6. アナライズ
新キャラでてくる頻度が高いのだろうか・・・・・?
ペース配分がよく分かりません。
アリシア嬢に元の世界での真也の武勇伝を語って聞かせた後、俺は背後に修羅場の気配を感じつつ静かに修練棟を後にした。
自室(正確には客間である)へと続く廊下の途中。
つい先刻まで異様な熱気の中にいたせいか、靴音さえ絨毯に吸い込まれていくこの静けさは妙な居心地の悪さを感じる。まぁ、あの騒ぎを見物しているよりマシだろうが・・・・・。
今頃どんな試練に直面しているのだろう、と自分が見捨てて置いてきた友人の身を案じている時、廊下の向かい側から文官の正装を纏った男が歩いてきた。
「はじめまして。でよろしかったでしょうか?タチバナ様」
俺としては会釈だけですれ違うつもりだったのだが、何やら呼び止められてしまったようだ。
「直接言葉を交わすのは初めてですから、それで適切かと」
国王との顔合わせの時にも見た顔であるし、こちらも外交的な口調で返す。
朗らかに笑むこの男はアドルフといい、この国で宰相を務めているらしい。
30代半ば程だろうか。国の重役としては随分年若い印象のする、あまり特徴のない男だ。
「師団の訓練を見ていらしたんですよね、どうでしたか?」
「・・・・・正直、騎士の方たちの気迫は凄まじかったですね。第5師団長殿が俺たちと同じ年頃の少女だという事にも驚きました」
この言い回しでは誤解されるだろうか。あまりに若かったり、女性だからどうというつもりはなかったが・・・・・。
だが特に気にする様子もなさそうだ。
「エリアル師団長ですか、まぁ驚かれるのも無理はないと思いますよ。・・・これは余談なんですが彼女と王女、それから第7師団長は幼馴染だそうですよ」
「あぁ、それでか・・・・・」
それなら彼女に対する王女の親しげな呼び方も納得できるな。
それからいくらか雑談を交わした後、深々と礼をしながら宰相殿は去って行く。
「それではそろそろ失礼しますね、お時間取らせてしまい申し訳ありませんでした。」
「いえ、お気にせず」
・・・・・さて、この後どうするか。
俺が思案しながら歩き出そうとした時、ふと宰相殿が振り返り・・・。
「・・・・・タチバナ様、最後に一つ」
会話の端々に見受けられた探るような視線に加え、心なしか1オクターブ下がった声色・・・・・。
「 シシドウ様のご友人である貴方は国賓としてお世話させて頂きますので、何かありましたら城の者に何なりとお申し付けください」
「・・・承知しました」
・・・・・・・「下手に動くな」か・・・、曲者だな。
窓から差し込む陽光は立ち上がる埃を照らし、大きな棚に敷き詰められた古めかしい書物の数々。
何か時間の流れが緩慢になったような錯覚を覚える。
自室に戻るつもりだったのだが気が変わり、俺は通りがかった侍女に書庫へと案内してもらっていた。
「では私はこれで失礼させて頂きます」
「手間を取らせてすまなかったな」
侍女が恭しく退室する。
「さて・・・・・」
「さーって、何がご所望でっしゃろか旦那!」
「・・・・・」
「あ、最初にゆうとくけどエロ本はないんよ。司書のおっちゃんが奥の左から3番目の棚の一番下の段の辞書の中身抜いて官能小説隠し持っとるのは機密事項やで?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・あれ、奥行かんの?あれやって、もう何年も誰も使ってなさそうな辞書の中で不自然に埃被ってないヤツあるやん」
妙に似非っぽい関西弁を話す少女はちょいちょい、と奥の棚を指差し期待の眼差しで俺を見ている。
「どちら様で」
「・・・・・うん、大切ですよね、身分証明」
落ち込んでしまった。何故か罪悪感を感じる。
「アタシはミルヴァゆーて、いちお師団長やっとるモンや。旦那は名乗らんでええで、知っとるし」
