プロローグ『夢に、色がある世界』
昔の人は言った。
「夢は寝て見るものだ」と。
でも、今の時代は違う。
夢は現実を壊す。
ときに人を殺し、ときに街を飲み込む。
強すぎる想いが具現化すると、「夢結晶」と呼ばれる物質が生まれる。
それは現実に干渉し、異常な現象を引き起こす。
たとえば――
何もない住宅地の一角に、突如として現れる“迷宮”。
空から降る黒い雨。触れた人は、記憶の一部を喪失する。
ある少女の涙が、街全体を「止まった時間」に閉じ込めた事件もあった。
これらはすべて、誰かの「夢」が暴走した結果だ。
人の感情が強く結晶化し、現実に作用を及ぼす。
そうした“未解放夢”を放置すれば、やがて災害となる。
だから国は、対処のための機関を作った。
その名は「夢務省」。
彼らの役割は、暴走した夢を――
“解放”すること。
夢には“色”がある。
想いの性質に応じて、以下の五つに分類される。
・白夢……癒し、保護、穏やかさ
・黒夢……憎しみ、呪い、殺意
・赤夢……激情、衝動、闘争
・青夢……知識、探究、分析
・紫夢……異常、矛盾、境界崩壊
白夢は回復の力を宿し、黒夢は呪詛となる。
赤夢は火のように爆発し、青夢は術式や技術へと変換され、
紫夢は法則すらねじまげる“理解不能”の力を持つ。
この力を、夢務省は「夢装備」「夢道具」として回収・管理している。
安全な形で再利用することもあるが、使い方を誤れば、また新たな悲劇を生む。
夢は、本来、人の心そのものだ。
大切な誰かを想う気持ち。
忘れられない後悔。
言えなかった「ありがとう」や「さようなら」。
それが、姿を変えて暴走する。
――だからこそ、“夢解放官”がいる。
夢が暴走すれば、それに飛び込み、原因を探り、
そして、夢を**“覚ます”**。
危険な任務。
それでも、誰かの想いを守るために、彼らは戦う。
その中に、ひとりの若者がいた。
名は――
ユム・オルフェウム。
夢務省第七解放課所属。
記憶の一部を失っているが、どんな夢にも干渉できる特殊な適応力を持つ。
この物語は、彼が出会う“夢”たちの記録。