1-1『配属通知と白い扉』
春の風が肌をくすぐる朝。
ユム・オルフェウムは、灰色の封筒を手に立ち尽くしていた。
「……第七、解放課?」
夢務省から届いた辞令には、そう書かれていた。
場所は本庁舎の最奥、職員用のエレベーターでもアクセスできない階層。
知名度も、内部の情報も極端に少ない“謎の部署”。
「まあ、行ってみりゃわかるか」
好奇心が勝った。
ユムは簡単な荷物だけを抱え、省内指定の通路を抜け、目的の扉の前に立った。
そこは、古びた図書室のようだった。
扉にはプレートが貼られている。
――《第七解放課》――
「んじゃ、入りますか」
軽くノックしても返事はない。思いきって扉を開けると、
中から飛び出してきたのは……大量の紙吹雪だった。
「わっ!? な、なにっ……!?」
紙片が舞う。ファイル、書類、文献、そして――
「きゃあっ!? そこのあなた! ちょっと受け止めてぇええええ!」
「え、うわっ!? なっ、なにが――わっ!?」
何か柔らかい衝撃がユムの顔面に激突。
抱き止めたのは、ふわりとした金髪に、トランプ模様のピンクスカートをひらめかせた少女だった。
※思わず床に転がる2人。
「うぅ〜〜。あっぶなかった〜。また階層の穴に吸い込まれるところだったよぉ」
少女はケロッと笑いながら立ち上がる。
ユムは目をぱちくりさせて、彼女の顔を見た。
「……あの、あなたは?」
「ん? あたし? あたしは《サリア・クレイン》! このへんじゃ有名な“迷夢専門”だよっ!」
にかっと笑うサリア。
ユムは目を細める。
「迷夢……って、紫夢の一種か? 特殊案件だったはず」
「ピンポン☆ でもここではよく起きるから、慣れてね!」
彼女の手元には、紫色に光る夢結晶の残片。
どこか不可思議で、常識から外れた波長を持っていた。
(……なんだろう。妙に、“この人”が気になる)
まだ何者なのか分からない――でも、何かを知っていそうな予感がした。
「ところでキミ、新人? 第七の新人くん?」
「ああ。ユム・オルフェウム。今日からここに配属だ」
「そっか、よろしくねー! 案内はあたしに任せて!」
勢いだけで話が進む。
その軽さに苦笑しながらも、ユムは心のどこかで、妙な居心地の良さを感じていた。
(――この部署、なんだか“変”だな)
けれど、この“変”こそが、世界の本質に近いことを、
ユムはまだ知らなかった。