう? なら、僕が使ってやる」
少女の瞳が揺れた。
そして、ゆっくりと――その鋭い牙を収め、僕の前に跪いた。
「……我が名はリズ。この命、貴様……いや、主に捧げよう」
『契約成立:リズ(魔狼族)』
『配下が追加されました』
【配下ステータス】
名前:リズ
種族:魔狼族(変異種)
Lv:5 → 40(覚醒により上昇)
スキル:神速、捕食吸収
備考:忠誠度MAX
たった数分で、Lv.5からLv.40への超進化。
やはり僕の目に狂いはなかった。彼女一人で、そこらの中堅ギルドなら壊滅できるだろう。
「行くぞ、リズ。まずは住処を確保する」
「御意。……どこへ?」
「クランハウスだ。一番デカい屋敷を買い占める」
僕は商館を出る。
背後には、絶対の忠誠を誓う銀色の猛獣。
たった二人。
だが、これが後に世界を震撼させる最強クラン『黒の断罪者』の始まりだった。
『クラン設立条件:達成』
『現在の戦力評価:小国に匹敵』