彼女は魔術師のローブを着ている。騎士という雰囲気ではないと思うのだが・・・・・。
「あー、なんとなく言いたい事は分かるで。騎士っぽくないなー、って感じやろ?」
「・・・失礼」
あからさま過ぎたな。
「いやいや、謝られても困るわ。アタシとしては騎士とか魔術師とかどうでもええし」
それはそれでどうなんだろうか。
彼女の話によると師団の中にはそれぞれの特性を持った師団があるらしい。
「タイタンは第3にしかいなかったり、第6に優秀な騎馬隊が多かったりするんよ。ちなみにアタシは第7なんやけど、うちは魔術専門のヤツが多くてアタシも例に漏れず、って訳」
「成程」
彼女が先刻聞いたアリシア嬢とレオナ嬢の幼馴染か。
「・・・で、結局旦那は何しにここへ?」
「この世界の歴史と、魔術について知っておいた方がいいかと考えて」
「?それだったらシアに聞いたらええやん」
シア?・・・・・アリシア嬢か。
「いや、歴史に関してはなるべく主観を交えない史実のみを知りたい。アリシア嬢の話にそのような側面があるという訳ではないが、彼女は一国の王女という立場もあるし下手な事は言えないだろう」
「ふーん、じゃ魔術はアタシが教えたろか?自分で言っちゃあれやけど、これでもシアと並んでこの国でトップクラスの魔術の腕持っとるんやで」
「・・・さっきから気になっていたのだが優秀な魔術師なら何故、召喚魔術の際には居合わせてなかったんだ?」
国内有数の腕前ならあの場にいない筈はないと思うが・・・・・。
「ぅぐ・・・・・、しゃぁないやろ。人には向き不向きってモンがあってアタシは人やら何やらをドカーンと吹っ飛ばすのが得意なんやから、ああいうみみっちぃのは苦手なんよ」
教え上手、という印象は受けないが独学よりはマシだろう。
「ご教授頼めるか」
「うむ、よかよか。最初から素直にそう言えばよかったんや」
「ところで、師団長というのは意外と暇なのか?」
「そうなんよー、部下がヒィヒィ言いながら働いてくれるからもう大助かりやわー」
「・・・・・そうか」
・・・・・バチッ・・・パチ、バチィッ・・・
手の平の上で断続的に弾ける静電気。
「ほぉ~、初めてでこんなに集中切らさんなんて旦那中々器用やね」
既に5分程続いていた。
「うん、もうええよ。大体分かったし」
「今のでか?」
ミルヴァ嬢は俺の魔力素養について簡単に調べると言いだし、いろいろと分かりづらい指示をしてくれた。
おかげでこの摩訶不思議な力にも大分慣れてきた。なんとも微妙な表現になるが自分の体に新たな感覚器官ができた、とでもいうのだろうか・・・・・?
「そやねー、まずは旦那の属性は雷って事とか・・・」
「俺の、という事は属性は1人につき1つなのか?」
「そ、持ち属性は1個だけ。やけど誰にでも使える無属性っちゅうのがあるんや」
属性なし、というのは誰でも使える障壁のようなものから扱いの難しい治癒魔術まで、種類や難度は様々だという。
俺の記憶に新しい召喚魔術もこの類だそうだ。
「ほいで雷っちゅうのはそこそこ珍しい属性で、旦那も呑み込み早いからこりゃひょっとするかなー?なんて思ったんやけど・・・・・」
そこで少々口ごもる。
「やけど・・・んー、旦那の魔力総量、燃料タンク?が一般人くらい・・・・・ぶっちゃけ一般人以下やから宝の持ち腐れっちゅーか、器用貧乏ってやつやねっ!」
ビシッ!と片目を瞑りながら親指を突き出してくる。
「・・・・・」
別に残念がっている訳でもないのだが何故か励まされているようだった。
「ま、まぁ消費効率を上げれば付加魔術くらい使えるから頑張ろや旦那」
俺の反応がなくて気まずくなったのか慌ててまくし立てている。
付加魔術とは武器に炎を纏わせて攻撃力を上げる、といったニュアンスの魔術だそうだ。
魔術は身に着けておいた方がいいだろう。
「・・・そうだな」
もう少し様子を見るつもりだし、ちょうどいいか・・・。