12話:飛び級
「う、うわぁぁぁぁッ! 助けてくれぇッ!」
「ダメだ……! 数が多すぎる! 情報と違うぞ!」
岩場に悲鳴が響き渡る。
僕がたどり着いた依頼地点では、先に到着していたCランク冒険者のパーティが壊滅寸前だった。
彼らを囲んでいるのは『変異グリフォン』。
通常の個体よりも一回り大きく、鋼鉄のような羽根を持つ空の殺し屋だ。しかも、数は十体以上。
さらに悪いことに、群れの中央には角の生えた巨大な個体――『グリフォン・ロード』まで鎮座している。
「あ、あぁ……終わった……」
リーダーらしき男が剣を折られ、絶望に顔を歪める。
ロードが巨大な鉤爪を振り上げ、彼らの首を刈り取ろうとした、その瞬間。
「邪魔だ」
ザンッ!!
風が吹いた。
いや、そう錯覚するほどの速さで、僕が彼らの間を駆け抜けたのだ。
「……え?」
男が間の抜けた声を出す。
次の瞬間、目の前にいたグリフォン・ロードの巨体が、斜めにずり落ちた。
ドサァァァァッ!!
大量の血飛沫が舞う。
ロードだけではない。周囲にいた十体のグリフォンすべての首が、同時に地面に落ちていた。
「騒がしいな。獲物が逃げるだろう」
僕は『王家の短剣』についた血を一振りして落とし、何事もなかったかのように納刀した。
消費した体力はゼロ。
敏捷性+200の補正がかかった今の僕にとって、Cランクモンスターの動きなど、止まっているハエを叩くようなものだ。
「お、お前……Eランクの……?」
助けられた冒険者たちが、腰を抜かしたまま僕を見上げている。
感謝よりも先に、理解不能な現象への恐怖。
正しい反応だ。
「死体、いらないなら貰うけど?」
「あ、あぁ……全部、あんたの獲物だ……」
僕は作業的に素材を剥ぎ取り、袋に詰め込んだ。
ロードの角、変異種の羽根、魔石。
どれも高値で売れる。
(さて、帰るか)
僕は呆然とする彼らを放置し、街への帰路についた。
所要時間、わずか三分。
クエストというより、ただの「回収作業」だった。
◇
ギルドに戻ると、相変わらずの喧騒があった。
僕がカウンターに向かうと、受付嬢が嘲笑気味に口を開く。
「あら、もう帰ってきたの? 怖くて逃げ出しちゃっ――」
ドスッ。
ドササササッ!!
僕は血の滲む麻袋を逆さにし、中身をカウンターにぶちまけた。
転がり出る大量の魔石。
そして、禍々しいオーラを放つ『ロードの角』。
「……ひッ!?」
受付嬢が悲鳴を上げて椅子から転げ落ちる。
ギルド内が静まり返る。
冒険者たちが目を見開き、カウンターの上の「異常な戦利品」を凝視する。
「グ、グリフォンの魔石……それに、この角は……Bランク相当の『ロード』か!?」
「嘘だろ!? あの群れを、たった一人で……?」
「しかも、あいつ……無傷だぞ……」
ざわめきがどよめきに変わり、やがて熱狂へと変わる。
強者こそが正義。
さっきまで僕を馬鹿にしていた連中の目が、ひっくり返っていた。
「確認を頼む。……それとも、Eランクじゃこれは買い取れない?」
僕が尋ねると、奥から支部長らしき女性が出てきた。
鋭い眼光の女傑だが、今はその目を見開いて僕を見ている。
「……買い取れないわけがない。これだけの戦果、正規の討伐隊でも難しいわ」
彼女はカウンターを叩き、高らかに宣言した。
「規定により、Eランク冒険者アレンのランクアップを認める! Dランク、Cランクを飛び越え……特例措置として『Bランク』への昇格とする!」
「「「おおおおおおおッ!!」」」
ギルドが歓声に包まれる。
飛び級。
数年かかる階梯を、たった半日で駆け上がった瞬間だ。
「報酬金だ。とっておきな」
渡された革袋はずしりと重い。
中には金貨がジャラジャラと入っている。
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コード
【クエスト達成報告】
討伐対象:変異グリフォン群体 + ロード
評価:S(単独殲滅)
獲得報酬:金貨50枚
ランク変動:E → B(3段階アップ)
「悪くない」
僕は金貨の重みを感じながら、ニヤリと笑った。
これで資金はできた。
次は「仲間」だ。
僕の復讐を手伝う、優秀な手駒を探すとしよう。
僕は熱狂するギルドの喧騒を背に、新たな「力」を求めて歩き出した。




