10話:冒険者ギルド
円卓の騎士たちから奪い取った羊皮紙を手に、僕は再び冒険者ギルドのカウンターに戻ってきた。
ギルド内は、先ほどの「指弾き事件」の余韻で、まだ異様な静けさに包まれている。
「た、ただいま戻りました、アレン様……!」
ギルドマスターが脂汗を拭いながら飛んでくる。
その態度は、冒険者に対するものではなく、王族に対するそれに近かった。
「これを登録してくれ」
僕は羊皮紙を無造作に放り投げた。
ギルドマスターがそれを開いた瞬間、彼の目が飛び出さんばかりに見開かれた。
「こ、これは……『指定Sランク任務』!? しかも、あの『忘却の地下遺跡』ですかッ!?」
その悲鳴に近い声に、周囲の冒険者たちがどよめく。
「おい、マジかよ……」
「忘却の遺跡だって? 騎士団の精鋭部隊が何人も行方不明になった、あの自殺名所か?」
「あんなガキが受けるのかよ……死ぬぞ」
外野の雑音がうるさい。
だが、ギルドマスターは震える手で羊皮紙の署名を確認し、顔面蒼白になった。
「円卓第一席、『剣聖』ガラハド様の署名……! 本物だ……」
彼はゴクリと唾を飲み込み、僕を見た。
その目には、畏怖と同時に、僅かな「哀れみ」のような色が混じっていた。
「アレン様。実力は存じておりますが……この遺跡は『呪い』がかかっております。物理的な強さだけではどうにもならない、厄介な罠が……」
「問題ない」
僕は即答した。
呪い? 罠?
そんな小細工が、僕の《復讐者》のスキル(因果律操作)に通用すると思っているのか。
「手続きを急げ。僕は忙しいんだ」
「は、はいッ! 直ちに!」
ギルドマスターは高速で書類を作成し、震える手でスタンプを押した。
その瞬間、ギルドの掲示板が光り輝き、最上段に新たなクエストが表示される。
『緊急クエスト:忘却の地下遺跡の攻略』
『難易度:S(国家非常事態級)』
『受注者:アレン(Aランク・特務)』
「本当に受けやがった……」
「歴史的瞬間だぞ、これ……」
冒険者たちの視線が変わる。
単なる「強い新人」から、「伝説の目撃者」になったような興奮。
僕は書類を受け取り、ギルドの出口へと向かう。
この遺跡は王都から離れた辺境にある。
そこへ行くには、一度この居心地の悪い(目立ちすぎる)王都を離れなければならない。
(ちょうどいい。ここでは顔が割れすぎた)
円卓の騎士や国王に目をつけられたままでは、復讐の邪魔になる。
辺境に行けば、多少は自由に行動できるはずだ。
「おい、アレン!」
ギルドを出ようとした時、背後から声をかけられた。
振り返ると、入り口で絡んできた大男(指を折った相手)が、包帯を巻いた手で立っていた。
「……復讐か?」
「ち、違げぇよ!」
男は顔を真っ赤にして、頭を下げた。
「俺は……『剛腕のバッカス』だ。……その、悪かったな。あんたが本物だって分かった。……死ぬなよ」
「……」
予想外の反応だ。
力でねじ伏せた相手が、敬意を払ってくる。
これが冒険者の世界か。
「……名前は覚えておく」
僕が短く返すと、バッカスは嬉しそうに笑った。
僕はギルドを出て、空を見上げる。
王都の空は狭い。
復讐の旅は、ここからが本番だ。
『クエスト受注完了』
『次の目的地:辺境都市(地下遺跡エリア)』
懐の冒険者カードを確認する。
ここ王都では『Aランク』として扱われたが、他の都市に行けば、また面倒な手続きが必要になるかもしれない。
まあいい。
舐めてかかってくる奴がいれば、また力で分からせるだけだ。
(待ってろ、魔王軍。そして、遺跡に眠る『力』……全部、僕が頂く)
僕は一歩、王都の門へと踏み出した。
『第1章 復讐の道のり ――完――』




